涼宮ハルヒのダメ、ゼッタイ 二章
教室につくと、すでにハルヒは自分の机に座っていた。つまり三年でもハルヒとは同じクラスなのだ。さらに谷口も国木田も、阪中もいる。おい、誰かこの必然の偶然を疑う奴はいないのか?俺が机に座り、勉強道具を広げようとすると、ハルヒが歩いて俺に近付いてきた。そう、驚くことにハルヒは俺の後ろにはいないのだ。いや本当は驚くことではないのだが。両手を前に組んでハルヒは目を輝かせながら聞いてきた。「キョン、どうよ!自信のほどは?」どうやらご機嫌は良好のようだ。はて?今日は、俺が自信を持たなければならないようなイベントでもあったか?何だ?ツッコミ大会か?「あんた…まさか忘れてるの?今日はこの間あった模試の結果発表の日じゃない!」なんと!俺としたことが。この情報を聞いて、俺の気分はさらにメランコリーだ。…と見せかけて実は少し嬉しかったりする。「いや、すまん。すっかり忘れてた。」「はぁ~?あんたアレね。受験当日に受験票忘れて、不合格になるタイプね。」「頼むから、そんな縁起でもないこと言わないでくれよ。」「ふん!それでどうなのよ!?」「模試の日にも言ったろ。正直、自信ないな。その証拠にさっきから俺は鬱々真っ盛りだ。」これはうそだ。なんてったってこの間の模試は、自分でも驚くくらいスラスラ解けたからな。C判定…いや、もしやB判定くらいいけるかもしれない。「あんた…あたしがあれだけ分かりやすく、丁寧に対策立ててあげたのに…自分だけじゃなくてあんたの面倒まで見なきゃいけないのって正直な話…相当キツいのよ?」ハルヒが半ばあきれたように言う。ああ分かってるさ。ハルヒ。俺も悪いとは思ってるんだ。だけど、そもそもお前と俺ではスペックに差がありすぎるんだ。…といつもなら思ってる所だが、今は俺の結果を見て驚くハルヒの顔が目に浮かぶ。「そういうお前はどうなんだよ。」「ふん!当然A判定よ!あんたとは頭の出来が違うの!」やれやれ…そう思うなら俺を東大になんか誘わないでくれ。「そいつは頼もしいな。お前の教え方は本当に分かりやすい。これからも頼むぜ?」これは俺の本音である。全く、無償でやってくれてるのが申し訳ないくらいだ。まあその代わり最近は毎日のように、食堂で飯を奢らされてるのだが…そういうとハルヒは少し顔を赤くしながら「あ、当たり前よ!あんたは一人じゃすぐさぼるんだから!とことん付き合ってやるわよ!」と、より一層目を輝かせながら、いつもの調子でまくし立てた。「いざとなったらあたしの力で、あんたを秀才のメガネくんに改変してやるからね!覚悟しなさい!」「いや、それは勘弁してくれ。俺は俺のままでいたい。大体、お前はもうそんな力なんてないだろうが」「冗談よ!ジョーダン!!」そう、こいつは自分に力があること。いや、あったことか。そのことをしっかり自覚しているのだ。三年になって間もなく、ハルヒに今まで隠してきた事がバレてしまった。案の定、こいつはまたいつぞやの閉鎖空間を作って、世界を丸ごと改変しようとしやがった。俺はもちろん閉鎖空間に赴いて説得を試みたよ。あの時のことは思い出すだけで頭をぶち抜きたくなる。なんたって告白まがいのことを言ってのけたんだからな。ああ、また思い出しちまった。誰か、俺に注射器をくれ。痛くない奴な。しかし、そんなことをさせておきながらハルヒはいそいそと改変しやがった。つまり、今はハルヒが改変したあとの世界なのだ。どんな世界になってしまうのか震え上がった俺達だが、実際に改変されたのはごく一部だけだった。はい、じゃあここで改変の一つ目の内容。それは長門を支配していた情報統合思念体を、消滅させてしまったことだ。ハルヒにバラしてしまったことに対する処分として、長門を消そうとしたからな。それが、ハルヒの逆鱗に触れたというわけだ。つまり、今の長門は前のようなトンデモパワーを使えない、ただの無口な女子高生になってしまったのである。二つ目はハルヒ自身だ。こいつは、よりにもよって自分の世界改変の能力そのものを改変し、自身を長門同様、普通の女子高生にしたのだ。まあ、俺の説得の賜物だろうな。ハルヒ曰く「自分の思い通りにいく世界なんて気持ち悪いったらありゃしないわ!」だそうだ。これによって古泉も自動的に超能力の力を失い、普通の男子高校生になった。朝比奈さんだけは未来的な力は取り上げられず、今は未来に帰ってしまっている。まあ、改変したあとの世界に生きる俺達では、改変されたのが本当にそれだけなのかは分からないがな…ずっと俺達を世界の外側から見てたお前ら読者には何が変わって、何が変わってないかは一目瞭然だろう…って誰に話してるんだ!俺は!というわけで、俺達SOS団は晴れて普通の人間達の集まりになったというわけである。これが俺の後ろにハルヒがいない理由だ。ふう、長くなったな。ハルヒと色々話していると担任が入って来た。これまた去年と同じ岡部だ岡部もハルヒに選ばれた一人のようだ。よかったな、岡部よ。岡部曰く、どうやら模試の結果は今日の帰りのHRにて返却されるようだ。無駄に生殺しだ。それにしても最近、春日とよく目が合う。俺を意識してるようにも見える。もしかして俺のことを…そうか、ならば俺はこの身をお前に捧げてやろう……ってゲフン!ゲフン!何を考えてるんだ!俺は!俺にはハルヒが……って違う!あいつとは何もないんだ!あの時だって別に告白したわけじゃない!だって俺には一樹タンが………ってヴワアアアア!…いや、俺は決してあっちの趣味があるわけじゃないからな。勉強のしすぎで参ってるだけなんだ。たまには壊れてもいいだろう。そうやって俺が脳内で葛藤してる間も、春日は何度もこっちに目をやる。その視線の意味も分からぬまま、今日も一日の授業が全て終った。「何だ、こりゃ、何の冗談だよ」今は、帰りのHRである。思わずひとり言をもらしてしまった。偏差値50…当然東大はE判定である。それどころか、安全圏だと思ってた○○大学までもD判定だ。あのな、自分で言うのもなんだが俺は三年になってからは、それこそ脳みそがバターになるくらい、必死で勉強してきたつもりだ。それがどうだ。この結果は。所詮俺の頭じゃ東大なんてちゃんちゃらおかしいっていうことか?ちっ、こんなことならもっと早く模試を受けておくべきだったぜ。そうすりゃ、自分の限界に気付くのに、こんな時間をかけずにすんだのにな。自虐的な考えが次から次へと溢れだしてくる。――あんたとは頭の出来が違うのよ!――朝のハルヒの言葉が先ほどとは違う形で頭の中に響いてきた。先に走るように出ていったハルヒを追うように、おれも文芸部室にフラフラ歩み始めた。俺が部室に入ると案の定ハルヒは、目を輝かせながら団長席に座っていた。あと、長門もいるな。いつものように本に顔を落としている。古泉はまだ来てないようだ「キョン!早くあんたの結果を見せなさい!」俺は一瞬顔をしかめて見せたが素直に、無言で用紙をハルヒに渡した。そんな俺に、ハルヒも自分のそれを手渡してきた。ハルヒの結果はB判定…こいつは東大以外は志望してないから、これは東大の結果だ。「A判定じゃないのはちょっと納得いかないけど…ま、やっぱりあんたと私では頭の出来が違うってことね。」ハルヒが、俺の用紙を見ながら言う。その時からだろうな。俺の中で何かがフツフツと煮えたぎってきたのは。まるで今までの自分の努力を全て否定された気分だ。俺はハルヒを自分が出来る最大限に鋭い目で睨んだ。「な、何よ、その目は…よし!これからは今まで以上にあんたに時間を費やしてあげる!まずは昨日作った、この問題を全部解くのよ!」そういうと辞書一冊分くらいはあるような冊子をドン!と俺の前に突き出してきた。何だこりゃ?反吐が出る。続けてハルヒは半ば焦ったようにどんどんまくし立てる。「いい!?これさえやればあんたの偏差値も、うなぎ登りよ!」黙れ…「どうせあんたの偏差値なんかあんた同様に、単純に出来ているに決まってるんだから!」黙れと言っている…「あ、そ、そうだ!有希!今日はもう帰って!?二人だけの方が勉強に集中出来るから!古泉くんにも言っておいてね!?」「黙れっっ!」「キョ、キョン ?」「うるさいんだよ!どうせ俺なんか東大に合格出来るはずないんだ!ああ、そうだよな!お前は教師でもなければ塾の先生でもないもんな!そんな普通の高校生のお前が!こんなバカな俺を東大に連れて行くことなんて出来るはずがないんだ!何がうなぎ登りだ!バカにするのも大概にしろ!!」そういうと俺はハルヒに重い冊子を投げ付けた。何で俺がこんなに怒ってるかって?俺にもわからんしいて言うなら今までの勉強のストレスが一気に爆発したんだろうな。と、こんなふうに冷静に自分を分析する俺は、今ここにはいない。「え?あ、あたしはバカになんか…ただ…あんたと同じ大学に行きたかったから…」ハルヒが冊子を受けてバランスを崩しながらボソボソと言う。しかし俺はそんなこと意に介さず、「俺はお前みたいに何でも一番になりたいと思ってるわけじゃない!東大なんてどうでもいいんだよ!返せ!俺の時間を返せ!」その言葉を聞いて、ハルヒは俯きかかった顔をがばっとあげる。「なによ!あんたのためにやってあげたことじゃない!あたしがどれだけ必死になってあんたのために問題を作ったのか分かってるの!?」それを聞いた瞬間俺の中で何かが爆発した。だから頼んじゃいねぇだろうが!ゆっくりとハルヒに近付いていく。ハルヒの目がどんどん恐怖の感情に染められていくのが分かる。「いや!来ないで!!!」そうハルヒがいった瞬間俺はストレスを全てその拳に集中し……………ハルヒに飛び掛かり…………そして殴った…………「い!?たぁぁ…」ハルヒは左に吹っ飛びながら呻いている。そんなハルヒに俺は第二撃目を浴びせようとしてる。その時、俺の内出血した拳を誰かが掴んだ。……長門だ。長門は黒い瞳でこちらを、ただじっと見つめている。その目に吸い込まれるように俺の怒りの感情は消えていった。「ありがとう、長門…」そう言うと俺は部室を出て 、廊下を走っていた。途中古泉に声をかけられた気もしたがどうでもいい。何故だ!?何故俺はハルヒを殴った!?勉強のストレスのせいで?ふざけるなよ!ハルヒはただ、俺のために手伝ってくれただけだったのに!自分の勉強時間まで裂いて!あいつは、俺以上に大変だったはずなんだ!最低だ!俺は………最低だ………拳がとてつもなく痛い。一体どれだけ強く殴りやがったんだ。俺は…いつの間にか俺は下駄箱まで来ていた。ふふ…今だったら受験苦で自殺をする中高生の気持ちも、よく分かる。誰か、俺からこの苦しみを解き放ってくれ…そんなことを願ってると後ろから声がした。「ど、どうしたの?キョンくん?」そこには、心配と驚きの表情を浮かべた春日が立っていた。
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