長門vs周防 ~その②~
こうしてお互いのプライドを賭けた地球外生命体の一大決戦が、なんの因果か地球上で繰り広げられる運びとなった。三丁目ラーメン屋前の商店街通りで開催された当イベントは、物好きな野次馬的好奇心旺盛な聴衆で満員御礼。ひとつの長机に長門と周防が並んで座り、臨戦態勢にはいったところで店主により試合開始の合図が告げられた。古泉「両者一杯目の醤油ラーメンにとりかかりましたね。見たところ、出始めのペース配分等は互角といったところですか」キョン「お互い試合前に間食をすませてるというのに、よくあんなハイペースで食べられるもんだ」みくる「あれ、2杯目に入ってから、長門さんのペースが落ちてませんか?」キョン「やっぱり腹ごなししてきたウォーミングアップが響いているのか?」古泉「いえ、違います。テーブルの下を見てください!」キョン「下って……あ! あれは、周防が長門の左足を踏みつけている!」古泉「ただ漫然と食べるだけのフードファイトかと高をくくっていましたが、あんな直接攻撃もあるなんて」キョン「おそるべし、三丁目フードファイト!」みくる「あ、長門さんが反撃に出ましたよ」古泉「長門さんが右足で周防さんの右足にローキック! これは効いたでしょう!」キョン「一見優雅に見える白鳥も水面下で必死の努力をして泳いでいるというのはよく聞く例え話だが、まさにそんな感じだな。すごいテーブル下の戦いだ」
キョン「周防が左足で長門の左足に踵蹴り! なんて容赦ない痛打!」みくる「ああ、長門さんの塩ラーメンの汁が!」審判「長門有希選手、ペナルティー1点」古泉「ラーメンの汁をこぼした長門さんにペナルティが。これは厳しい戦いになりそうですね」キョン「今の踵蹴りをくらったのはマズかったな。何とかおしかえせないのか、長門!」みくる「あ!」キョン「どうしました、朝比奈さん!?」みくる「長門さん……呪文を唱えてるみたい」長門「ブツブツブツブツブツブツブツブツ」周防「ブツブツブツブツブツブツブツブツ」長門「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ」周防「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ」古泉「周防九曜も、同じく高速で何かを呟いているようですね」キョン「高速言語同士の対決か。いったい何がどうなるんだ」古泉「今のところ変わったことは何も起こっていませんが」
(※↓高速言語をスロー再生)長門「ちょっと、いきなり踵はなくない!?」周防「何いってるのよ。ローキックで人のふくらはぎ蹴ったくせに。ものすごい痛かったわよ。絶対に腫れてるわ、これ」長門「先に足を出してきたのはそっちじゃない。汚いわよ。正々堂々と勝負しなさいよ。それとも、私に負けそうだったから卑怯な手段に出たってことかしら?」周防「別に足を使わなくたって私の勝ちは決まってたけどね。勝利はより確実にするのが合理的でしょ?」長門「なにそれ、勝つためなら何でもするってこと? 手段は選ばないってこと? 漫画の悪役みたい。ばっかじゃない? 今時流行らないのよ、そういうの。あなた友達いないでしょ?」 周防「ふふん。何とでも言いなさいよ。この調子でいけば私の勝ちね。負け犬さん、負けた時の言い訳でも今から考えて……痛い痛い、痛いって! ちょ、信じられない、なんで手つかってるの!?」みくる「長門さんが片手を机の下に伸ばして周防さんのヒザを!」古泉「ヒザの間接をとりにいきましたね。あのサブミッションが決まれば、周防九曜もラーメンどころではありませんよ」審判「周防九曜選手、ペナルティー1点」キョン「周防にもペナルティが入ったぞ! これで点数的には同点だ!」古泉「周防九曜が冷静に長門さんの手をさばきましたね。このへんはさすがというところでしょうか。さあ、これからどういう戦法に出るのか…」キョン「あれは! ダメだ、逃げろ長門!」みくる「ああ、周防さんが両手で長門さんのヒザを!?」
(※↓高速言語をスロー再生)長門「ちょっと、何やってるのよ!? ありえなくない? セクハラで訴えるわよ!」周防「訴えたければ訴えれば? 今ここであなたにとどめをさせられれば文句はないわ!」長門「でも両手で私のヒザを狙ったところで、勝てると思ってるの? 手放しでどうやってラーメンを食べる気? あいにくだけど、私はたとえヒザの間接が外れようとラーメンを食べるのをやめるつもりはないわよ!」 周防「問題はない」キョン「ああ、周防が両手で長門のヒザをつかんだまま顔をドンブリにつっこんだ!」古泉「その手がありましたか! 両手で相手を攻撃しドンブリに顔をつけて直接食べるとは、まさに攻防一体の無敵の構え!」みくる「このままじゃ長門さんが負けちゃう……」みくる「あ、あれは!」キョン「長門も周防と同じ体制 (フェイス in ドンブリ) に入った! しかも周防の腕を外しながら肘をとってアームロックだ!」古泉「これはどちらが勝つか分からない泥沼の状態。最後に勝つのは、ラーメンを先に平らげた方ですね」キョン「頼む、長門勝ってくれ! お前に引きこもられたら世界が困るんだ!」みくる「あ、2人が同時に顔を上げたわ」古泉「いえ、タイムは周防九曜の方がわずかに早かったです」キョン「ってことは、まさか……長門は負けたのか……? 俺はまた朝倉に刺されるのか……?」
審判「タイムアップ。ただいまより審査結果を通知します」キョン「長門、TKOじゃなくて判定負けだったんだ。まだマシだと割り切って、引きこもってくれるなよ…」審判「勝者、長門有希選手!」周防「────む、無念──」 バタッキョン「あれ、勝った…? 周防の方が食べ終わるの早かったんじゃ……」古泉「よく見てください。周防のドンブリを。まだラーメンの汁が残っています。一方長門さんのドンブリには一滴の汁も残っていない」キョン「ということは、この勝負は長門の辛勝ってことか! やったぜ、さすが長門だ!」周防「────な、なぜ───私が──」長門「………答えは簡単。試合前にウォーミングアップとしてあなたはトンコツラーメンを食べてきた。しかし私が食べてきたのはスナック菓子だった」周防「────す、水分量の差で負けたということ────不覚」長門「………長く、苦しい戦いだった…」キョン「長門! よく頑張った! お前こそ真のチャンピオンだ! そして真の宇宙人だ!」長門「………これも、特訓につきあってくれたあなた達のおかげ」キョン「まあ、とりあえず顔をふけ」こうして長門と周防の、長く苦しい胃に負荷をかけまくる戦いは終了した。そして俺は別の意味で胃にダメージをこうむった。しかし長門が引きこもって世界が終了するなんていう事態にならなかったから、まあいいかという心境でもある。キョン「あー、胃が痛い……」古泉「心配性ですね、あなたも。そんなに長門さんが負けるのではないかと心配だったんですか」キョン「性分だから仕方ないさ。もうしばらく脂っこいものは食べたくないし、見たくもない」古泉「長門さんは相変わらず脂っこい物を食べ続けているようですね」キョン「宇宙人の体質なのか胃下垂なのか知らないが、よくあいつもあれで太らないもんだな。俺は見てるだけでダメだ。昼食はプリンで済ませるよ」ハルヒ「ちょっとキョン! あたしのプリン食べたでしょ!?」キョン「ああ、食べた」ハルヒ「楽しみにとっといたのに、なんてことするのよこのバカキョン!」キョン「まあいいじゃないか」ハルヒ「ところで、有希なにかあったの? さっき食堂でラーメン何杯も食べてたけど」キョン「来年の5冠王を狙って奮戦してるんだろ」ハルヒ「なんのことか分からないけど、有希が頑張ってるんだったらSOS団として私たちも一緒に一蓮托生の心でつきあうべきね。キョン、あんたのおごりでラーメン食べに行きましょう!」 キョン「金は出すから勘弁してくれ」ハルヒ「情けないこと言ってないで、さっさと行くわよ」キョン「もうフードバトルはこりごりだよ」 ~完~
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