長門有希の再会
公園に居た。
目の前に両手でダンボールを持つ女の子
しかし彼女は石に躓いてバランスを崩してしまう
私はダンボールの中から散らばった荷物を手に取る
そこで私は言うのだ
「私も手伝おう」
と
しかし女の子は私の手を退けながら言う
「うるさい人殺し」
私を冷たい目で見上げる
憎悪
直感がそう教えた
彼女の目に篭る感情を
しかし私にはそれを理解することができなかった
散らばった荷物を集める
最後の荷物を集めると、女の子はそこには居なかった。
変わりに現れたのは男
見覚えが無かった。
男は私に尋ねる
あなたが長門有希かと
私がそうだと告げると
ニヤリと笑った。
私が首を傾げると彼はなんでもないと言い
しかし、その瞬間。男はみるみるその容姿を変化させ
人間が畏怖すべき対象として見るものへと姿を変えた
「朝倉涼子は消えるべきではなかった」
「消えるのは、長門有希。おまえだ」
*
目が覚める、目が覚めた事で先程の事は夢なのだと認識した。午前5時45分23秒--まだ登校には早かった。
有機生命体が夢と呼ぶもの、先程の映像と音声の残骸がフラッシュバックする。朝倉涼子、急進派のインターフェイス、私のバックアップだった。暴走により連結解除した事は仕方ない事だった---仕方ない事、だった。キッチンへ行くと、私は作り置いておいたカレーを温め。少し早いが学校へ向かうことにした。
「おう、長門。どうしたんだこんな時間に?」坂道の途中意外にも、彼が居た。「目が覚めたから」私はそう言うと彼も同じ返事を返してきた。「なんか最近同じ夢を見るんだよ、不思議とよく覚えてないんだけどな。こう…なんていうか居心地の悪いというか、ムナクソの悪い夢でな」「そう」こういう事を人間の言葉で夢見が悪いというらしい。彼に教えてもらった。また一つ、データが刻まれる。嬉しい事。
「にしてもこんな早くに登校した事ないからさ、まさか長門も毎日この時間に来てるのか?」「今日はたまたま」「そっか、まさか長門も変な夢みたのか?」変な夢---何が変な夢で、何が変では無い夢なのかという事を考えたが。夢というのはそもそも深層心理の表れとも言われている、だから自分の欲望や願望といった類の事が夢の中だけ現実のものとなる。といった解説をしている本の事を思い出した。それを踏まえた上で「変な夢は見ていない」という返事をした。それには彼に心配をかけたくなかったという考慮もある。
彼は守るべき対象---いや、それ以上の存在。もはや有機生命体が持つ言葉では表現ができない程の。
それから10分ほどで学校へと辿り付いた。
彼はまだ眠いらしく、欠伸をしながら教室へと入って行った。もうすぐ期末考査がある、彼の普段の授業を受ける態度では恐らく今回も赤点を取るだろうしかしそんな事はさせない、情報操作は得意。
しかしそれでも、私が進言すると彼はこう言うのだろう「それは反則だから、やめておこう」と。私はそんな彼が好きだった。コンピュータ研とのゲーム勝負でズルは無しだと言われた時、私は考えた。どうすれば彼の役に立てるのだろうかと、その当時の記録では私は24時間のうち85%をその考察に当てている。そうして導き出した答えがあれだった。彼は喜んでくれた。彼が喜ぶことには、私も喜ぶ。彼が悲しむ事には、私も悲しむ。彼が嫌だといえば、私も嫌だと言う。だから、やはりこの情報操作は行うべきではないのだろう。
放課後いつもの様に文芸部室の鍵を開けて入室する驚いた事に、既に室内には彼が居た。
私はつい---その容姿を見て警戒を緩めた
目の前の彼はニヤリと口の端を上げ--次の瞬間、情報封鎖が行われた。極彩色の情報の羅列が空間を覆う
「こんにちわ、長門有希。はじめましてでいいのかな?」疑問系で投げられた言葉が耳に届く前に私は戦闘態勢を取った。目の前の彼の表情は変わらない「あなたは、誰」「俺だ、長門有希、キョンだよ」「彼は私の事をフルネームで呼ばない」容姿だけ似せた、偽者。その判断は間違ってはいなかった。「そうなのか、では次からはそうする事にしよう」「もう一度訊く。あなたは、誰」「不思議な質問をされる人だ」目の前の彼は不敵な笑みを浮かべ瞬間、胸を鋭い痛みが襲った
私は距離を取ろうとした情報封鎖が行われている空間の戦いはこれが初めてではなかった。思い出されるのは、朝倉涼子。私は瞼の裏で笑う彼女の姿を忘れようと頭を振った。
部室にある本や机が変容して槍になり私に襲い掛かる私は片腕でそれを防ぎながら、しかし、彼と一定の距離を取っていた。
もう片方の腕で槍を構成し、放つ。
しかしそれも、目の前の男は片腕で防いでいた。決定的にこの状況を打開するには情報が不足していた。
「ふむ、能力は同等という事か」目の前の彼が言った。「あなたは、誰」私は同じ質問をぶつける。解析能力を限界まで上げた「さぁ、誰なのでしょうね。そんな事より、そろそろ時間切れの様です。目的は顔見世ですし、今日はこれくらいにしておきますよ」
目の前の彼は、そういうとフワリと浮き、空間の切れ目へ姿を消した。追うことも考えたが、深追いすべきではないという考えが私を支配した。
扉が開かれる現れたのは涼宮ハルヒと朝比奈みくる、古泉一樹、そして彼だった。情報は再構成した。問題は無い。私は普段通りに小説を開いた。いつもなら文字の世界へと旅立てる時間だったが今日ばかりはそうもいかない様子だった。考えを巡らせるのは先程のこと統合思念体からは何も情報が寄せられない、おそらく、混乱しているのだ。不備の事態に。ならば私が今すべき事は、静観であろう。不用意に彼に不安を与えるべきではない、それは古泉一樹にも朝比奈みくるにも言える事だ。通常通り涼宮ハルヒの観察に徹する。私の判断は、間違っていたのだろうか。
下校時「長門」彼に呼び止められた、瞬間、全ての思考が停止した。「長門、おい。聞いているのか?」わたしは首を縦に振った。「どうしたんだ?今日のお前、少し変だぞ」私は--驚いた彼が私を見ていた事に。いや、見てくれていた事に。「変、とは」しかし、あえてぼかした返答をしよう。「う~ん・・・上手くいえないんだが。朝から少しおかしかったんだよなぁ・・・、こう、いつもと違うというか、考え込んでいるというか」
打ち明けるべきなのだろうか既にそこまで知られているとしたら、黙っている方がおかしいのではないかいや--しかし5秒ほど沈黙した私前を歩く涼宮ハルヒ、その隣で朝比奈みくるは何やらしたり顔でこちらを見ていた。目線を動かせばこちらを見てニコリと笑う古泉一樹何から何までお見通しというわけだ。私は口を開いた「話がある」
「つまり、正体不明の敵に襲われた。という事ですね」「簡潔に言えば」「そ・・・それ以外の情報はないってことですかあ?」「現時点では」
彼は畜生と呟いて腕を組んでいた。古泉一樹は携帯電話を取り出すと、すぐ戻りますといって席を外した。上部へと報告をするのだろう。
「何か心当たりは無いのか、長門?」彼が訊ねる。私は首を横に振り---しかし、思い出した事があった。
「夢」「夢?」二人は声を揃えて復唱した
私は、続けて口を開く「ここ10日、同じ夢ばかり見る様になった」
すると、みるみる彼の表情が曇る。何か、思い当たる節があるのだろうか。「ちょっと、待ってくれ・・・、それって」「わ・・・、わたしもそうなんです」「俺もここんとこずっと、そう。同じ夢を見てるんだ」「女の子と、男の人がでてくる夢・・・」驚いた
彼だけでなく、朝比奈みくるも、というのだ。という事は古泉一樹も、という事なのだろうか。
「統合思念体も、今回のことに混乱している。敵の意図すらつかめていない」彼は悔しがり、そして続けた。「長門、何か俺にできる事はないか。お前の役に立ちたいんだ」私はその気持ちだけで嬉しかった、しかし「敵の意図が掴めない以上、こちらから動くのは得策と言えない」私は、彼を諭すように話しかけた。彼を危険な目に合わすわけにはいかない。「そうか…、何かあったらいつでも言ってくれ。何もできないが…相談くらいは乗るからさ」彼の言葉がありがたかった。
古泉一樹が戻った。彼が夢の事について訊ねる。やはり、というべきだろう。結果は同じだった。
「これは、偶然の一致というわけではなさそうですね」古泉一樹の言葉で場の空気が重くなる。「これは何かのメッセージなのかもしれません」「何かって、何のだ?」「おかしな事に、僕達は同じ夢を見ています。しかしその夢について何か覚えている事はありませんか?僕は残念ながら思い出せないで居ます」「・・・」
朝比奈みくるがおずおずと口を開いた。「そういえば・・・、そうですね。わたしも、同じ夢は見るんですが、それが何だったのか、よく覚えていないんです、男の人と、女の子が出てくるという事以外は」「俺も、ぼんやりと」私は--「私は、覚えている」「そうなのか?長門」彼の問いに首肯で応える「お聞かせ願いませんか?」「いい」
そして今朝も見た夢の内容を、3人の前で話した。
その日、黒塗りのタクシーにてそれぞれの家まで送られた。それだけでなく、もしもの時にそなえて機関で各々の家を見張るというのだ。願わくば、何事も無く朝を迎えられる様に。
家に着くと、何も無い部屋が私を迎える。無機質な空間で、わたしは一人。しかし、と。お茶を煎れようとした手を止めた。あれは何だったのか、本日1523回繰り返した問いを、今一度繰り返す。そして、なぜ私だけ夢の内容を覚えているのか答えは出なかった統合思念体からは、何も返答が得られない。そんな情勢に少し苛立つ何かしたいが、何もできない思い出すのは、暴走行為をした朝倉涼子彼女も、こうだったのだろうか何も変化が無い日々を、ただ待機し、バックアップのみを命令された彼女の気持ちは。今の私と同じだったのだろうか。エラーを探知、隔離。
そんな気持ちを無理矢理抑え瞼を閉じる何か解るのではと淡い期待を胸に
瞼の裏の世界
昼間の男が言う
キエルノハ、ナガトユキ、オマエダ。
頭の中でリフレインがとまらない
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい
何回も繰り返す終わることの無い一方的なやり取り吐き気が私を襲う
朝倉涼子の映像が頭の中で繰り返される笑顔の彼女クラスメイトと談笑する彼女クラスでは委員長を務めていた彼女私に、おでんを作ってくれる彼女私に、私に。私に、だ。
わたしに。そう
私はそんな彼女を消したデリートした仕方ない事だったソレシカホウホウハナカッタノダカラ本当に?本当に?本当に?本当は、彼女が恐かっただけではないのか彼に近づいた彼女が私より彼の近くにいた彼女が
頭を振る彼女は私の頭から離れないしかも、私の頭の中の彼女は笑っているのだとても幸せそうに私に消されるなどという事は毛頭知らないというふうにとても、自然に笑うその笑顔は彼に、クラスメイトに、先生に、近所の人に、そして私にも向いていた。
彼女がこちらを見ていう「私、殺されちゃうんですよね。長門さん、あなたに」ニコリと笑う彼女私は、私は頭を抑えた。
そして走り出す逃げる何から?逃げる逃げる何から?どこへ?どこからどこへ?
イキガクルシイアシガアガラナイウデガイタイ
胸が熱くなって私は声を上げて泣いた
ごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
人殺し?そうわたしは、人殺しだ
しかし現れたのは少女だった少女は「待って」と言うと、呼吸を吸い込んで私を見据た。
「早く、キョン君の元へ」「・・・」「いいから、早くいってあげて」「あなたは、誰」昼間と同じ質問を繰り返した。「私は、あなた自身。昼間の彼もあなた自身です」返答が返ってきた、そして「お願いです、彼を止めてください。このままではキョン君が危ない」そう懇願した。
そういい残すと少女は空間の切れ間へと消えた私はすぐさま彼の元へと駆け出した。
情報の切れ間から進入すると男はいままさに彼に襲い掛かろうとする瞬間だった私は呪文を唱えると、左手で彼を隠すようにして男の攻撃を防いだ。彼は気を失っているのだろうか、ぐったりとしていた。しかし、命に別状は無い様子で、それだけが安心材料だった。
「おや、随分早く感づかれましたね。情報がリークしましたか」
「あなたは、私自身」
少女から聞いた台詞を復唱した。男は少しだけ驚いて見せた
「…、今更気がついたんですか。そうです、僕はあなた自身ですよ」
男は続けた
「彼を殺せば涼宮ハルヒは間違いなく何らかの行動にでる。おそらく大きな情報爆発が観測できるはず」「させない」「なぜです?これ以上の情報を得るにはそれしかないのですよ?」「あなたは、私自身。身内の不始末は自分で決着を着ける」「不始末・・・ですか。やれやれ、これはあなたが望んだ事なのですよ」「これ以上好き勝手は許さない」
私がそういうと彼は攻撃を再開した彼を庇いつつ、それを全て回避する一撃でもくらってしまったなら、相当の負荷がかかるのは前回の交戦で理解していた。していたはずだったが「く・・・」足に一撃くらってしまった。「おや、この程度ですか」まだ大丈夫だと強がってみせた。
しかし、もう動き回る事は叶わないだろう。襲い掛かる槍
全てを防ぐには、多すぎた。
目の前の男は不敵に笑う
私は動けない。男は、槍を振り上げた。目を瞑る彼を守ると約束、したのに。
「じゃあ、死んでください」
「うん、それ無理」
男の動きが止まった。
私の目の前に現れたのは、朝倉涼子だった。
「ごめんね、長門さん。ちょっと遅れちゃった」
彼女は、以前と変わらぬ笑顔で言う。
「なっ・・・、あさくら・・・りょうこ、だと・・・」男は不意を突かれ動揺している、背中に彼女が刺したらしいサバイバルナイフが突き刺さっていた。
「私の長門さんをよくもこうしてくれたわね、死になさい」情報連結解除開始。彼女がそう言うと、男の体は光る結晶となり、やがて消えていった。くるりとこちらを向き、朝倉涼子はニコリと笑う。
「どうして」
「どうして?私はあなたのバックアップだもの、ピンチの時は馳せ参じるものでしょう?」
「私は--あなたを」
「もういいの、長門さんは悪くないもの。悪いのは暴走したわたし、長門さんは、当然の事をしただけよ」
「でも」
「いいのよ、もう。だから何も言わないで、ね?」
「・・・」
「うん、その方が長門さんらしいわよ」
彼女はニコリと笑う、私はそんな朝倉涼子が好きだった。
だから、彼女を消した事を、ずっと悔やんでいた。
それを全て
許すと言う
私は
その一言に
どれだけ救われただろうか
「ほら、泣かないで?」
「ひっく・・・えっぐ・・・」
「よしよし、いい子いい子、いい子だから、ね?」
諭すように彼女は私の頭を優しく撫でた
本当は彼女が居なくなってからというもの心のどこかで不安が蓄積していたのかもしれないそれが、いくつもの私を造ったのかもしれないでも、そんな事はもうどうでもよかった
登校途中。相変わらず長い坂道を今日は、彼と一緒に登っていた
「おはよう、キョン君」
「はよ、朝倉。日直か?」
「うん、朝の当番だからね。長門さんも、おはようっ」
彼女は日常へと溶け込んでいった。彼は最初かなりの抵抗があったみたいだが、私が説得すると納得してくれた。もう二度と暴走はしない、そして、させないと誓った。彼はそんな私をみてやれやれと呟き、信じると言ってくれた。情報操作により、カナダから舞い戻った委員長は、クラスにも問題なく馴染んだ。もともと人気があるのだ、不思議ではあるまい。私はそのことに胸を撫で下ろし、彼女がいる生活を楽しいものだと認識していた。
しかし、懸案事項が発生した。
「キョン君、今日お昼一緒に食べない?」
「あぁ、別に俺はかまわんが」
朝倉涼子が彼に急接近したのだどうして彼女は私のバックアップのはず…っ!
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