クラスメイト 第1~3章
第一章
俺はいつもの様に家に帰る途中だった。住宅街の中にある普通の交差点。路地に毛の生えた程度の、やっと歩道がある程度の道で、注意していないとあやうく車に引かれるような所だった。事件はその交差点で起きた。そういえば、今日は近所で古くなった家を取り壊す工事があったな。俺がいつもの様につまらん3流漫才師でも思いつかないようなどうでもいい事を考えていると、後ろから自転車が迫ってきた。しかし、自転車は余程慌てていたのだろう。交差点をそのまま通り過ぎようとした。あぶない。なんとも不思議な位のタイミングで、ダンプカーが交差点に入ろうとしていた。俺は咄嗟にその自転車に飛び掛り、そこに乗っていた奴を抱きかかえるようにして地面に転がった。間一髪。髪の毛がタイヤに巻き込まれる感覚があった。あと数センチずれていたら、チャリンコの主共々葬り去られていたかもしれない。「大丈夫ですか」まあ当然っちゃ当然だが、その当人に聞いてみた。「あっ・・・」一瞬見せた泣き顔。北高の制服。どこかで見た事のある・・・いや、毎日見ている顔だった。割とハルヒに近付きたがり、SOS団への相談者第二号でもある、クラスメイトの阪中だった。今は事故に遭いそうになったショックと、俺が助けた事による安心感にまみれているのか、ただ泣いているばかりだった。しばらくその場にそのまま二人で転がっていたが、いつまでもそうしている訳にはいかないので、俺は阪中を起こすと自転車を立て直してやった。「ありがとう・・・」涙を拭い取り、精一杯の微笑を浮かべて阪中は去って行った。正直人を助けたという事もあるが、あの表情にはグッときたね。朝比奈さん程ではないが、素直で純粋な表情。ああやって正常で可愛く美しい女子が世の中には居る事を考えると、何故俺はあの時ハルヒに声を掛けちまったんだろうなと、改めて思わさせられる。まあいい。なっちまったもんはなっちまったんだからしょうがないね。非常識な事にもそれなりに慣れてきたしな。ただ、普通の高校生活を楽しみたいという想いも無くなった訳ではなかったが。
翌日、朝起きて学校に登校すると、谷口の下品な微笑が姿を現した。こいつの微笑ほどこの世でどうでもいいものはないね。逆にどこかの弁舌野郎みたいな不思議な位に綺麗な微笑も気持ち悪いからやめて貰いたいが。特にこいつとあらば尚更だ。しかし現実には下品な微笑で、俺に対してされたくもない賞賛の言葉を投げかけたのだった。「キョン、お前昨日はよくやったな」何がだ。「知らないのかい?もうクラス中の噂になってるよ」国木田、お前の言いたいこともよく分からん。すると、女子の取り巻きを引き連れた阪中が俺のところへやってきた。そういう事か。「昨日は、本当にありがとう!」阪中は頬をほんのりピンク色に染めながら俺に言った。いいって。あれは助けない方がどうかしてると思うぜ。すると、横目でウインクをしてから退散。そこまでサービスしてくれなくてもいいのにな。流石に俺にまで取り巻きが出来てるもんだから、俺の後ろに常に導火線に火を付けた状態で放置されたダイナマイトの如く座っている団長様も、全くの無口という訳ではなかった。「あんた、何やったの」昨日交差点を自転車で突っ切って事故に遭いそうになった阪中を助けたんだよ。「ふーん。あんたにしては偉いのね。それよりも今度の日曜日、公園の方までSOS団制作の映画の第二段を撮りに行くわよ。準備は怠らない事!」そんな急に言われてもな。正直俺にも都合ってもんがあるぜ。万一日曜日に用事があったらどうする。「折角忘れそうなあんたの為に言ってやってるのにそんな言い方しないの。あと団長命令には従いなさい!」へいへい。わーった、わーったから朝から言わんでもいいだろうに。
その日は俺のところに冷やかしや無駄な褒め言葉が来た以外は、本当につまらん位に何も起きずに過ぎていった。正直不思議を求めるハルヒの気持ちも分からんでもないね。無論世界がひっくり返るような迷惑な行為には同意しかねるが。そして俺は、いつものように部室の扉を開けたのだった。そうじがあって遅れるハルヒ以外は全員顔を揃えている。長門の方を見て身の安全を確認してから、古泉の不自然な位綺麗過ぎるスマイルをスルーしたい所だったが、残念ながらそうはいかなかった。と言っても、俺は普段通りにこいつのどうしようもない位弱くて意味の無いボードゲームにつき合わされてるだけなのだが。「それにしても、涼宮さんと出会ってからいろいろな事がありましたね」全く持ってその通りだが、あと1メートルは離れろ。「これは失礼しました。しかし今まで起こった事には、全て涼宮さんの直接的な力か我々の背景組織が関わっていますね」それはそうだ。突然そこ等辺を歩いてる奴の目からビームが出たりしたら、俺のほうがビビるぜ。正直見えない所で俺達を餌に変な対立とかされてるのは許しがたいが、そこいらの市民に危害が加わらないだけマシなのかもな。「そう言って頂けると、僕も機関の人間としては幸いです。」そりゃそうだろうな。でも本心としてみりゃ、機関も思念体も変な未来人の集団も無くなって、俺達の周りだけで不思議な事が起きたりしてる位でいいと思うんだけどな。大体ハルヒが望んだ訳でもないのに何でそんな俺達に危害を加えるような組織が存在してるんだ?「それはごもっともな意見ですね。しかし涼宮さんはご存知の通り、実にエキセントリックな言動をされていく方です。そのまま僕達の周りだけですまされる訳にもいきませんし、神人狩りの要員も必要な訳です。敵対機関は涼宮さんが望まれた訳ではありませんが、否定された訳でもありません。どの道不思議な事があるなら、敵も居るだろう、という考えを涼宮さんはお持ちなのでしょう」それは困ったな。でもハルヒを上手く説得すれば消えるんじゃないのか。「さあ、どうでしょう。僕の任務は監視ですから、それはあなたが適任のはずですよ」結局俺任せか。俺がミスしたらどうなるんだ。「それは恐らくないでしょう。涼宮さんが願うならば、決してあなたが失敗するような事はないはずです。以前長門さんが涼宮さんの力を借りて世界を改変された時も、結果としては元に戻った。あれはあなたの願いであり、更には改変前の涼宮さんの願いでもあった。ですから決して時空が捻じ曲げられる事はなかったのです」俺はまた長門が暴走しちまった時の事を思い出していた。俺はあの時、一瞬とはいえ長門の造った時空もいいとは思った。しかし、俺はこっちの時空の方が楽しかったのだ。だから元に戻そうと思った。当然判断したのは俺だけで、しかも自分の好みで世界の将来を決めたのだ。今から考え直してみると実に自分勝手な決め方で、正直間違った選択をしていたら、殴られるどころか本気で殺されてもおかしくないような決め方だった。だがあの時何故そんな決め方をしたのだろう。これはハルヒが望んだ事だったのだろうか。つまり俺達はハルヒに操られているのかもしれない。でも悪い気はしないね。俺以外の団員も楽しく過ごしていたのは言うまでも無い。改変した長門本人でさえも、放り出したくなる事はあっても団員自体を消す事はしなかったしな。だから言葉に出す以前の問題だったのだ。そして、俺達を楽しい気分にさせてくれたのはハルヒだった。あれだけ楽しい事をさせて貰って、嫌だと言う奴が居たら是非そいつの顔を見てみたいね。「ですが涼宮さんも常識的な思考の持ち主でもありますからね。我々が一番心配をしているのはそこですよ。つまり無意識の範囲の不思議な事はある程度コントロール出来ても、周囲の一般人にはそれが鈍るかもしれない。」無意識下でもブレーキが働いてるだろ。「いえ、そういう事ではなく、身の回りの常識的な範囲での異変を認めてしまうという事です。例えば近隣の場所で思わぬ事件が起きたとか、それこそあなたが、クラスメイトにこの団やあなたと涼宮さんの活動の邪魔になるような事を頼まれるとかね。」思わぬ事件ならつい昨日あったばかりだぜ。「ほう、ではクラスメイトにこの団やあなたと涼宮さんの活動を邪魔される事も有り得ないとは言えない。僕の予想が当たっていればの話ですがね。」別に邪魔された所で大してハルヒは気にしないだろ。「それはそうかもしれませんね。僕の早とちりでしたらすみません」まさかお前、事件の予兆でも汲み取ったのか?「さあ。僕の気分的な戯言ですから、気にするかどうかはあなた次第です」じゃとっとと忘れるか。はい忘れた。古泉との話や考え事をしているそろそろ俺の心の支えでもある、天使をそのまま学生にしたような俺の心の癒されるお方、朝比奈さんからアルプスの湧水を遥かに上回る絶妙な味のティーを貰う事にした。「はいっ、キョン君のです」ありがとうございます。今日も世界中のどの美術作品でも追従を許さない程お美しいですね。「あの・・・それでキョン君、あ、いや、なんでもありません」朝比奈さん、隠してるのが見え見えですよ。ついつい言ってしまった。本当なら我ながら脳内法律で懲役一億年は下らないだろう。我ながらなんたる失言。が、結論からすれば聞いておいて良かったのかもしれない。「キョン君・・・すごくまずい事が・・・なんというか、その<禁則事項>が<禁則事項>で・・・」前言撤回。古泉の言ったことを一瞬だが思い出した。「その・・・くれぐれも涼宮さんには気を遣ってあげてください。あと、もっと正直になって・・・」ってありゃ?いつもの事じゃないですか朝比奈さん。「そうなんです・・・でも、私から言えるのは、自分に嘘を付いたりはしないで・・・」この人もよく分からん。となると残るはこいつだけだ。「情報統合思念体では現在の所異常は感知していない。でも気をつけて」どの辺りに、だ?「涼宮ハルヒは情報統合思念体にも干渉を及ぼす場合がある。ここで今知っても意味の無い可能性が高い」また長門の改変世界が頭を過ぎる。知っても意味の無い事。つまりは知ったところで記憶から消される事だ。あの時俺が長門が狂う事を知ったところで、長門は予定通りに狂うしかなかったのだ。つまり今度も予定通りに狂うしかない。・・・ちょっと待て。話が飛びすぎた。もう事件が起きるのは確定的なのだろうか。「その可能性が高い。あなたが常識的に行動している限り。」つまり非常識に動けってか。程度にもよるが、出来れば遠慮したい。「・・・そう。」はあ、どうすりゃいいもんかね。「みんなー、日曜日の準備は出来てるー?とくにキョン、あんたは本気でやんないと許さないんだから」ようやくお出ましですか歩く時限爆弾さん。「何よその言い方」悪かったな。じゃあハルハル「ふざけるな!」これだけはどうしても呼ばれたくないらしいな。「そんな気持ちの悪いあだ名で呼ぶくらいなら本名で呼ばれたほうがマシよ」じゃあ涼宮?「んぐぅ・・・もう、いつも通りに呼んでくれていいわ」つまりハルヒって呼ばれたいんじゃないか。「うるさい」ハルヒはまた怒った顔をしている。正直そんな顔をされてもな。この日は結局何事も無く活動を終えたのだった。
翌日、俺はまたいつものように学校への強制ハイキングをしているのだった。昨日の古泉の話と朝比奈さんの慌て様、それに長門の警告。どうやらまた俺は面倒な事態に巻き込まれるらしい。でも今から考えてたんじゃ面倒臭いね。今はとりあえず普通に過ごしていることにしよう。・・・なんて平然と考えられている自分が不思議でならないのだが。正直不安な部分もある。これからどうなっちまうんだろう。ヤバい事になるんじゃないのか。でも今から考えていても仕方がないね。とりあえず今は学校に行くまでだ。今日もやっぱり変わった事はないな。上級生である朝比奈さんに一昨日の事を褒められた以外には、俺はもう注目される的では無くなっていた。まあ、その俺が夕立の積乱雲ひとつ分位なら、背後には超大型で非常に強い台風みたいな奴もどっしりと構えているのだ。話題の的になるのはそいつに任せたいね。「クラスで話題になってもつまんないわ。どうせなら全世界をワッと言わせられないかしら」言わせるのは無理だね、と言いかけたがやめた。なんせ事実として間違っちゃいないのだから。ただし注目しているのは少なくとも一般市民ではないのだが。「分からんね」「あたしは言わせてみたいのよ」やれやれ、結局これですか。といいつつも慣れてしまっている俺が恐ろしい。そんな事はさておき、問題が起きたのは昼休みだった。
第二章
俺が旧棟近くの廊下をうろうろしていると、後ろから女の声がした。「ねえ、キョン君」俺の前に来たのは阪中だった。何もそんなしつこい位に頭を下げに来てくれなくてもいいぜ。「そうじゃないのね。実は私、あの時から・・・」阪中は下を向いてモジモジしていた。ちょっと待て。こんな事ってアリか?あんな偶然だったんだぜ?これは一生に一度と言っていいほどの幸運だったのかもしれない。「あの時から・・・あなたに惚れちゃったの、ね・・・だから、その、付き合って欲しいんだけど・・・」これは千載一遇のチャンスだろう。もちろん、断るはずが・・・・「阪中さん、こいつは駄目!SOS団の大事なパシリなんだから」滝のように汗の流れる感覚があったね。まだこんな季節だが冷房くらいあってもいいだろう県教委さんよ。「でも・・・キョン君の判断に任せなくちゃ・・・」阪中はビクビク震えていた。これはもう迷う余地もないだろう。俺は阪中の言葉を快諾した。「あっそう!いいわ、もうあんたなんか知らない!」ハルヒは怒って行ってしまった。「涼宮さん、大丈夫かな・・・」心配する事はない。あいつの事だからまたすぐに直る。俺は阪中の手を繋いで歩き出した。しかしその途端、ハルヒの後姿がフラッシュバックされた。忌々しい。ああ、忌々しい。でも何でだろうな。心なしかあいつの後姿が寂しく見えたのは。まあいい。一時忘れよう。俺はようやく彼女に巡り合えたのだ。これでようやく健全なスクールライフを満喫できる。阪中と手を繋ぎ、顔を阪中の方に向ける。阪中はニッコリと微笑み返した。微笑み返したから何が起こるって訳でもない。まして宇宙的未来的超能力的な変態要素など起こる訳がなかった。俺は家に帰って布団に入るまで、終始ウハウハだった。
ちょっと待て。俺は何をやってるんだ。確かにハルヒに絡むのは迷惑千万だ。だが俺は、長門の暴走を止めたとき何をやった?俺の選択で元に戻したんじゃないか。それなのに何故今更普通の生活に戻らなくちゃいけない。ふざけるな。俺も相当なアホだった。確かに阪中は結構美人だし可愛い。正直告白されて断ったりしたら罰当たりだと言えるくらいだ。阪中と付き合い、結婚したならそれはそれで幸せな人生だろう。だが俺には俺の人生がある―――そこには今のところ、普通の人間が身内とSOS団員以上に絡んではいけないのだ。俺が必要以上に阪中と仲良くして、SOS団の活動に支障をきたしたらどうなる?ハルヒはまた不機嫌になるだろうし、団の活動予定も滅茶苦茶になって、俺の生活は非常につまらないものになるだろう。それにあいつらだってそうだ。朝比奈さん古泉長門は俺を頼りにもしている。それにハルヒは・・・ハルヒは俺の事をどう思ってるんだ?はっきり言って分からない。でも、あれだけ振り回しておいて、少なくとも「あんた嫌い」とかそれに近いオチはないだろう。俺だって俺の目の前からハルヒを遠ざけられたらやだね。そう考えたら俺に掛けられる迷惑なんて安いもんさ。そうだ、謝ろう。明日になったら阪中の所へ断りを入れるんだ。阪中、すまないがお前とは付き合えないんだ。俺には行かなくちゃいけないところがあるんだよ。こんな感じだろうか。それでいいのだ。少なくとも俺にとってはそんな感じでいい。阪中は一時的に残念な思いをするだろうが、あれだけ外見的にも性格的にもいいお嬢様なのだから、すぐにまたいい相手が見つかるだろう。阪中は少しだけ寂しい想いをするだろうが、それは俺の責任だ。ハルヒの機嫌さえ良ければSOS団の活動に一日限定で参加させてくれる位はしてもいい。そんなんじゃ誤魔化しにもならんだろうが、阪中は以前からハルヒと仲良くしたがっていたからそれでもいいだろう。その辺りで眠くなったので、この日は寝てしまった。
第三章
翌朝。「キョン君起きて~」妹がシャミセンと手繋ぎをして、そのシャミセンを俺の上で振り回している。いい加減に何とかならないのかねえ。俺は仕方が無く、眠たい目を擦りながら歯磨きをしてパンを咥えて家を出て行くのだった。そうだ、今日は阪中にキッパリと謝らなくてはならない。俺が阪中とは付き合えない事をはっきりさせる為に。俺は阪中と付き合う訳にはいかない。その意思を阪中にもよく言い聞かせ、俺自身ももう同じ気を起こさせない為に。阪中、すまないがやっぱりお前とはやっていけないぜ。一日とはいえ楽しい時間をありがとうな。それと、昨日頭を下げたのに今更断っちまうなんてすまねえな。「よ、キョン、何考え事してんだ」うるさい谷口、いつも余計なことを。今日は残念ながらお前に構っている暇はない。俺は谷口を早足でスルーし、学校への道を急いだ。そして、校門の前に行くと朝比奈さん、古泉、長門が肩を並べて立っていた。今日は団長直々に整列命令でもあったのか。「ち、ちがいまぁす・・・でもすごいことに・・・」「緊急事態が発生しました。詳しくは長門さんから聞いてもらえると助かります。」「パーソナルネーム、阪中の情報連結を解除した」なんだって!?どういう事だ、長門!?「統合思念体は涼宮ハルヒを源とする情報にジャックされ、コントロールを失った。私という個体にも拒否する権限はなかった」つまり、ハルヒが消したいからって理由で阪中は消えたのか!?長門は首を振る。「涼宮ハルヒは昨日阪中があなたに告白した後、阪中の事を不愉快な者として意識していた。その意思が統合思念体内の一部の派閥の暴走を招き、今回の事態に至った」それで、その一部の派閥っていうのは何なんだ?「情報が錯綜していて感知する事が不能。私は主流派以外の動きは読み取れていない。だから、気をつけて」昨日の3人の話や素振りはそういう事だったのか。つまり俺が阪中の告白を受け入れた事でハルヒが暴走し、それが発端となって長門の親玉の意見が狂っちまって阪中が消された。アホみたいな事だ。俺があそこで判断を間違えなければ良かっただけなのに。「とにかく今は教室に急ぎましょう」俺は3人と別れ、教室へと向かった。
教室に入ると、やはり阪中は居なかった。「阪中さん、急な転校でフランスに行っちゃったらしいね」国木田の優等生面が言う。今度はフランスか。しかし残念ながら、フランス国内のどこを探しても阪中は居ないだろうね。「キョン、なんか凄い事になってるじゃない!また急な転校よ」ハルヒはまたいつものように100ワットの笑みを浮かべていた。今度は阪中の家を探るのは御免だぜ。高級住宅街であんな事やったらそれこそ不審者だ。それよりも、阪中が消えちまったのはお前の責任でもあるんだから少しは反省しろ。と言おうと思ったがやめた。まあそれはいい。しかし丁度いいくらいの絶妙なタイミングで、空いた席に座る奴がいた。教壇に立つ岡部の声が響く。「聞いてくれ。阪中は昨日突然親がパリに転勤になったそうで、転校してしまった」ええ、という声が上がる。これで二回目だ。長門、そろそろこれ位にしとかないと流石に怪しまれるぜ。しかしその後の岡部の声を聞いて、驚かない方がおかしかっただろう。「その代わり、丁度今日転校してきた生徒がいる。みんな知ってるだろうが・・・」俺はその声と、教壇上の人物を見て、思わず叫んでしまった。そしてそのまま教室を飛び出した。嘘だろ?こんな事があっていいはずがない。しかし長門の言葉が頭を過ぎる。だが待て。俺はどうすればいい?もう次はないかもしれない。俺は必死に逃げて、気が付いたらSOS団の部室へ来ていた。丁度朝の休み時間の始まりの鐘が鳴ったところだった。ここでしばらく身を潜めていよう。そう思ったが、相手もそうはさせてくれなかったようだ。「また会えたわね」背筋が思わず凍りつく。ハルヒの怒りを見た時とは正反対の、冷たい冷や汗がいくつも俺の背中を流れていった。「以前は長門さんに邪魔されたけど、今回はそうはいかないわ。阪中さんにはとてもいいチャンスを貰った。涼宮ハルヒの情報爆発も見られたし、感謝したいわね」俺は恐る恐る後ろを振り返る。忘れることはないさ。以前は学級委員長、そして長門と同じヒューマノイドインターフェイスで、ハルヒの情報爆発を狙っていた。そして長門のバックアップでもあり、一度は長門に消されたはずの、あいつが居た。
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