悪くない人生
無事、大学受験も乗り切り、高校生活も残り一週間をきったある日のこと、いまだ律儀にも部室に足を運んでいた。なんの因果かハルヒに長門に古泉、それにおれも、去年朝比奈さんが進んだした大学に進学が決まっているためか高校の卒業に対してそれほどの感慨もなく、ハルヒはネットサーフィン、長門は読書、俺と古泉はボードゲームそして卒業してからもちょくちょく部室に姿を現す朝比奈さんが給仕と、卒業間近とは思えないようにいつも通りの光景のなか、ハルヒが発した言葉が事の起こりだった。ハ「ねえ、キョン、この三年間楽しかった?」キ「なんだ、突然、まあ退屈だけはしなかったな。」ハ「あんた、高校生活の最後にもっとほかに言いようはないの?」キ「そういうおまえはどうなんだ?」ハ「あたしは楽しかったわよ。相変わらず素直じゃないわね。楽しかったならそう言えばいいのに。」キ「いつもそこそこ素直なつもりだぞ。たしかにこれ以上ないってくらい充実していたのはたしかだ。」ハ「そ。でもここまであんたを引っ張ってきてあげたのはあたしなんだからね、感謝しなさい!」キ「振り回したの間違いだろ。この先しばらく振り回される日々が確定してるんだ、それが終わったら、まあ悪くはなかったな、くらいは思ってやってもいい。」ハ「なに言ってんの!SOS団は永久不滅なんだから終わりなんてないの!とくにあんたは目を離すとすぐにだらけるから 団長であるあたしが死ぬまで引っ張っていってあげるから、今から深く感謝してなさい!」キ「はいはい、わかったよ。」 ハ「まあ、いいわ。じゃ、あたしは用事思いついたから先帰るわ、じゃね!」そういうとハルヒはなにか面白いことでも見つけたような笑顔で勢い良く帰っていった。やれやれ、卒業までの僅かな間くらい大人しく出来んのかね、そんなことを考えながら古泉の「あたしが死ぬまで引っ張っていってあげるとは、もう生涯を共に過ごす約束ですか。羨ましいですね」なんて言葉はいつも通り聞こえないフリをしていたわけだが。まあ、思えばこの日のこの会話が卒業式の日のネタふりなってるなんて思いもしなかったんだがな。卒業式の日、式も滞りもなく終了し、教室に戻ってむせび泣く谷口に若干のウザさを感じつつもクラスメートとの別れを惜しんでいるとハルヒが唐突に言い出した。ハ「そろそろ行くわよ、キョン」キ「なんだ、どこに行くって?」ハ「市役所よ。」キ「なぜ唐突に市役所なんて行かなきゃならん?」ハ「これを出しに行くに決まってるじゃない。」なんですか?この茶色い書類。おれの国語力に問題がなければ婚姻届と書いてあるように見えるが。キ「なんだこれは?」ハ「婚姻届よ。見ればわかるでしょ。」キ「そうじゃなくて、なぜこれにおれとおまえの名前が書いてあって、ご丁寧にも印鑑まで押してあるのかが知りたい」ハ「あんた、このまえ話聞いてなかったの?あんたはあたしが死ぬまで引っ張っていってあげるからって言ったじゃない。 ほっといたら、あんたすぐだらけるからね。普段の生活もあたしがきっちり管理してあげるわ。だったら先に籍だけでも 入れたほうがいいじゃない、どうせ一緒にいるなら早いうちにハッキリしておいたほうがいいのよこういう事は。」キ「意味わからんし、飛躍しすぎだろ!だいたいおれはこんなの書いた覚えもないぞ、 大体だな、自署じゃないと駄目なんじゃないか?こういうのは。それに印鑑はどうしたんだ!」ハ「名前はあんたの筆跡真似て書いたの、どうせ調べたりするわけじゃないし、バレやしないわよ。 印鑑はあんたのお母さんに(キョンと籍入れるから判子貸して)って言ったら(どうぞー)って。なんの問題もなく貸してくれたわ。」キ「おまえの両親はどうした!?いきなり娘が高校卒業の日に結婚なんて許すはずないだろ!?」ハ「キョンが相手ならいいって。あんたの親が賛成ならいいらしいわ。」キ「そもそも当事者であるおれの意思はどうなってんだ!YESともNOとも言ってないぞ」ハ「なによ、嫌なの?このあたしが結婚してあげるって言ってんのよ!」キ「嫌だとは言わないが、こういうことはもっとちゃんと段階をふむべきであっt・・・・・」
ふと、気が付くとクラス中から生暖かくもほのぼのとした視線が向けられていた。しまった、最後の最後までやらかしちまった。ハ「あーっもうっ!ごちゃごちゃ言ってないでさっさと行くわよ!これ出したらうちの家族とあんたの家族で食事に行くの!もう場所も予約済よ! その後は有希の家で結婚祝い&卒業パーティーね!鶴屋さんも呼んでパァーっとやるわよっ!明日はあんたの家にあたしの荷物 運ばなきゃならないし、あっそうそう、明日の朝ご飯なにがいいか考えとくのよ、腕によりをかけて作ってあげるわ!楽しみにしてなさい! これから忙しくなるわよ!まだまだやることいっぱいなんだから、しっかりついて来なさい!」まったく、おれの意見なんてどーでもいいんだろうな、こいつは。言っても無駄なら早々に覚悟を決めるとするかね。キ「はぁ、わかったよ。これからもよろしくたのむな、ハルヒ」やれやれ、これで一生、退屈を感じることもなさそうだな。それにこいつの隣でこいつの暴走を止めるのはおれの役目だ。そしてそれも最後には悪くない人生だった、といえるだろうさ。
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