謎の挑戦状
「ただの人間には興味ありません!この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしのところにきなさい!以上」 ハルヒがそう言ってSOS団を創ったのは一年前のことだ。この一年間の間にいろいろなことがあった。草野球に孤島での事件。雪山遭難や終わらない夏休みなどSOS団、いや俺にとっては災難続きの一年だった。まぁこんな日常も悪くないと思っていた俺であったがハルヒがこの一年で撒いた種がいよいよ芽を出そうとしていた。芽を出すと言えば聞こえは良いが、俺にとっては一年間のツケを払わされるようなものだった。 その日俺たちはいつものように部室に集まっていた。特にすることもないんだが朝比奈さんのお茶を飲みに来るだけでも十分価値はある。俺と古泉はボードゲームで対戦し、朝比奈さんはせっせと部室の掃除をしているし、長門は相変わらず黙って本を読んでいる。いつもと同じ光景なのだが今はハルヒがいない。どこ行ってるのか知らないがあいつがいないと静かでいいね。どうせなら今日くらい来なくてもいいんじゃないか?あいつがいなければ俺は疲れることもないし、朝比奈さんだってオモチャにされずに済むだろう。古泉や長門はハルヒの横暴を直接受けることはほとんどないからあまり意味のないことかもしれないが…いや、裏で頑張ってるのは知ってるぜ。だが表でも裏でも被害を受ける俺に比べたらまだマシなもんだ。だからハルヒよ今日くらいはさっさと家に帰れ。 だが俺の願いも虚しく部室の扉は勢いよく開いた。 「みんな聞いて!とうとうあたしたちが力を合わせて悪を倒すときが来たわよ!」 部室の扉を開けて現れたハルヒは今から狩りにでもでかけるような満面の笑みを浮かべていた。くどく言うがハルヒの持ってくる話が俺にとって良い事であったことはほとんどない。 「またいきなり現れてなにを言いだすんだお前は。いつも言ってるが最初から俺たちにも理解できるように説明しろ。」 「これを見なさい!あたしの下駄箱に入ってたの。」 ハルヒが差し出したのは一通の手紙だった。手紙の裏には『SOS団宛』と書いてある。「SOS団宛だと?なんだこれは?とうとう朝比奈さんの親衛隊が痺れを切らして取り戻しに来るのか?」「いいから黙って読みなさい!」ハルヒは腕を組み俺のことを睨みつけてやがる。相変わらずせっかちな性格だな。まぁいい。で、これはなんなのだろうか…俺は手紙を広げて書いてある文字に目を通す。そこにはワープロで書いた文字で『親愛なるSOS団諸君。私はあなたたちの日頃の極悪非道な所業ぶりに遺憾を覚えている。あなたたちの所業に迷惑してる人間がいることを忘れないでほしい。もしあなたたちに反論があるなら私の挑戦を受けてもらいたい。』 何の挑戦だよ?俺は読み続ける。『本日18時駅前にある建設中のビルの前に私の部下が立っているので詳しくは彼に聞いてくれ。では、SOS団が私の挑戦を受けてくれる勇気ある団体だと祈っているよ。』と書いてある。 差出人は書いていない。SOS団に挑戦?なんの冗談だよ。まぁこんなイタズラ相手にしてたらキリがねぇな。だがこの手紙の主が誰かはしらんが余計なことしてくれるぜ。挑戦なんてされると今俺の前で腕を組んでニヤリとしているハルヒが知ればまた俺たちは厄介なことに巻き込まれる可能性が高い。「こんなイタズラ相手にすることねぇよ。ほっとけ。」「何言ってんのよ!挑戦されたら受けるのがあたしの信条なの!それにSOS団に喧嘩を売ってきた身の程知らずな奴の顔も見てみたいし、この挑戦受けてやろうじゃない!」 まぁこうなるわけだ。今のハルヒには何を言っても無駄だってことはこの一年で痛いほどよくわかった。「こんな得体の知れないやつの挑戦を受けて大丈夫なのか?」「大丈夫よ!自分の正体も明かさず人に挑戦してくるようなやつよ!あたしがこてんぱんにしてやるわ!」確かにこの手紙の差出人が誰かは俺も気になるところだ。だがSOS団に恨みを持った連中なんてたくさんいるから見当もつかないな。「何を考えてるかは知らないけどあたしたちに喧嘩売ったことを一生後悔させてやるわ!行くわよみんな!」こうして俺たち5人は部室を後にした。 駅前まで向かう途中俺は念のため古泉に聞いてみた。「今回の件も機関とやらの仕業じゃないだろうな。」古泉は珍しく真剣な顔で、「いいえ、今回のことに僕や機関は無関係です。僕にも相手はわかりません。」じゃあ誰の仕業だ?宇宙人か?未来人か?それともまだ来てない異世界人の仕業か?「手紙の内容からすると差出人は僕たちの知っている人間でしょう。」「俺たちのことを知ってる人間ならハルヒに喧嘩を売るなんて自殺行為はしないと思うがな。」古泉はフフッと微笑むと、「まぁいいではありませんか。涼宮さんの言うとおり正々堂々と挑戦を受けて差し上げましょう!」 この先どんな戦いが待っているのだろうか?長門がいればとりあえず安心はできるが。長門を見ると我関せずのように本を読みながら歩いていた。朝比奈さんは戸惑ってるようで、「ち、挑戦ってなんですかぁ~!怖いですぅ~!」この方はどんな仕草も絵になるね。「あれかしら!」ハルヒが突然声をあげ指さした先には建設中のビルが建っていた。建設中と言っても外観は完成しておりオープン間近といった感じだ。ビルの前には黒ずくめのスーツにサングラスをかけた男が立っていた。 サングラスの男は俺たちに気づくと俺たちの方に向かってきた。「こ、怖いですぅ~!」朝比奈さんが俺の腕にしがみついてきた。いい感触だぜ。だがハルヒが俺と朝比奈さんを睨むと、「今から大事な戦いだってのになにしてんのよあんたたちは!離れなさい!」そう言って無理やり俺から朝比奈さんを引き剥がした。それを観ていた古泉が隣でクスクス笑ってやがる。「なに笑ってんだ古泉!」「いいえ。なんでもありませんよ♪それより今は目の前の相手を見据えるほうが大切でしょう。」古泉に言われ再びサングラスの男を見ると俺たちの目の前に立っていた。男は俺たちを見まわすと、「お待ちしておりました。SOS団の皆様ですね?」ハルヒは男を睨みつけると、「そうよ、あんた何者?」「私はただの案内人でございます。中へ案内しますのでこちらへどうぞ。」男は建設中のビルの中に俺たち5人を案内する。中に入ると天井の高い大きなロビーがいきなり現れた。「大きなロビーですね。さすがに大手のことはあります。」と古泉があたりを見まわす。大手?「お前ここがなんなのか知ってるのか?」「ええ、ここはある大手ゲーム会社の建設中の新しいビルですよ。」なんで建設中のゲーム会社なんかに俺たちを呼び出しやがったんだ?ますます意味がわからん。「ここでしばらくお待ち下さい。」サングラスの男は正面の扉に入っていった。「ふぅん。わざわざあたしたちを呼び出しといて待たせるとはいい度胸じゃない!どこの誰かは知らないけど見つけたらただじゃ済まさないわ!あたしが考えた究極の罰ゲームを味わわせてやるわよ!」 ハルヒの考えた罰ゲームなど想像しただけで震えが起きるぜ。だが相手は少しも恐れちゃいなそうだ。「ちょっとキョン!何よそのやる気の無い顔は!シャキッとしなさい!」「シャキッとしろと言われても得体の知れない相手に向かっていけるほど俺は勇者じゃないんだよ。」「想像してみなさいよ!こんな無謀な挑戦をしてきたアホがあたしの罰ゲームを受けて泣いている姿を!・・・・・どう?ワクワクしてきたでしょ?」いや、むしろ相手が気の毒でならないな。俺たちには長門がいるからどんな勝負を挑んでこようとまともな勝負なら勝敗は見えてる。そう思い長門の顔を見ると長門は天井を見ていた。 長門が見ていた天井には大きなスピーカーが設置されていた。すると、「よく来てくれたねSOS団の諸君。今回君たちに来てもらったのは他でもない。君たちに僕と勝負してもらおうと思ってね。」ハルヒはあたりをキョロキョロしながら、「どこにいんのよあんた!コソコソ隠れてないで出てきなさい!」既に戦闘態勢モードだ。「まぁ、そう慌てないでくれよ。今からルールを説明しよう。」さっきからスピーカーから聞こえてくる声がどこかで聞いたような声なのは気のせいだろうか。「ルール?何のルールよ!」ハルヒはスピーカーを睨みつけている。「このビルは5階建てだ。最上階には私がいる。私と勝負したければ最上階に来るがいい!ただし各フロアには私の部下が配置されている。君たちはフロアごとに配置された私の部下と1対1で勝負をしてもらう。」 スピーカーからの声は続ける。「勝負に勝てば私の部下から上の部屋へ上がる鍵が手に入る。そうして最上階の私を倒せば君たちの勝ち。一度でも負ければ君たちの負けだ。」ハルヒはニヤリとすると、「おもしろそうじゃない!受けてたつわよその勝負!」「ただし一度勝負を受けた人間は他のフロアの勝負を受けることはできない。よく考えて人選したまえ。」「上等よ!」「そう言うだろうと思ってたよ。ただし君たちが負けたらSOS団は解散してもらう。君たちが私たちに勝てば君たちの言うことを何でも聞こう。」「言ったわね?じゃああたしたちが勝ったらあんたを一生奴隷にしてやるわ!覚悟しなさい!」「私たちに勝てればの話だがね。では私は最上階で君たちを待っている。勝負を受けるなら君たちの前の扉に進んでくれたまえ。では健闘を祈るよ。」スピーカーはそこで途絶えた。「おいハルヒ!安易に勝負を受けるなよ。敵の思うつぼじゃねえかよ!」ハルヒはフフンと笑って、「大丈夫よ!あたしたちがあんなやつに負けるわけないじゃない!SOS団は宇宙最強よ!」確かに長門は最強の部類に入るかもしれない。ハルヒや古泉も問題ないだろう。だが心配なのは朝比奈さんだ。この人ほど勝負という言葉が似合わない人はいないだろう。朝比奈さんは、「わ、私勝負とか無理ですぅ~!できませんよぉ~!」とモジモジしている。ハルヒは朝比奈さんに抱きつくと、「みくるちゃんもSOS団の一員なんだからもっと自信を持ちなさい!」「そ、そんなぁ~!」 古泉が俺の前に来ると、「ここまで来たからにはもう引き返せません。涼宮さんは本気ですからね。朝比奈さんには頑張ってもらうしかありませんね。」「もし負けちまったらどうなるんだ?ハルヒが暴走しない保証はどこにもないぞ!」「その時のことはその時考えましょう。今は対策を練るほうが先です。」「ちょっとキョン!古泉君!なにコソコソ言ってんの!まさか怖じ気づいたんじゃないでしょうね?」ハルヒは俺の襟を掴むと俺を睨みつける。なぜ古泉にはしないんだ?「怖じ気づいたわけじゃねえよ!対策を練ってたんだ!お前が勝手に無謀な挑戦受けやがるからな!」「まぁいいわ!ほらさっさと行くわよ!」ハルヒは俺の襟を掴んだまま扉の方へ引っ張っていった。「わ、わかったよ!だから離せ!」「ふん!」ハルヒは手を離すと先に扉に入っていった。「仕方ありません。僕たちも行きましょう。」俺たちはハルヒに続いて扉に入っていった。そう、これが壮絶?なゲームの幕開けだった。
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