涼宮ハルヒの記憶
「あんた・・・誰?」 俺に向かってそう言ったのは涼宮ハルヒだ。あんた?誰?ふざけてるのか?嘘をつくならもっとわかりやすい嘘をついてくれよ! だがハルヒのこの言葉は嘘でも冗談でもなかった。この状況を説明するには昨日の夕刻まで遡らなければならない。 その日も俺はいつものように部室で古泉とチェスで遊んでいた。朝比奈さんはメイド服姿で部屋の掃除をし、長門はいつものように椅子に座って膝の上で分厚いハードカバーを広げている。ハルヒは団長机のパソコンとにらめっこしている。いつものSOS団の日常だった。「チェックメイト。俺の勝ちだな古泉!」俺はいつものように勝利する。「また負けてしまいましたか。・・・相変わらずお強いですね。」微笑みながらこっちをみる古泉。俺が強い?言っておくが俺は特別強くなんかないぞ!おまえが弱すぎるんだよ古泉!まぁこの微笑野郎が本気でやっているかどうかは疑わしいもんだが。そうだったら腹がたつな!「今日はここらでやめとくか。」「そうですね。続きはまた明日とゆうことで。」ニコニコしながらチェスを片付け始める古泉。すると長門がハードカバーを閉じる。同時に下校の予鈴が鳴った。ハルヒが立ち上がって鞄を肩にかける。「さぁ、あたしたちも帰りましょ!」ハルヒの号令に俺たちは帰宅の準備を始める。 「たまにはみんなで一緒に帰りましょ!」ニコニコしながら腕を組んでいるハルヒ。「そうだな、たまにはいいかもしれないな。」今思えばこのときが運命の分かれ道だったのかもしれない。 帰りの支度を終えた俺たち5人はいつもの坂道を下り始めた。先頭に俺、隣にハルヒ、俺の後ろに朝比奈さんと古泉がいて最後尾に長門がいる。「ねぇ、キョン。あんた土曜日ヒマ?」ハルヒが歩きながらこちらを向く。土曜日か…ヒマと言えばヒマなんだが俺には睡眠という名の立派な業務がある。「まぁどうせヒマでしょ?あたし叔父さんから映画のチケット2枚もらったのよ!特別にあんたを招待してあげるわ!」正直俺は映画館のあのかったるい感じが嫌なのだがハルヒにしちゃまともな誘いだ。特に断る理由もないだろう。「映画ねぇ。別にいくのはいいんだがどんな映画を見に行くんだ?」こいつのことだからSF物かもしくはホラーか?まぁそれなりに楽しめる内容だといいんだが。「あ、あたしもまだどんな映画だか知らないの。」「チケット貰ったならタイトルくらいわかるだろ?」そう返すと何故かハルヒは顔を赤くする。「べ、別にいいじゃない!どんな映画でも!」嫌な予感がするな。こいつがタイトルを言えない映画ってなんだ?まさか恋愛ラブストーリーだったりしてな。「と、とにかく土曜日空けときなさいよ!」まぁいいか。ハルヒがどんな顔して恋愛ものを観るか楽しみでもある。 そんな会話を俺とハルヒがしていると聞いていた古泉が微笑声をもらしながら近づいてきた。「お二人方、週末は映画館でデートですか。お熱いですねぇ。」うるさい古泉。おまえはいつも一言多いんだよ。「デ、デートじゃないわよ!キョンはただのオマケなのよ!勘違いしないで頂戴古泉君!」そこまでむきになって否定しなくてもいいと思うが…「そうゆうことにしておきましょう。」ハンサム野郎は再び微笑して頷いた。 ここまでは普段どおり何ら変わりはなかったが事件はこの後起きる。 坂道を下ると大きな交差点にぶつかった。信号は青だ。俺はハルヒの誘ってきた映画のことを考えながら渡り始めた。このとき俺がよくまわりを見て渡っておけばあんなことにはならなかったかもしれない。 突然、大きなブレーキ音とともに俺の横に一台のバイクが突っ込んできた。「危ないキョン!」ハルヒは俺に飛びついて俺を転ばせた。俺とハルヒはそのまま転がる。危機一発。俺は寸前のところでハルヒに助けられたようだ。「・・・っ・・・なんて乱暴な運転しやがる・・・」俺は体を起こしながら辺りを見る。「大丈夫ですか!?」古泉たちが駆け寄ってきた。「・・・なんとかな。ハルヒ助かったぜ!」俺はそう言いながら隣に倒れこむハルヒを見た。ハルヒは道路に倒れこんだまま目を瞑っている。「おい!ハルヒ?」ハルヒは応答しない。その場にいた全員が言葉を失った。ハルヒはぐったりして目を瞑ったままだ。「お、おいハルヒ!しっかりしろ!」ハルヒの体を抱き寄せ問いかけるが返事はない。「動かしてはいけません!」そう言って古泉は電話を取り出し救急車を呼ぶ。 なんでこんなことに…「頭を強く打ってます!もう少しで救急車が到着します!あまり動かさないで下さい。」真剣な顔で古泉は俺を見つめる。すると長門が俺とハルヒの前に来るとハルヒの頭に手をかざした。なにやら呪文を唱えているようだ。そして俺を見ると一言だけ発した。「心配いらない。傷は塞いだ。」長門がそう言ってくれたおかげで俺は平静を取り戻した。長門が大丈夫だと言うんだ。すぐにハルヒは目を覚ますだろう。俺が安心すると大きなサイレンと共に救急車が到着した。救急隊員がハルヒを担架に乗せると救急車の中に運んでいった。「僕たちも付き添いましょう!」古泉の言葉で俺たちもハルヒに付き添い病院に向かう。救急車の中では救急隊員がハルヒの口に人工呼吸器をあてている。俺は先ほどの長門の言葉を頭の中で何度も自分に言い聞かせながら平静を保っていた。 病院に着くとハルヒは緊急治療室に運ばれていった。俺たちはロビーで待つことにする。「ぅ・・・ぅぇ・・・涼宮さぁん・・」朝比奈さんはさっきからずっと泣いており古泉がそれをなだめている。「長門さんがあの場で治療してくれたおかげで涼宮さんはほとんど無傷です。心配いりませんよ。」そう言ってる古泉だがいつもの笑顔はない。「とりあえず今は待ちましょう。僕たちにできることはそれしかありません。」 どれくらいの時がたっただろうか。気がつくと辺りはすっかり暗くなってる。すると治療室から医者がでてきた。真っ先に古泉が医者に駆け寄る。「彼女のお友達の方々ですか?」「えぇ、先生。彼女の容態はいかほどでしょうか?」古泉はいつになく真剣な顔だ。「心配いりませんよ。頭を強く打っていますが奇跡的に無傷です!すぐに目を覚ましますよ!」「そうですか。ありがとうございました。」古泉は医者に会釈すると俺たちにやっと笑顔を見せた。「よかったです。長門さんのおかげですね。」ようやく朝比奈さんも泣き止んだ。 俺は長門に顔を向けると長門は相変わらずの無表情だった。「長門。ありがとう。」長門は淡々と答えた。「涼宮ハルヒは大事な観察対象。万が一のことがあっては困る。」ありがとな長門。お前はそう言っていても俺にはお前に対する感謝の気持ちでいっぱいだ。「皆さんこれからどうします?僕は今から涼宮さんのご両親に連絡してきますが。」どうする?決まってるだろ?ハルヒが目を覚ますまでそばにいるさ!いつだったか俺が入院したときもあいつはずっとそばにいてくれたんだからな。「俺はしばらく病院に残るよ。」「わかりました。では僕は電話してきます。」あとはハルヒが目を覚ますのを待つだけだ。俺は朝比奈さんと長門を連れてハルヒが運ばれた病室へ入った。人工呼吸器を口につけたまま眠っているハルヒ。俺はそんなハルヒに心の中で声をかけた。おいハルヒ!さっさと起きてくれよ。お前がいないとSOS団はどうなるんだよ。それに映画に一緒に行く約束もしただろ!お前が寝たままじゃチケットが無駄になるだろ! 第一俺を庇ってくれたことの礼も言いたいんだよ。だからさっさと起きろ! 言いたいことはまだあるんだ。 しばらくすると古泉が戻ってきた。「涼宮さんのご両親がもうすぐ到着されます。おそらく僕たちは邪魔でしょう。今日のところは帰りましょうか。」ハルヒが目覚めるまでそばにいたかったがハルヒの両親に迷惑をかけるわけにもいかない。「仕方ないな。今日は帰ろう。」俺たちは病院を後にして解散した。 翌日になると俺はいつものように学校に向かった。坂道を駆け足で登り校舎に入る。そしてクラスに入る。だがハルヒの席にハルヒはいない。やがてHRが始まり担任の岡部が切り出した。「えぇ、涼宮は昨日交通事故に遭って頭を強く打ったそうだ。怪我はないらしいが今日は大事をとってお休みだ。」クラスが騒然とした。だがすぐにいつもの空気に戻る。 その後俺は授業を受けたがやはりハルヒが後ろにいないとなんだか物足りないな。「ねぇキョン!いいこと思いついたわ!」そう言ってつついてくるハルヒが途端に恋しくなったな。結局俺は授業など上の空って感じであっという間に1日が過ぎた。廊下にでると古泉と朝比奈さんと長門が俺を待っていた。「先ほど病院から連絡がありました。涼宮さんが目を覚まされたようですよ。」「本当か古泉?」「えぇ。僕たちもすぐに病院に向かいましょう。」やっと目を覚ましてくれたかハルヒ…お前のいない学校はつまらなかったよ。そんなことを思いながら俺たちは病院に向かった。 ハルヒの病室に着くと俺は昨日のことをどうハルヒに謝ろうかと考えながら扉をノックした。「どーぞ!」ハルヒの元気な声を確認して俺は安心した。ゆっくりと病室の扉を開けるとそこにはベッドの上でしかめっ面をして腕を組むハルヒがいた。俺たちは病室に入り扉を閉めた。「ハルヒ。もう大丈夫なのか?」ハルヒはしかめっ面のままこちらを凝視していた。「あんた・・・誰?」俺は耳を疑った。あんた誰?何言ってんだよこいつは。ちっとも笑えないぞ!「は?」「は?じゃないわよ!勝手に人の病室に入ってこないでよ!」「せっかく見舞いに来てやったんだ。なんの冗談だよ?」ハルヒは表情を変えない。「見舞い?なんであたしの知らない人間が見舞いに来るのよ!」どうゆうことなんだ?俺を知らない?すると古泉がいつもの笑顔で話かける。「お元気そうで何よりです。涼宮さん。」ハルヒは不思議そうな顔で古泉を見る。「なんであんたもあたしの名前知ってんの?どっかで会ったかしら?ああ、そういえばそれ北高の制服ね。」全くもってわけがわからん。誰か説明してくれ! 突然古泉が俺の耳元で囁く。「一旦出ましょう。わけは外で説明します。」俺たちは古泉の言うとおり一度出ることにした。 ロビーに移動した俺たちに古泉が語り始める。「先ほどの涼宮さんの奇妙な言動ですが、記憶喪失と考えると全てつじつまが合います。」「記憶喪失だって?ハルヒはホントに俺たちのこと忘れちまったのか?」「えぇ、それも僕たちSOS団のことだけをね。」「俺たちだけ?なんでそんなことがわかる!」「涼宮さんはご両親とは普通に話してるようですし涼宮さんは北高のことを知っていました。なので消えてる可能性があるとしたら僕たちSOS団に関する記憶でしょう。」 ハルヒの中から俺たちだけの記憶が消えた?なんでそんなややこしいことになっちまったんだ。「おそらく僕たちとの思い出が涼宮さんにとって一番大事なものだったからでしょう。それが優先的に消されてしまったのです。」「元には戻らないのか?」「わかりません。突然思い出すこともあるようですが・・・」とりあえずもう一度涼宮さんの病室に行きましょう! 俺たちは再びハルヒの病室にやってきた。古泉がノックをする。「どーぞ!」こうなりゃやけだ!意地でも俺たちのことを思い出させてやる!扉を開けるとしかめっ面のハルヒ。「またあんたたち?あたしに何の用なのよ!」俺は手当たり次第ハルヒに質問をぶつけてみることにした。「なぁ、谷口って知ってるか?」何故か最初に谷口が浮かんだ。「谷口?あのバカがどうしたのよ!」なるほど谷口は覚えてるのか。「じゃあ国木田って知ってるか?」「国木田?ああ谷口といつもつるんでるやつね?」国木田は俺と同じ中学だ。ハルヒは中学の国木田を知らないはずだ。つまりハルヒには北高の記憶はあるということだ!俺はハルヒを追い詰める。「じゃあお前の席の前に座ってるやつは誰だ?」ハルヒはその場で考えこみ始めた。「・・・あたしの・・前?・・思い出せないわ。なんで?」なるほど…やはり俺たちだけの記憶がないらしい。「・・・なんで思い出せないの?・・・っていうかあんたたちは誰なのよ!」「お前と同じ学校のもんさ!俺はキョン。こっちが古泉で、こっちが朝比奈さん。こっちが長門だ。」なぁ思い出せよハルヒ!お前だけが一方的に俺たちを忘れるなんて許さないぜ! 「あまり考えさせるのもよくありません。また出直すことにしましょう。」ここは古泉言うとおりにしておこう。「じゃあなハルヒ!明日学校でな!」「ち、ちょっと待ちなさいよ!まだ話は終わってないわ!」ハルヒの言葉を無視して俺たちは強引に病室をでた。 全く勝手なやつだ。俺たちだけのことを一方的に忘れやがって。「まぁいいではありませんか。涼宮さんがご無事だったのですから。焦る必要はありません。」「だがなぁ」「涼宮さんは明日から登校してきます。きっと明日思い出してくれますよ。」今日の古泉の言葉には妙に説得力がある。「そうだな。今日は帰るか。」そうして俺たちは解散することにした。 その日の夜、俺は明日ハルヒの記憶を取り戻すための作戦を考えていた。ハルヒの記憶を戻す方法はある。それは俺はジョン・スミスだと言うだけでいいんだ。だがそれを使うと今までのことや俺たちのことを全てハルヒに話さなければならない。下手するとハルヒの力が暴走する。だからこの方法だけは避けたい。 そんなことを考えながら翌日になった。 今日はきっとハルヒが来る。俺は急いで学校に向かった。駆け足で教室に入るとハルヒの姿があった。椅子に座り腕を組んでまわりをじっと睨んでいる。まるで一年前ハルヒと出会ったときのようだ。「よう!体はもう大丈夫なのか?」俺は自分の席に座りハルヒに話しかけた。「あんた昨日の!なんであんたがここにいんのよ?」「ここは俺の席だ。」ハルヒは戸惑った顔をしている。今までいろんなハルヒの顔を見てきたがこんな顔は初めてみたさ。正直可愛かったね。「・・・っ・・思い出せないわ。あたしが忘れてるのはあんたなの?」頭を抱え込んでるハルヒ。「いずれ思い出すさ。」俺はそう言って前を向いた。 それからのハルヒはずっと空を見て考えこんでいた。思い出してくれよハルヒ。俺たちのことを。 それから時間は流れ昼休み。俺はハルヒを部室に連れていくことにした。「ハルヒちょっと来てくれ!」ハルヒの手首を掴み強引に部室まで引っ張っていく。「ち、ちょっとなによ!」ハルヒの言葉に俺は耳を貸す余裕はない。 「・・・文芸部?なんでここに連れて来たのよ!」文芸部。つまりSOS団の部室だ。「今日からここがあたしたちの部室よ!」一年前ハルヒがこの部屋でそう言った日からSOS団は始まった。扉を開けるとそこには朝比奈さん、長門、古泉がいた。ハルヒを中に入れ俺は問いかけた。「どうだ?この部屋覚えてないか?」ハルヒは少し考えこむと「・・・わからないわ。・・でも・・・なんか懐かしい感じがするの・・」よかった。連れてきた甲斐があったみたいだ。毎日通った部室だ、ハルヒの体が覚えているんだろう。「涼宮さんはこの部屋で団長をやっていたんですよ。」古泉と朝比奈さんが壁に貼り付けられた写真を指差した。夏合宿のときに孤島で撮った写真だ。「これ・・・あたし?なんで?・・・思い出せない。」まるでおもちゃを無くした子供のような顔で写真を見つめるハルヒ。「俺たちはここでお前のつくったSOS団として活動してたんだ。その写真が証拠だよ。」ハルヒはやがて無言になる。しばらくの沈黙が流れやがてハルヒが切り出す。「SOS団だとか・・・団長だとか・・・わけわかんない・・」今にも泣き出しそうな顔でそう言うと走って部室を出ていった。 「・・・ハルヒ」出ていった瞬間ハルヒが遠くに離れてくような感じがした。「仕方ありません。いきなり現実として受け入れるのはいくら涼宮さんでも難しいでしょう。」古泉も珍しく寂しい顔をしている。すると俺の服を掴むやつがいた。長門だ!「長門?」長門は無表情のままこちらを向く。「涼宮ハルヒの精神状態が不安定になったことでこの部屋の空間を構成している力のバランスが崩れようとしている。」よくわからないがそれがまずいことだってことは俺にもわかる。古泉が神妙な面もちで言う。「とにかく放課後対策を練るとしましょう。」 結局その日ハルヒは教室に戻って来なかった。 放課後俺は再び部室に向かった。部室にはすでに3人の姿がある。古泉が真剣な顔でこちらを見ている。「涼宮さんは?」「ハルヒは結局帰って来なかったよ。」古泉と朝比奈さんは何か深刻な顔をしている。「困ったことになりました。先ほど機関から連絡があったのですが世界中で大規模な閉鎖空間が発生してるようです。」「なんだって?」「おそらく涼宮さんの精神状態が不安定になったことで発生したのでしょう!このままではこちらの世界とあちらの世界が入れ替わってしまいます。そうなる前に涼宮さんを見つけなくてはなりません。」 くそっ!こんなことになるならハルヒをここに連れて来るんじゃなかった!「悔しんでもなにも変わりません。とりあえず今は一刻も早く涼宮さんを探し出さないといけません。」「ああ。わかってる」俺は長門を見た。「長門。お前の力でハルヒを探せないか?」長門は答える。「今はできない。現在私の能力は何らかの影響で弱まっている。」何らかの影響?それもハルヒの仕業なのか?「・・・おそらく」「ここ話していても何も解決しません!今は涼宮さんを見つけだすことが先決です!」古泉の号令で俺たちは手分けしてハルヒを探すことにした。 くっ!ハルヒ。どこにいるんだ!ハルヒの行きそうなところに俺は走った。東中か?それともいつもの喫茶店か?とりあえず行ってみるしかない。俺はいつもの喫茶店に走った。ハルヒはいないようだ。じゃあどこだ?東中か?何も考えずに俺は東中に向かう。走りながらハルヒの携帯に電話をかけるが繋がらない。俺は東中に着くと無我夢中で探しまわった。ここにもいないのか?じゃあどこにいるんだハルヒ!気がつくと辺りはすっかり暗くなっていた。こんなことになっちまったのは全部俺の責任だ!俺が無理やりハルヒに記憶の断片を突きつけたり、いや、その前にあのとき事故に遭わないければハルヒはこんなことにならなかった。 自分自身に腹がたつ!頼むハルヒお前に会いたい!いつの間にか俺は北高に戻ってきていた。真っ暗な校庭の真ん中にポツリと誰か立っている!ハルヒなのか?俺は校庭の真ん中に駆け寄った。 「ハルヒ!」校庭にいたのはハルヒだった。ハルヒは悲しそうな顔でこちらを見た。「あんた・・・一体なんなのよ・・」いつになく力無い声だ。「・・・わかってるのよあたしだって。何か大切なことを忘れてるのは・・・」「・・・ハルヒ」「・・でも・・どうしても思い出せないの!・・・あんたのことだって絶対知ってるはずなのに。」ハルヒの悲しい顔を見ると俺は胸が苦しくなる。ハルヒは俺に近づき続ける。「ねぇ教えて!あんたは誰なの?あんたは私のなにを知ってるの?・・・教えてよ・・」俺はハルヒの両肩に手を乗せて言う。「・・・いいんだハルヒ。無理に思い出さなくて・・・お前はお前だ。他の誰でもない。涼宮ハルヒだ!」ハルヒは目から涙を流しながら俺を見つめている。「・・・・・なんであんたを見るとドキドキするの?・・・なんで・・」俺はハルヒを抱きしめた! 俺の胸の中で泣いてるハルヒ…「なぁハルヒ聞いてくれ。お前が俺のことを思い出せなくても俺はお前が大好きだ!・・・俺だけじゃない!古泉も長門も朝比奈さんもみんなお前が大好きなんだ!」俺は一年前にハルヒと閉鎖空間に閉じ込めらたときのことを思い出していた。今はあの時とは違う。今俺がハルヒにキスをしたところであの時のようにうまく行く確証はない。それどころかそんなことをすれば逆にハルヒの精神状態をよけい不安定にしてしまうかもしれない。 だが気がつくと俺はハルヒの唇に自分の唇を重ねていた。 なぜそんなことをしたかって?決まっている!俺がしたかっただけだ!俺はハルヒと世界を天秤にかけてハルヒを選んだ。もうこのあと世界がどうなろうとかまわなかった。今はただハルヒと唇を重ねていたかった。 1分ほど経っただろうか。俺はハルヒから唇を離しハルヒの顔を見た。ハルヒの頬は赤くなっている。こんなときに不適切な発言かもしれないが言っておく。世界で一番可愛いと思った。 ハルヒの肩から手を離すとハルヒが小声で言った。「・・・・・・・・・・・・・ばか」「すまんハルヒ。つい・・・」ハルヒは赤い顔のまま顔を横に向けた。「・・・ばかキョン。・・罰として土曜日奢りなさいよ。」 ん?今なんて言った?土曜日?まさかハルヒ!「思い出したのか全部!?」ハルヒは再びこちらに向いて「大体あんたがあのときよそ見したから悪いのよ!今度からはちゃんと周りをみてから渡りなさい!」 よかった。いつものハルヒだ。 そのあとのハルヒとの会話はよく覚えていない。そしてその日の夜に古泉から電話があった。古泉の話によると世界中に発生していた閉鎖空間は消えたらしい。つまり一件落着ってわけだ。 翌日からハルヒはいつものハルヒに戻っていた。部室ではハルヒが朝比奈さんをいじくり、長門は相変わらず分厚いハードカバーを広げ、俺と古泉はチェスで対戦。そこにはいつもと変わらない日常があった。 ◆エピローグ◆土曜日の話だ。俺はハルヒと映画を見に行った。鑑賞した映画は男と女が繰り広げる非日常のラブストーリーだった。俺の隣のハルヒは終始真剣にスクリーンを見つめていて、映画のワンシーンであるキスシーンが流れると頬を赤く染めていた。正直俺は映画よりハルヒの顔見てるほうが面白かった。 映画を見終わり俺たちは駅に向かって歩いていた。「なぁハルヒ。あんなチャラけた映画の何が面白いんだ?」「あんたにはわかんなくていーの!ばかなんだから!」俺はハルヒをからかってやった。「お前キスシーンのとき顔赤くなってたぞ。」ハルヒはその場で赤くなり俺の胸ぐらを掴む。「な、なんであたしの顔見てたのよ!?いやらしい!」「別に。お前も純情なんだなハルヒちゃん!」「う、うるさいばかキョン!」ハルヒは尚も俺の胸ぐらを掴みながら小声で言う。「・・だいたい、あんたからだけなんてずるいじゃない・・」そのまま俺を引き寄せ唇を重ねてきた。 短いキスが終わりハルヒは赤く染まった頬のまま言った。「これでおあいこだからねキョン!」
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