絡まった糸、繋がっている想い 第一章
*1*まず、何から話せばいいのだろうか…ことの始まりは2ヶ月前だった。おれはいつものように、掃除が終わると部室に向かって歩いていた。ハルヒは掃除当番ではなかったので部室にいるものだと思っていた。おれはいつも通り部室に着くと扉をノックした。トントンノックしたが声が聞こえない…おれはおそるおそる部屋に入った。すると中にいたのは長門だけだった。キョン「あれ?長門だけか?」すると長門が長門「涼宮ハルヒからあなたに伝言を預かっている」長門は読んでいるぶ厚いSF本を閉じた。長門「今日は…………休み」キョン「………休み?」長門「そう」呟くようにそういうと本を鞄にしまった。キョン「朝比奈さんと古泉は……?」長門「ふたりはあなたが来るまえに来てこのことを伝えた」キョン「そうか」長門「だから…休み」そういい終わると長門とは扉を開け出て行った。いま思えば、これが始まりだった…おれは長門が出たすぐに部室を出た。キョン「休みか…どうかしたのかね…」おれはうわごとのように呟いて学校をあとにした。翌日、ハルヒはいつも通りおれが来る前に席に着いて暇そうに外を眺めていた。キョン「昨日はどうしたんだ?」日課のようにハルヒに話し掛ける。ハルヒ「うるさいわね。別になんでもないわよ」大きな黒い瞳をこちらに向け答えた。キョン「………」おれは何も言わずに前を向いた。ハルヒ「…今日は行くわよ」ハルヒはそういうとまた外を眺め始める。そして、昼休み。今日は珍しくハルヒが授業中起きていた。キョン「珍しいな」すると、ハルヒ「寝てるだけってのも暇だしね」キョン「岡部が驚いてたぞ」おれは笑いながら言った。ハルヒ「ああそう」そういうとどこかに歩いていってしまった。恐らく学食だろう。おれは束の間の休憩を国木田と谷口と楽しんだ。午後の授業は窓側にとっては眠りへ誘う呪文といっていい。ハルヒも半分寝そうになっていた。呪文の力に打ち勝ち、授業を終わらせたおれは昨日と同じく掃除当番をやり、部室へと足を運んだ。トントン。ノックをするとSOS団のマスコット(?)の朝比奈さんの麗しい声が聞こえた。みくる「どうぞ」部室に入ると昨日と同じく長門が定位置で例の小説を読んでいる。あと3分の2くらいだろうか。古泉「どうも」古泉がお得意の殺人スマイルを見せてきた。そのスマイルならジャ〇ーズも簡単だろう。キョン「よう」礼儀として挨拶を返す。鞄を置き、団長席を見た。…………いない。古泉「涼宮さんはきていませんね」キョン「…」古泉とはこういう奴だ。人が言おうと思ったことを先に言ってしまう。悪気がないのだから怒るに怒れない。キョン「今日は来ると言ってたんだが…」古泉「何かあったのでしょうか?」するとそのとき扉が思い切り開かれる音がした…『奴』だ。ハルヒ「……」おかしい。いつもならもう少し大きな音がする。今日はおとなしい。キョン「………?」おかしいのはそれだけではなかった。いつもなら、『みくるちゃん!お茶!速く!』ぐらいのことを言うのに今日は言わない。昨日といい今日といい… なにがあったのか。ハルヒの異変に気付いているのはおれだけじゃなかった。古泉が困ったような不思議がるような顔でこっちを見ている。…相変わらず、ニヤけ顔だが。朝比奈さんは初めて打った3Pシュートが決まった中学生のような顔をしながら、団長席にお茶をおいた。みくる「はい。お茶です」ハルヒは朝比奈さんが出したお茶を軽く啜る。古泉「なにかあったんですか?涼宮さん」キョン「知らん。朝からこの調子だ」そういうと古泉は椅子に着いた。その後は何もなくただ時間だげが流れた。長門が本を閉じた。今日はもうおしまいだ。ハルヒ「はい、今日は解散!明日は不思議探索だからね!遅れたら死刑!」ようやく発した言葉はハルヒらしい張りのある声だった。いつも聞いているが今日ばかりは安心してしまう。おれは起きると朝食を済ませ、歯磨きをし、顔を洗い、着替えた。いつもより10分以上はやく準備が整った。先週もおれが罰金だったので今週ばかりは払うわけにはいかない。さて、最後は誰だろう?案外、長門あたりだったりして。おれは多めに入った財布をポケットに入れ、家を出ようとしたそのときだった。『冒険でしょ★でしょ★本当が嘘に変わる世界でー…』携帯がなった。全くこんなときに。着信はハルヒだった。まさかと思いながら電話を取った。キョン「………もしもし」ハルヒ『……キョン?あたし』キョン「ああ、わかってる」ハルヒ『突然だけど………』『今日は中止にするわ』おれは思わず大声を上げてしまった。キョン「えぇ!なんどうしてだ?」少しの沈黙のあとハルヒが言う。ハルヒ『急に予定がはいっちゃって… ごめん…』キョン「…じゃあわかった。仕方ないな」ハルヒ『ごめんね。じゃあ…』ツーツーツー……どういうことだ?いままでハルヒの方から不思議探索の中止を言うことはなかった。メンバーが事情でこれないことがあってもハルヒ自身がこれないのは初めてだった。こうしてSOS団最大の悲劇が始まったのだ…*2*おかしい。いくらなんでもおかしい。確かにここ最近のハルヒはおかしかったが、百歩譲って最近のハルヒをまともだとしても、土曜日のことばっかりは譲れない。(いったいどうしたってんだ…)このハルヒの行動でおれはなかなか寝付けなかった。教室に入るとハルヒは来ていた。おれはいつもより早歩きでハルヒに駆け寄る。「おはよ…(ry」ハルヒはおれの言葉を遮るように話し出す。「土曜日のことはすまなかったわ」ハルヒが自分から謝ってきたのだ。明日は恐竜でも復活するのか?おれは動揺を隠そうと必死に言った。「そ…そうか。気にするなよ」明らかにハルヒに動揺してるのがばれていた。しかし、ハルヒは何も言ってこない。しばらくするとハルヒは居眠りモードに入った。午前の授業が終わり、昼休みに入った。それまでボーっとしていたハルヒが急に起きて教室から出ていった。おれは金曜日のことを思い出した。そう、あの日もハルヒは昼休みに教室を抜けてどこかに行ってしまっているのだ。何かある。どうする?跡をつけるか?だが、すぐに断念した。この位でつけるなんて元彼が未練がましく彼女につけて回るようで嫌だったからだ。この歳でストーカーなんてごめんだ。授業を終え、すぐに部室に向かう。しかし、すぐに(ハルヒを待っていれば良かった…)と後悔した。扉をノックする。返事がない。また長門しかいないのか?それとも部室にだれもいないのか?扉を開ける。だれもいなかった。するとおれの背中に冷や汗が流れた。ドクン、ドクン。心臓が高鳴っていた。どうして?誰もいない部室は奇妙な不安があった。いつも長門はこの想いなのだろうか。ハルヒが来ない、それだけの理由でこの部室が広いと思えた。ここ数日はハルヒのいない日々だった。もはやハルヒはおれの日常生活のひとつになっている。他の団員も同じはずだ。しばらく待っていると長門が来た。「よう…」力無く挨拶をする。長門はこちらを向いたあと定位置に着き、読書を始める。小説はもう最後のほうまできている。その後は朝比奈さん、古泉の順で来る。でもやっぱりハルヒ来なかった。団長が来ない団長席にはおれが着いてパソコンをいじっていた。朝比奈さんと古泉は8×8板のオセロをやっていた。オセロをする音だけが部室に響く。本来ハルヒがいたならば、おれがこの席に着こうものなら、甲高い声で注意しているだろう。『こらー!キョン!団員その1のくせに団長席に座るとは何事!?』…とまあこんな具合に怒られるだろう。わかっていてなんで座るのか自分にも理解できなかった。「はいっ」「参りました」オセロの勝負が終わったようだ。朝比奈さんの勝ちだ。「34対30。危なかった~」「いやはや。もう少しだったんですがね」古泉はそこそこ運動は出来るのにボードゲームは弱かった。朝比奈さんは運動もボードゲームも強くはないが古泉よりは弱くない。長門の万能っぷりは異常だが。おれはパソコン画面から目を離し、まどから外を眺めた。(なぜハルヒは部室に来ないのだろう…)部室に来たときと同じことを考えていた。古泉が不意にしゃべりだす。「涼宮さんのことを考えているんですか?」図星だ。この超能力者め。人の言いたいことを先に言ったり、悟りでも開いてんのか?おれの考えを見透かしたかのようにしゃべりだす古泉。「確かにこれは異常事態ですね。涼宮さんが不機嫌でもなさそうですし…」古泉の言うとおりだった。不機嫌ならば『閉鎖空間』が発生してもおかしくない。だが、そういった傾向はまだない。「とりあえず今は経過をみましょう。これだけで判断は難しいですから」「長門さんもそう思うでしょう?」話題を急に長門に降った。本から顔を上げて答える。「彼の言うとおり。今行動を起こすのは早い。時期尚早」いい終えるとまた本に向かった。すぐに古泉が続ける。「もしかしたら無人島で僕が行ったように何かサプライズを考えているかもしれませんし」「だといいんだが」おれは2人の見解に納得できなかったが、絶対ない…ということも言えないので反論しなかった。朝比奈さんが心配そうな顔でこっちを見てきた。朝比奈さんはおれの考えと同じなのかもしれない。朝比奈さん対古泉戦が3回戦目を迎えたあたりで長門が本を閉じた。今日はもうおしまいだ。古泉と長門がでたあたりで朝比奈さんがおれに話しかけてきた。「キョンくん、今日涼宮さんのところに行ってあげて下さい」朝比奈さんが心配そうな顔でうったえてきた。続けて朝比奈さんがいう。「何か悪い予感がします。こういうときの予感はよくあたるんです」「わかりました。今日帰りにハルヒの家に寄ります」「お願いね」そういうと朝比奈さんと別れた。(確かに家に行ってみるってのはいいアイデアだな)おれはハルヒの家に向かった。おれは自転車を走らせハルヒの家の近くに着いた。呼び鈴をならそうと思ったが、携帯を出してハルヒに電話した。しばらくコールするとハルヒが出る。『もしもし?』「ハルヒか?おれだ。キョンだ」『どうしたのよ?』ハルヒのその何気ない一言に少し腹が立った。(お前が部室に顔出さないから心配して電話したんだよ!)と思い切り言いたかったが、我慢した。「いや…ほら、最近元気ないからどうしたのかな~…と思って」『………』ハルヒは黙っている。「実はその…いまお前の家の近くにいるんだけど…そっちに行っていいか?」『…だめよ』「そういわずにさ。少しでいいから」『ごめん。せっかく来てもらって悪いけど今日は帰って』電話の向こうでハルヒが困った顔するのが想像できた。すいません、朝比奈さん。おれにはできませんでした。「わかった。今日は帰るよ。明日学校でな」『じゃあね…』ハルヒらしくない線の細い声だった。その後1週間もハルヒはSOS団に姿を見せなかった。SOS団という糸は複雑に絡まり始めていた。*3*ハルヒの家に行った次の日にSOS団の他の団員は部室に集合し、ハルヒについて話し合いをしていた。「…つまり、キョンくんが行ったが追い返されてしまったと、そういうわけですか…」と古泉。「正確にいえばハルヒが来ないでといったから、無理やりいけば逆効果だと思ったんだ。だから行かなかった」「ふむ…」意味深に考えこんでいた。朝比奈さんが話はじめた。「涼宮さん…私達のこと…嫌いになったんでしょうか…」うつむき、泣きそうな声で話す。「朝比奈さん…」『大丈夫ですよ』といえない自分が嫌になる。「つまり、考えられるこ…」言いかけた瞬間に古泉がしゃべる。「考えられるパターンは3つですね」またか古泉。何回目だ。いい加減わざとのように思えてくる。おれの視線に気が付いた古泉がこちらをみた。『すいません』と目で訴えてくる。「それでその3つというのは―」おい、やっぱり自分でいうのか。そこは譲って欲しかった。「ひとつは単に涼宮さんが疲れているという説です」話してみろ、古泉。「涼宮さんといえど、やはり人間。とくに最近は忙しくて疲れが溜まっているのではないのでしょうか?」なるほど。だが、侮ってはならない。ハルヒは人知を超えている。体力は底なしだ。「それで精神的にも参っていた涼宮さんは活動に参加せず、休暇をとって今に至るという説。まあ、これは1番可能性が低いですが」ないとはいえないが確かに可能性は低い。「2つ目は、涼宮さん自身の事情という説」一度息をつけてからまたしゃべりだした。「例えばご両親がけんかをなさって不仲である、ということ。ご兄弟と取り返しのつかないけんかをしてしまったとか…」確かにそれはあるかもしれない。意外とハルヒは家族や仲間想いなところがあるしな。「あるいは涼宮さんの弱みを握って脅されてるとか…」それは1番ない。ハルヒは男のいる前で堂々と着替える女だ。そのうえ、バカ力だ。下手な男よりよっぽど力がある。いや、例えあいつより力がある相手でもその辺にあるものを使って対抗してきそうだ。しかし今はそんな話は関係ない。「そして3つ目は1番思いたくありませんが…」「…」おれは古泉がいいたいことがわかった。なぜならおれもそのことを疑ったからだ。「涼宮さんが単にSOS団に飽きたという可能性です」わかっていたが改めていわれると痛む。「最悪の場合の可能性はこれです。しかし、涼宮さんを観察するものとしてはいいことと悪いこと、両方を持っていると言えます」古泉はおもむろにに立ち上がり、窓に向かって歩きながら話す。「いいことは涼宮さんが普通の女子高生として生きることに目覚めたということです。涼宮さんが不思議を望まなければ、その分frustration…欲求不満もなくなり、世界の破滅は回避される…つまり我々のいる意味がなくなるということです」古泉は水のように流れよく言った。しかしその言葉は簡単ないみじゃない。「じゃあ、お前たちはおれたちの前から消えるってことか?」おれが言うと、「いえそういうわけではありません」あのスマイルをみせてきた。「涼宮さんが不思議を探さなくなったとしても『閉鎖空間』が発生しなくなるわけではありませんから。それはお二方も同じなはずです」古泉に視線をむけられると朝比奈さんが答えた。「はい。その通りです」朝比奈さんは続ける。「私は今すぐ未来へ帰れるわけではありませんから、少なくともあと1年はここにいます」長門が久方ぶりに話した。「情報統合思念体(字間違ってたらすいません)は観測を続けろといっている」「…だそうですからそうなってもしばらく帰ることはありません」古泉は続ける。「では、悪いことです。先ほど、いいことでは欲求不満が溜まりにくくなり、『閉鎖空間』が発生しにくくなるといいましたね。実は悪いことは逆に『閉鎖空間』ができやすくなるかもしれないということなんです」 ちょっと待て。おれは思わず、口を挟んだ。「おい、さっきは『発生しにくくなる』っていってたろ!」「ええ。今からその理由をお話します」おれは足組んで古泉をみた。「ご存知だとおもいますが、『閉鎖空間』とは涼宮さんが現実に対して失望したり、現実にたいする不満を抱いてそれが極限に達した瞬間に発生します。先ほどいったようにメリットもあれば、当然デメリットもあります」 古泉は座ると手を組んで身を乗り出した形になる。「涼宮さんの性格は皆さんもよくしっているでしょう?」「もちろんだ」おれたちは全員よく知っている。自己中心的、思い立ったらすぐ行動、常に自分がルールブック…あげていけばきりがない。「そんな彼女がもし友達に対して敵意、もしくはそれに近い感情を抱いたらどうなると思います?」「かつてないイライラになるだろうな」「その通り」古泉はより一層真剣な顔つきになった。「SOS団のなかであったゴタゴタでさえあれです。もしかしたらあれになる以上かもしれません。そうなれば世界の破滅が現実になってしまう」ハルヒにとっての友達付き合いも世界の破滅に繋がるかもしれないわけか…おれは声を荒げていった。「だがハルヒがそんな友達に敵意なんて抱くわけがない!ハルヒを信じる!」「僕もです」「私もそうです!」すると今まで黙っていた長門が声をだした。「今は涼宮ハルヒの精神状態より情報を集めたほうがいい」みんなが長門を見る。「まだ涼宮ハルヒがどのパターンかわかっていない。それより、涼宮ハルヒが下校中や家に帰ってから何をしているか調べる…それで涼宮ハルヒのパターンを考える。情報が乏しい状態で調べても意味がない」 さすが長門。これでおれたちがすることが決定した。「最近のハルヒを調べてみよう。古泉!もちろん、機関は使うなよ」「そういうと思いましたよ」苦笑いをした古泉が答える。「当たり前だ。これはおれたちの問題だからな」そしておれたちは解散し、明日から各々ハルヒを調べることにした。一瞬、これはストーカーか?と思ったが、ストーカーというより探偵に近いと思った。第二章へ
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