「編集長☆一直線!」改
1.童話(橘京子) 今は昔のことなのです。 とある小さな国の森の奥深くに、一軒の山小屋がありました。 そこでは白雪姫が九人のこびとさんといっしょに住んでいました。 その白雪姫は追い出されたんじゃなくて、自分でお城を家出してきたのです。 お城の窮屈な生活が嫌だったからです。 白雪姫は、こびとさんたちのおかげで衣食住に困ることもなく、悠々自適の生活を送っていました。 同じころ、森の近くにある海で泳いでいた人魚が、難破した船から投げ出された王子様を助けていました。 人魚は王子様を岸まで運びますが、気絶した王子様はずっと眠り続けています。何をしても起きません。困った人魚は白雪姫のところにつれて行くことにしました。 白雪姫とは彼女が森に来たときからの友達でした。人魚は白雪姫から「困ったことがあったら僕のところにくるように」と言われていたことを思い出したのです。 人魚は人のいい魔女さんに尾ビレを足に変えてもらうと、意識を失った王子様をこびとさんの小屋まで背負っていきました。 白雪姫は運ばれてきた王子様を興味深げに眺めたあと、こびとさんに王子様を起こす方法についていろいろと尋ねていました。 そこにお城から急使が来ました。 その使者は言いました。隣のSOS帝国がとつぜん大軍を動員して国境を越え、お城を包囲してしまった、このままでは遠からず陥落する、いやもう陥落したころだろう、と。 大変です。 それを聞いた白雪姫は、眠り続ける王子様の看病を人のいい魔女さんに任せると、九人のこびとさんと人魚をつれて森を出ました。 まず向かったところは険しい山です。そこには浮浪者になった軍師が一人で住んでました。人魚はぶつくさと文句をたれる軍師を問答無用で白雪姫の配下に加えました。 こうして合計十二人となった白雪姫一行は山を下りるや、反帝国の旗印を掲げてお城を目指しました。 迎撃に来た帝国軍を次々と打ち負かし、各地で連戦連勝して、ついにお城を奪回、帝国軍を国境の外に追い払うと、国境に鉄壁の万里の長城をきずいたのです。 これで邪悪な帝国軍は二度とこの国に攻めてはこれません。 こうして戦争は終わり、平和な時代が訪れたのでした。 白雪姫はあとのことをまだぶつくさ文句をたれている軍師に任せると、森に帰っていきました。お城よりも、悠々自適の生活のほうがよかったからです。 小屋に戻った白雪姫は、王子様がまだ眠り続けているのを見て呆れました。 あっ、その間、人のいい魔女さんはちゃんと王子様の看病をしてましたよ。 白雪姫はこびとさんに目覚め薬を作ってもらうと、それを王子様に飲ませました。 王子様が目を覚ましたのは、それから一年後のことだったそうです。 その後の皆さんがどうなったのか、まだ誰も知りません。 でも、きっと、みんな幸せになったと思います。そうに決まっているのです。 ……何というか。橘らしいと言うか、昔話をごちゃごちゃにして戦記物を混ぜ込んだようなお気楽な寓話だ。 くそ。これでやつはノルマ達成か。忌々しい。 2.無題三部作(周防九曜) 無題1 ────宇宙……人────? それは────何──── 無題2 温度が────退屈 無題3 かゆ────うま──── 「ちょっと待て。これのどこが幻想ホラーだ。っていうか、そもそも文芸ですらあるまい。世界一のコンパクトさを誇る文芸である俳句でさえ、十七音はあるんだぞ」「偏見はよくないね、キョン。これは九曜さんの心情を表した暗喩かもしれないよ。深読みすればどこまで深読みできそうだ。実に興味深い」「俺はこれを深読みできるおまえの頭の中身の方が興味深いぞ」「君にそういってもらえるとは、大変光栄だ」 ほめてねぇよ。 3.恋愛小説?(キョン) 佐々木は部室に入ってくると、橘がテーブルに置きっぱなしにしていった俺の原稿に目を留めた。 ちょっと待て、という俺の願いも虚しく、佐々木は神速の動きでプリントアウトしたコピー用紙を奪い取った。自分の机に着席し、淡々と読み始める。 読み終わると、「……吉村美代子さんか。確かキョンの妹さんの御友人だったね」 くそ。覚えてたか。「くっくっ。僕の狙いは見事にかわされてしまったわけだ。その努力に免じてこれでよしとしよう」 俺は安堵の溜息をもらした。駄目出しされたら、次のネタに困っていたところだからな。「でも、もし次の機会があるなら、是非ともキョンの初恋話でも読んでみたいものだ」 誰が好き好んで過去のトラウマ話なんぞをさらけ出さねばならんのだ。ましてや、それが初恋話ともなればなおさらだ。 だが、あの佐々木信者の橘のことだから、佐々木が望んでいるとなれば、次の機会も用意するだろうな。生徒会に直接手を回すか、いやここは鶴屋さんを拝み倒して鶴屋家から生徒会に圧力をかける方がいいかもしれん。 4.後日談 さて、ここからは後日談になる。 会誌は期日までに出来上がった。コピー用紙に印刷したものを業務用のデカいホチキスで留めただけの冊子だが、内容は──身内びいきをしてみても──微妙なとこだわな。 だが、唯一ずば抜けて秀逸だったのが、鶴屋さんの書いてきた冒険小説だ。『痛快! 少女Hの暴走』と題された長編ドタバタ小説は、読む者すべての目を残らず輝かせた。俺なんか目が輝きすぎて三日ほど眠れなかったほどだ。 この世にこんな面白い物語があったとは──なんて感じたのは久しぶりのことである。 これを読んで顔面の筋肉をピクリともさせなかったのは九曜ぐらいだったが、その九曜でも自室でこっそり読み返して目をらんらんと輝かしているんじゃないかと思うくらい、鶴屋さんの躍動した文体からなる小説はワクテカものだった。 薄々思っていたが、改めて実感する。ひょっとしたら天才なんじゃないか? あの人は。 藤原が書いた嫌味ったらしいキャラが出てくる恐ろしくオモシロくないSF小説はどうでもいいとして、佐々木も小難しい言い回しの編集後記以外に長いコラムを寄稿していた。 題して、『キョン専用、学習要点コラム』 佐々木曰く、「キョン。これを読んで、今度のテストに役立てたまえ」 余計なお世話だ。 終わり。
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