眠たくないからやっぱり寝たい
「ごめんなさい」今日で何人目だろう。私は今まで数々の告白を断ってきた。最初のうちは良かった。何も知らなかったから。でも彼と居るうちに段々と”人”というものになって、知ってしまった。それからずっと告白を断る事に対して罪悪感があった。もちろんこれからも彼が居るので断りますが。そんな、アル晴レタ日ノコト。 眠たくないからやっぱり寝たい その日も私は告白された。手紙に指定された時刻に指定された場所に出向いて、予想はしていたけど好きですと言われた。もちろん、私は断った。「ごめんなさい」すると相手は心底残念そうな顔をした。「そうですか・・・」だがふと、にやりと笑った。そこで気付いた。回りを囲まれている事に。「まぁいいや。無理矢理になってしまいますが、やらせて下さい」その言葉の意味を理解するのにやや時間が掛かった。すぐに場を立ち去ろうとしたけど、その僅かなロスタイムが命取りだった。「っ・・・!!」私は簡単に取り押さえられてしまった。うかつ。相手は五人。もちろんインターフェースである以上はどうにでも出来ます。ただそれをもし通りがかった一般人に見られると困る事になる。この場だけを切り離してしまえばその心配も無いですが申請から許可まで時間が掛かる。自身の情報を書き換えて五人まとめてやっつけても良いですが、学校生活に支障が出ます。たとえ情報操作でどうにかなっても思念体が黙っているとは思えません。私が言わなくても長門さんが報告してしまうでしょうし。そうなってしまえば彼ともそう会えなくなってしまう。「やめて下さい!」だから足掻くことしか出来なかった。「へへっ。嫌よ嫌よも好きのうちさ」「まぁ、叫んだところでここに人はそうそう来ないけどな。喧騒もあるし叫び声一つ届きやしないさ」「右手と口を誰か抑えて」「ほいさっ」「やめ、むぐっ・・・!」本当にピンチだった。今ほどピンチだった事はそうない。だからと言って汚れるわけにはいかない。私を初めて穢して良いのは彼だけなんだから。 ビリッ。 「んぅ~!!」制服が力ずくでやぶかれた。「可愛いブラつけてるんだな。清楚なイメージにお似合いだぜ」じろりと見られている。嫌だ。嫌だ。嫌だ。「さて、ではおっぱいのほうをお披露目していただこうかな」「むぅ~~~!! んぅ~~~~!!」エラーが起きた。恥という感情が沸き立つ。見られたくないから私は頑張って暴れた。とにかく抵抗した。だけど人並みの力で抵抗したってどうしようもない。とうとう無理矢理取られた。「あ・・・あ・・・・・」エラー。顔が熱くなる。エラー。涙が出てくる。「やめろぉおおおお!!」その時だった。聞き慣れてもなお聞きたい大好きな声が轟いたのは。勢い良く突っ込んできた彼は私を囲む五人のうち一人に見事なまでの飛び蹴りを入れた。直撃をもろに食らい、私の口と右手を押さえていた人が吹っ飛ぶ。その人は地面に派手に着地し、やや呻いたあと気絶した。「キョンくん!」私は彼に駆け出そうとしたけど、まだ四人に捕らえられているから動けない。キョンくんは素早く間合いを取って残り四人と対峙した。「なんだぁ、てめぇは」突如現れたキョンくんに私を掴む男子達が怯みながら威嚇する。対するキョンくんは怯む様子も無く怒気、と呼ぶよりも殺気を漂わせていた。「貴様の質問に答えてやる義理はない。喜緑さんを離せ」いつもの彼からは想像出来ない程低い声。「何言ってんだ?」一人がへらへらと笑いながらキョンくんをからかう。それに対して「俺の江美里を離せっつうたんだよ。それも解らないか、ド低脳のサルども」キョンくんもへらへらと笑い―――目は笑っていないけど―――言葉を返した。「んだとこのヤロウ」「殺してやろうか、おい」「なめやがって」四人が私から手を離してキョンくんの元へと歩み寄る。「そこらでやめた方が良いぞ、キミたち」もう一つの聞きなれた声がその場にする。「てめぇは・・・生徒会長!?」「その通り。君達がやっていた事は写真に取って転送した」「んだと!?」「勿論学校にね。喜緑くんの顔はモザイク処理してあるので心配無用だ」ふと遠くからサイレンの音がするのが聞こえた。「学校側は退学処分にすると即決したよ。そして、警察にも連絡してキミたちを牢獄に入れてもらうそうだ」「ふざけるなこのヤロウ!!」二人が彼に、二人が生徒会長に殴りかかる。その間に取られた下着を着衣する。制服は、酷い有様だけど着ないよりは良い。四人と二人、その勝負はあっという間についた。「だてに一年SOS団やってるわけじゃないんだな」「古泉にある程度鍛えられたのでね」二人の大々的勝利だった。 その後、私に襲い掛かった五人は警察に連行された。どうやら少年院の前科があったらしく、学校内でも問題視されていた生徒だったと聞かされた。学校側は彼らを退学に持ち込めるものをずっと狙っていたらしい。そんな時、私が襲われたのは丁度良かったという事だ。おかげで物凄い怖かったけど。「大丈夫ですか? ここ座れますか?」「はい」私はキョンくんに付き添われて保健室に居た。保健室の先生は居ないからキョンくんが手当てしてくれる。制服はもうどうしようも無いから再構成した。「マキロン塗りますよ」「・・・っ」マキロン初体験。ちょっとだけ染みて思わず声が出てしまう。彼はそんな私を見て少しだけ微笑んだ。「何ですか?」「いえいえ、可愛いと思いまして・・・」「子供扱いしないで下さい」「はいはい。っと・・・あとは、絆創膏を・・・と。ほい、出来ましたよ」言われて手当てされた場所を見る。絆創膏や包帯は意外に器用に仕上っていた。「ありがとうございます、キョンくん」「いえいえ。それにしても良かったです、間に合って」「あぁ・・・怖かったです・・・」「心中お察しします」彼は私をお姫様抱っこで持ち上げるとそっとベッドに置いた。「しばらく安静にしといて下さい。インターフェースとは言ってもやっぱり不安です」「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて・・・」ベッドに腰掛ける彼の膝にそっと頭をおく。いつもながらやっぱり落ち着く。だけど、何でだろう。今日はやけに膝が震えている。「・・・喜緑さん・・・」私を呼ぶ彼。膝から顔を見上げて、その様子が若干いつもと異なる事に気付いた。だって今にも泣きそうだったのだから。「俺、凄く怖かったんです・・・もし俺が気付かなくて、あのままだったら喜緑さんが殺されてたんじゃないかとか、そう思うと・・・」「・・・」「本当に良かったですよ・・・大好きな人を失わなくて、本当に・・・・・!!」私は、涙が伝いだした彼の顔に手を伸ばして触れる。「大丈夫ですよ・・・私はこうやってここに居るじゃないですか」「・・・そうですね」「そうですよ」私は微笑んだ。彼も微笑んでくれた。「・・・大好きです・・・えぇ、もう本当に・・・大好きです、喜緑さん・・・・」「私もですよ、キョンくん」私はそっと上半身を起こして彼に抱きついた。彼も私を抱き締めてくれた。そのまま私達はそっとキスをした。これだけで、何もかもを忘れられる。彼の口付けは、優しくて甘い。ふと彼がハッとして私から離れる。「あ・・・すいません。休ませなきゃいけないのに・・・」「いえいえ。大丈夫ですよ」私はあらためて彼の膝に頭をおく。「喜緑さんの荷物はあとで会長が持ってきてくれるそうです。だから、学校が閉まる時間まで寝てても良いですよ?」「ふふっ・・・じゃあ、そうさせてもらいますね」私はそっと目を瞑る。 ―――何があっても大丈夫。 ―――何があっても貴方が居れば私の時間から笑顔は絶えない。 ―――貴方と笑うために、眠たくないからやっぱり寝たい。
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