Killing me
僕は愕然としました。
「森さん・・・?今なんと」「言ったとおりよ。古泉」「いや、その作戦は・・・あまりにも」「もう一度言う。橘京子らが所属する機関Bの人間を全て抹殺する事に決めた。」「な、何故急に?」「先日の機関の上層部の会議で決めた。機関Bは驚くべき速度で拡大している。」「ですが、そんなことをして警察が黙っているわけは無いと思いますが」「警察とはもう話がついてる」「そんな・・・」
僕は彼女の笑顔を思い浮かべた。彼女を殺すなんて無理だ。僕には出来ない
―――――――
僕はあの日死ぬはずでした。SOS団が解散して急に閉鎖空間と神人の発生が増加してから、数ヶ月が立ち夏休みもそろそろ終わる頃でした。僕は精神的にも肉体的にも限界でした。彼女や他のみんなと同じように、SOS団がなくなって日常に酷く退屈を感じていた僕は、精神的に参っていました。それでも閉鎖空間の発生は止まず、もうほとんどぶっ通しで蒼い巨人と戦う毎日。その日僕は決心しました。死のう、と。死に場所は僕が生涯一番幸せに過ごせた、高校時代の学び舎の屋上。 僕は思いました。人に与えられる幸せには限界があるのだ、と。僕はあの3年間で一生分の幸せを使ってしまったのです。
僕はフェンスを越え力を抜きました。さよならSOS団・・・。
その時。
誰かが僕をもとの場所に抱き寄せたのです。目を開けるとそこには目を真っ赤にして怒る橘さんがいました。そしてフェンスの向こうに戻るよう、指示しました。
安全な場所に戻った所で、橘さんは僕の頬を平手打ちしました。「死んだら何も残らないです!」僕の目から涙が溢れ出しました。泣き崩れた僕をそっと抱き寄せる橘さん。
ここから僕の幸せは限界突破しました。
「まず改めてありがとうございます」「別にいいですよ」そういいながら彼女は誇らしげに胸を張った。「どうしてあんなタイミングで屋上に?しかも北高の」「つけてたんです」「え?」彼女は再び頬を赤らめた。「指令ですよ!機関からの」「そうですか」「それよりなんであんな事しようとしたんですか? なんか悩みがあるんですか? あたしに言えない事ですか? あたしに言えなかったら誰に言えるんです か?」
質問攻めをされた僕は彼女に自分の悩み全てを話しました。SOS団がなくなって寂しい事、アルバイトが忙しくて大変な事、橘さんは黙ってうんうんと聞いてくれてます。聞いてくれてるように見えます。
「SOS団が無ければ自分で作ればいいのです!」彼女はなにやらニコニコしてます。「新SOS団です」「どういうことですか?」「世界を おおいに盛り上げる サイキック達の団です!」「略してSOS団ですか・・・。橘さんよく聞いてください。 僕はSOS団と言う名称が好きなのではありません。その中身です」「中身があたしと古泉さんでは不満ですか!」「いやそういうわけじゃ」「もういいです」橘さんは頬を膨らましてそういうとそっぽをむいてしまいました。「いや、問題があるでしょう・・・僕達は本来敵対すべき者なんですから」「ホントは地面に落ちて内臓飛び出させてたあなたを 助けたあたしは敵ですか。へー、そうですか」「本当にありがとうございました。しかし・・・」「バレなきゃいいんですよ。結成しましょう!」こうして新SOS団は結成されました。ああ、森さんにばれたらどうなることやら・・・。やれやれ
彼女はそのあと僕にSOS団での出来事を話させました。思えばいろんなことをやってきたものです。彼女は終始羨ましそうに話を聞いていました。「それ全部やりましょう!とっても楽しそうです」「え?」橘さんは僕の手を引いて走り出しました。「まずはプールにいきましょう」「えっそんなに急がなくても・・・」「失った時間はとりもどせないのよ!だからやるの!この一度きりの高一の夏に!」橘さんは僕が話した通りに涼宮さんの名言を叫びました。
水着は市民プールの売店で買いました。小学生みたいな体系の橘さんの水着姿は、やっぱり小学生みたいで、市民プールに妹と来ているような気分です。「古泉さん、ビーチボール買ってきてください」「あの、僕水着買ったばかりなんで、 もう帰りの電車賃ぐらいしかお金が・・。」「じゃああたしのお金で買ってきてください」そう言うと橘さんは小学生みたいな財布から、一万円札の札束を出して僕に渡しました。あっちの機関の給料が気になります・・・。「こんなにいりませんよ。何個買うつもりですか」「じゃあこれで」橘さんは一万円札一枚を僕に渡しました。まわりからみたら異様な光景でしょうね。「お菓子も買ってきてください。あたしポッキーがいいです」
その後、プールの閉園時間ぎりぎりまで遊びました。ひさしぶりにこんなに笑いましたよ。橘さんすごい運動音痴みたいです。ビーチボールは前に飛ばすもんですよ、あと大学生で犬掻きはやめましょうね。
「明日は花火ですよ!古泉さんちゃんと買ってきてくださいね!」橘さんは「夏は一度きり」と叫びながら駅の改札へと消えてゆきました。気がつくともう日が暮れていて、遠くの空に太陽が沈んで行くのが見えました。「綺麗だ」久方ぶりに空なんて見上げました。世界をおおいに盛り上げるサイキック達の団ですか。悪くないですね
その後の1週間は大変でした。花火にお祭りにアルバイトに天体観測。野球の練習もしましたね。橘さん、フルスイングで一回もバットに当てないなんて逆にすごいですよ。
「もうすぐ夏休みも終わりですね」「そうですね」僕達は今、SOS団でよく使ったベンチに座ってます。夕暮れ時で人はまばら。今日も夕陽が綺麗です。「夏休みが終わってもSOS団の活動は終わりませんよ!」「フフ、わかってますよ」「少しは元気になりましたか?」もう僕はすっかり元気になっていました。「ええ。橘さん、感謝していますよ。」そのとき橘さんの顔が赤くなったのは、夕陽に照らされたからではなかったのでしょう。「いいんですよ・・・。」僕を救った直後のようにいいました。僕は橘さんの小学生みたいな小さな手を握りました。「え?」橘さんはそう言って僕の顔を驚いて見つめました。「どうかしましたか?」「いや、なんでもないです」そういって彼女は僕の手を握り返しました。夏で、夏でした。
――――――
「僕には無理です・・・」「任務の拒否は許さない」「少し考える時間をください・・・」
僕はベッドの中で一晩考えました。考えても、考えても彼女の笑顔が頭から離れはしない僕は彼女が好きだった。
「古泉一樹。これより指令を言い渡す」「はい」「お前はこれから橘京子の家に侵入し、寝ている橘京子を刺殺しろ。 その後すぐに本部に戻れ。死体はすぐに別のが回収しに行く。 しくじったらすぐにばれるからな。きもにめいじておけ」「了解」僕は折りたたみ式のナイフをポケットに入れ、橘京子のもとへ向かった。
家の鍵はを高校のときに訓練されたピッキングですぐに開いた。音を立てずに入り、寝室のドアを開ける。橘京子は起きていた。「古泉さん・・?」「こんばんは」「どうしたの?こんな時間に。どうやって中に・・・」僕は質問には答えずにナイフをポケットからとりだした。「え?」橘京子の顔が青ざめる。「古泉さん・・・嘘でしょ?」「これより任務を遂行します」唖然としている橘京子を羽交い締めにする。「ちょっと、古泉さん?どうして・・」橘京子は泣きながら必死に抵抗する。しかし訓練を受けた男に力でかなう筈がない。動けなくした状態のまま質問に答える。「僕達の機関はあなたの所属する機関Bの人間を 抹殺する事に決めました。」「え?そんな・・・」「抹殺を実行します」「古泉さん・・・」
橘京子は抵抗をやめた。「どうして抵抗しない?」「あなたも苦しかったんでしょ?もういいよ」「ぼ、僕は苦しくなんかない!」「だって古泉さん部屋に入ってからずっと泣いてるじゃない!」そう。僕は涙を流していた。昨日から流れっぱなしだ。「いいの私を殺して・・。お願い、私を殺して」「すまない・・・。」僕はふりかぶりナイフを振り下ろした。
ザクッ!
「古泉君?!どうして」僕は自分の左手をナイフで刺した。続いて右手も刺そうと、振りかぶる。「ダメッ!」橘さんは僕からナイフを奪うとナイフを折った。「すごい力ですね・・。これではあなたを殺せない。 やむをえない任務失敗です」僕は微笑んだ。「古泉さん!」橘さんは僕を強く抱きしめた。僕も無傷な右手で橘さんを抱きしめた。「逃げましょう。まもなく機関の人間がやってきます」「でも、どうやって・・」「僕が乗ってきたバイクがあります。 とりあえずそれに乗って遠くへ逃げましょう」
僕は家をでてバイクに乗りハンドルを握った。左手に激痛が走る。「あたしが運転します!」「すいません・・。お願いします!」2人を乗せたバイクは夜中の車道を勢いよく走り出した。長い夜が始まる。
機関の人間は本当にすぐにやってきました。
バックミラーには一台のパトカーがうつっている。中には恐らく多丸兄弟がいるのでしょう。段々と僕達のバイクとの距離を縮めてゆく。
橘さんは偽パトカーに追いつかれまいとスピードを上げる。こんなにスピード出したらリアルパトカーが追ってきそうですが、そんなことを言ってる暇はありません。だんだんと追ってくるパトカーの数が増えていきます。パトカーに追われてる強盗犯のような気持ちです。
それにしてもいくら夜中だからって高速道路が僕達と機関の人間しかいないのはどういうことでしょう。きっと機関の手配でしょうね
後ろをつけているパトカーはもう五台になっていた。そのうちの2台が僕らの両脇につく。「そこの二人乗りバイク止まりなさい」多丸佑さんですね。止まるわけにはいきません僕が橘さんを守って見せます。
僕は拳銃をポケットから取り出すと、両脇を走るパトカーのタイヤに銃弾を打ちこむ。すいません・・・「止まれと言ってるだろ・・うわ!」2台のパトカーはスリップして止まった。「古泉ぃ!ただで済むと思うなよ!」圭一さんの怒声が響く。ええ。でも僕は彼女を殺す事なんてできないんですよ。必ず守り抜いて見せます。僕の命の恩人ですから。
ピピピピピ
僕の携帯が鳴った。発信源は森さんだ。「古泉!お前これはどういうことだ!」「まだわかりませんか。僕は彼女を選んだんですよ」「これは世界のためのやむをえない任務だ」「僕は世界がどうなっても、彼女を見捨てる事は出来ないんです」橘さんが鼻水をすする音が聞こえた。泣いているようだ「そうか。わかったお前を機関の敵と判断し抹殺対象とする」電話が切れると同時に前方のビルの陰から、ヘリコプターが現れた。銃器を装備してる。戦闘用のヘリコプターだ。
「橘さん、ここからは僕が運転します」橘さんの後ろから彼女を抱きかかえるように、ハンドルをつかむ。左手が痛む。「わ、わかった」「しっかりつかまっててくださいね」僕は軽くバイクをウィリーさせてから全開までアクセルを踏んだ。ヘリコプターから弾丸が飛び出した。
ドドドドドドドド!
バイクをドリフトさせて避ける。「古泉さん、後ろ!」後ろを見るとパトカーのまどから銃を持った手が何本も出ていた。まずい・・・。「高速道路を出ましょう。民間の前では銃を乱発など出来ないはずです」「でも、出口はまだまだ先ですよ!?」「飛んででます」「へ?」バイクをパトカーのほうへ向ける。そのまま真ん中のパトカーへ突っ込んでいく。「何を血迷った?」新川さんですね。血迷ってなどいませんよSOS団副団長をなめないで頂きたい。
そのままウィリー状態になり突っ込んでいく。「何のつもりだ?」バイクをパトカーのフロントガラスへ乗り上げさせる。そのままアクセル全開。飛んだ「うわぁ!」橘さんの悲鳴が聞こえる。計画通り。バイクは高速道路の脇のビルの屋上へ着地。
「さすが。古泉さんですね!」「バイクは得意なもんで」橘さんが親指を立ててみせる。僕も親指を立てる。「まだ安心はできません。バイクはここに捨てて徒歩で逃げましょう」
ビルを出た僕達はすぐ近くの駅に走りこみ電車に乗った。「これでひとまずは安心です。民間が使用する電車では大騒ぎは起こせない筈ですからね」「ええ。そうですね」橘さんも僕もようやく一息ついていた。「甘いな」僕は顔を挙げ絶望した。そこには銃を僕にに向けた森さんが立っていたからだ。「どういうことだ・・・」「この電車はすでに機関が占領している」「そんな・・・」完全にしくじりました。機関がそこまで手を回しているとは・・。「銃を渡しなさい」銃を渡す。「これで終わりだわ。まずは古泉、あなたから殺させてもらう」森さんが銃を僕に向けようとした時に、隙ができた。橘さんが一瞬の隙をついて、銃を奪った。「なっ・・!」よし形勢逆転です。橘さんよくやりました橘さんから銃をうけとり、森さんを人質にとる。こんな荒荒しいことしたくなかったんですけどね・・。今この車両には7、8人の機関の人間がいる。全員、こちらに銃を向けている。しかし、こちらには森さんという人質がいる。さてこれはどっちが優勢なのでしょう?「機関のみなさんに要求します。電車から僕達を降ろしてください」「そんなことできるかぁ!この裏切り者!」柄の悪い男が怒声をあげる。「落ちつきなさい」森さんが冷徹な声をあげた。「古泉、あなた自分が私を撃てると思ってるの?」・・・まずい。「あなたは私を撃つ事なんてできない」そして息を大きく吸って叫んだ。「みんなやってしまえ!」くそ・・・。気づかれましたね
バンッ!バンッ!バンッ!
銃声が響く。橘さんを抱えた僕は電車の上へ逃げた。「古泉さん・・・足が」僕の足に一発当てられてしまったようだ。右足が自由に動かない・・。
すぐに機関の者は上がってきた。今度は他の車両から上ってきた機関の人間も合わせて、十数人が僕らに銃口を向けている。
「堪忍しなさい」森さんが言った。「僕が・・・僕が誇りをもって所属していた機関はこんなのじゃない!」「最後の言葉はそれだけね。まずはあなたから消えなさい」森さんが橘さんへ銃を向ける。
バババァン!
森さんが銃を撃った。橘さんを・・・!橘さんを守らなければ・・・!
――――――「古泉さん!」橘さんが悲鳴をあげる。僕は正面から銃弾を数発食らって倒れている。「古泉さん!しっかりしてください!」橘さんが泣いている。「すいません・・・。僕はあなたを守れなかった・・・。」「いいんです。もういいんです、だからもう喋らないで・・!」僕はそろそろのようだ。目が霞む霞み行く景色の中で僕は一筋の希望を見た。今、電車は鉄橋を走っている。下は湖だ。助けれるかもしれない・・!最後の力をふりしぼって、僕は橘さんを抱えて湖に落ちた。
ドボーン
漁船の人達に助けられ、僕は岸まで上がった。「一体どうしたんだあんた達。な・・・血が出てるじゃないか!」「いいんです。それよりお願いがあります」「今から話す事は事実です。それをマスコミの方に伝えてもらえませんか?」「それはいいが、手当てをしないと・・・」「お願いします!」「わ、わかった」おじさんは事実を話すと青ざめた顔ですぐに車を走らせてくれた。「橘さん・・・最後ですね」「嫌です!まだまだSOS団の活動は続くのです! 古泉さんは死んじゃダメなのです・・!」橘さんは涙を流しながら僕に泣きついた。「橘さん・・・僕は楽しかったです。 あの短い夏休みのでのこと。SOS団での活動に負けず劣らずね」「あたしも楽しかったですよ!あたし古泉さんの ことが・・・好きだったんです・・・」「偶然ですね。僕もです」そこで橘さんは驚いた顔をして最高の笑顔を見せた。ええ、涼宮さんにも負けないぐらいにね。「橘さんにお願いがあります。 僕がいた機関はもう壊滅するでしょう。 これからはあなたの機関が世界を保全していくのです」「はい。わかりました!・・・だから一緒にがんばりましょう」「フフ・・・すいません。それはできません」「・・・・」「死にぎわの人間は死があとどれくらいで訪れるか自然と分かるものなのですよ」
ゲホッ、血を吐く。
「ぼくともう1つ約束して欲しい事があります」
「あなたは強く元気に生きてください」
「・・・はい」
「約束してくれますか?」
「・・・・はい。えぐっ」
「そろそろですね・・・ゲホッ」「嫌です!あたしは・・・」僕は口づけをすることによって、橘さんの言葉を遮った。長い長い口付けだった。このまま世界がとまってしまえばいいのに。そんな事を思った。
「橘さんいやSOS団の団長さん。 ぼくをSOS団にいれてくれてありがとうございました」「いいんですよ・・・」「またいつか会うときはみんなで・・・S・・OS団を・・・」――――――
「古泉さん!古泉さん!!!」古泉さんは安らかに眠るようにこの世を去った。
あれから4年・・・。
あのあと機関が取ろうとしてた行動は、マスコミにて報じられ古泉さん達がいた、機関はすぐに壊滅しました。
あたしは今、新機関のトップにいます。あれから機関の存在はばれてしまいましたけどね。表向きでは機関はもうないことにされています。あたしの会社は表向きでは、普通の商業会社。裏では涼宮さんの対処をおこなっています。会社の名前はSOS団です。先日、涼宮さんが怒って乗りこんできました。でも、「私とキョンを入社させるならその名前で良いわ」なんて言うので無職だった彼女らも今ではあたしの社員です。表向きの方ですけどねキョン君にはたまに裏向きの方も手伝ってもらってます。涼宮さん、本当に役に立つ社員なんですよ。キョン君は普通だけど、最近優しくしてくれるからいいの
古泉さん、あたしはいまでもあなたの事が忘れられません。あたしを守る、て言った時の古泉さんとってもかっこよかったですよ。
今日は涼宮さんとキョン君の結婚式です。あたしもウエディングドレスは着たかったです。
いつかまた会えたら今度は涼宮さんや佐々木さん達も一緒にSOS団をつくりましょうね?勿論、古泉さんは副団長ですよ。頼れる、ね?
あー、そろそろ夏休みです。あの日の事覚えてますか?初めて古泉さんが手を握ってくれたときのこと。あたし嬉しかったんですよ?すっごくプールも花火も天体観測もまた行きたいなぁ
きっといけるよね?大好きな副団長さん!
fin
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