仲直り
「佐々木さん、ちょっと相談に乗ってほしいのです……」
橘さんから相談を受けた。また神だとかそういう話かい?
「違うんです!この前会った涼宮さんの傍に居た彼のことなんですが、彼の好きなものってわかります?」「え?キョンの好きなもの?」「はい、私彼に嫌われてるらしくって……なんとか彼との関係を修復したいんです。」「う~んそうだね……彼はあまり物欲が無いからなあ…… ああ、そう言えば彼は芥川龍之介のファンだと言っていたな、彼も。」「それです!ありがとうございます!」
彼女は喜びの表情を浮かべて走り去った。いろいろ変なことを言うけれど、こうして見ると普通の女の子だなあ……
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今日は土曜日。不思議探索の日だ。最近はこの活動も悪くは無いと思い始めてる自分がいる。なんだかんだで楽しいしな。
だが、この組み合わせの場合話は別だ。
「おや、そんなに嫌ですか?」「当たり前だ。なんでよりにもよってお前と二人きりなんだ。」「僕としては嬉しいですけどね。1番気がね無く話せるのはあなたですし。」「気持ち悪いことを言うな。顔が近い。」
古泉との気乗りしないトークを繰り広げていると、前方に一人の少女が現れた。あのツインテールは……!
「おや、橘さんでは無いですか。」「お久しぶりです、古泉さん。それに……キョンさん。」「お前にあだ名で呼ばれる筋合いは無い。」
俺は冷たく言い放った。当然だ。コイツは朝比奈さんを誘拐した憎き女だ。まあ外見は悪くは無いとは思うが……目下俺の嫌いなヤツランキングではダントツの1位だ。今度はどんな悪巧みをするつもりなんだ?忌々しい。
「い、いえ、今日はただあなたに渡したいものがあって……ど、どうぞ。」
おずおずと差し出されたものは、芥川龍之介の本だ。俺が1番好きな著者だな。
「これを俺に?」「はい。あなたに……」「なんで俺の1番好きな著者を、お前が知っているんだ。」「それは佐々……」「お前の組織で、俺のことを調べ上げたんだろう。ご苦労なこったな。」「ち、違……」「そんでこれを渡して、俺に媚びを売ってお前らの軍団に引き抜こうって作戦か。 悪いが俺はそんな物で釣られる人間じゃないんでね。……こんなものでな!」
俺は橘から貰った本を地面に投げ捨てた。忌々しい。やることがいちいち薄汚いんだよ、お前は。
「あ……あ……」
地面に落ちた本を呆然と見る橘。橘の目に涙がたまっていく。そしてそれは決壊して……
「うわぁぁぁぁん!!」
泣きながら走り去ってしまった。そんなに作戦が失敗したのが悔しいのかねえ。まったくやれやれだ。なあ古泉?と俺はとなりのニヤケ面に……
あれ?ニヤケていない……
「今のは、あんまりだったんじゃないでしょうか?」
その声はいくぶんか怒りの要素が入っているように聞こえる。
「なんだよ、お前だってあいつとは敵対関係だろ。どうせ今の行動だって下心が……」「……見てください。さっきの本に、何か紙が挟まっていますよ。」
古泉が指差したのは地面に落ちた本。そこから確かに、紙が挟まれている。俺は本を手に取りその紙を抜き取った。これは……手紙?
『あの事件はごめんなさい。あなたの仲間を傷つけたこと、深くお詫びいたします。 私があなたに嫌われているのは知っています。許してもらえないかもしれない。 でも、私はあなたと良好な関係になりたいと願っていることだけは
知っていてほしいのです。
これは組織も佐々木さんも涼宮さんも関係ない、私個人の願いです 橘京子 』
これは……
「彼女は純粋に、あなたと仲良くなりたかったと思いますよ?……追いかけた方がよろしいのでは?」「言われなくてもそうするさ!」
俺はかすかに見える橘の後ろ姿に向かって、全力で走り出した。……もちろん、本と手紙も持ってな。
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私は公園のブランコに一人座っていました。派手に泣いたので目が真っ赤です。恥ずかしいなあ……彼の私に対する憎しみは予想以上だったようです。そしてきっと今回の件で溝は更に深まった。もう会ってもくれないかも……
「おい。」
……!!後ろを振り向くと、彼がそこに居ました。……まだ恨み言が言い足りなかったのでしょうか……
ところが彼は私と目が会うと思いっきり頭を下げました。
「すまん!!!」
え……?
「手紙、読んだよ。お前は純粋な気持ちでこの本をくれたんだな…… それなのに俺……最低だったな。 お前の気持ちは分かったし、本も有難く貰う。 そんで……お前も、キョンって呼んで構わないから。」
彼は少し照れながら話しました。……気持ちが伝わったみたいで、嬉しいです。また私の目に涙が浮かんできました。でもこれは、嬉し涙……
「で、でも、悪いがお前の気持ちに答えることは……」
え?
「俺には一応ハルヒっていう彼女がいるわけで…… いやもうお前のことを嫌ってるというワケではないんだが、それとこれとは話が別で……」
もしかして……彼は……彼の勘違いに気付いた時、私はプッと吹き出してしまいました
「な、なんだよ。」「すいません、でも私はあなたと仲直りしたいと思っただけで、 別に付き合ってほしいとかそういうわけではないんですよ。」「へ?」「涼宮さんからあなたを取るなんて、そんな恐れ多いこと出来るわけないじゃないですか。」「は、はは、俺は恥ずかしいな……はははは!」「……あははは!!」
私は彼と二人で大笑いしました。あーおかしい……さっきまでの憂鬱な気分がウソのようです。
二人とも落ちついてきたところで、私は彼に尋ねました。
「ところで、ずっとここに居ちゃマズイんじゃないですか?涼宮さんが……」「え?あ、正午過ぎてる!急がなきゃやべえ!!」
彼は慌てて立ちあがり、走りだそうとしました……が、止まって私に向き合いました。
「あーなんだ、これからもいろいろあるとは思うが…これからもよろしくな、橘。」
彼が改めて挨拶をしてくれました。私はそれに、まだ泣き跡が残ってる顔で、笑顔を作って答えます
「……はい!こちらこそ!」
終わり
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