ある正月
果報は寝て待て。 とは、少し意味合いが違うかもしれないが、今の俺の状況のことを言うのであるかもしれない。 ここでの果報とは、名も知らぬ親戚からの『お年玉』ということで、差異はないだろう。 元旦から例の如く、俺は「初詣に行くわよ!」の一声で、各地の神社・寺を問わず、振り回された。 神の御加護を請うのは良いと思うが、あまりあっちこっち行って、浮気をするもんではない。それに、多すぎるのも悪いと言うしな。 そして、その反動からか、元日の次の日。要は1月2日。我らSOS団の不毛な活動は休止中である。 その反動は団員全てに例外なく襲い掛かり、忌々しい団長含め、ただただ堕眠を貪るばかりだ。 暖房の効いた部屋。そして、炬燵に蜜柑と言うこの上ないほどのシチュエーション。まあ、眠くならない方が可笑しいな。 今しがた、長い眠りから目が覚めた俺は、肩を鳴らしながら、隣にまだ眠っている団長の姿を一瞥する。 なんとまあ。可愛らしい寝顔だ。……いかん。これは危ないな。 炬燵の上に置いてある新聞のテレビ覧を眺めるが、俺の興味を引く番組はやってない。 手持ち無沙汰になり、今度は隣で無防備な姿で眠る奴をじっくりと観察する。 ……にやけてやがる。どんな夢を見てんだよ? 一筋の涎が垂れている。 あっ、泣きそうな顔になった。夢の中まで大変な奴だな。 叩き起こして、夢の内容を訊くのも良いが、このまま目まぐるしく変わる表情を眺めるのもまた一興だ。 思えば、こいつに何度振り回されてきただろう? もはや、数える気も起こらない。数えるだけ無駄だからな。 平和な顔して眠る奴を見てると、気分がぽわーんってなってくる。よくわからん? まあ気にするな。 こういうのを幸せと言うのだろうな。 何も変な事に巻き込まれず、ただボーッとするだけの一時が。いいね、この時間。 いつまでそうしていただろうか。気付けばもう夕飯の時間だ。そろそろあいつが帰ってくるな。 謀ったように、玄関の扉が開く音が聞こえ、少しして抜けた顔の奴が入ってくる。 「よっ、帰ったか」「親に対してその態度は何だ?」 そう答えた親父は俺の隣にいる眠り姫を見て、「ハルヒは寝てるのか」と呟く。 すると、親父はしゃがみ込み、ぐーすか寝てるお袋の顔を見つめる。「美人だと思わないか?」 訊いてきたのか、独り言なのかは分からない。 だがな、 お袋が美人なのは分かるが、子供の前でデレデレすんのは控えてくれよ。流石に気色悪い。「飯はどうすんだよ?」「ハルヒが起きるまで待ってろ」 自分で用意する気はないのかよ。ったく、面倒くさがりだな。間違いない、俺は親父似だ。 親父はお袋の頬をツンツンして遊んでやがる。……馬鹿な親父だ。 はあ……今年も俺は息子をSOS団に引き込んだ鬼母とその鬼母にデレデレの間抜け親父と過ごすのか。 溜息しか出ないが、それも宿命なのだろう。なんてたって俺はあの親父の息子だなんからな。「お前に彼女らしき人はいないのか?」 いきなり、何故それを訊く? 痛いところを……。「ほっとけ。お前には関係ない」 俺がそう言うと親父は「そうか」と言って、お袋いじりに戻った。今度は頬を摘んで引っぱている。「素直になった方が得だぜ」 親父が俺に忠告らしき言葉を投げかけて来た。「どういう意味だ?」 親父はくっくっ、と笑い答えた。「今に分かるさ」 お言葉を返すようだが、今と言わず、一生掛かっても理解できる気がしないね。 微笑みながら、幸せそうに眠るお袋の顔をおもちゃにする馬鹿親父。 どうしてそう思ってしまったのかは分からない。 何が俺に将来への思いを馳せてしまったのであろうか。 その両親の光景は俺を憂鬱にさせた。 しかし、その憂鬱は言葉通りのネガティブな意味を持ってはいなかった。 ポジティブな憂鬱。 いったい俺は何を考えてんだろうな。さっぱり意味が意味が分からない。 やれやれ。 親父の口癖が俺の口から漏れた。
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