どうすればいい? Ⅰ
「どうしたのです?先程からぼーっとして…」
顔を覗き込まれ、俺はびくっとした。
「うわっ!顔が近いっ!」
思わず大きな声が出る。
すると、古泉は困ったように眉を下げて、
「申し訳ありません。そんなに驚かれるとは。考え事の邪魔をしてしまいましたか?」
と、言うのだった。
もう、律儀に謝るな。顔を近いだけで怒鳴りつける俺の方がよっぽど悪いだろうに。
…前はそんなこと、考えもしなかったよな。
本当にどうしちまったんだ、俺。
「ああ、すまんな」
「しかし、もう勝負はついたも同然ですよ?ほら、黒が沢山」
オセロ盤の上は、蟻が大集合したかのように真っ黒だった。
そうだ、今はオセロの最中だったか。
「まあ、そうだな。ほい、俺の勝ち」
白のオセロをひっくり返すと、古泉はがくりと肩を落とした。
「完敗ですよ。もう、どうしてあなたはそんなに強いのですか…」
それを言うなら古泉、どうしてお前はそんなに弱いんだ。
なんてことを話している内に、本日のSOS団の活動は終わった。
(拗ねた顔もかわいい、なんて、思ってないぞ、決して!)
ああ、本当にどうすればいい。
俺はノーマルだ、絶対。
でも、なんだ、この感情は。
「…あなた、最近よくぼーっとしているようですよ?熱でもあるのでは?」
顔を近づけるな。あまつさえでこを当てるな!
「あは、熱が無いか確かめようと思ったのですよ。そんなに怒らないでください」
ったく、たちが悪い。
意識しちまうんだから、仕方ねーだろうが!
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こんにちは。古泉一樹です。
突然ですが今、少し困ったことになっています。
「古泉…」
部室に入った途端、僕は彼に、
…押し倒されてしまいました。
一体、どうしたのでしょう。僕は彼を怒らせるようなことを、してしまったのでしょうか。
でも、この状態はですね、その…、
いえ、何でも、ないです。
彼の声に熱っぽさが感じられるのは、きっと、僕の耳が悪いからでしょう。
そうですよ、絶対。
…絶対。
彼の腕が、伸びてきました。
僕を殴るつもりでしょうか。
そこまで悪いことをした覚えは、ないのですが、
もししてしまったのだとしたら、申し訳ないです。
でもその腕は、なんと、僕の腰に回されました。
右手も、左手も。
変ですね、抱きつかれているように、思えます。
この状態は、一体?
「古泉、あのな、落ち着いて聞いてくれ」
「僕はいつでも落ち着いていますよ」
「そうか」
どうやら、怒っているのではないらしい。
「俺、」
「待たせたわね!」
そのときでした。
涼宮さんが、朝比奈さんと長門さんを連れて、部室のドアを開けたのは。
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「お前が好きなんだ!」
言った後に、やっと気付いた。
「神様」が、―――
「なあんだ。劇の練習ね。あたしびっくりしちゃったわ。
にしても古泉くん、相手役、なんでキョンなんかにしたの?
男同士だと、ホモだと思われちゃうわよ」
青ざめた俺を珍しく乱暴に退かせ、古泉は笑顔で弁解した。
幸いハルヒは納得したようで、笑いながら奴に問う。
「はは、誰に手伝っていただこうか迷っていたとき、彼が快く引き受けてくださいましてね」
なあ、古泉。
どうしてそんなに普通でいられるんだ。
…男の俺が、男のお前に、告ったんだぞ?
ハルヒや朝比奈さんと笑顔で話す古泉の横顔を、俺はじっと見ていた。
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「――あ、あ…」
あのときの彼の顔を、思い出す。
『お前が好きなんだ!』
僕が他の人と話していても、視線を感じた。
はは、参ったな。
そういえばこの間のオセロ、まだ罰ゲームを決めていませんでしたね。
もしかしたら、これがそうなのかも知れません。
…でも、これは、あなたの方が困るものなのではないですか?
顔が近いと言って、気色悪いと罵って。
そんな僕を、好きだなんて。
ああ、有り得ない。
有り得ないに決まってる。
僕だって、彼のことを、『鍵』ということ以外、特別な目で見たことはなかった。
彼女にとっての――
なのに。
「どうして、がっかりしてるんですか…」
雨戸を開けて、空を見た。
今日もまた、『神人』が僕を呼ぶ。
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