鶴の舞 第九幕
「ちょっとまって有希んこ!」まだ倒れないでぇ・・・私は・・・キョン君にっ・・・言いたいことが・・・「はあ・・・はあ・・・キョン君・・・キョン君はぁっ・・・」有希ちゃんの指の示すところにキョン君はいた。けれど・・・「もう・・・手遅れ・・・?」そんな・・・。キョン君は、苦しそうな顔をしたまま、床に倒れていた。だから早く二人の所に行って、言えばよかったのにぃ・・・。私の馬鹿ぁ・・・。もっと早くみつけて・・・キョン君をもう一度、思いっきり、抱きしめて言えばよかったのにぃ・・・。「キョン君・・・大好き・・・って・・・!」ハルにゃんと他の三人の正体については、薄々気がついていた。きっと、古泉君は超能力者で、みくるは未来人、有希ちゃんは宇宙人で・・・ハルにゃんは・・・「神様・・・なんだよね?」有希ちゃんは首をゆっくり縦に動かし、肯定した。「うすうすは気づいていたの・・・。だけど、言うのがとても怖かったから・・・」私は、誰に謝ろうとしているのだろうか。キョン君を探しているときに、有希ちゃんとキョン君が話しているのを見かけた。本当はもっと早く二人のところに行けばよかった。けど、足が動かなかった。 ハルにゃんの正体を、この耳で聞いてしまったからだ。 恐怖で、前に進もうとも動けない。私の予想が的中してしまった。みくる、古泉君、有希ちゃんとハルにゃんの正体を。おそらく、キョン君の記憶を消した理由は・・・「将来・・・結婚するんでしょ・・・?キョン君と・・・ハルにゃんがぁ・・・」完全に涙声になってる。けど、もうどうでもいい。有希ちゃんが、私の言葉に「そう」と返事をしたからだ。「未来の・・・決まりごとなんだよねっ・・・」有希ちゃんが頷く。「やっぱり・・・そうだよぉ・・・。無理だったんだ、最初からぁ・・・」「キョン君とぉ、お付き合いしようなんてぇ・・・!」有希ちゃんは、ずっと私を見ている。「許婚とか嘘をついてまで家に連れて行って・・・私のことを・・・好きになってくれるって・・・そう思っていたけど・・・」やっぱり、無理だった。みんなは、キョン君をだます作戦に参加してくれた・・・。だけど・・・「勝てないよぉ・・・ハルにゃん・・・」 私は、自分のことをあんなに全部言うつもりは無かった。 だけど、キョン君を見ていると、私のいろいろな事を知ってほしいって・・・ずっとそう思っていて・・・「あ~あ、私たちの劇はこれで終演にょろね・・・」誰に言うわけでもなく、私はつぶやいた。私まるで、舞子さんのようだったなあ。踊っているときは、別世界にいるかのような感覚になるのに、演舞が終わると、現実の世界に叩きだされる。ずっと、永遠に舞っていたかった。だけど、いずれ疲れ果ててその夢も終わってしまう。限界が、恨めしい。「どうせ私の記憶も消すんだろっ?」「そう、あなたと彼との特別な「恋愛感情にょろっ!」(・・・あ・・・言ってしまった・・・)急に顔が熱くなる。(ここ・・・こんなに恥ずかしいなんて・・・)ああ、有希ちゃんがずっとこっちを見ている。だけど、恥ずかしがってばかりじゃいけない。「有希ちゃん!」「なに」「二十秒・・・いや、十秒だけ、キョン君の目を覚まさせて!その時の記憶も消していいから!」むちゃな質問とは分かっている。だけど・・・「なにをするの?」ずっと心に決めていたことを言う。大丈夫、きっとキョン君も、それを望んでいるはず。私が今からする内容を有希ちゃんに言うと、「問題は無い。ただ、怪我だけは注意して」・・・怪我するかなぁ。ひょっとしてそんなものだったりして。・・・なんせ初めてだもん。自然と心臓の高鳴りが速まる・・・。(だめ・・・もうこれ以上我慢できない・・・)「有希ちゃん!お願い!」「了解した」キョン君の体が、ぴくりと動いた。久しぶりに感じる、彼の匂い。ゆっくりと、キョン君の目が開いた。
あれ・・・なんだ・・・目が覚めたぞおい・・・。鶴屋さんと別れる覚悟がついたのに・・・とりあえず目を開けてみようか・・・。何も変わらない気もするが。「あれ・・・ってあ」むぐうっ!!??急に口が塞がれた。・・・これは夢だ、夢に違いない。俺のあまりの情熱が作り出しだ、幻影だ!・・・しかし、やけに現実身があるな・・・暖かかった鶴屋さんの唇の温度が、今ちょうど俺の唇に・・・。ふと目を正面に向けると、鶴屋さんの顔がそこにいた。ああ・・・これは幸せな夢なんだ。こんなにいい夢が見られるなんて・・・。夢、そうですよね、鶴屋さん。・・・だから、夢の中で泣かないで下さい・・・。涙が俺の唇を伝う。笑ってください。お願いだから・・・笑って・・・。笑って、別れましょう。あなたに・・・泣き顔は似合わないからっ・・・!(大好きです、鶴屋さん・・・)俺は、夢の最後まで鶴屋さんの笑顔を願った。
急に力が弱くなったと思ったら、キョン君は体をだらりとさせて、ゆっくりと床に倒れた。十秒が一時間のように思えた。キョン君の顔を見て、私は安心した。キョン君が、もうあの苦しい顔をせずに、優しい顔で眠っていたから。もう、これで決心をつけた。心残りは無い。「有希。さあ、私の記憶を消して」「・・・本当にもういいの?」初めて見せた有希ちゃんの優しさに戸惑う。けれど、「わがまま言っちゃいけないよ。これ以上すると、キョン君の記憶を守ろうとして、大事なSOS団の部員、有希ちゃんを殴ってしまうかもしれないから」たとえ、私の大切な記憶が消えようとも、大切なSOS団に傷をつけたくない。それが、私の決心したことなのだから。すっと、有希ちゃんの手が私の方に向けられる。後悔は、もう無い。―キョン君・・・私・・・たくさんの秘密をばらしたから、キョン君の秘密も、貰っちゃうね。あなたが・・・私のファーストキスの相手だということを―ゆっくりと、意識が途絶えるのを感じた。
彼女の意識の凍結を確認。直ちに情報操作を行う。・・・?うまくいかない。原因は、おそらく私。私の何かが拒んでいる。何故拒む?解答は、得られない。だが、実行に移さなければ、彼らの意識は途絶えたまま。強制ファイルを起動。情報操作は実行され、・・・無事終了。あとで古泉一樹の機関の手により、彼を家に戻させる。彼とその家族の記憶も修正した。この屋敷にいる全員の記憶も書き換える。これで、すべては規定事項に従った。だが・・・彼の言葉とその顔が、無意識に蘇る。『その何パーセントに賭けてみようとか思わないのか!?』悲痛なその顔。どうして私は思い出す?私にとっては不要な情報のはずいや、違う。彼のその顔が、私の神経に大きな衝撃を与えたから。『私ハソノ賭ケニ挑ムノカ?』自分に聞く。答えは、確立論がそれを制する。『無謀ダ』そのはず。ではなぜ、彼の顔がいつまでも頭に残っている?そっと、私の本当の答えが浮かんできた。「彼と彼女の感情を失いたくない」無意識に声が出てしまう。つまり、私はごく僅かな可能性に賭けるのか?『無謀』という言葉を消し去る。私は今後、「規定事項に反する行動」を行うだろう。たとえ規定事項を犯しても、未来に大きな変化が起きなければそれでいいはず。むしろ、「私が今の規定事項に反することをするのが、本当の規定事項?」正しいかどうかは分からない。だけど、「可能性があるなら、私はその可能性に賭ける」彼がこの思いを失ったまま未来を迎えるよりかは、この可能性を信じていくほうがいい。「必ず、あなたたちを幸せにする」そう、決心した。彼女と、同じように。
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