SOS団プレゼンツ 第一回 涼宮ハルヒ争奪戦 ―最終試練(中編)―
「さて、続いては僕たちの番ですね」国木田との勝負終了後、古泉が語りかけてきた。…僕たち、とはどうゆう意味だ?タイマン勝負じゃなかったのかよ?「実は、僕を除いた参加者の残り三人のうち、二人は機関の雇ったサクラでしてね。時間的な都合もありまして、三人同時に勝負を仕掛けようと思います。あまり長くダラダラとやりすぎて、涼宮さんが退屈するのを恐れているんです」なるほど、いい判断だ。太陽はもうすぐ水平線に着地し始めている。ハルヒのこともそうだが、俺も早く帰りたいんだ。それで、何で勝負するんだ?「今はまだ秘密です。そうそう、涼宮さんから『古泉君も真剣にやってちょうだい!キョンを鍛え直さなきゃいけないから!』と言われましたのでね。恐れながら、本気で勝負させてもらいますよ」古泉は笑みの中に、冷たく、鋭い視線を混入して俺に差し向けて来た。…古泉が真剣にするということは、こっちも真剣に勝負しないといけないだろう。どんな勝負であれ、俺が負けるわけにはいかない……ん?なぜ俺はこんなに熱くなっている?そしてなぜ負ける訳にはいかないんだ?「キョン君連勝だよ!さすが第一SOS団団員だね!でも、次の勝負は同じくSOS団団員、しかも副団長の古泉君さ!これはキョン君にとって厳しいかな!?さぁ、どっちが勝つか見物だよ!!」古泉はニヒルな顔で俺の前に対峙していた。プラス、他の参加者二人も一緒に並んでいた。一人は色黒で体付きもガッチリしているサーファー系で、長い栗色の髪を束ねている。もう一人は線の細い感じがあるものの、それとは裏腹に腕の筋肉がついている。黒の短髪でブランドのグラスをした、爽やかマンタイプのやつである。以下名前を知らないので(もしかしたら鶴屋さんが紹介してくれたかもしれないが、聞いてなかった)、便宜上、前者をサーファー、後者をメガネと呼ぶことにする。古泉は二人と一緒に勝負することをハルヒに懇願し、了承を得ていた。…さてさて、この三人が挑むのは何だろうか?見た目から体力、スポーツ系の勝負だろうか?1:3では部が悪いぜ。せめてゲートボールとかにしてくれ。いや、人数が足りないか。「それでは、僕たちが挑戦する議題を申し上げます。それは…」古泉はそこで一区切りついた。俺は息を飲んで次の言葉を待っていた。「…麻雀です!」…俺は視界がブラックアウトしていた…聞くところによると、三人で一人を相手に勝負するわけにもいかず、四人一組で個々が争えるものを選んだ結果、麻雀になったという。他にもっといいのがあるだろうと突っ込みたい。ゴルフとか、ボーリングとか。そうだ、トランプやボードゲームなら時間も早くていいぜ。ああ、古泉が弱いからダメか。それに、麻雀は親が続くと長くなってしまうぞ。お前が目標にしていた『時間の短縮』が不可能になるんじゃないのか?「ご心配なく。その点については考えてきました。親は各一回、東場のみの東風戦で、連荘はなし、流局時テンパイでも親は流れます。つまり四ラウンドのみの対戦で、どれだけ高い点数を取れるか、といった勝負です。また、特別ルールとしてフリテンあがりありとする、攻撃型超ローカルルールを採用したいと思います。因みにアリアリです。鳴けるだけ鳴いて、早上がりするのが勝利への定石だと考えます」なかなか麻雀を冒涜するようなルールで楽しそうだ。いいだろう。それで勝負しよう。「リーチチートイドラドラ、お、裏も載ったから7飜、跳満だな」サーファーがロン上がりを宣告した。俺たちは鶴屋家の離れで麻雀を開始していた。雀卓と牌がここにしかなく、取りに行って戻るのも時間の無駄と言うことになり、四人でそちらに向かい、麻雀を開始したのだ。―俺は早速窮地に立たされていた。あの後、東:サーファー、南:古泉、西:メガネ、北:俺、という順番が決定し、勝負が開始された。そしていきなり振り込んでしまったのだ。『なぁーにやってんのよ!バカキョン!!』ハルヒの罵声が耳に突き刺さる。それまで沈黙を保っていたからな。ハルヒ達は様子が良く分かるよう、俺たちの様子を映している双方向マイクとイヤホンをつけ、特設カメラ、スクリーンによるエキシビジョンを眺めていた。ゲーム開始直後は俺の配牌を見て、『それを切りなさい!』とか、『それポンよ!』とか叫んでいたが、古泉に、彼を手助けするのは勝負の公平さを損ないますのでどうかご自重下さい、といわれ渋々黙っていた。くそ、してやられたか。だが次の親は古泉だ。こいつはさして強くないはずだから、鳴きまくって早上がり3連荘で取り戻す!―誰も上がらず流局となった―…ああ悪かったよ。だからそんなに叫ぶな、ハルヒ。続いて、メガネの親で3ラウンドとなった。ここは上がらないと、そろそろやばいぜ。俺は高い役を残しつつ、鳴けるだけ鳴き、7巡目で何とかテンパイの形に持って行った。これが上がればビリッケツは免れるかもしれない。だが。「リーチです」メガネが爽やかに宣言した。…こいつらはなんでこのルールで門前を保ち続け、リーチできるのだ?何かおかしい気がするぞ?まさかイカサマじゃないだろうな?積み込みとか、すり替えとか。いや、サイコロは対3だった。普通、積み込みする時は自分が積んだ牌から取って行くものだ。そうすると…そういえば、サーファーも対3だったな。そうか。こいつらはグルかもしれない。お互いの牌を積み込んで、責任逃れする気なのだろう。だが、今俺が言ったのはあくまで仮説であり、第一素人の俺では積み込んだかどうかなんて分かりっこない。どうすればイカサマと見抜くことができるんだ?…よし、一か八かだ。俺は爪を噛むような仕草をしながら捨てる牌を検討した。そしてぐるりと一周し、メガネが俺の山から牌を取り、ニヤリと笑った。古泉のニヤケを43°位押し潰した、嫌な笑みだ。「ツモです。小三元、混一色……三倍満です。これはもしかしたら、試験官殿の持ち点は無くなったのではないですか?ではこれで終了。三人とも試験官殿より点数が高かったので、全員最終試練クリアと言うことでよろしいですか?涼宮さん?」ハルヒは何やらわめき散らしていたが、俺はあることを確認するためにメガネの牌を見ていた。…なるほどな。そして、俺は宣言した。―悪いが、お前の上がりは無しだ―三人は沈黙していた。騒いでたハルヒも、俺たちの様子を見て、黙ってしまった。「…これはこれは。また異なことを。負けた悔しさは分からないでもないですが、負け惜しみはみっともないですよ」みっともないのはお前らだ。素人相手にイカサマまでして勝って嬉しいのか?瞬間、メガネとサーファー、そして古泉の顔がピクリと動いた。「…なんのことでしょうか?言っている意味が分かりません」そうかい、なら教えてやるぜ。俺がさっき、自分の山にある牌を崩れそうだからと言って並び直したのは知ってるな。実はあの時、少し仕掛けをしたんだよ。俺の山牌上一列に、自分の血をつけたんだ。指を歯で傷つけてな。『……!』ほら、見て見ろよ。薄くだが、付いているのが分かるだろう?血を付けたのは一巡前だ。つまり、この血の付いた牌をお前とお前(メガネとサーファー)が一つずつ持っているはずなんだ。…見せてもらおうか。俺はサーファーの牌を確認した。…お前は血のついた牌を二つ持っているが、どうゆうことだ?「……手で触っているときに、他の牌に血が付いたんじゃねーのか?」苦しい言い訳をするサーファー。そうか、その可能性もあるな。それでは、お前(メガネ)、そっちの牌を確認させてもらえないか?「…好きにしろ…」…お前の上がり牌に、俺の血がついた牌がないというのはどう言うことだ?「…………」さっきも言ったが、俺は一巡前に山牌を直した。その際に血をつけたんだ。本来ならどちらも一つずつ持っているべきなんだ。だが、お前(メガネ)は持ってなくて、その代わりお前(サーファー)が2個持っていた。…考えられるのは、お前(サーファー)が俺の山牌で、こいつ(メガネ)のツモ牌とすり替えた、ということだ。これは間違なくイカサマだな。イカサマの罰は詳しくは知らんがどうなるんだ?古泉。「…明確な規定は分かり兼ねますが、チョンボとは雀荘なら出入り禁止でしょうし、賭け事でばれたらあまり良い目にはあいません」…だ、そうだ。「…まってくれ。君の案はなかなか面白いが、僕の牌に血が付いてなかったのは、途中で落ちてしまったのたかもしれないじゃないか」この期に及んで悪足掻きをするメガネ。わかった。ではルミノール検査をしよう。ルミノール検査は、拭いたくらいじゃ消えないんだ。逆に言うと、その牌の血が落ちたとしても反応するはずなんだ。俺はマイクに声をかけていた。「鶴屋さん、ルミノール検査薬剤セットは持っていますでしょうか?」『…えーっとねえ、うちで雇っている私立探偵が持ってたっけな!?すぐに分けてもらえると思うよ!連絡いれるからちょろーんと待ってもらえるかい!』鶴屋さんの反応に、二人はうなだれた。「…我々の負けだ。まさか素人にこんなに簡単に見破られるとはな。油断しすぎていたようだ。どうだい、君も積み込みを覚えないか?」いいえ、やめておきます。あの団長様は不正が嫌いですからね。「…ふっ、なるほどね。君を騙して悪かったよ」メガネは先ほどとは違い、よほど人間っぽい笑顔を残し、サーファーとともに帰っていった。…さて、古泉。お前はどうするんだ?「…どうするも何も、このまま二人で続ければ宜しいのでは?」古泉はカメラとマイクを止め、俺に言った。…あの二人は機関の関係者だった。つまりお前はあの二人と仲間、グルだったんだろう?それならお前も失格だ。「お言葉ですが、『機関のサクラ』とは言いましたが、イカサマをする仲間内ではありません。仮に僕とあの二人がグルだったとして、僕がイカサマをした証拠はおありでしょうか?」………。「ないのであれば、残って勝負ということで問題は生じないと思いますが」…どうやら、これも作戦の一つだったらしい。3人がグルではないはずがない。だが本当に古泉は何もしてないのだろう。二人のイカサマで俺の点数を低くするのが目的だ。仮に二人のイカサマが見つかっても、古泉は何もしていないからそのまま勝負続行になる。そうすると、俺の方が点数が低いので不利になる。あいつは負けなければいいんだからな。ちっ、相変わらずの策士だ。「では続けましょうか」古泉はいつものニヤケスマイルではなく、真剣な顔で俺に語りかけて来た。こいつのこんな顔は初めてかもしれない。…寒気がする。「先ほどあなたが見破った不正は無しと言うことで、僕とあなたの点数差は16000点です。親は流れてあなたですので、あなたは僕に二倍満以上の役でないと僕に負けてしまいます。そうなれば、晴れて僕は涼宮さんと交際をできると言うわけです」古泉が目を細めた。…お前は、ハルヒをそう言う対象で見てたのか?「…ええ、以前にも『非常に魅力的な女性』であると仰いましたしね。あなたにその気がないのなら、構わないでしょう!?」その言葉に、俺は力が入ってしまった。「ふざけるな!何を今更いいやがる!告白するってならもっと早く言いやがれ!」「なぜあなたにそんな許可をしなければいけないのですか?僕と涼宮さんにしか関係ないことですよ?」「…それはな、団活中にイチャイチャされると困るんだよ!」「その理由は、早くに交際宣言しなければいけないことと関係ありません。…本当の理由を教えてください。その内容如何によっては、負けを宣言しても構いませんが、どうされますか?」………ちっ、わかったよ!―数分後、俺と古泉はステージに戻って来た。「古泉君!いきなりカメラまマイクも入らなくなったんだけどどうしたの?大丈夫?」「我々は何も異常はありません。マイクやカメラは故障してたのではないですか?」「…そう、無事でよかったわ。で、どっちが勝ったの?」「勿論――」「キョン、あんた古泉君に勝つなんてすごいじゃない!しかも古泉君手加減しなかったって言ってたわよ!ここまでやるとは思わなかったわ!あと一人ね!あと一人に勝ったらあんたを副々々団長に昇進してあげるわ!」―俺は夕日に映えるハルヒの笑顔を見て、思わず目を逸らしてしまった―※最終試練(後編)に続く
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