長門有希の人望?
【『涼宮ハルヒの分裂』最終ページ以降】 長門有希の家に急行するSOS団一同。そこで彼らが見たものは……!!
「有希! 具合はどう!?」 『鍵は開いている』とインターホンで言われ、ノックもせずに扉を開け放った涼宮ハルヒは、ずかずかと奥へ向かう。「おいハルヒ、長門は病人だぞ? もうちょっと静かにだな……」 ハルヒに追いついたキョンは絶句する。ハルヒは立ち尽くしていたのだ、眼前の光景に。 ――恐ろしく量の多い真っ黒なモップが、そこにあった。「――――」「なんで、お前が、ここにいる?」 違った。周防九曜が、そこにいた。「――――看病――――」 枕元に正座した九曜が、身体を起こした有希にお粥を食べさせていた。「――ふー、ふー――――あーん――――」「あーん……」「おいしい――――?」「……薄く効かせた昆布茶が絶妙。おいしい。」「――――あなたの――――声は――――綺麗ね――――」「……そう。」 無表情にお粥を食べさせられている有希の顔を逆に向ける手。「長門さんの世話役はわたしです。部外者は手出し無用に願いたいですね。」 喜緑江美里がわかめうどんを構えていた。「ふー、ふー。はい、長門さん、あーん。」「あーん……」「おいしいですか?」「……わかめととろろ昆布の配分が絶妙。おいしい。」「わたしの得意料理ですから。配分も試行錯誤の成果です。」 穏やかな表情ながら、勝ち誇った目で九曜を見やる江美里。「――ふー、ふー。」 有希の世話焼きバトルは続く。(今のわたしは……両手に花……)あのー、長門さん? 熱のせいか、思考が変ですよ?(今のは妄言。忘れて。)「あら、わたしのことを忘れてもらっては困るわ。長門さんの世話はわたしが見ることと決まってるんだから。」 その声を聞き、キョンの背筋に冷たいものが走った。振り返ると、朝倉涼子が土鍋を持って立っていた。 涼子はそのまま有希の枕元に歩み寄ると、土鍋の蓋を開けた。土鍋の中身はおでん。厚揚げ、大根、卵……「ふー、ふー。はい、長門さん、あーん。」「……あーん。」「おいしい?」「……大根の隠し包丁が絶妙。味が染みている。おいしい。」「よかった。」 心底幸せそうな笑顔で、有希を見つめる涼子。「――ふー、ふー。」「ふー、ふー。」「ふー、ふー。」『はい、あーん。』「……あーん。」
「……有希、女のコにモテモテね。」 ハルヒと朝比奈みくるは、眼前の光景に圧倒されていた。「有希ったら、いつも通りの無表情のはずなのに、なんか、こう、雰囲気が違うのよね。」「長門さん、何だか嬉しそうに見えます……」「あんな雰囲気の有希、見たことないわ。……何なのかしら、この『敗北感』は。」「……長門さんを取られちゃったから、ですか?」「……かもね。あたしの前では、あんな雰囲気、見せてくれないし……」「……涼宮さん、もしかして妬いてます?」「ちょ! なんてこと言うのよ、みくるちゃん!」「ふふふ、顔真っ赤ですよ?」「むぐぐぐ……」 みくるはクスクスと笑いながら、「でも、すごく様になってますよね、長門さん。女の子を周りに侍らしてる姿が。」「有希って、基本、儚げな少女なんだけど、横顔とか凛々しいのよね。隣町の歌劇団の男役とか似合いそう。」「かっちりしたスーツとか、男物の服が似合いそうですよね。」「なぁに、みくるちゃん。もしかして有希にお姫様抱っことかされたいわけ?」「ふえぇぇっ!? ち、違いますぅ~。」 ハルヒはおもむろに、みくるに抱き付いた。「わっ、わっ、す、涼宮さん!?」「……勘違いしないでよね。別に、急に寂しくなったとかそんなんじゃないんだから。何となくこうしたくなっただけなんだからね。」(急に人恋しくなったんですね、涼宮さん……)
有希は、3人から食べさせられるものを全て平らげた。「――食後は――寝る……」 九曜が有希の身体を横たえながら、膝枕に誘う。「栄養補給と十分な休息が肝要です。」 更に江美里が有希に腕枕をする。「良い夢見てね。」 そして涼子が添い寝をする。「……って、何ちゃっかり、膝枕と腕枕も堪能してるんですか、あなたは。」「――おいしい――ところを――持っていかれた……」 江美里と九曜から突っ込まれる涼子。「役得、役得♪」 九曜の膝枕と、江美里の腕枕の感触を堪能しつつ、有希の髪を撫でる涼子。「撫でられるのは……嫌いじゃない。」
「みくるちゃんの髪は、ふわふわよね~。」「あひぃん……髪を撫でながら、耳元で囁かないでくださいぃ~。」
「……とりあえず、容態は大丈夫そうだな。」「そのようですね。」 キョンと古泉一樹は、顔を見合わせた。いちゃつく宇宙人娘達と、その様子に触発されたのか、やたらと密着する現代人×未来人の光景に当てられていた。「いやはや、長門さん有事の際は、誰も彼もがこうして集って、世話を焼こうという気になるのですね。これもある意味、長門さんの人望の厚さの現れと言えるかもしれません。」 「……なあ、古泉。帰って良いか?」「そうですね。僕らにできることは、何もなさそうです。」 2人は揃って肩をすくめた。『やれやれ。』
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