Live a life
水晶球。
統合思念体、アクセス。
許可申請。
許可。
「あなたは、五分十五秒後にソフトクリームを買って、五分二十八秒後にそれを足に落とし、七分六秒後に看板に頭をぶつけ、その再彼女と交錯して転倒。彼女のバッグから所持品を散乱し……」
うらない。
ウラナイ。
占。
前もって彼と練習したけれど、果たしてこれで良いのだろうか。彼は「いいんじゃないか? 長門らしくて」と言ってくれた。だから、これで良いのだと思う。わたしらしいという言葉の意味は、わからないけれど。
「気が向いたら、俺も長門のクラスの出し物見にいくよ」その言葉に淡い期待を持っているわたし。
彼の姿を目視で確認。わたしの心拍数の上昇を確認。来てくれたのだ、という「歓喜」と。どうしよう、という「困惑」。……、エラーを確認。しかしそれらの発露に、有機生命体が「喜」と呼ぶ感覚がわたしを包んだ。彼が教えてくれた事。それは「喜び」だと。だから、わたしはいま「嬉しい」のだろう。でも、どうして「困惑」しているの?「嬉しい」はずなのに、どうして「困惑」しているの?これは「喜」ではないの?
エラーを確認。
でも、今日はそれが心地良かった。「嬉しい」と「困惑」は同じにやってくる。いつも、そう。
「よお、長門。順調か?」首肯。「よし、じゃあ俺も占ってくれよ」
彼。SOS団団員その一。鍵、たいせつなひと。
目の前の水晶に手を翳す。
許諾サレズ。
「……」どうしよう。「……」「長門?」「……、わからない」「ははっ、それなら仕方ないな」「……すまない」「いいっていいって、もう何回も占ってもらってるしな。それじゃ俺、古泉のクラスいってくる。後頑張れよ」「……」なにもいえなかった。せっかく、練習に付き合ってもらえたのに。せっかく、せっかく。せっかく、わたしの所に来てくれたのに。彼との親睦を深められる好機なのに。「悲しい」という感覚がやってきた。わかる、この感覚は。何回も私を襲ってきた感覚。こんなとき彼の事を考えるとやってくる感覚。
「有希、ちょっと力を貸して欲しいんだけど」涼宮ハルヒ。SOS団団長。自律進化の可能性、バニーガール。
◇ ◇ ◇ ◇
休憩時間、本を読もうとカバンに手をかけた。名前を呼ばれる。知っているひとと、知らないひと。「ごめんね、休み時間に」財前さん、ベースのひと、あかるいひと。「あのね。この前のお礼を言いに来たの」「ありがとうね、長門さん」榎本さん、中西さん。わたしはコクリと頷いて指をさした、むこう。「本当にありがとうね、長門さん」岡島さん。ドラムのひと。いいひと。わたしの持っていないものを持っているひとたち。なんだか「羨ましい」「羨ましい」ということ。よくわからないけれど。なにが「羨ましい」の?……、よくわからない。わたしは、わたし。彼女らは、彼女ら。同じでは、ない。なにが「うらやましい」の?わからない。でも「うらやましい」と思う。
◇ ◇ ◇ ◇ 「よお」昼休み。「なによ」いつも通りに文芸部室へと向かう。「時間無くて、簡単なアレンジに変えちゃったからね。ホンモノが聞きたいのは当然でしょ」何も変わらない部室内。「MD希望者の話か」どこか違って見えるのは、どうして?「そ」わたしが変わったから?「でも、ぶっつけにしてはなかなかの演奏だったな。良い宣伝にはなったんじゃないか?」それとも。「あと一日あったら、しっかりした準備ができたのにね。あんなので良かったのかな、って少しは思うけど。なんていうの? 今自分が何かをやってるって感じがした」 何が、変わったの?「はあー。なんか落ち着かないのよね。なんでかしら?」わからない。「俺が知るわけないだろ?」気持ち、感情。まだよくわからない。「なによ? なんか言いたい事があんの? なら言いなさいよ! どうせロクな事じゃないんでしょうけど、黙ってため込むのは精神に悪いわよ」でも。胸が痛いのは、どうして?「別に、なんも」わからない。「も、もう~」ただ、本を読みたくてきたはずなのに。「へへっ」でも。「あ、ねぇ。あんたなんか楽器できる?」いまは、そんな気分じゃない。「できん」気分。「練習次第でどうにでもなるわ、なんたってあと一年も時間があるんだからね」気分って、なに。「おいおい」中庭の二人の声が聞こえたのは、偶然?「来年の文化祭、わたしたちもバンドで参加しましょうよ。わたしがボーカル、有希がギターで、みくるちゃんはタンバリンでも持たせてステージの飾りになってくれればいいわよ」 窓越しに見える。嬉しそうに笑う、涼宮ハルヒ。「いやいやいや」窓越しに見える。嬉しそうに笑う、彼。「もちろん。映画の第二弾もあるしね。来年は忙しくなるわよ、やっぱ目標数値は常に前年対比を上回らないといけないのよ」「嬉しい」という感情は、知っている。「待て待て」では、わたしを今支配する「感情」は? 「嬉しい」? 違う。では「困惑」? 違う。では「悲しい」?「さ、行くわよ? キョン」統合思念体。「へ? どこに?」アクセス。「機材を貰いによ」エラーの処理を申請。「軽音楽部の部室に、行けばなんか余ってるのが落ちてるわ。それに中西さんたちに作曲方とか聞いとかないと。安心しなさい、作詞作曲プロデュースはわたしがやってあげるから、もちろん振り付けもね」 手を繋いで歩きだす二人。「いまからやらなくていいだろ」エラーの増幅を確認。「何言ってるの? 一年なんてあっという間よ?」笑顔、わたしにはわからないもの。「ところで振り付けってなんだ? バンドやるんじゃないのか?」二人は、笑っている。「いるの!」では。いまわたしは、笑っているの?
どんなとき、ひとは笑うの?
この頬を伝うものは、なに。
「感情」?
わからない。
財前さん。中西さん。榎本さん。岡島さん。
わたしとは違うひと。
わたしの持っていないものを、持っているひと。わたしの持っていないものって、なに。わたしと、どこがちがうの?どうして、違うの?わからない。わからない。でも、同じではない。
わたしは「困惑」している。「嬉しい」と「困惑」はいつも、同時にやってくるのに。いまは「困惑」と「もう一つ別のなにか」がわたしを支配している。「悲しい」とは、違う「なにか」が。
これは、なに。
教えて。
だれか、おしえて。
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