SOS団プレゼンツ 第一回 涼宮ハルヒ争奪戦 ―最終試練(後編)―
「最終試験官のハードルはものすごっっく高かったみたいだよ!なんと副団長の古泉君ですら敵わなかったからね!残すところ、挑戦者はあとひとーり!最終試練を、試験官を見事乗り越え、ハルにゃんを見事手に入れることができるのか!最大の見せ場だよ!月9で例えたら、好きだった幼馴染みに対してアプローチをする先生を阻止し、自分がプロポーズすべく大勝負をかける場面に匹敵するよ!」どんだけ~!…いや失敬!鶴屋さんは最後の勝負ということで、色々と盛り上げる内容を語っていた。そう。残り一人。これでようやく終わる。こいつを倒せばハルヒを狙う輩を殲滅できる。俺の仕事が全うできるんだ。――残りの一人の人物は、俺の知った顔だった。名前は知らないがな。最初は教室の外で、二度目は部室の前で、ハルヒを自分の彼女にすべく、俺に戦線布告をしてきたあの北高生だった。「――やはりあなたと戦うことになりましたね。僕には分かってました。貴方を倒さなければ、いえ、貴方を超えなければ涼宮さんは僕に靡いてくれないでしょうから」 彼は優しく、穏やかに、そしてまるでこうなることが分かってたかのような口調で話しかけてきた。「前にも言いましたが、貴方に勝つ自信はありません。ですが、全力であなたに臨みたいと思います。よろしくお願い致します」ああ―俺は、彼と握手を交わした。彼との対決は、剣道での対決となった。俺は剣道なんざ中学校の体育で、剣道部にコテンパンに叩かれて以来嫌いになったスポーツの一つだ。彼が剣道二段の腕前を持つのを知ったのは題目決定後であった。勝てるわけねぇ。駄目って言えば良かったよ。ただ、幸いにも彼が『素人相手に戦って勝ってもフェアではありません。僕は右手のみで勝負します』と言ってくれたおかげで、俺もなんとか戦えるレベルになりそうだ。剣道の竹刀、防具一式は例の如く鶴屋家が貸してくれるそうだ。ボディーガードの鍛練用に数セット所有しているらしい。本当にここにはなんでもあるんだな。ここにないのは宇宙人、未来人くらいだろう。超能力者に至ってはスポンサーだから、本当に貸出できそうで怖い気がする。俺は鶴屋家が所有する道場へ赴いていた。そこで燕尾服を脱ぎ、剣道着と袴を身に着けていたところ、聞き覚えのある声が俺の着替えを中断させた。「申し訳ありません。少々お話ししたいことがあるのですが」着替えの最中、古泉が話しかけて来た。何だ?さっきの話の続きか?「いえ、それはそれで興味深くはあるんですが、今は目先のことについてお話ししたいと思います。彼のことについてです」―彼、最終試練最後の挑戦者、俺に挑戦状を叩き付けた、あいつのことである。「実は涼宮さんから、彼にしつこく付け回されているという言葉を拝聴しまして、少々気になったのです。念の為、機関の方で彼のプロフィールや生態を調べてみたんです」 俺は黙って古泉の言葉に耳を傾けていた。「機関で調べた結果、彼は東中出身であることがわかりました。成績優秀、文武両道、生徒会役員も歴任しており、高校は有名私立進学校へ行くものだと周りは思っていました。しかし、彼は北高校へ入学しました。まるで涼宮さんに惹かれるかのように。涼宮さんは彼と同じクラスになったことはなく、当時生徒会に興味はなかったこともあり、彼のことは全然知らないようでした。ですが、最近急接近するようになったんです。その理由は分かり兼ねますが、彼も涼宮さんの能力に惹かれてきたのではないかと推測しています」あいつはお前のようなエスパーとか、朝比奈さんのようなタイムトラベラーとか、長門のような人型端末とでもいうのか?そうでなきゃあいつに呼び寄せられる理由なんてないはずだ。まさか、アナザーワールドの住人とでもいうのか?「機関が調べた限りでは、彼は普通の人間でした。ですが、機関の人間は皆どこかに違和感を覚えています。違和感の原因はわかりませんが、それは危険なものではないかという心理状況です。まるで、水面の砂に埋もれ、疑似餌で餌を誘導して喰らいつく提灯鮟鱇のように」 ちょっと例えが笑えるが、どうやら古泉は真剣に話しているため、馬鹿なことを言える場合ではないようだ。「いますぐ危険なことになるとは思えませんが、どうかお気をつけて勝負に臨んでください。そして、勝負に勝ってください」あぁ、頑張ってはみる。だが、相手は剣道二段だとよ。中学の時数回やった俺とはいくらハンデがあるとはいっても軽くあしらわれるだけじゃないのか?「剣道で竹刀を扱う場合、右手は多少コントロールをしますが、殆ど飾りです。竹刀の命は左手が握っています。振りや打撃の強さ、コントロールは左手がメインなのです。左手のない竹刀は命が吹き込まれてません。素人でもコツさえ分かれば簡単にあしらえます。竹刀を払えば元の構えに戻すまでタイムラグが生じます。そこを狙って打っていってください。そうすれば勝機がみられると思います。涼宮さんはあなたが勝つことを望んでいるはずです。あなたが全力で戦えば、負けることはありませんよ。それに、あなたも負けられない理由があるのではないですか?」―ギュッ―俺は胴の紐を締め、古泉に語りかけた。―そうだったな。俺は負けるわけにはいかないんだ。あいつのためにも、俺自身のためにも―………………「ねぇ、キョン。ちょっと」鶴屋さんのナレーションの後、鶴屋家道場へ向かおうとしていたが、ハルヒの呼び掛けで体を180°回転し、ハルヒの元に向かった。どうしたんだ?「あいつ、ストーカーかもしれないわ。やたらとあたしの周りをうろうろしてんのよ。何度も告白して来るし。毎回断ってんだけどね、いい加減しつこいし、のしてやろうと思ってたのよ。ちょうどいい機会よ。キョン、あたしの代わりにあいつを叩きのめす特別権限を与えるわ。コテンパンにやっつけちゃいなさい!」 ハルヒはそう、俺に語りかけてきた。ハルヒ、あいつとはどんな関係なんだ?「あたしはあいつのことなんか知らないわ!あいつ最近やたらとしつこくあたしに言い寄って来るのよ。一番許せないのは告白の台詞ね。『美しい花も、君が通ると萎れてしまうんだ。自分より美しいものに恥ずかしくなったんだよ』とか、『僕は朝、眩しくて目が覚めるんだ。太陽ではなくて、君の笑顔にね』とか、とにかくやたら寒いのよ!あたしは花を枯らせたことはないし、目覚まし時計でもないわ!本っっっ当に我慢できないわ!!」―つまり、お前に纏りつくお邪魔虫を退治すればいいわけだな―「そうよ!あいつだけは手加減しなくていいわ!」―わかった。お前は俺が守って見せる。絶対にな―「…え………う、うん………」―だから、ちゃんと応援してくれよ?お前の応援がないと負けちまうかもしれないしな。頼んだぜ―「……当たり前じゃない、おもいっきり応援してあげるわよ!感謝しなさい!」………………―そうだ。俺には負けられない理由があったんだ。俺はこの勝負に勝ち、しなければいけないことがあるんだ―俺と彼は道場の上で対面していた。俺は黒の剣道着と袴、防具を身に着け、彼は白の剣道着と袴を身に着け、赤色の胴を身に着けていた。「お手柔らかにお願いします」それはこっちの台詞だ。いくらハンデがあるからと言って、経験者に勝てるとは思えん。第一、勝ちたいならハンデなしの方がよかったんじゃないか?「…同等の立場で勝ってこそ、意味があるのです。別に試験内容はなんでもよかったのです。ただ、この片手ハンデの剣道が二人の能力を均等にできるものだと思ったから、そのように設定したんです」…なるほどな。一つ聞きたいが、お前はハルヒを付け回しているのか?「…私自身はそんなにしつこくしているとは思ってません。ただ、涼宮さんがそう思っているのであればそうなってしまいますね。僕はストーカーまがいのことをする気は毛頭ありません。ですが、僕の行動が涼宮さんにご迷惑をおかけしていたというのであれば謝りたいと思います」 俺に謝られても困る。本人に言ってくれ。「正論ですが、もし嫌われているなら彼女は取り合ってくれないかも知れません。だからあなたに僕の気持ちをお伝えしようと思ったのです」なるほどな。あと一つ、俺からのお願いだ。この試合、俺に負けたら、もうハルヒに関わらないでくれるか?「…約束しましょう。では僕からも。もし僕が勝ったら僕は涼宮さんと付き合うことになります。あなたはそれで構わないですよね?」…ああ、男と男の勝負だ。約束する。「僕も。約束しました」―俺は正直、面食らっていた。ハルヒが言うほど怪しい奴ではなく、古泉が言うほど裏がある奴とは思えない。爽やかな好青年であった。 正直、ストーカー紛いの危ない奴だったり、古泉以上のニヒルな奴だったら奇襲をかけて二本取ったぜ俺の勝ちだザマーミロとやる予定だったのにな。しかし、逆に武者震いがしてきた。素人の俺でも、強敵を前にするとわかるらしい。だがこいつになんとしても勝たなくてはいけない。―こいつに正々堂々と戦い、勝ってこそ、俺はあいつに―「一本目、始め!」審判の号令のもと、試合は始まった。俺は素人並に、相手の竹刀の動きを追っていた。彼の竹刀は俺の竹刀を中心に円運動をし、たまに横から竹刀を叩いて様子を見ている。俺も暫く同じような動作をしていた。―たったそれだけのことが、非常に長く感じられた。焦りがあったのかもしれない。刹那、彼が大きく振りかぶり、俺の面を狙ってきた! 俺は慌てて竹刀を振りかぶり、相手の面打ちにに対する防御策を行っていた。しかし、それは罠だった。中途半端に上がった腕を狙って彼は前進して来た。「小手ぇー!」「一本!」…やられた。さすがは経験者である。俺が今打たれた右小手は軽く痺れていた。片手でこれほどの衝撃があるのなら、両腕で叩かれた日にゃ三日間くらい箸が持てなさそうである。「二本目、始め!」審判の合図のもと、二本目が始まった。これを取られたら試合終了、負けである。俺は今度こそフェイクに惑わされないよう、最新の注意を払っていた。さっきとかわらず、竹刀の先同士が軽く小競合いをしている。…さて、どうでるか。俺は試しに、竹刀を軽く振り上げて見た。…全然反応しやがらねえ。さすがにこの程度では無理か。続いて、竹刀を横に大きく振り払って見た。以外にも軽く払うことができた。…彼は片手でやっているから、払われた竹刀を元の位置に回復させるのには、俺より時間が掛かるようだ。…さっきの古泉の言葉、もう忘れるとは、しっかりしないといけないな、俺。俺はさらに立て続けに竹刀を払ってみた。執拗に払い続け、右手をオーバーヒートさせることにした。そうすればいくら俺でも、打ち込むチャンスはありそうだ。俺は渾身の力を込め、彼の竹刀を左方向に薙ろうとした。しかし、それを見透かされたか、彼は自分の竹刀を軽くあげていた。しまった!俺はそのまま、体を左方向にねじっていた。力を込めすぎたため、体ごと持って行かれたのだ。すかさずそれを狙って飛び込んで来る彼。間に合え!「めぇぇーん!」「一本!」俺はできる限りバックステップをしていた。―だが間に合わなかったか―「…いや、待て!」よく見ると、副審の2人は、両手の旗を交差させている。―俺は唐突に中学の授業を思い出していた。確か剣道は、審判三人のうち、二人が認めないと一本にならなかったはずだ。だが、それに気付いてなかったのか、竹刀を下ろし、中心へ戻ろうとする彼の姿があった。―今しかない!多少良心が痛む。相手が構えてないのに、狙いにいくとはな。だが、試合は中断されてないんだ。「めーん!」俺の掛け声に、相手は驚いて竹刀を構えようとした。だが遅い。「一本!」俺は多少卑怯かも知れなかったが、一本を取り返していた。だが、彼が両腕を使えたなら、今の面も防いでいたかもしれない。俺は顔から流れる汗を拭えない事に苛立ちを抑え、中心に向かっていた。…夏場にこんな暑苦しい防具をつけて、エアコンもない道場で修行するとは、いやはや、物好きもいたもんだ。俺は一本取ったことによる喜びと驚きによる興奮状態を落ち着かせるため、軽口の代わりにそんなことを考えていた。だが、まだ終わりじゃないんだ。もう一本必要なんだ。「勝負!」審判の合図とともに、俺は飛び掛かって行った。興奮が治まってなかったのだろう。しかし彼の竹刀によって、俺の攻撃は阻まれた。続けて竹刀を払い、胴を狙って見る。今度は払いが足りず、俺の面を狙われた。思わず首を曲げ、面に直撃しないようにさけてみた。面には当たらなかったものの、肩を打ってしまった。いてえ。―俺たちは、ひたすらそんなことを繰り返していた。片方が仕掛け、それを避けながらカウンターを狙う…暫くのルーティーンワークが続き、俺も彼も肩から息をしていた。本来ならば彼はこの程度で息を切らすことはないのかもしれないが、片手で俺をあしらうのはさすがに大変そうである。――どのくらいたったのだろうか?俺と彼は間合いの距離から動いてなかった。疲れに依る物もあるし、俺がフェイントになれて来たのもその理由だ。未だどちらも決定打を打てずにいた。だが、一本とらなければ試合は終わらない。早く終わらせて、水飲んで、飯食って、風呂入って寝てえ。…いや、何より、『お疲れ様、キョン』というハルヒの笑顔が見たいんだ!俺は勝負をかけた。相手の面を狙いに行ってた。自分の物とは思えないスピードで、だ。今なら狙える!そう思ったからだ。「めぇぇぇー―ん!!」「…一本!…」―勝負は、決まった―「胴あり!それまで!」―俺が振りかぶった瞬間を狙い、彼の竹刀が俺の胴を薙いでいた。―……負けちまった。…約束したに…やりたいことがあったのに……―試合終了後、俺たちは着替え、ステージに戻って行った。女性陣はカメラとモニタで一部始終を確認していた。何でも、道場は女性厳禁らしく、入れないしきたりになっていたらしい。ご令嬢の鶴屋さんも然り。「……………」ハルヒは長門のような沈黙で俺を迎えてくれた。「…すまなかった、ハルヒ。勝てなかった」「…あんたが悪いわけじゃないわ。あたしの応援が足りなかったのよ。キョン、お疲れ様」珍しく、俺を労ってくれるハルヒがいた。だが、俺はちっとも嬉しくなかった。こんな顔をしたハルヒに労ってほしかったのではないから。勝って、あの100Wの笑みで俺を労ってくれるハルヒを見たかったから。ハルヒはそのまま何も言わず、自分の席に戻っていった。俺はただ、立ち尽くすしかなかった…「…おめでとう、キミがハルにゃんのハートを仕留めることができた、唯一の人だよ!」彼は俺と同じ燕尾服に着替え、様々な花を束ねた花束を抱え、ステージに上がっていた。最後の盛り上げをする鶴屋さんの声も、心なしかか弱く聞こえていた。俺はステージの下、つまり、参加者側の場所で他の団員と鶴屋家使用人達と一緒に閉会式を見守っていた。ハルヒは壇上に立ち、鶴屋さんの話を聞いていた。「さあキミ、ハルにゃんに告白をお願いするよ!ハルにゃんもヨロシク!」そう言って、鶴屋さんもステージを降りた。当たりは薄暗くなっていた。途端、スポットライトが二人を写し出した。そしてファースト・ラヴがBGMとして流れ初めていた。彼は花束をハルヒの前に差し出した。「今日のこの日を記念として、8月7日の誕生花を集めてみました。僕たちの交際初日記念です。涼宮さん、僕はあなたのことがずっと好きでした。中学生の頃から。今まで告白できませんでしたが、今日この機会を与えてくださいましてありがとうございます」
―宜しければ、僕と付き合ってください―そして、ハルヒは答えた――ごめんなさい―瞬間、辺りが凍り付いた。BGMが寂しく流れ、沈黙が辺りに漂っていた。俺は何とか氷の絶壁から脱出し、ハルヒに向かって声を出した。「…何故だ?お前の彼氏を決める大会じゃなかったのかよ!?見事勝ち抜いたそいつがそうなんじゃないのかよ!」?「…あたしは、『あたしに告白する権利を与えられる』って言ったのよ。彼氏になれるなんて、一言もいってないわ」さも当然でしょ、みたいな口調で話し、彼の方を向いて話を続けた。「…あんた、あの試験を突破するなんて、なかなか大した物よ。あたしの彼氏になる合格ポイントを獲得してるわ。一点を除いて」「…一点…?……」彼はか細い声で聞いてきた。「そ、一点。あんたは、不思議な物に対する興味が感じられないわ。そこが一番のポイントなんだけどね。それが備わってない以上、他がどんなによくても問題外よ!」「聞いたかーい!ハルにゃんは不思議な物に憧れているんだ!それを持っている人がその資格を得るんだよ!と言うことで、今回は該当者なし!次回『SOS団プレゼンツ 第二回 涼宮ハルヒ争奪戦』に期待だよ!」鶴屋さんはいつの間にかステージに戻り、そう宣言した。宣言しても他の参加者は帰ってますがね。「ああ、それいいわね!第二回目を行いましょ!次はもーっと盛り沢山の内容でやるわよ!今から計画練らなきゃね!あんたは今回残念だったけど、第二回争奪戦のシード権を与え…」「―五月蠅い!!」彼の絶叫が木霊した。「なんだそれは。僕はこの争奪戦に参加し、試練を乗り越え、彼を破ってここまで来たんだ。それなのに…」彼が何やら不満を爆発させている。気持ちは多いに分かるぞ。だからハルヒの彼氏になるなんてやめとけ。振り回されるのがオチだ。「…だから、あんたに足りない物があるん…」「…足りない物ってのは何だい?僕は様々な能力を持ってるんだ。何でもできるんだ。できるんだ。できるんだ…」彼は何やらブツブツ言い出した。おいおい、ついにキレてしまったか?「………時間超平面移動能力、限定空間破壊能力、情報結合制御能力…あと必要なのは、涼宮ハルヒが特異的に持つ、情報改変能力のみだ!」…何!こいつ!!!「涼宮さん!、鶴屋さん!逃げてください!!」古泉が叫び、ハルヒの元へ駆けて行く。俺と長門、遅れて朝比奈さんもステージに昇る。「今更渡さないとは言わせないぞ!涼宮ハルヒ!」「ちょ…やだっ…キョ…助け…!!?」『彼』はハルヒを捕まえた。その瞬間、ハルヒはステージに倒れ臥した。「ハルヒ!!」俺はハルヒを抱き上げた。ハルヒは静かに寝息を立てている。どうやら命に別条はないらしい。「ハルヒに何しやがった!!」「あなたも、『彼』から離れてください!!」
『彼』の代わりに古泉が答えた。俺は古泉の言うとおり、離れて安全な場所にハルヒを寝かした。『彼』は動く気配が見られない。…なんだあいつは?「どうやら、彼の本性がご披露できそうです。かなりやっかいな御仁かもしれませんがね」「……………」古泉に加え、長門が真剣な目で『彼』を凝視していた。朝比奈さんは訳も分からずガタガタ震えている。…かなりやっかいな、とはどれくらいだ?「あの時のカマドウマが持つエネルギーを赤ちゃんのビンタ程度だとしたら、『彼』は水素爆弾がアメリカ本土全体を覆い尽くすくらいのエネルギーですかね」…それはヤバ過ぎだろう。「冗談です。ですがあまりのんびりもできません。…朝比奈さんは涼宮さんの看病を!」「…ひゃ、はいっ!わかりました…!」朝比奈さんはハルヒの元に赴いた。なるほど、悪いが朝比奈さんは戦力外通告を受けたわけか。『彼』がカマドウマ以上の化け物であれば、朝比奈さんは役立たず以外の何者でもない。「ふっ…、お前らがどれだけ集まっても俺には叶うまい!」完全に『彼』の口調は変わっていた。「俺は涼宮ハルヒの力を手に入れたんだ!あの能力をな!見ろ!!」『彼』が両腕をあげた。まるで天に願いごとをするかのように。そして―「閉鎖空間!?」―そして、辺りは漆黒の空間に覆われた―※キョンの最終試練に続く
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