何でも、煙草を吸っているといきなり俺の目つきが変わって野獣のように咆哮し、そして暴れだした。ハルヒのバカ力で押さえつけられてもまだ抵抗していたがいきなり糸が切れた人形のように気絶した。
と感慨にふけっていると、ハルヒが、「これはSOS団始まって以来のSF的事件よ!」と言い出した。
なるほど。こいつの目の前で不思議現象を演じてしまった俺はこいつのSF的興味をかきたててしまったというわけか。これはいけないかもしれない。
こいつの中のSF的なものなんて存在しないという常識が覆ったらどうなるんだ?地球上のまちを宇宙人が闊歩するような世の中の到来か?勘弁してくれ。
「とりあえずこの煙草を調べないとね」
といい一本取り出して揉み解す。するとタバコの葉の中に小さな赤い結晶のようなものが出てきた。
なんだこれ?
「何これ、古泉君何か心当たりある?」団長様はニヤケを指名した。何故だ?
「突然のご指名ですね。何でしょう?ちょっと思い当たる節はありませんね。芥子でしょうか?」
思い当たらず苦しみながらも答えを出す。こいつはそういう奴だ。当然、苦笑交じりのあのニヤケ顔である。
「有希は?」
「わからない」
こいつは正直だ。答えがわからないときは候補すら出さない。
「でもこれが原因であることは間違いなさそうね。何しろほかに変なもの入ってないもの」
妥当な判断だ。こういう判断をするときのハルヒは信頼できる。むちゃくちゃしないハルヒだ。ハルヒがどれだけこの事件の解決に意欲を燃やしているのかがわかる。本質的には頼れるいい奴なのだ。
するとあれか?この赤い結晶は向精神薬みたいなもので、ハイになった俺が暴れだしたと?
「そうよ。だけど問題はそんなことじゃない。こんなことを誰がしたのかってことよ」
うーん確かにそれが問題だ。誰がやったか次第ではハルヒの精神は乱れて閉鎖空間を大増産させることになる。
古泉も穏便に解決したいと思っていたのだろうがハルヒは事件性を強める証拠を発見してしまった。
団員に毒牙が向いた際のハルヒのストレスというのは経験則的に大きなものであるということを知っている。誰かの悪意が働いているのは明白だ。
しかし、その誰かがわからない。警察に届け出ようかということになりかけたが、そんなことをされては俺の喫煙がばれて停学になってしまう。それは困る。
結局わからないまま時間が過ぎ、そのまま解散となった。今日も夕日がきれいだ。昨日のように。
隙を見て古泉に話しかける。
「閉鎖空間は?」
「発生していません」
「何?」
「今回の出来事はどうやら我々の範疇を越えているらしいです。長門さんはどこか別の星の有機生命体の仕業ではないかと推測する始末です」
「それじゃあ何か?長門の所属する情報何とか以外の星の連中が煙草に向精神薬を?」
「そうです」
「馬鹿な」
こういう問答をしていると。後ろから無機質な声で
「でもそれしか可能性はない。あの赤い結晶は地球上では生育しえない植物の実」
という説明が入る。長門である。
でも宇宙人の仕業って決め付けるのは早計じゃないか?
うーむ。とにかく帰ろう。ここで話し合っても埒が明かない。
俺はハルヒとともに家路についた。昨日と同じように。
「でも何なのかしらね?喫煙者がウザイからってあんなもの仕込まなくたっていいのに」それはないと思うぞJTが喫煙者を恨んでどうする。
「……!」
ハルヒは驚きのような声にならない声を発した。
おい、どうしたんだ?
ハルヒの視線の先にいた者。それは、
俺だった。
「よう、キョン、ハルヒ。俺はジョン、ジョンスミスだ」
言っている意味がわからない。ジョンは俺だ。しかしハルヒは混乱している。
「ジョン?あのときの?でもキョン?意味がわからない!」
これほどまでに取り乱すとは。確かに、あのジョンはハルヒの思想の一端を担っているが、相当な度胸を持つ女だ。
「とにかく上がっていけ。我々は待っていたのだ。歓迎するぞ」
しかしジョンを名乗る男はかまわず、勝手に話を進める。
アパートの一室に通された。昭和三十年代にタイムスリップしたかのようだ。間取りは四帖一間の和室風呂もトイレもない。今にも崩れそうなぼろアパートだ。
部屋の中央にぽつんとちゃぶ台が備え付けられている。
で、なんだ?
「教えてやろう」
と、次の瞬間!
ジョンの体は2Mほどの怪獣のような姿になってではないか!?
「実は1967年から我々は地球侵略計画を練っていたのだ。そしてお前が吸った煙草も私の同志が仕込んだものだったのだよ」
何?
「ちょっとどういうことよ!?説明しなさいよ!事と次第によっては容赦しないわよ!」
ハルヒは激怒した。
「いやーすばらしい結果だね。これを使えば、人類はたちどころに反目しあい自滅するよ。おろかな人類を絶滅させるにはもう一押し必要なんだが、これはそのもう一押しになるね。
確かに君の大事な人を実験材料にしたのはすまなかった。だが、君たちはもう用済みなのだ、よくも考えてみろ。人類のエゴを」
この場合の君たちは人類全体を指すのか。人類代表を俺たちに押し付けるとはなんとも人類全体に無礼な話だ。
「生活排水は母なる海を汚し、汚した海の上に橋をかけて縦横にまたぎ、そこに生活する人々のごみは造成地という形となってその領域を増していく。地球は力を失い力なき生物は滅ぶ。こんなことが許されると思うかね?」
怪獣はこう話した確かに一理あるがお前たち侵略者に言われる筋合いはないな。
「そんなの詭弁ね。それにあなたたちは何様のつもり?人の星に押しかけ問答して、挙句住んでる連中が馬鹿だから粛清するって事でしょう!?それこそエゴね!聞いてあきれるわ!」
ハルヒが啖呵を切る。当然だ。こんなところで消されてたまるか!
「もとよりそのつもりだ!君たちには消えてもらおう!」
そう怪獣は啖呵を切り返した見る見るうちに巨大化する!なんということだ!巨大化なんて反則だぞ!
「残念だったわね!」
ハルヒなに言ってるんだ!
「私のキョンに手を出したことを後悔させてあげる!」
とハルヒが叫ぶと世界が暗転した。そして明転。
するとなんと閉鎖空間のなかにあの巨大化した怪獣と俺たちがいるじゃないか!どういうことだ!
「ごめんね。あんたまで巻き込んで」
今更謝られても遅い。今のこの状況もついても、俺の普段の苦労もについても。
後ろからいやに耳につく声が聞こえた。
「いやー、いきなりの呼び出しとはね。災難ですよ」
この声は古泉!?何故ここにいる!?
「私だけじゃないですよ。みんないます」
小さい影と悩ましい曲線の影が映し出され向こうから歩いてくる。
長門!朝比奈さんまで!?どうして!?
「ばれてしまいましたか涼宮さん」
古泉の観念した声が聞こえる。ああ、こいつは自分の能力に気がついたのだ。そして意図的に怪獣をこの中に呼び込んだ。一瞬の判断だっただろう。でもこいつはやってのけた。神になっていたのだ。
ああ、世界終わったな。この怪獣に滅ぼされるまでもなく終わったな。そんな諦めの境地にも似た覚悟が俺の中にあった。
「この世界は滅ぼさせない!肝に銘じなさい地球にはSOS団がいるのよ!」
とハルヒが絶叫する。テンションも最高潮のようだ。
すると神人が現れた。こいつまさか神人と怪獣を対決させる気なんじゃ……
「みんな手をつないで!有希は情報処理能力を!みくるちゃんは時間制御能力を!古泉君は神人狩りの能力を!そしてキョン!あんたはみんなの力を増幅して!さあ、あの神人に送るわよ!」
なんとなくしか意味がわからないが、この5人が力をあわせて始めてあの神人は戦えるんだな?
「そういうこと!つべこべ言わずにやりなさい!」
まったく人使いの荒い神様だ……
ささやきえいしょういのりそして、ねんじろ!
行け!神人!
勝負は一瞬だった。まるで剣豪と剣豪の戦いのように。
全速力で交錯し飛び掛る双方。あの地球侵略を宣言した怪獣はもろくも崩れ去った。
元の世界に戻った。何もなかったかのように静かだった。
赤い夕日に照らされてハルヒがきれいに見えた。ただそう思った。
了
エピローグ
地球を侵略しようとしたあの宇宙人は消えたが、ハルヒという新しい脅威がいる。
しかし、ハルヒは脅威にはならなかった。
「私はこの世界が好き。だからこの世界の人たちに私の力を分けてあげたいの」といい、自分の能力を全世界へ分割したためだ。こうしてハルヒはその能力を放棄した。
ハルヒの能力がほぼなくなったのでこの高校に用のなくなったほかの団員たちも自分の意思でこの高校やこの近辺に残っている。よかった。まさしく大団円だ。
そして、俺はハルヒと付き合う事になった。どうやらお互い気がついていなかったがずいぶん前から相思相愛だったらしい。鈍感のきわみとは我ながら情けない。
「ちょっとキョン!煙草くさいんだけど!」
あれから俺はまだ煙草をやめられていない。