朝倉涼子の恋愛
その日の授業を終えた女子生徒は教室で友人達と談笑していた。急に大きな声で「助けて!」と叫ぶのを聞いた彼女等は驚いて廊下に飛び出すと気絶した男子生徒とそれをささえる朝倉涼子が立っていた。よく見ると男子生徒は腹部から血を流していて制服が真っ赤に染まっており朝倉涼子のほうも、腕から血が流れでていた。 「助けて!ナイフを持った人が突然襲い掛かってきて!」 それを聞いた女子生徒はすぐに警察と救急車をよんだ。 「………くん」「…ョンくん!」声が五月蝿い…誰だ俺を呼ぶのは……「んっ……あ?」「キョン君!」目が覚めて最初に飛び込んできたのは、泣き顔で飛び付いてきた朝倉だった。「っぐ……痛い」「あっ!ごめんなさい。キョン君怪我してるのに…嬉しくてつい。だって、もう起きないかと思ったし…」 あたりを見渡すと、俺の部屋ではないことは確かだというか、病室にしかみえん。腕には点滴のチューブが刺さっているし、脇腹がもの凄く痛い。朝倉も左腕に包帯を巻いていた。SOS団の面々もいた。状況が全く飲み込めない 「なぁ…どうしたんだ?」 マヌケな質問だったのだろう。その場にいた全員が驚いた顔をしていた。「…覚えてないの?」 朝倉が心配そうに顔を覗き込んできた。しかし、何も覚えていない。部活に行く前に朝倉と教室で話していたことは覚えている。それがどうして病室のベッドの上で寝ているんだ? 「あんた本当に何も覚えてないの?」 もったいぶってないで早く話して欲しいんだが 「あんた刺されたのよ!学校で。朝倉さんから電話貰ってみんなですっ飛んできたけどあんたがここまでマヌケだったとわね!」 言い返そうとした間際、ハルヒの目元が赤く腫れているのに気付いてやめた朝比奈さんはまだ泣いているし古泉や長門も心配そうな顔をしている。朝倉の詳しい話を聞いたが、まるで信じられないが、しかし「そうだったのか…。みんな心配かけて悪かったな」 「べっ!別に心配なん…」「おやおや?病室に入るなり泣き崩れたのは涼宮さんだと思ったんですが」 「もっ、もう!古泉君、余計なことを~」笑いがこぼれる 「いや、ハルヒ心配かけて悪かったな」「だから、私はっ!」「朝倉も迷惑かけて悪かったな」「そんなこと言ってないで、早く怪我治しなさいよ」「ハハッ、努力する」それから少し談笑し「体に触るとあれですので、そろそろおいとまさせていただきます」と古泉の一言でハルヒ達は帰っていった。帰り際、長門が「気を付けて」そう耳打ちしてきだが何だったのだろうか? 病室には俺と朝倉だけが残っていた。 「なぁ、左腕…」 「あっ!これはかすり傷だから気にしないで、ね?」 「悪い、俺のせいで…」 「別にあなたのせいじゃないわ」 「でもっ……」 喋ろうとしたら、朝倉が人差し指を俺の口の前に立てて「キョン君も私も被害者なんだから、あなたが気にすることじゃないでしょ?まぁ、もし、お嫁さんに行けなくなったら責任とってよね?」 「お前みたいな器量の良い嫁さんが貰えるなら、こっちから頼みたいもんだ」二人で見合って、ぷっと吹き出す。 「ふふっ、なんかこういうの中学の時ぶりね」「そうだよ……あっ」丁度、母親が病室に入ってきた。 「あっ、叔母さん。こんばんは」「あら?涼子ちゃん!ごめんなさいね、うちのバカ息子が」確かにそうだが本人の前で言うなよ。母さん「いえ、そんなことないですよ。キョン君がかばってくれなかったら私がそこに寝てたわけですし」ん~、流石朝倉やっぱ、良い奴だなんで、朝倉と母親がこういう時の通過儀礼的会話をして「またくるから」と帰っていった。 ふぅと溜め息をつくと母さんが俺のほうをみて 「涼子ちゃんみたいな幼馴染みがいて良かったわね」 「うっせぇよ」 勿論照れ隠しだ。あんなに可愛く、器量の良い女の子が俺に良くしてくれるんだぜ?かたやクラスの人気者、かたや学校を代表する変人の一の子分。リアルなら有り得ない話だろ?―――リアルなわけだがな――― その後、親はすぐに帰って一人になった病室で事件のことを思い出そうと奮闘していたが1㎜も成果があがらぬまま眠りについていた―― ガラッと扉の開く音と共に待ち兼ねた客人が姿を現した 「こんにちは」 無論朝倉涼子だ 「おう。待ちくたびれぞ」 少し呆れたような、しかし、どこか嬉しそうな笑みを浮かべながら 「これでも終業のチャイムと同時に飛び出してきたのよ?そんなに待ってくれてたのは悪い気はしないけどね」 普段、怠惰と一緒に無駄な時間を貪っている俺でも、病院という特殊な空間での余暇は苦痛なのだよ。 「あら、そうなの?大変なのね」 と、思ってもないことを冗談めいた口調で言う。それからは、朝倉涼子が語る今日の楽しい学校の時間だ。昨日の今日だと言うのに、誰も俺の話はしなかったという。いやはや、俺の人望のなさが如実に現れましたね 「それで、怪我と……記憶のほうは?」 医者が言うには、事件のショックによる局部的な記憶障害だそうだ。午前中いっぱいかけて、仮面ライダーにでもされるんじゃないかってくらいの仰々しい精密検査をしたからまず間違いないだろう 「……治るの?」 「あぁ、落ち着けば治るだろうってさ。まぁ、自分が刺された時の記憶なんて思い出したくないがな」 パァっと満面の笑みを浮かべる朝倉 「そっか。良かった」 それよりも朝倉の腕のほうが気になるのだが「私の傷は浅いもん。全然平気」 「そうか」それからなんとなく気まずい雰囲気が流れる。その雰囲気を打ち破ったのは、俺でも朝倉でもなく 「おーす!出張SOS団でぇすっ!」扉をぶち壊しそうな勢いで入ってきた我等が団長こと涼宮ハルヒだった。 「キョ~ン、生きて………ん?あら、朝倉さん来てたの?」病院だってのにこのうるささ、まったく常識ってやつが欠落してるんじゃないか? 「えぇ。でも、涼宮さん達も来たみたいだから帰るわね」「おい。もう帰るのかよ」「そうよ!私達に遠慮なんてしなくていいのよ!こういう時はみんなで騒いだほうが元気がでるってもんでしょ!」「じゃあ、お言葉に甘えましょうかしら」 「やぁっ!キョン君。鶴屋さんだよ!」 SOS団の面々の後ろからひょこっと顔をだす「来てくれたんですか?ありがとうございます」 「いやぁ~、昨日みくるが泣きながら電話してきた時は物凄いことになってるのかと思ったけど元気そうで何よりだよ!」俺の朝比奈さんが泣きながら鶴屋さんに電話かぁうん。実に良い!その様子を妄想するだけでご飯三杯は行けるな 「いやぁ~、しかしキョン君も罪な男だねぇみくるはいつも泣くけどハルにゃんまで泣かせたんだってぇ加えてそこの、え~と朝倉さん?も実を言うとこの鶴屋さんもみくるの電話の後心配で泣いたにょろよ」「それ嘘でしょ?」 「いやぁ、あっはっはっ」それからはものっそい勢いで騒ぎだす。何度看護婦さんに注意されたことかハルヒと鶴屋さん、いつもの二倍弄られている朝比奈さん。それを微笑で眺める古泉に、我関せずの長門それを見てると自然と笑みがこぼれる「どうしのキョン?気色悪い」「いや、俺の居場所はSOS団なんだなってな」「何言ってんの!当たり前でしょ」「そうですよ。今更僕達のような存在を受け入れてくれるのは良くも悪くも涼宮さんぐらいのものです」 やはり奇人変人の集まりに首までどっぷり浸かってしまった俺を快く歓迎してくれる奴などいないらしい。そんな和気藹々と我等がSOS団への愛着心を語っていたときガタッと椅子の倒れる音がした。 「ごっ、ごめんなさい。ちょっと用事思い出しちゃって」 と、複雑な表情を浮かべた朝倉が脱兎のごとく帰っていった。朝倉が帰って間も無くだ。病室の扉から現れたのは、鬼の形相のおふくろだった。恐らく、騒ぎの一端を看護婦から聞いたのだろう凍る空気を感じ取ったハルヒ達は薄情にも俺を残しそそくさと帰っていった。その後、俺がこっぴどく叱られたのは周知の事実で、あまりの怒声に今度はおふくろを止めに看護婦が割り込んできたほどである。 さて、看護婦に何度も謝った後おふくろは帰って行き病室には俺一人となった やっと静かになったと溜め息をつきつつ、満更でもないという表情が鏡に写っているのに気付いたまさにその時だ病室に誰かが入ってきた。言い忘れでもあったのか?母さんしかし、扉から姿を現したのは違う人物だった。随分前に帰ったはずの朝倉涼子だった忘れ物でもしたのだろうか?しかし、俺の問いかけには答えず無言で近付いてくる 「おい!朝倉?」 「…え?あ、そうなの。忘れ物しちゃって」「何を忘れたんだ?」 「え~っと、確かこのへんだったんだけどなぁ」 そう言いながら棚のあたりを探し始めたそれから一分程たっただろうか「ねぇ、キョン君?自分がどうしても欲しいモノが手に入らないときどうする?」なんだ?忘れ物見つからんのか? 「普通の人は諦めたり、別のモノで誤魔化したりするじゃない?」「何の話をしてるんだ?」 「でもね、昔から――本当に小さい時から欲しいモノだったの」どうやら俺の質問に答える気はないようだ 「そんな時は殺してでも奪い取れって言うでしょ」「言わなくもないが」「でしょ?だからね」――― 「あなたが悪いのよ」 いつもと変わらない優しい笑みで言う朝倉――が、しかし、ほのぼのもしていられない。なんたっていきなりマウントポジションを取られ、くわえてミリタリーナイフを突き付けられてるのだからな。どうせまたがるのならもっとエロい時に……と妄想にふけりそうになる思考にストップをかけ 「おい?何の冗談だ」 「最初わね、あの女を殺そうと思ったの。あの泥棒猫をね」 「だって、そうでしょ?私は小さい時から――物心ついた時からずっとキョン君が好きだったの任務なんてどうでもよくなるほどねそれなのに、いきなり表れて強引に奪っていった。おかしいと思うでしょ?普通」 どこか遠くを見るように淡々と語りだした 「でも、それじゃあダメだって気付いたわ」 「だって、彼女が――涼宮ハルヒが死んだらあなた悲しむでしょ?それに彼女を殺したりしたら私が消されちゃうもの」 何を言ってるんだ?朝倉が俺を好き?ハルヒがなんだって?消される? 「考えたわ。どうやったらあなたが手に入るかってね。結論はすぐでたの」 急に俺のほうを向き、大好きなうちのおふくろが作ったおでんを目の前にした時のような笑顔を作った 「『な~んだ、簡単じゃない。キョン君を殺しちゃえばいいんだ』ってね」 随分と物騒なことをさらっと言うんだな朝倉。それも満面の笑みで 「涼宮ハルヒが死んで悲しむのは、あなたが生きてるから。あなたが死んだ後に彼女がどうなろうとわからないでしょ?」 ハルヒが死ぬよりも、俺は俺自身が死ぬほうが悲しいんだがなと発言しても今のこいつには無駄なのだろう 「思い立ったら吉日だっけ?私はすぐに行動に移したわ。だって、あなたが涼宮ハルヒに汚される前に殺らなくちゃ何の意味もないもの」 「次の日の放課後教室に呼び出した。こんな可愛い幼馴染みの呼び出しだものね、なんの疑いもなくやってきたわ」 目は焦点があっておらず、怪しげに口元を歪めた 「ねぇ、覚えてないって言うけどもうわかったんじゃない?あの日誰に脇腹を刺・さ・れ・た・か・♪」 次の瞬間バッと記憶が舞い戻る。今まで無理矢理押し込められてた記憶が今の台詞を『キー』に解放されたみたいな感じだ。まるで、情報規制が解かれた翌日のテレビ番組のようにはたまた、情報操作により歪められた記憶が正常に戻るかのように記憶が土石流のように流れ込んでくる。 「…思い出した。でも……そんな…有り得ないだろ」 「この状況でもそんなことが言えるのね。ホントに優しい人」 だって、おかしいだろ?襲われた俺を助けてくれて、病院でも毎日介抱してくれたのは紛れもなくコイツだ。なのになんで俺の記憶にはナイフを持った朝倉が俺を刺してるんだ?確かに今はこんな状況だ。俺の上にはナイフを持ってる朝倉がいる。いや、しかしだぞ。あの時殺そうと思ってたなら助ける必要が全くないだろ。それに、まだまだおかしい所がたくさんある。逃げ出そうとしたら、いきなり教室の扉も窓も無くなったり化け物みたいに朝倉の手が伸びたり変な呪文みたいなのを唱えたりやっぱりこの記憶は間違ってるんだ。だってこれじゃあ、まるで長門――つまりは対有機生命体コンタクト用以下略じゃねぇか 「ふふっ、何にもおかしくないのよ」 「どういうことだよ」 「だって、私も長門さんと同じ存在だもの」 「だって、長門は三年前にっ……」 「みんながみんな三年前に作られたわけじゃないのよ。情報統合思念体は涼宮ハルヒが現れるよりも前から地球という惑星に住む有機生命体に興味を持っていたの。」 「だから、涼宮ハルヒ発見よりも前に送り込まれた者がいてもおかしくないでしょ?つまりは、それが私。」 「だって、成長もしてるし…お前の親だって」 「有機生命体と同じ時間軸を生きることによりその進化について知ることができるんじゃないかって考えた情報統合思念体は成長するインターフェースを作った。これで問題ないでしょ?」 「親はどうなんだよ。長門にはいなかったのに…」 「親ね…。長門さんに聞かなかった?私達の得意なことは情報操作だって」 じゃあ、俺の記憶は?やっぱりお得意の情報操作をされてて… 「確かに情報操作は行ったけど、それは事件のことを忘れる操作。それが解かれたから記憶が戻った。つまり、今のあなたの記憶は真実なの」 「っ。じゃ、じゃあ、なんで助けたんだ?」 「やっぱり後悔したから。だって、好きだものキョン君のこと」 恥ずかしそうな顔をする朝倉。事が事じゃなかったらいますぐ抱き締めてやりたいって思ったくらいだ 「だから、私が刺したことは無かったことにしようって。自分勝手だけどねキョン君の記憶を消して、自分で腕を切って助けを呼んだ。」 「それからキョン君が目を覚ますまで気が気じゃなかったわ。凄い後悔した。なんでこんなことしたんだろうって」 「それから涼宮さんが駆け付けてきた時には心は決まってた。また今まで通りの関係に戻ろうって」 「涼宮さんはあなたに惹かれ、あなたも涼宮さんに惹かれていた。私が入り込む隙間なんてないもの。」 「でも、やっぱり我慢できなかった。あなたと涼宮ハルヒが仲良くしているのを見るのは」 俺はただ黙って聞くことしか出来なかった。 「17年前にね、情報統合思念体にこの地球に産み出された。姿は赤ん坊だったけど、高度な知能があったから何も問題なかったわ。」 「それから周りの地域を調べたの。で、たまたま同時期に産まれた人間の子供――あなたを発見した。観測するにはうってつけの対象だったわ。」 「そこからは簡単。あなたの家族に私の親や私の情報を書き加えるだけみるみるうちに幼馴染みの完成ってわけ」 「それから観測を開始したわ。時にはこちらで事を起こして欲しい観測データをとったりね」 「観測を始めてから数年がたったある日、私に重大なバグが生じたの。本来生まれる筈のない感情。ただの観測機でしかない私には邪魔にしかならない感情がね」 それが恋心ってヤツか? 「そう。それも観測対象に対して」 「そんなはずないって否定して忘れようとしたわ。でも、情報統合思念体はそんな感情持ち合わせちゃいない。情報統合思念体もわからないものをどうして私が対処できようか?いや、できまい。」 こんなときに反語って… 「だって、あなたがつまらなそうな顔してるんですもの」 つまらなくはない。ただただ呆然としているだけだ。こんな打ち明け話されたら、誰だってそうなる。俺だってそうなる。 「それでね、対処ができないままズルズルと月日を重ねていった幸い観測に支障を来すことなくね」 「でもね……」 ぐっと間をあける 「涼宮ハルヒが現れてから状況は一変した。あなたと涼宮ハルヒが仲良くするのを見て胸が痛むようになったわ有機生命体で言う所の嫉妬心ってヤツね」 「その感情は日に日に強くなっていった。あんな事をしでかすほどにねでも、諦めようって決めたから抑え込んでた。あの言葉を聞くまでは」 「あの…言葉?」 「そう。今日、涼宮さんと話してたでしょ?俺の居場所はSOS団だからって」 「それを聞いた瞬間、私の中の何かが壊れたわ言い表せないような感情が渦巻いただから、私は決心した。もう後悔はしない」 長い長い朝倉の話が終わった。静かにナイフを振り上げる。俺も覚悟を決めた。怪我のせいで抵抗する気力も起きやしない。緩やかにナイフが振り下ろされた 「じゃあ死んで」 終わり
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