涼宮ハルヒの自覚 「起」
ハルヒによってSOS団に引きずりこまれてから一年が経過しようとしていた。今ではもうすっかり未来人、宇宙人、超能力者、そして神様と一緒に過ごすことに慣れてしまった。周りからは既に俺も変人軍団の仲間として見られるようになっていた。まあそれでもいいと思っていたし、この非日常な存在に囲まれた日常を享受し続けるのもいいと思っていた。
だが、変化っつーものは突然やってくるもんなんだな。その変化は、例によっていつものように、ハルヒから始まった。
朝、俺はダルいハイキングコースを昇りきり、学校へと辿り着いた。あんだけ長い坂を歩くんだから、校門で飲み物の支給ぐらいあってしかるべきだと思うんだよな。まあそれはいいとして、いつものように教室に入り、いつものようにハルヒに声をかける。
「よう。」「……おはよ。」
だがハルヒの返答は、いつもの30%程度の元気しか無かった。なんというか、SOS団を作る前の雰囲気に似ている。
「どうした、元気無いように見えるが。」「……別に。」
全然「別に。」じゃないな。だがこれは触らぬ神に祟りなしな雰囲気だ。こちらから下手にツッコむのはやめた方がいいな。くわばらくわばら。
「ねえ。」
と、触れないぞと俺が決心したと同時に、ハルヒが声をかけてくる。結局、祟りは俺に来るんだよなあ。
「アンタ、確か2時間目体育でマラソンよね?」「ああそうだ。今から憂鬱で仕方が無い。雨でも降ってくんないかねえ。」
ハルヒはそれを聞くと、不敵な笑みを浮かべた。
「降らせてあげようか。」
え?今の言葉に俺はギョッとした。何故ならコイツは、マジでそうすることが可能だからだ。最も、コイツ自身は自分にそんな能力が備わってることは知らない。知らないはずだが……
「何変な顔してるのよ、キョン。」
え?あ、すまん。ちょっとボーっとしていたようだ。降らせてくれるのか?出来るなら頼みたいものだ。
「バーカ、冗談よ。あたしにそんなこと出来るわけないでしょ?」
そう言ったハルヒはいつもの笑顔だった。俺の考えすぎか。そうだよな、コイツはただいつものノリで冗談を言っただけさ。
だが、2時間目。
「おい……マジかよ。」
つい20分前には雲1つ無い快晴だったはずだぞ?なのに何故、今外は大雨になっているんだ。いくら急な天気変動と言っても限度を超えている。こんなことが出来るのは一人しかいない。
「すごい雨ねえ、キョン。」
ハルヒは笑っていた。まるでその光景が当然であるかのように。
「ハルヒ、まさかお前が……」「はあ?何言ってるのよ。あ、まさかさっき言ったのを本気にしたの?」「だが……」「バカ言わないでよ。あたしにそんなこと出来るわけないでしょ?」
ハルヒは静かに笑った。だがその笑みはいつもの無邪気なものではなかった。そう、全てを把握した上で、それを楽しんでいる笑み。
「ただの偶然よ。ただの、ね。」
俺は理解した。どんないきさつがあったかは分からない。だがコイツは……涼宮ハルヒは、知ってしまったんだ。自分に関する、全てを。
続く
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