雄猫だった少女 第四話「休みの狭間に終息への足音を」
「キョンくん」「ご主人さま~」今、ベッドの上で二人の美少女から抱き締められている訳です。一人は俺の彼女と成った阪中、そして俺のペットのシャミセン。ん~。幸せなような気もするが理性というのがありまして、それが我慢ギリギリなわけだ。だから嬉しいような逆のような。いや、まぁ、嬉しいし幸せなんだろうけどな。あー、言っとくがベッドの上とは言っても決して何もしてないぞ。ただ単純に俺が寝っ転がってたらシャミセンが抱きついてきたんだ。それを見ていた阪中が「むぅっ」その後に抱きついてきた。それだけだ。というわけで俺の腕枕で裸の二人が抱きついているなんていう漫画みたいな状況はまずない。そんなギャルゲーみたいな展開があってたまるか。ふと、どたばたという足音が聞こえた。それに反応してシャミが慌ててクローゼットに飛び込む。阪中と俺もさっとベッドから降りて世間話をしていたフリをする。「キョンくん、電話~」「ん」俺は妹から子機を受け取ると通話口が耳の当てる。 第 四 話 「 休 み の 狭 間 に 終 息 へ の 足 音 を 」 「もしもし、多分古泉か」『ご明察です。こう見えてかなり焦ってましてね・・・』俺は妹にあっちいけと手を動かした。妹は笑顔で頷くとドタバタ音を立てながら一階に戻っていった。「どうしたんだ?」 『岡部氏が死にました』 「・・・は?」その言葉に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。そう語った古泉は若干いつもとずれた口調。何かを堪えるような話し方だ。『酷い有様だったようです。いえ、酷い有様でした。流石の僕も吐かずには居られませんでした。思い出すだけで・・・っ』そうか。こいつはそれを見てしまったんだな。こいつが堪えているのはまず間違いなく吐き気だ。多分電話の向こうでは顔が青い古泉が必死に喋ってるんだろう。その光景を無意識のうちに思い出してしまったのだろう。「大丈夫か、古泉?」まぁ、こちらとて阪中達が居るからな、事件絡みの言葉は使わないほうが良さそうだ。『えぇ、なんとか・・・ふふっ。まさか、貴方から労いの言葉が掛かるとは・・・』「俺だって悪魔じゃねぇよ。で、話の続きは?」『それでですね、岡部氏が生前にこんな事を語っていたそうなんですよ』「なんだ?」『”猫耳で猫の尻尾をつけた女の子が俺を襲った・・・”って』猫耳で、猫の尻尾をつけた女の子・・・って。ぞくりと鳥肌が立った。え・・・それってまるで・・・・・。寒気がした。クローゼットに思わず視線をやる。それって今のシャミセンそのまんまじゃないか。「こ、古泉・・・推定時刻は?」恐怖に駆られながら俺は尋ねる。返答次第では・・・その可能性が出てしまうからだ。『えっと・・・死亡ですか?』「あぁ」『ちょっと待って下さいね・・・えぇ・・・昨夜の二時~三時、ですね』ほっとした。その時間はシャミは俺の布団の中にもぐりこんでいたんだから。良かった。まさか我が家のペットが殺人犯したとなったらとてもやってられないからな。「そうか・・・しかし、猫耳の猫の尻尾とは何事か」『僕自身、何の事かはよく解らないんですよね・・・もしかしたら相手はコスプレしているんじゃないかという話も出てますが・・・』「ありえないな」だいたいそれはどんな殺人鬼だ。未だに「●●はまだ16だから~♪」と歌う元アイドルのおばさんより性質が悪い。『えぇ。でも確立は0じゃない以上は否定出来ないのが現状です』困ったものです。古泉はそう言って苦々しく笑った・・・まぁ、電話越しだから苦々しい笑顔かは解らないが。「・・・しかし、一体何が・・・」『貴方の関係者が死ぬという事件だと思われてるようですが、もしかしたら北高の生徒を単純に狙っている確立もありますね』「だが、それにしては率がどれもこれもな・・・」『貴方自身には恨まれるような覚えは無いんですよね?』「あぁ、ないな。全く無い」『もしかしたら自覚無いままに、って可能性もありますね。まだ調査中ですのでなんとも言えないですが・・・』「それなら、確かに無いとは断言出来そうに無いな。解らないが」その後もしばらく会話をした。思えば古泉とこんなに長い間話をするのは久しぶりか初めてのような気がする。『では、また何か解れば報告させてもらいます』「解った」ピッという単調な電子音と共に切れた電話。俺はしばらくの間電話の子機を熱く見つめていた、もとい睨んでいた。まさか、あの岡部が・・・。「どうしたの?」阪中が俺の様子を見て心配そうに声を掛けてきた。まぁ、教えても良いか。「・・・岡部が、殺された。昨日の深夜にな・・・」顔面蒼白。あっという間に血の気が引いた阪中の顔はそんな字が合っていた。だがふと何かに気付くようにハッとすると「・・・そうか・・・シャミちゃんじゃなかったのね・・・良かった・・・」とぶつぶつ呟いていた。「阪中、どういう事だ」「・・・実はね」そして、初めて知った。鈴木が死んだあの日、阪中も何か変なものに襲われていたこと。その特徴が、猫耳と猫の尻尾であった事。「でも良かった・・・シャミちゃんじゃなくて」クローゼットが思いっきり開く。思いっきり丸聞こえだったからな。噂話の当の本人はわなわなと震えながら物凄く悲しそうな顔をしていた。「ず、ずっと疑ってたんですか!?」ショックからか凄い涙目のシャミがそこに居た。「だって、そっくりだったから仕方ないのね」「うぅ~・・・」俺は二人の様子にやや安堵すると同時に一つの疑問に至った。阪中を襲ったそいつはルソーを見るや「ルソー」と呟いて消えたという。つまり、相手はルソーを知っている人物、もとい化け物となる。しかもルソーが居るから逃げたというべき状況。 ―――・・・一体、何がどうなのか・・・。 俺はとりあえず頭が痛くなってきたのでマタタビをシャミに投げつけた。その後もシャミと阪中と俺の三人でまったりとした時間を過ごした。「あ~・・・こう、ほのぼのとしている日常って良いな・・・」何となく呟く。「最近色々あったものね・・・」阪中も何となく返す。「マタタビ~にゃ~ふにゃ~」シャミはマタタビによがり狂っている。姿は人でもやっぱり猫か。・・・本当。日常のままならいいのにな・・・。そう思って溜息を吐いた。 この時間が、束の間の休息である事を感じつつ。 <SIDE KOIZUMI>―――電話の後。 「・・・解りませんね」僕は資料を片手にありとあらゆる可能性を計算してみました。そう、今回の連続的殺人事件について。結果、彼に関係する人間の犯行とした場合の犯人の可能性があるのは十二人。北高を恨んでの犯行とした場合、犯人の可能性があるのは十一人。うち一人は昨日病院で病死したから十人。結果合計二十二通りの犯人が居るという事になりますが、いずれもアリバイが成立。故に、北高と無関係となりますが、そうなるとその通りは無限。限りがなくなります。「・・・ん~・・・」そこで次に思いつくのは涼宮さん絡み。ですが、彼女は最近体調不良で家からは出ておらず、彼が誰と一緒だった等と知りうる事は無い。さっきから壁にぶち当たっているという状況に少しだけ苛立ちを覚えた頃。一つの意見が思い浮かんだ。「となると・・・別の何かが?」ありうる。僕はSOS団員として、この世にある不可思議をいくつも見てきた。だがそれが全てとは限らない。それならば見てない不可思議があっても可笑しくない。だとしたらそれは恐ろしい脅威だ。それが何であれ、知らないところに存在しているとなると難しくなる。「長門さん達にも協力していただかなければなりませんね・・・」僕は長門さんと朝比奈さんにメールを送信した。長門さん家に今から緊急で集合、と。「これから忙しくなりますね・・・」長門さんの家に向かう為に僕は着替えてさっさと家を出た。 この時間が、束の間の休息であるが故に。 <SIDE YURA> 「・・・・・」一人で居る程怖い事は無い。何も映さない右目。まだ包帯だらけの体。まだ記憶の中で鮮明に残る戦慄。 血。目。肉。匂い。痛み。音。感触。全て、全て全て全て―――。 「・・・・・」まだたまに不明瞭に感じるときがある。私は生き残ってしまったのかどうかを。あの状況かで。この状況下で。ここに居る私は実は違う私なんじゃないかって。聞いたから。佐伯さんも鈴木さん、岡部先生さえも死んでしまった事を。私は彼女等と同じ立場になったのにも関わらず生き残ってしまったのはおかしい。「・・・どうして・・・」私だけがここに居るのだろう。ここで生きているのだろう。思わず口に出してしまう疑問詞、それはここ最近ずっと思ってしまう事を抑えられないからだ。何か役割でもあるというのだろうか。じゃないと神様は人を生かすわけが無い。あんなに傷を負った私が、生きられる訳が無い。彼が居ても。ふと視界にナイフが映る。さっき豊原達くんがお見舞いに来た時に置いてった果物ナイフだ。そのナイフの鏡面に”見えた”。こちらをじっと見ている死んでしまった人たちの顔が。「みんなそこに居るの?」そう話しかけると一斉に判を押したように同じ笑顔を浮かべる。ゲテゲテと笑っている。狂ったように、苦しそうに、嘲るように。「・・・・・・・!」あぁ、そうか。それを見て解ってしまった。私の役目が。「・・・大丈夫だよ、柳本さん、佐伯さん、鈴木さん・・・私が・・・・・」私が・・・ちゃんと敵討ちしてあげるからね・・・。貴方達がされたように、ズタズタにしかえしてあげなきゃね。ずたずたに。ぐちゃぐチゃに。腹を割いて内臓ヲ抉り取って。頭から脳を垂ラサせて。目玉を抉ッテ。骨を無理矢理圧し折って。そうダ。私がしナキャいけなイんだ。 み ン な の カ ワ り に コ ロ シ て ア げ な キ ゃ。 いつの間にかナイフから彼女らの姿は消えていた。私はアルトサックスを取り出して久しぶりに演奏してみた。曲は、レクイエム。どうか柳本さん、鈴木さん、佐伯さん、岡部先生へ、拙いながら捧げます。安らかにお眠り下さい・・・。私が貴方達の恨みを晴らしてあげますから・・・。今はナイフの輝きがいつもよりも綺麗に見えた。「・・・殺してやるんだから・・・」全てを殺したあいつを私が殺された人たちの変わりに・・・。「あはは・・・アハハハハハハハハハハハハハハッ!」今からその時を想像しただけで、笑いが止まらない。あぁ、本当に・・・早く・・・殺したい。 この時間は、束の間の休息としてだからこそ在る。 <SIDE ASAHINA> 「どの時系列の未来にもこの状態は存在して無い・・・どういう事なの・・・?」私は混乱していました。この事件について未来に問い合わせたところ予想外の答えが帰って来たからです。即ち、どの未来にもこの事件についての記述が無いという事。つまりこの時系列で初めて発生したと言うのです。「一体、どうして・・・。ありえない・・・。新しい未来が完成するなんてありえないのに・・・」そうありえない話。だって、この時系列はずっと観測されていますから。観測されていないと分岐した時系列が生じたなら新しい未来も考えられるでしょう。 けど、違う。 観測されている筈なのに、観測されて無いかの如く未来さえも知らない事件が発生している。確かに低確率ではあるものの新しい未来が出来る事はあります。所謂平行世界です。平行世界に関してはとりあえず、行けるだけの技術は確立していますのでだいたいは把握しています。ですが、本当に新しい平行世界が生じるのは低確率なんです。それは確立としては実質零パーセント。ある時系列がある場所から分岐してパラレルワールドが生まれる為には条件が必要です。その分岐点までに今までに無かった何かが生じる事。それが最も重要な要素。ですが、今までそこに至るまでに無かった何かが生じるという事は無きに等しい事です。でも、私達未来人が生じさせようと思えば出来ない事はありません。例えば、私達人類の代わりに鼠が栄えるような世界を観察したい場合。戻れる限りの過去まで戻ってそこに居る人類を殲滅して大量の鼠を送り込めば良いわけです。刹那に地上は鼠で溢れ返って鼠という生物が繁栄しているかのような状態を作れます。どんな世界なのか見たいならあとはその平行世界へと行けば良い訳です。未来に居る誰かが未来から過去へと戻れば、新しい時系列は生成される。ですが過去に戻る為には許可が必要であり、勝手な事は出来ません。ある程度の権限を持ってもTPDDの使用履歴が残りますし。ですから、今回、この平行世界が生じた事に関して未来は驚きを隠せません。ただ、私の居る未来が残っているという事はいずれ、その平行世界は元に戻るという事になります。未来はこの世界の平行世界を確認していませんし、平行世界がこのまま独立するという事は無さそうです。流れが分岐して出来た川が、ちょっと先で再び合流するような感覚でしょうか。 ・・・あれ? だったらなんで観測されて無いんでしょうか。可笑しいです。だって未来は変わってないなら、未来からここを観測できるはずです。これから起こる事も全ても。これはちょっとした恐怖です。本当に怖いです。だって何が起こるか解らないんですから。そして難しいです。数学とか英語とか、そういう問題では無いです。「ふぇ~・・・頭が混乱しそうですよぉ~・・・・・」こんな事ならもっと勉強すれば良かったなぁ・・・。そう思っても今更どうしようもありませんし、自業自得ですね。・・・いえ、勉強出来たところでこの謎は解決されそうにありませんけどね。だってトップレベルの人々が会合開いても全く解決出来ないんですから。でも本当に頭が混乱してきました。考えれば考えるほど渦に巻き込まれて、更に考え込んでしまいます。こういう時にはやっぱりお茶の研究に限りますよね。「今日はこの茶葉とこの茶葉を混ぜてみましょうかね」SOS団の人々の為に今日もお茶の研究頑張りま~す! 密かに夢見た正義の~味方私がなれちゃうなんてね~♪ と、その時携帯電話の着信音がなりました。ディスプレイには「古泉くん」と書いてあります。「メールですか・・・」どうやら長門さんの家へ集まって欲しいとの事です。早く行かなくては行けませんね。幸いにも寝癖は無い。着替えだけすれば出られますね。私はクマさんの柄のパジャマを脱いで急いで着替え、慌てて家を飛び出しました。 この時間に、束の間の休息を与えられて。
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