古畑任三郎 VS SOS団 捜査編(前編)
てれっ♪てーれれっれ♪てれっ♪てーれれっれ♪てれっ♪てーれれれ♪てっれ♪
どこからか聞こえてくるおなじみのテーマソングと共に、えっちらおっちらと自転車で坂を登る黒いコートに身を包んだ刑事が現れた。
今泉「あ、古畑さーん!」
校門の前では、やけにデコの広い刑事が待っていた。
今泉「古畑さん!遅いですよ!まったくいつも遅刻するんだから!」古畑「まったくなんだよこの坂は!自転車で来るのにも一苦労だよ。」今泉「もう年なんじゃないですか?」
ペチッ!
古畑は今泉のデコをはたいた。
今泉「い、痛いです古畑さーん!」古畑「で、現場はどこだい?早く行くよ。」今泉「古畑さーん!!」
古い旧校舎の三階の1番奥の部屋。そこには首にロープをまいたまま床に転がっている会長の死体があった。
今泉「えっと……被害者はここの生徒会長のようです。死因は窒息死。」古畑「ロープがちぎれてるね……そして天井の金具にも同じロープがある。」今泉「首を吊った後、ちぎれて床に落ちたんじゃないすか?」古畑「ん~でもそれにしては……」
古畑は会長の死体の首を持ち上げた。
古畑「見てごらん。首の後ろ側にも締めつけた後があるだろう。これはおかしーい。」今泉「何がですか?」
ペチッ
今泉「い、痛いですよお」古畑「バカか君は。首吊りだと後ろ側まで締めつけられないよ。」今泉「あ、そっか……」古畑「とするとこれは……」
古畑が額に手を当て考え始めた、その時であった。
喜緑「会長!」警察「あ、ちょっと君!」
生徒会書記である喜緑江美里が、警察の静止を振りきって事件現場に入ろうとしていた。古畑は喜緑に近づく。
古畑「えー……あなたは?」喜緑「喜緑江美里と申します。生徒会の書記をしています。」古畑「生徒会の方でしたか。えー……お察しします。 ついでです。伺いたいことがあるのですがよろしいですか?」喜緑「はい……」古畑「会長のここ数日の様子はどうでしたか?思いつめていたりだとかは……」喜緑「いえ、そんな様子は全然……むしろ機嫌が良かったように思えました。」古畑「ほう、理由はわかりますか?」喜緑「詳しいことは分からないのですが……「SOS団はもう終わりだ。」と……」古畑「SOS団?なんですかそれは。」喜緑「えっと……学校未公認の同好会みたいなものです。会長はそれを敵対視していて… 今は放課後だから、きっと活動していると思いますよ。」古畑「えー、それについて詳しく教えてくださーい。そして……」
古畑はニヤリと笑った。
古畑「案内してもらってもよろしいでしょうか?」
俺達は今日も、いつも通りの団活をしていた。ハルヒはネットサーフィン、朝比奈さんはお茶を入れて、長門は本を読み、俺と古泉はゲームをする……ほんと、いたっていつも通りの様子。昨日大仕事をしたとは思えないほどの穏やかさだ。朝比奈さんも調子よくなったようでなによりだ。
コンコン
穏やかな空間に突如響くノック音。そして扉が開かれる。現れたのは……黒いコートに身を包んだ怪しそうな男だった。
古畑「えーすいませーん。SOS団と言うのはここでよろしいのでしょうか?」ハルヒ「何よあんた!ここは部外者立ち入り禁止よ!」
怒鳴るハルヒ。まあ当然の反応だな。だがそいつはまったくひるむことなく、ニヤリと笑う。
古畑「すいません。私は古畑任三郎と申します。警察の者です。」
警察!部室に緊張が走る。いずれは来ると思ったが、こんなに早いとは。
古泉「それで、何の用ですか?」古畑「えー、生徒会とここは結構関係がお強かったようで!あーそうですね……」
古畑という男は突然俺を指差した。
古畑「あなたは、キョンさんですね?」
!? 何故知ってる。
古畑「あなたが涼宮ハルヒさん、そこのあなたが長門さん、あなたは朝比奈さん、そして あなたは古泉さん……合ってますね?」
古畑は一人一人を指差し、俺達の名前を言っていった。なんで俺達全員の名前を知っている?
みくる「な、なんなんですかぁ。どうして私達の名前を知っているんですかぁ~?」ハルヒ「そうよ!アンタ、どういうつもり!?」古畑「ん~…ふっふっふ。失礼しました。えータネを明かせばですねー?」
古畑は1枚の紙を取り出した。そこには俺達5人の名前と、顔写真が貼られているリストがあった。
古畑「こちらの紙が生徒会室にありました。名簿のようなものでしょうか? 丁寧に顔写真までつけてありますね。ただの部活にここまでの名簿はつくりません。 どうやら生徒会、いや会長が、でしょうか?よっぽどSOS団のことを意識してたようで! あ!そうだ!」
早口でまくしたてる古畑。俺達は口を挟む余裕すらない。
古畑「大事なことを言うのを忘れていました!生徒会長が死亡しているのが発見されたんですよ。 ご存知でしたかー?」ハルヒ「いえ……知らなかったわ。」古畑「知らない?それは妙ですね。てっきり知っているものとばかり……」ハルヒ「どうして?」古畑「だってみなさん、警察である私が部室に来ても誰も聞かなかったじゃないですか。 『なんで警察がここにいるんですか。』って。普通はまずそう聞きますよ。 今日ここに警察がいることが不自然でないことを、始めから知っていたように思えましたが……」ハルヒ「そ、それは……」古泉「僕達は普段から変わった方々を相手にすることを目的としているので、 今更警察ぐらいでは驚かないのですよ。ですよね?涼宮さん。」ハルヒ「そ、そういうことよ!警察ぐらいじゃ私達は驚かないのよ!」
流石は古泉だな。上手く切り返した。だがハルヒ、どもるな。ツンデレキャラとしてはいい対応だが、それじゃ怪しいだけだ。だが古畑の攻撃は続く。
古畑「ふふ、流石ですね。会長が死んだことも、みなさんにとっては些細な出来事なのでしょうか? みなさんあまり驚かれていないようですね~?」
こいつ……
古畑「そうそう。これから聞くことは形式的なものです。ご気分を害されたら謝ります。 えー……会長の死亡推定時刻は昨日の午後4時頃のようです。 その時間みなさんは何をなさっていましたか?」ハルヒ「その時間は、イベントを開いていたわ。」古畑「イベント、ですか?それはどういう……」ハルヒ「みくるちゃんとキスできる権利を争うイベントよ! と言っても、みくるちゃんのキスを貰えるだけの男はいなかったからね。 だから有希に優勝してもらったわ。」古畑「そうなのですか?長門さん。」長門「そう。」古畑「えー長門さん。そのイベントは何時から何時まで行われていたのですか?」長門「午後3時31分から午後4時28分まで。」古畑「えー正確な時間をありがとうございますーふふふ。 実に完璧なアリバイですね。」ハルヒ「何よ、私達を疑ってたの?」古畑「いえいえとんでもございません!あくまで形式的なもの、です。 ……おやぁ~、キョンさん。」
急に俺に話を振ってきた。一体なんだ。
古畑「ブレザーのボタンが1つ取れていますが……」
!? 本当だ。昨日まではあったはずなのに。まさか昨日……
内心の動揺を隠しつつ、いたって冷静に振舞うように務めた。
キョン「本当だ。どこかで取れてしまったんでしょう。」古畑「格好がつきませんからね。早く直した方がよいですよ。 おっと、随分長居をしてしまいました。これにて失礼します。では……」
そう言うと古畑は嫌らしい笑みを浮かべながら、去っていった。
扉の外では、今泉が待っていた。
今泉「古畑さん、随分長かったですね。どうでしたか?」古畑「ああ、彼らは怪しいね~。」今泉「アリバイ、無かったんですか?」古畑「逆だよ。アリバイがあったんだ。完璧なアリバイがね。」今泉「じゃ、じゃあ怪しいわけないじゃないですか!」古畑「完璧すぎるんだよー。考えてごらん今泉君。 ちょーど死亡推定時刻に重なるようにイベントを起こしている。 起きた日も同じ、時間も同じ。偶然にしちゃ出来すぎてる。」今泉「そ、そう言われれば……でも、アリバイがあるのは確かなんですよね?」古畑「ん~そうなんだよね。それが問題だ。明日以降もっとよく調べてみよう、彼らについて。」
そして彼は笑った。なぜなら彼は、確実な手応えを感じていたからだ。
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