放課後ジョーバ倶楽部
あたしは今、激しく腰を振っています。……えーと。変なことを想像した、そこのあなた。減点です。が、今回は見逃してあげます。傍から見たら、変な光景には間違いありませんからね。なぜなら、あたしの上で涼宮さんが、「そう、そうよ、みくるちゃん! その調子! ああ、もっと、もっと激しく突き上げるの!」などと叫んでるんですから。「ふえぇぇぇぇん……!」何でこんなことになったんだろ……思い返してみれば、きっかけはあの時だったのかもしれません。このまま現実の時間軸にいると、あたしまでおかしな気分になっちゃいそうなので、ちょっと『回想』と言う名の現実逃避の旅に出てみましょう。時は、クリスマス。部室で行われたクリスマスパーティーに遡ります。…………(腰が痛くなってきたなぁ。ちょっと動きに捻りを加えてみよう……えいっ、えいっ!)………(わお、すごい反応……)………クリスマスといえば、サンタクロース、トナカイ、クリスマスツリー。これらはどれも、この時間平面の頃には相当記号化され、もはや元の意味も形も失っていますが、そんな記号が大好きなのが、涼宮さんです。クリスマスパーティに欠かかすことはありません。 しかし、極めてピンポイントに普遍性を嫌うのが彼女のアイデンティティ。普通に『普通の記号』を用意したりなどしませんでした。常識の斜め39.81°上をラムジェットエンジンで亜音速で飛び去っていくような彼女の理論で、クリスマスパーティーとは! 身体で! 祭りを表現するものである!と定義されました。早い話が仮装、コスプレです。で……「こら、ハルヒ! お前、朝比奈さんに何て格好させやがる!!」「何よ、あんたには、この、『セクシー』なみくるちゃんの魅力が伝わんない訳?」赤い服の涼宮さん@サンタクロース。「……」緑の服……というか、仮装というか……そう、『装置』ですね。この時間平面で毎年年末に放送される番組の、とある出演者が身に纏うような、毎年ギミックのインフレーションを起こしていきそうな服を着た長門さん@クリスマスツリー。 そして……「ふえええぇぇぇ……」なぜか際どい露出の服に、髪飾りと首に鈴を着けたあたし@トナカイ。キョン君と古泉君は、普段通りの制服です。「とりあえず、服装については、ツッコむのはやめた。だがな、一つだけ言わせてもらう!」キョン君が涼宮さんの両手を掴みながら言いました。「何でお前は、朝比奈さんを四つん這いにさせて、その上に跨ってるんだ!」トナカイの格好をさせられたあたしは、部室の床に四つん這いにさせられて、涼宮さんを乗せて歩かされています。「決まってるじゃない。サンタクロースとトナカイは、セットでお得なコンビでしょ!」あのー、涼宮さん。確かにサンタクロースとトナカイはセットの記号ですけど、それ、多分こんな形じゃないと思います。直接乗るのは、馬だったかと……「トナカイは直接乗るんじゃなくて、そりを引かせるものだ!」しかし涼宮さんは、ちっちっち、と人差し指を顔の前で振って、「甘いわね、キョン。甘いも甘い、大甘よ! そんなんだから、不思議のひとつも見つけられないのよ!」そう言って涼宮さんは、あたしのお尻をパンと叩きました。……痛いです。「我がSOS団員たる者、『サンタクロースはトナカイが引くそりに乗ってやって来る』、まずはこんな固定観念から疑って掛かってしかるべきじゃないの!」「いいから降りろって! 朝比奈さんがかわいそうだろうが!」キョン君が涼宮さんを引き剥がしにかかりますが、涼宮さんはあたしの腰を太ももでがっちりホールドして離しません。……すごく力強いんですけど。「ふええぇぇ……あたしの上で暴れないでください~~~」涼宮さんが動くたびに、太ももの柔らかい感触を強く感じてしまって、もう、あたし、どうかなっちゃいそうです。「こら、アホキョン! 手ぇ離しなさいよっ!」「お前が降りれば済む話だろうがっ! 朝比奈さんに跨るなんて、そんなうらやま……じゃない、けしからん話があるか!」「あによ、結局あんたが乗りたいだけじゃないの! このエロキョン!」「ちょ、おま! 誤解を招くようなことを言うんじゃねえ!」「誤解じゃなくて、本音の間違いじゃないの~~~?」「ひぃぃ~~やめてください~~~~」あたしは必死で腰を振ってアピールしました。乗っかられたまま暴れられてはたまりません。でも、これがいけなかったようです。「おうっ!?」突然、涼宮さんが素っ頓狂な声を上げて硬直しました。あれ? 別に、首の鈴の音に驚いたわけじゃないですよね?「……」しばらく涼宮さんはもじもじしていましたが、おもむろにグリグリと身体を押し付けてきました。「わっ、わっ……」その体勢で、こう、ぐりぐりっとしたら、今あたしに当たってるのはつまり……「……ふむ。みくるちゃん、ちょっと動いてみて。」「ふえ?」いぶかしがったあたしは、涼宮さんの表情を窺おうと、振り向きました。バランスを取るために、体が動きます。「んっ……」……あのー、涼宮さん? あなたは何故、顔を赤らめていらっしゃるのでしょうか。その後もしばらく挙動不審だった涼宮さんは、やがてキョン君によって、あたしから降ろされました。なぜか降ろされたときに、涼宮さんはへたり込んでしまいましたが。 その後は盛大にクリスマスパーティーと相成ったわけですが、涼宮さんは心の一部をどこか遠くに飛ばしたかのように、どこか精彩を欠いていたようでした。今にして思えばあの時、何かを掴んだんでしょうね。時は流れて、今の時間軸に戻ります。つい先ほどのことです。あたしと長門さんしかいなかった部室に、涼宮さんがやってきました。「こんにちは、涼宮さん。今、お茶を用意しますね。」団長席に座った彼女は、お茶をぐいっと飲み干すと、あたしをじーっと見つめてきました。「あ、あの、涼宮さん……その、あたし、何か変ですか? そんなじーっと見られると、照れちゃいます……」涼宮さんは、あたしの身体の一部を凝視しているようでした。「……みくるちゃん。脇腹って、大事よね。」「ふぇ!?」いきなり何の話でせう!?「こないだ、電器屋行ったのよ、電器屋。梅田のでっかい電器屋。健康器具コーナーにさ、いろんな商品が置いてあって、試せるようになってるわけよ。で、そこに、最近流行りの器械があったの。」 最近流行りの……? 何だろう。「ジョーバよ、ジョーバ。本物の乗馬みたいな動きで、エクササイズができる、ってやつ。」ああ、あれですか。TVショッピングで良く見掛けますね。「乗ってるだけでダイエットできる、って謳い文句だけど、実際のところはどうだか。怪しいものね。」まあ、宣伝文句というものは、『嘘、大袈裟、紛らわしい』の宝庫ですからね。「そこであたしは考えたわけよ。この動き、乗ってるほうよりも、乗せるほうで実践した方が、断然効果が高いんじゃないかって。」……そりゃあ、人間と言う錘を乗せて腰を振るほうが、ずっと疲れるでしょうね。「ときに、みくるちゃん。あんた、最近ちょっとばかりふくよかになったような気がするのは、あたしの気のせいかしら?」う゛……実はちょっとお菓子を食べ過ぎて、最近ちょっと、以前よりもふっくらしてるかもです。「特に、脇腹とか?」ぐ……鋭いです。「そこで、団員の健康管理は団長の務め! 今からみくるちゃんには、簡単お手軽エクササイズを実施します!」え……えええ!?「さ、今からみくるちゃんはジョーバよ、ジョーバ! ウェイトには、団長たるこのあたしが、直々になってあげるわ!」あたしは背後に回った涼宮さんに、力強く両肩を掴まれました。「さあ、そこの机に手を付いて背筋を伸ばして。」ううう……腕力では逆らいようが無いですね……こ、こうですか~?「そうそう。それで、もうちょっと、こう、腰を後ろに突き出して……」言いながら、涼宮さんはあたしの腰を両手で掴むと、後ろに引っ張りました。「わわわ、変なところ触らないでください~」「で、あたしが騎乗……んんっ、おほん。『錘』として跨る、と。」涼宮さんはあたしに跨ると、両脚であたしの腰をがっちりとホールドしました。「さあ、まずは基本の動き。並早足で歩く馬の動きを意識して、腰を振ります!」こうして、涼宮騎手による、あたしの調教が始まったのでした……以上、回想おわり。その後涼宮さんの調教は熱を帯びてきて……「そう、そうよ、みくるちゃん、そこ! もっと激しく、えぐるように突くの!」……今に至ります。傍から見たら……『イケナイ』事をしてるようにしか見えませんよね。「Oh! Ah! Yeah!」……何だか、言語まで変わってるような気がするのは、気のせいだと思いたいです。ところであたしも、もうへとへとです。激しすぎます。この『エクササイズ』は、いつまで続ければいいんでしょうか。「もうすぐ、もうすぐよ、みくるちゃん! もうすぐ、来る、から……っ!」えーと。言いたいことは分かりました。その……あたしも女ですから。でも、その……他人の身体を使って『そーゆーこと』をするのは、いかがなものかと思います。「んっ……! んっ……! ん゛~~~~~~~~~~~~~っ!!」涼宮さんが一際強く、あたしの腰を太ももで挟み込みました。そして、あたしの背中にくたっともたれかかってきました。「はぁ……はぁ……どう? みくるちゃん。脇腹にダイレクトに効いたでしょ。」ええ、とっても。もう腰が立ちません。「最後にあたしが脇腹をしっかり締め上げてあげたからね。明日からくびれ美人間違いなしよ!」……涼宮さんも、上で相当『エクササイズ』をしたから、さぞ鍛えられたんでしょうね。「ふぅ……カ・イ・カ・ン。」耳元でそんなに色っぽく囁かないでください。腰が抜けそうです。「エクササイズは、継続が大切なの。これからは毎日、部活後にやりましょ。」毎日ですか。……持つかなぁ、あたしの身体……。あと、あんまりヤりすぎて、腹筋が六つに割れても、いやだなぁ。お嫁にいけなくなっちゃいそう。そんなことを考えならがら、あたしが涼宮さんを背中に乗せたまま、机の上でぐったりしていると、横で一部始終を本を読みながら観察していたであろう長門さんが、無言で近寄ってきました。 ……ああ、痛い、視線が、0K(ケルビン)の視線が痛いよぅ。そんな目で見ないでぇ……長門さんは、恒星の光の届かない深宇宙のような、どこまでも冷たく黒い瞳であたしと涼宮さんを交互に見つめると、ぼそりと呟きました。「……けだもの。」……馬だけに、ですか。
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