遊園地と花火
※恋愛相談の続きの話となります
この前の騒動から1週間が過ぎました。先週末以降は、長門さんと登校することも無くなりましたし、弁当を一緒に食べることもなくなりました。しかし、僕は以前よりも長門さんに話しかけ、長門さんもそれに応じてくれました。先週のような関係とまではいかないものの、以前より良好な関係は築けているのではないでしょうか。 さて、土曜日の不思議探索も問題無く終わり、明日は日曜日です。普段なら何も無い休日ですが、明日は違います。長門さんと、遊園地に行くという約束をしているのです。……正直、かなり楽しみにしています。今現在布団の中にいるのですが……眠れません。いつから僕は遠足を待つ小学生になったのでしょうか。明日に支障が出ないよう、早く眠りにつかなければ…… で、結局2~3時間しか眠ることは出来ませんでした。まあ閉鎖空間絡みでこれぐらいの睡眠時間は慣れているからよいのですが。待ち合わせ場所も待ち合わせ時間も先週とまったく同じです。ですが例によって僕は、また8時前にその場所に到着してしまったのです。しかし…… 「な、長門さん!」 先週と違ったのは、既に長門さんがそこに居たという点でした。この前と同じように、白のワンピースを着用しています。……かなり似合っています。 「おはようございます。お早いですね。」「あなたも。」「そのワンピース、お似合いですよ。」「……ありがとう。」「では、参りましょうか。」 こうして僕達の遊園地デートはスタートしたわけです。電車に乗ること1時間、海の近くにある巨大なテーマパークに到着しました。某夢と魔法の王国というよりは、後楽園遊園地に近いような、どちらかと言うとジェットコースターなどのアトラクションに力を入れている遊園地です。 「長門さん、何に乗りたいですか?」「あれ。」 長門さんが指差したのはジェットコースターでした。歌い文句は「フィギュアスケートもびっくりの3回転ひねりループ!!」……なんですかこれは。比べる対象がメチャクチャです。ああ確かにありますね。3回転にひねりが加えられたループが。 「いきなり物凄いのに目をつけましたね。」「何事も挑戦が大事。」「チャレンジャーですね……では行きましょうか……ってうわっ!」 その列を見て驚きました。物凄い長蛇の列!えっと待ち時間は……150分!?2時間半じゃないですか!某ネズミ王国でもこんなの無いですよ! 「大丈夫。」 そうですか……?まあ長門さんと一緒なら2時間半ぐらい……と心の中でデレデレしていたら、とんでもないことを言い出しました。 「情報操作は得意。」 いいのかな~……いいのかな~…… 「どうしたの?」「いや、なんか待ってる方々に申し訳ないような……」「大丈夫。他の人々は私達が乱入したことに気付いてはいない。」「いやそうですけど、良心的な部分が……」 今の現在地を説明します。ジェットコースターに乗る寸前。そう、長門さんの宇宙人的パワーで、一気にここまで瞬間移動してしまったわけです。ああ、並んでいる方々、申し訳ありません。と心の中で他のお客さんに謝っているうちに、順番がやってきました。ジェットコースターに乗り込みます。ではここからは、音声だけでお楽しみください。 「へあ~!!」「ひぇ~~!!」「あひぇ~!!!」「へぁぁ~!!!」「ひゃああああ~!!」 ……はい、以上です。言うまでも無く、全て僕の悲鳴です。まるで朝比奈さんのような悲鳴をあげてしまいました。いやそれほど凄かったんですって!特に3回転ひねりループは心臓止まるかと思いました!……はい、どうせ僕はヘタレですよ。 対して長門さんは1回も声を発することはありませんでした。もしかして退屈でしたかね……?しかしこれで退屈ならどのアトラクションも退屈になってしまうのでは…… 「長門さん、楽しかったですか?」「とても。スリリング。」 良かった、退屈してたらどうしようかと思いました。しかしその後で長門さんはとんでもないことを言い出したのです。 「もう1回。」 結局もう1回どころか10回も乗ってしまいました。正直もうヘトヘトです。4回目あたりで僕だけ休憩させてほしいと提案したのですが却下されました。 「二人で乗らねば意味がない。」 ……とても嬉しい言葉です。そんなことを言われたら付き合うしかないじゃないですか。おかげで大分体力を消耗してしまいましたが。時間も正午になってしまったので、今僕等は昼食を取っています。 「長門さん、午後は別の乗り物にも行ってみませんか? せっかく来たのですから、いろいろなものを体験しないと。」「それには賛成。」「例えば次は……あれなどどうでしょうか。」 指さしたのはオバケ屋敷。絶叫系続きでしたのでこういうのもいいでしょう。……おや?長門さんの表情がこわばったような…… 「あれはいい。」「いい、とは?」「行かなくてもいい、という意味。」 もしや長門さん……僕は午前中やられまくった仕返しに、ニヤリと笑っていいました。 「何事も挑戦が大事、でしょう?」 さてオバケ屋敷の前にやってきました。ここのキャッチフレーズは『オバケも裸足で逃げ出す恐怖!!』……意味がわかりません。というか矛盾してますよね?ここはジェットコースターほど並んでいなかったので、長門さんパワーに頼らず普通に並びました。長門さんは無言です。……いや無言なのはいつものことなのですが、何か緊張のような雰囲気を感じます。 「長門さん、もしかして緊張……」「していない。」「汗をかいているような……」「かいていない。」 頑なに認めようとしませんが、明らかに汗をかいています。やはり長門さん、オバケは苦手なようです。もしかしたら恐怖で僕を頼ってきて僕に抱き着いてくる……とかあったりして…… なんて甘い想像をしていたのが間違いでした。以下、先程と同じように中の様子を音声だけでお伝えします 「うらめしや~……」「……!!情報連結解除かい……」「ちょ!何してるんですか長門さん!」「離して、幽霊は消さなくてはいけない。」「アレは幽霊じゃありません!中の人は人間なんです! 係員さ~ん係員さ~ん!非常口を!非常口をおお!!」 とまあ、こんな感じで長門さんが暴走し始めたため急遽非常口から出させて頂きました。長門さん、暴れすぎです…… 「あなたは勘違いをしている。私は霊魂という存在には否定的 霊魂はこの世に存在していては人間に害を及ぼす危険性が高い。 だから情報連結を解除すべきだと判断した。」「ですがあれは人げ…」「決して怖かったから消そうとしたわけではない。」 物凄い言い訳に聞こえますが、そういうことにしておきましょう。オバケ関係は今後も控えた方が良さそうです…… さてその後も、僕らは多くのアトラクションを巡りました。コーヒーカップ、メリーゴーランド、ゴーカート、などなど……気付いたら夕方になっていました。楽しい時間は過ぎ去るのが早いものです。 「いやあ、いっぱい乗りましたねえ。」「楽しかった。」「それは何よりです。あ、夜の8時から花火をするようですよ。」「見たい。」「では、それまでもう少し他のアトラクションを……」 そう言いかけた時でした。 trrrr… 僕の携帯がなり始めたのです。……イヤな予感がします。 「閉鎖空間、ですか……」 その予感は当たってしまいました。今、ですか…… 「……行くの?」「……すいません。今日はここまでということで……失礼します。」 僕は立ち去ろうとしました。しかし……
「……長門さん。」 長門さんは、僕の服をつかんでいました。 「すいません、こればかりはどうしようもないのです。」「ここで待っている。」「長門さん……?」「戻ってきて。一緒に花火を……」 ……わかりました!必ず戻ってきます!一緒に花火を見ましょう!僕はそう言って、急いで現場に向かいました。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 彼が去ってしまった。ふと先週のことが思い出される。でも大丈夫。今度はちゃんと戻ってきてくれる。だから安心。花火まではまだ時間がある。私は再び先程のジェットコースターに乗った。 ……おかしい。先程のような楽しさが半減してしまっている。古泉一樹がいないから?もう1度乗る気にはなれなかったので、私はベンチに座り本を読むことにした。何故こんな気持ちになるの?彼らと出会うまで、ずっと私は一人だった。それなのに今、私は寂しいという感情を持ってしまっている。寂しいという感情は、私にとってとても辛い。だから私は本の世界に逃避した。 ヒュ~………ドドーン 大きな音がして、ふと顔をあげる。……花火。始まってしまったらしい。古泉一樹は、まだいない。きっと苦戦を強いられているのだろう。 花火は、とても綺麗だった。そしてその花火は、私に1つの結論を与えてくれた。彼のこと、そして古泉一樹のこと。私はこれからどうしたいのか。彼らと今後どのように接していきたいか……それを、この花火が教えてくれた。 「申し訳ありません!遅れました!」 花火が終わって20分程経過した後、古泉一樹が戻ってきた。 「すいません長門さん、出来るだけ早く終わらせようとしたのですが……」「構わない。」「しかし……」「あなたがここに戻ってきてくれた。それだけで充分。」 そう。ここに戻って来てくれたことが、私にはとても嬉しかった。 「……ありがとうございます。それでですね、代わりと言っては難ですが……」 古泉一樹がバッグから、花火セットを取り出した。 「ご一緒に、いかがですか?」 こうして私と古泉一樹は二人だけの花火大会をすることになった。流石に園内でやるのはマズいという彼の意見で、私達は遊園地を出て近くの河原にやってきた。 「ここならいいでしょう。近くに水もありますしね。バケツに水をくんで……っと。では始めましょう。」 花火に火をつける。すると棒の先端から、美しい炎が噴出した。 「どうですか?長門さん。」「きれい。」「それは良かった。打ち上げ花火よりはスケールが小さいかもしれませんが、こういうのもいいでしょう。」「打ち上げ花火は……」 私は、ここで伝えることを決心した。 「打ち上げ花火は、とても綺麗だった。でもその美しさは、とても遠くにある。 私が手を伸ばしても絶対に届かない。私は眺めることしか出来ない。」 先程打ち上げ花火を見ながら辿り着いた、私の気持ちを。 「私にとっての『彼』が、そう。」 古泉一樹はハッとして私の顔を見た。私は続ける。 「だけどこの花火は違う。私が手にとって、私のすぐ傍で綺麗に輝いて、楽しませてくれる。 私は……」 これが私の出した、答え。 「あなたに傍に居てほしい。この花火のように。」 彼の気持ちに答える覚悟が、出来た。 「……ありがとうございます。」 彼は神妙に頷いた。私の気持ちが、伝わったようだ。
「僕は彼ほど大きく輝けないかもしれません。 でも誰よりもあなたの近くで輝いて、あなたを楽しませることを、約束したいと思います。」 そして彼はにっこりと微笑んだ。 「よろしくお願いします、長門さん。」「……こちらこそ。」 そして私達は2回目の口付けをした。あの時の試験的な意味での行為ではなく、お互いを心から求め合う口付け。私と古泉一樹はこの日、再び結ばれた。以前のエラー解消のための関係では無く、本当の意味での恋人として。 終わり
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。