眠たくないからやっぱり寝てる
「え? 旅行ですか?」「はい。また古泉達の出資で。・・・二日間会えないと思うと憂鬱です」彼にそう言われたのは夕飯を一緒に食べていたある日。何処と無く暗い顔をして帰ってきたから何事かと思ってましたが、そういう事でしたか。私はほっと安堵すると同時に彼と同じように憂鬱になった。途中からずっと今日まで、毎日私の家でお泊まり会をしているこの夏休み。彼と離れる日があると思うだけで悲しくて仕方が無い。「私も、寂しいです・・・」「・・・・・」お互いに依存しすぎていると思う。それだけ私は彼を、彼は私を必要としているのだから。かと言ってこのままでは夏休み終わった頃には二人して鬱になりそうなので慣らしておかなくてはなりませんね。「でも、せっかくの旅行なんですから思いっきり楽しんできてください」だからちょっと、いえ、だいぶ無理してそんな事を言ってみた。「楽しみたいのはやまやまですが・・・」「楽しんでこないと死刑ですよ?」「楽しんできます」 それがおとといの話。彼はもう旅行へと旅立っていった。次に会えるのは二日後。一人きりの部屋というのは何故か異常に広く感じてしまう。広さなんて変わってないのに。たった二日ぐらい、なんて強がって見送ってみたけど意外に辛い。時間がゆっくりと進んでいるように感じてしまい、温もりが欲しくて仕方が無い。ぼうっとしたまま朝から夜になっても何もする気が起きないまま。一人ベッドに横になってみたけれどだからと言ってどうしようもない。いつもこのベッドに夜になれば横に彼が居るのに。もちろん不純は意味ではない。まだ体の関係なんて一回もした事がないし。ただ、そう。ここにはいつも暖かい人が居るのが普通だと思ってた。よくよく考えれば彼はこの家の住人ではないし、夏休みさえ終われば家に帰ってしまう。「ぐすっ・・・・うぅ・・・・・・」悲しくなった。そうだ。少なからず離れる時があるのに、一人になる時なんてあるのに。いつも居るなんて思っちゃ駄目なのに、生きている以上はいつか死に別れてしまうのに。「やだ・・・」こんなにも彼が大きい。心の中で、こんなにも。彼が旅行に行った。ただそれだけの事なのに。こんなにも認識させられるなんて思わなかった。こんなにも一人が怖くなってるなんて気付かなかった。こんなにも二人を望んでしまっているなんて考えなかった。「離れたくないよ・・・キョンくん・・・・・」いつか来る別れ。それは涼宮ハルヒから力が失われた日か、私の任務が解かれる日か、彼が死ぬ日か。いずれにせよ避けては通れないその道が遠かろうが近かろうが怖くて仕方が無い。思いたくなかった。気付きたくなかった。考えたくなかった。何も知らなければきっとその時までずっと別れという恐怖を感じずにいられたのに。「ぐすっ・・・うぇ・・・んぐっ・・・うぅ・・・」いつも彼が使っている掛け布団を抱きしめて、私は泣いて泣いた。絶えることの無い涙を流しながら、やがて空が明るくなり朝が来るのを見る。眠れない。元々眠らなくて良い私なのに、彼が居なくては余計に眠れない。この何もない空間に不安を覚えてしまうから。「・・・・・・・」今頃SOS団の方々と盛り上がってるのだろうか。トラブルにでも巻き込まれて困っているのだろうか。貴方は今私の事をどう考えてますか。考えてくれてますか。「キョンくん・・・」こんな時間があと二十四時間以上続く。耐え難い苦痛に相違無い。依存しすぎた故の苦痛。愛しているなら乗り越えなくてはいけない苦痛。でも、会いたい。これには耐えれない。今すぐにでも会いたい。「キョンくん・・・」名を呼ぶ。返事は明日に帰ってくる名前を。「キョンくん・・・」名を呼ぶ。明日まで帰ってこない返事が聞きたくて。「キョンくん・・・!」名を、呼ぶ。「なんですか、喜緑さん?」「!!」声がして顔を上げる。「俺の名前なんか呼んで、どうしましたか?」「・・・キョンくん」彼が苦笑いを浮かべてそこに居た。「えっとですね・・・喜緑さんに会いたくて、帰って来ちゃいました」照れながらそう言う彼に私は嬉しさがこみ上げてきた。離れていても私の事を思ってくれていたのだと思うと。だけどそこでふと疑問が浮かぶ。「良いんですか? そんな事したら閉鎖空間が・・・」「俺には俺の策がありますよ。一日かけてずっと策を考えて、やっと思いついてそれを実行に移したんです」全ては貴女に会いたいから。臭いセリフを毎度のように言いながら彼は私をそっと抱き締めた。「・・・おかえりなさい」「・・・ただいま」私はふと気付いた。・・・なるほど。離れるのも悪くは無い。離れた分だけ、こんなにも彼が居ることが嬉しいと思えるのだから。私は今まで寂しかった分を埋めるように彼に言った。「早速ですが、膝枕お願いできますか?」「えぇ、よろこんで」 ―――離れてたって私を思ってくれる。 ―――それを知ったときから貴方と一緒に居る事への嬉しさに気付く。 ―――貴方が居れば怖い事はないから、眠たくないからやっぱり寝てる。
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