涼宮ハルヒの作文
夏休みも終盤に差し掛かり、当然のことに宿題がまだ終わっていない俺は焦っていた。 去年もそうだったから、それを察することはハルヒにも容易にできたのだろう。そう、今俺はハルヒの家で宿題を手伝ってもらっている。 「お前が俺ん家に来いよ」という俺の願望的提案も「いやよ、暑いし」というハルヒの一喝によって一掃されてしまった。 宿題をやり出して二時間、よくぞ俺もここまで集中力が切れていないな、と自分に感心している俺はハルヒの部屋のテーブルで黙々と宿題をしている。 そして三十分前から部屋の片隅のベッドで可愛い寝息をたてて寝ているハルヒが、ちょっとばかし今の俺の癒しアイテムとなっている。 ま、今の俺の状況説明はこんなもんでいいかな。 宿題が飽きてきたところで気晴らしにでも思って、ハルヒの部屋の押入れらしき襖を開けてみた。そこ、最低とか言うんじゃない。 その中のダンボールから出てきた何枚かの作文用紙……なるほど、こりゃハルヒの昔の作文だな。つまらないとか言ってた割には、こういう物を取っておいてるのかよ。 「何々……? 『しょうらいの夢』二年一組、すずみやはるひ……可愛い文字だな。」
しょうらいの夢 二年 一組 すずみや はるひ あたしは、しょうらいすてきなおよめさんになりたい……なんてことは、ぜったい言わない。恋なんて、いっしゅんの気のまよいであって、何かのびょうきの一種なのよ。 あたしの夢は、ずっと楽しく生きて、一生を終えること。それが、あたしの夢。
……終わりかよっ! 随分短い作文だな……しかもなんだ、この小学二年生に有るまじきこの可愛くなさ。 まあこいつらしいと言えば、こいつらしいけどな。次見てみるか。
最近のこと 一年 一組 涼宮 ハルヒ この前、あたしは学校のグラウンドに宇宙人へのメッセージを書いた。すごい時間がかかったのよ?とてもあたし一人でなんかできなかったわ。でも、そんなあたしの元に一人の変態が来たの。なんか、女の子一人背負った高校生みたいな奴だったわ。どこかの誘拐犯かもしれないわね。でも、その変態はあたしのメッセージ書きを手伝ってくれたのよ。この世にはおかしな奴も居たものね。
中学一年の時の作文か……作文の短さも内容も全く進歩していない。しかもこの変態って……いや、やめておこう。先生も呆れていたんだな。元から諦めていたに違いない。さて次の作文で最後か。どれどれ? これは……高校一年のものか。
恋 一年 五組 涼宮 ハルヒ 恋。それはあたしにとって、一生無縁なことだと思っていた。でも、それは…もしかしたら違うのかもしれない。いや、別に今あたしが恋をしてるわけじゃない。というか、元々恋というものはどんなものなのか、よく分からなかったりする。 今年の春。あたしは、ある男と出会っ
……ここまでが俺が読み取れた範囲である。何故これ以上読めなかったのかって? 文字が汚かったわけでも、紙が破れていたわけでもない。 ハルヒの制止によって、俺の行為は妨げられたからである。 「何してんの? …って、あっ、それ!!」 一気に作文を全て取り上げられた。まずい、怒らせちまったかな?「こ、このバカキョン!! これ、最後まで読んだの!?」「いや、途中までしか…」 ハルヒは動揺していた。何故顔が真っ赤なんだい? 団長さん。「途中までって、何処よ!!」「…さあな、忘れちまった。」「勝手に人の作文見るなんて最低っ! 今すぐ出てけーっ!!」 ハルヒは走るチーターのスピードの如く俺を追い出した。そんなに嫌だったのか? …そうか、そうだよなぁ。 少し反省しつつ、俺は家に帰っていった。新学期、謝っておくか。
一方、ハルヒの部屋 「作文の最後の文章……『あたしがこの男に抱いている感情こそが、恋なのかもしれないわ。』……こんなの見せられるわけないじゃない! なんでこんなの書いたのかしら……自分が自分を許せないわよ、もうっ!」 おわり
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