雄猫だった少女~永久二君之唄~ 分岐その1 ~魔女夜会章~第一話「追跡視線」
「そう。由良さんまで・・・」「どうなってんだかな・・・この学校」俺は教室で阪中と会話をしていた。ハルヒは、何か解らないが休みらしい。長門はいつも通り。朝比奈さんも更におどおどしてる以外はいつも通り。古泉は閉鎖空間とは別のバイトらしい。詳しい事は知らないが。「しかし・・・あまり良い気分じゃないな。二人とも直前に会ってたの俺だし・・・」「そうは言っても仕方ないのね。そうなってるものは」阪中はそう冷静に言う。その言葉に思わず唸る。「ん~運命って皮肉な物だとシミジミ思うな」「何だかご老体みたい」「うるへー」阪中はそこでやんわりと微笑む。「冗談なのね」「冗談なら良いが・・・どうだかな?」「あー信じてないのね?」「当然」俺は意地悪く笑って見せた。阪中は少し不機嫌そうに上目遣いで俺を睨み付けてくる。それを見て、俺は更に笑う。まぁ、これ以上怒らせる訳にもいかない。両手を挙げて降参ポーズを取って謝る。「悪かった悪かった」「そう思ってる?」「思ってます思ってます」「じゃあ、良いのね」そう言って阪中は笑った。つられて俺も笑う。「キョン」そこへ暗い顔をした国木田が曖昧な笑みを浮かべてきた。「どうした、国木田?」「大変だよ。・・・今、ついさっき、鈴木が・・・―――」「―――・・・え?」その言葉に俺と隣に居る阪中はただ黙って立っている事しか出来なかった。意味が解らない。どういう事だ。何故?何かが居る?何が居るって言うんだ。鈴木。教えてくれないか。何故なんだ?何から逃げてたんだ?怖い?何が怖いんだ?ホームルームの時は笑顔だったじゃないか。なのに、どうして? ―――どうして、屋上から飛び降りたんだ・・・? 俺は呆然としながら混乱していく頭を必死に落ち着かせた。そしていくらか深呼吸して国木田の話をまとめる。それによると、こういう話だ。突然、休み時間中に鈴木が発狂した。大声で叫びながら何かから逃げるように、いや、逃げていた。見えない何かからずっと逃げ回っていた。それは他の生徒から見たら異常で異様で気色悪い光景だろう。 『何かが居る。何かがついてくる。背中にべったりくっついてる。イヤだ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!』 そう叫びながらずっと走り回っていたのだから。最後は屋上へと逃げて、そこから身を投げ出したという。ついさっきの話だ。死体は今もそこにあるという。が、警察が来るまで教師総出で生徒の目に晒されないようしているらしく見る事は出来ない。それだけ状態が酷いのだろうか。いずれにせよ、話はだいぶオカルトな方向に進んでいるようだ。ふと予鈴が鳴り、俺は自分の席に着く。その時初めて今日はハルヒが欠席だと気付いた。科目の担当が来て鈴木の件でどうやら教員大慌てで授業どころではないので自習という指示が出た。まぁ、鈴木の件だけではないだろう。このたった三日で人が一人重傷どころかニ人も死んでるんだから。「・・・キョンくん」「なんだ、佐伯」授業始まって早々に佐伯が俺の方に向く。自習とは言ってもほとんど自習してる奴なんておらず、こうやって近くの席の奴と話すのが大抵だ。そして内緒話だと手振りで伝えてくる。俺はそっと耳を近づけた。「実はね・・・鈴木さん、昨日から変だったの」小声でそうぼそりと呟く。「どういう事だ?」「うん・・・何だか、視線を感じるって。どこにいても何してても視線を感じるって」「・・・視線、か」「きっと疲れてた所に柳本さんと由良さんの事で何か精神に異常が起きて幻を感じてたんじゃないかなって私は思うの」「あぁ、あり得るな」疲労、精神的ショック。重なればそれなりに体に負荷が掛かる。と、なれば精神が狂って幻覚を感じる事だってあり得る。―――しかし・・・”もしも”だ。「佐伯。もしも、本当に何処からか視線が向けられてたとしたらどうする?」「・・・解らない」「この事件はオカルトを含み過ぎているらしい」「怖いね・・・」「どうでも良いが・・・昨日、妹にぶたれた頭が痛い」「クスッ。どうしてぶたれたの?」「そうだ。そうやって笑え。嫌な事は笑って忘れるのが一番だ。忘れられなくても笑えば自然と力が出るだろ?」「え・・・うん、そうだね。ありがとう」「どういたしまして」その後、俺達は会話をしてこの自習時間を過ごした。結果としてやはり放課となり、其々が各々の行動を取って下校した。SOS団に俺は向かうと、「おや、長門と朝比奈さん。何をしてるんですか?」「どうやって開けたら良いんだろうって・・・」「鍵は・・・どうしたんですか?」「それが、昨日古泉くんが持って帰っちゃったみたいで・・・」「あちゃ~・・・」これじゃ部室は使えないな。やれやれ。「長門、開けられないか?」「開けれる。でも、やる事がない」「そう言われるとそうだな・・・ん~・・・今日は無しで良いか?」「・・・そう」「そうですね」「じゃあ、今日は解散ですね。では、長門、朝比奈さん、また明日」「ん。そう」「はい、またねキョンくん」さて、その後例年通り遭遇した国木田と谷口を引き連れて俺は学校を出る事になった。何でこいつらと俺はトリオ組んでるんだろうか。良いけどさ。等と考えながら歩いていると視界に阪中が映った。その姿は何となく暗かった。いや、まぁ学校の人間全員が何か暗いんだけどさ。「阪中、俺達と一緒に帰らないか?」とりあえず誘ってみる。するとパーッと笑顔を咲かせ、「良いの? ありがとう。一人じゃ心細かったのね」と言ってきた。というわけで珍しい組み合わせで下校する俺達。歩きながら、谷口の暴走を俺と国木田が止め、それを見て阪中が笑う。何となく普通な感じの帰路だ。うん、素晴らしいよ、普通っていうのは。やがて一際大きな家の前に着くとそこで阪中は足をぴたりと止める。「じゃあ、私の家ここだからバイバイなのね」「ん。解った」「じゃ、また明日な」「ごきげんよう、阪中さん」「三人ともまたなのね」ゴゴゴ、とでかい門が自動で開く。阪中はそこを通って家の敷地へと入る。ふとくるりと振り返りこれまた自動で閉まっていく門の隙間からニッコリと手を振ってきた。俺達はそれに応えて手を振り返した。「さて、どうすっかな。またカラオケでも行くか」谷口が呑気に言う。「キョンのデスボイスを聞きにかい?」「解ってるね、国木田。その通りだぜ。あれはしびれるぜ、マジで」「・・・やれやれ」そんなわけで俺達はカラオケに行くことになった。ちなみに俺はほとんどV系に費やして、谷口はアニソン、国木田は演歌をメインとしている。・・・なんだ、このカオスメンバーは。 「WAWAWAワーンダーモモモモーイ♪」 しかも、最初がよりにもよってお前か、谷口!! <SIDE SAKANAKA>さっきから家の中の空気が違うのね。私はようやくそれに気付いた。この広い家の何処かからかただならぬ気配が揺れていた。何なのね・・・?私は疑問に思いながらも詮索をしないようにした。そして、傍に居るルソーをただ撫でていた。ルソーも何かの気配を感じるのか微妙に唸っているのね。それを宥める為に撫でるのね。「・・・あれ?」窓が開いている事に気付いた。私が開けたのか、それとも。・・・ふと私は上から何かを感じて見上げた。「―――!!」そして、そこに居るそれに気付いたのね。天井に張り付いている人型。と、同時にそれは私に飛び掛ってきた。慌ててその場から離れる。長い猫の爪、猫の瞳。それと同時に愛らしい少女の容姿を持ち合わせた何か。顔は髪の毛で見えない。ただ、ゆらりと揺れる髪の毛の隙間からにんまりと笑う口が見える。化け物?女の子?猫?何かは解らないのね。「ワンワン!!」ルソーが威嚇をするべく吠える。その吠える声に相手はびくりと身を震わせた。「・・・ルソー・・・?」相手がか細い声でその名を呟いた。どうやらルソーを知っているらしいのね。そして、ルソーの姿を確認するや否や見たこともない瞬発力で窓から何処かへと立ち去った。私はそれをただただ呆然と見送るしかなかったのね。警察には、怖くて電話できなかったのね。 <SIDE SAIKI>―――数時間後。感じる。視線を感じる。嫌な事があったら笑えと言うけど、笑う暇は無い。私は明らかに今、逃げているんだから。視線から。鈴木さんも感じてであろう視線から。「はぁ・・・はぁ・・・!」どうしたら良い?どうしたら良い?相手は追いかけてくる。追いかけてくる。きっと殺す為に。殺す為に。私を消す為に。消す為に。あと少し走れば人通りが多い道に出る。そこまで出れば私は確実に逃げられる、はず。背中の気配が近く、近く迫っていく。遠くから近くへ、だんだんと近くへ。やがてすぐ後ろにまで迫ってきていた。呼吸も難しい。体内に乳酸が溜まっている。酸素を体が欲している。けど、いくら呼吸しても足りない。ずっと走ってるから。だって止まれないから。「はぁ・・・はぁ・・・!!」あと少し。あと少し。あと少―――!「鬼ごっこは終わりだよ?ご主人様を惑わす人は許さないからね」ぐいっ、と体が思いっきり引っ張られ、壁に叩きつけられる。「!!」 ―――ずるり、 と腕の皮が向ける感触。それだけではなかった。 ―――ぶちぶちぶちぶちぶちぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅ、ぐちゃ。 腕の血管が、神経が、骨が、筋肉が、腱が引き千切られ片腕を失った。「いやっ・・・いたい!いたいよー!!」叫びながら、理解した。鈴木さんが何故飛び降りて死んだのか。どちらにせよ死ぬからだ。人前では殺されなくても、一人になれば必ず死ぬと。殺されるか。それとも自ら死ぬか。その選択肢で彼女は自ら死ぬことを選んだんだと。私はどうしよう。なんて事を考えながら、痛みと流れ出る血のせいで薄れていく意識を保つ事も出来ず、その場で私は目を閉じた。次に眼を開けたら、この世かあの世か。それを疑問にしながら。そして、近付く足音を聞きながら。・・・・・・・・・。・・・・・・・。・・・・・。・・・。
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