新米保父さん一樹は大童・一
嘘から出た誠。その諺は今の僕達の状況にぴったりと当てはまっていた。瓢箪から駒とも言う。…御託は止めにして、とにかく次の一言を聞いて貰えば、僕達がまたもや、非日常な事態に陥ったと確信できるかと。それでは長門さん、いいですか?せーの、「こいじゅみいちゅき」ほらね。「なんでしょう…」彼を腕の中に抱えたまま、僕は椅子の上に立つ長門さんを見た。「わたしは、しゅじゅみやはるひののーりょくが、わたちたちにはたらくちょくじぇん、じぶんのみにきおくのかいざんをふせぐ、しーるどをてんかいした」長門さんが椅子から下りようと、片足だけ腰を掛ける部分から踏み外すように出す。危なっかしく、ふらふらとしていたので、彼を床に下ろして長門さんの方に寄り、脇の下に手を入れて持ち上げる。「あいあと」「はい…」さっきの彼よりも随分と軽い。ひょいと持ち上げられる。おかしいな、この歳ではまだ男女の体重差は殆ど無い筈なのに。って…「長門さん!?あなただけ、他の皆さんより更に小さくないですか!?」いきなり大声を出した僕を不思議そうに見つめる彼等と、今持ち上げている彼女を見比べる。目分量だが、彼等はざっと見て110cmを越すくらいの身長だというのに、この長門さんの身長は明らかに90cmすら無い。「そう」「栄養失調設定!?」「ちがう。わたしは、かれらとちがい、ご、ろくちゃいではなく、しゃんしゃいせってい」「……あの、良く解らないんですが…」「おしょらく、しゅじゅみやはるひによるへんかくと、わたしのがんぼーが、しんくろしたとおもわれる」「願望…?」「そう」ここから始まった、舌足らずな長門さんによっての説明は、行を使い過ぎてしまうので僕が今から要約する。長門さんは生み出された時には既に十六歳女子の姿を与えられていた。しかし、彼女は地球の時間軸では三年間しか生命活動を行っていない。涼宮さんに質問を投げ掛けられた時、彼女は幼稚園児ではなく、彼女が僕達と同じ人類として生まれたとしたら、本来そちらの方が正しい三歳児を経験してみたいと思った。涼宮さんは、幼稚園児か保育園児の頃に戻りたいという、曖昧でどちらかはっきりとした望みを提示したのではないが、恐らくは少しばかり気が傾いていた幼稚園児、つまり五、六歳にまで肉体、精神、知的能力共に衰退させたのだろう。そして、長門さんの願いを涼宮さんの力が働き掛ける際に感知し、長門さんには、まるで母か姉のように甘い涼宮さんによって、長門さんのみこうなった。…以上で長門さんの説明の要約を終える。「このよーな、かちゃちであろーとも、しゃんしゃいじになりぇたことを、わたしはいま、うれしくおもっている」……なんと言うか…僕がこれから苦労をするのは目に見えているが、複雑な存在である長門さんの願いが叶ったんだったら、一緒になって喜んであげるべきか、な。「しかち、あまりにきょーれつなじょーほーばくはつだっちゃので、きおくと、ちてきのーりょくをひきついだいがいは、しーるどてんかいがまにあわず、わたしは、いんたーへーしゅとしての、きのーをしゅべてうしなってしまた。しょれが、しゅこしばかりふびん」「ああ、確かにそれは少し困りま……って、ええぇえぇええ!!?」余りの危機感に、危うく落としそうになった長門さんを慌てて僕は抱え直した。「と言うことは、あなたは記憶と知的能力の二点以外は、本当にただの三歳児…!?」「そう」「嘘おぉおおぉお!!」「うしょではない。しんじちゅ。しゅじゅみやはるひじしんのちからで、わたしたちを、こーこーせーにもどしゅには、かのじょにしょれをおこなわしぇるよー、ゆーどーしゅるしかにゃい。しゃいわい、あすはどよーび。ほんじちゅからにちよーまでの、みっかかんですいこーしゅればいい」三日でケリをつけろと!三日で五歳児涼宮さんを満足させろと!?「では、今すぐ元に戻すとまではいかなくても、あなたが皆さんの成長速度を速め、この三日間で高校生にまで育ててしまうというのは…」「できにゃい」「そんな!前回、僕が不安に思うことは無いと頼もしくおっしゃったのはどこのどなたですかっ」「…さー?ゆき、ちっちゃいから、わかんにゃい」「くっ…!」こんな時だけ三歳児設定をフル活用するとは…!ああ、しかし、長門さんの宇宙パワーを使えないとなると、地域限定エスパーでしかない僕には、もう他にどうしたらいいのやら解らない。なんとも情けないことだ。とりあえず、ずっと長門さんを抱いていても何も解決しないだろうから、彼女を床に下ろした。「あたしもおろしてー」そう言う涼宮さんは椅子の上で足をじたばたと暴れさせていて、こちらもかなり危ない。涼宮さんの足を地に付けさせて、朝比奈さんも同様にする。「いつきせんせーちからもちー」「な、い…せ……?」いやいやいや、何も聞こえなかった何も聞こえなかった何も聞こえなかった。先生なんて聞こえなかった言われなかった。安心しろ一樹、それはお前の空耳だ幻聴だ。「ふええ…ふくう…ぱぱあ…あ、まちがえちゃ…いつきせんせ」「いつ…せん……いまなん、て…」またまたご冗談を…何も聞こえなかった聞こえなかった聞こえなかったー!!!冷静に冷静に、落ち着け一樹。クールダウンクールダウン…「さっきからひとりでぶつぶつと、なんだきみは!」「なんだチミはってか!そうですわた――危なああああ!ノリでおじさんって認める所だった!そのネタ知ってる時点で十分おじさんだろって突っ込みは無しの方向で!変なのはもうこの際否定しないけど、今のあなた達の方がよっぽど変です!」「ほら、そーやってがきのおあそびにひっしになるから、おれみたいながきに、さっきみたいにしらないふりされて、ばかにされるんだぞ。いーつき」ど う か こ こ は ひ と つ 夢 オ チ で 。掃除当番代わるから!頼まれて!!ていうか、あれは知らないフリをしていただけか。状況が状況なだけに、全く演技だと気付けなかった。…ここで寝るかもしくは気絶するかしたら、起きた時に例えば、「…起きた」「あ、ほんとだ。おい、大丈夫かー?」「やっと!?ちょっと、古泉くん!まさか、ここはどこ私は誰なんて言い出さないわよね!?」「ふええ、良かったあ~。突然倒れるんだもん、心配しましたよう」「え…あれ…僕…?…え…皆さん、園児になったんじゃ…?」「何言ってんだ?頭でも打ったか?」「まだ夢でも見てるんじゃない?」「しっかり」「そんな、園児になる訳ないじゃないですかあ」「そ、そうですね…そうですよね!あはは、僕としたことが寝ぼけてたみたいです。…それにしても、変な夢だったなあ~…」…なんて展開が待ってるのかなー。だといいなー。「こいじゅみいちゅき、わたしのはなしはまだおわっていない。あにゃたのしょれは、げんじちゅとーひ」長門さんが床にへたり込む僕の所に、ぺたぺたと歩いて来る。ちなみにみんなのズボンやらスカートやらは、今の彼等には大きすぎて、椅子の上に取り残されている。朝比奈さんのメイド服は、童話に出てくるお姫様みたいに、白いエプロンがスカートのように彼女を取り囲んでいる。「しゃきほどもいったとーり、しょのあまりのじょーほーりょーに、わたしができたのは、しゅじゅみやはるひのがんぼーに――」…読み難くはありませんか?ご安心を。会話を終えたら僕が話すので。「――けっか、あにゃたにだけは」「何の変革も起こらなかった、と」「おしょらくはそう」…お待たせしました。涼宮さんが持った、幼稚園児もしくは保育園児の頃に戻りたいという願望が、彼女の摩訶不思議とんでもパワーによって叶ってしまった…それは先程から既に確認済みだった。僕達がお互いに確認し合い、明らかになった新たな事実は次からだ。涼宮さんは、園児時代に戻りたいのと共に、その頃の団員達と遊びたいという願いも同時に持ち、それが彼と長門さんと朝比奈さん三名も変革に巻き込んでしまった。さて、では僕は仲間外れかと言うと、それは違うと長門さんが否定してくれた。先程の涼宮さんの、幼児に戻りたいか否かの質問に僕は肯定はしたものの、本心からでは無かったという事に彼女は気付いた。それに加えて、彼女は僕のバイトが子守であることに興味を持った。仕上げは、それをみんなと知り合う前からのバイトとしている事で、彼女は僕が彼女を除いた四名の中で、最も自分達の保護者に相応しいと考えた。つまり、「涼宮さんは、僕を幼稚園だか保育園だかの保父役に望んだ、と?」「正しくは保育士」彼等の記憶には、予め僕が先生である事や、お互いに友達である事等が書き込まれている。全ては、遊んで騒いで好き勝手やっての園児ライフを送るには邪魔でしかない、初対面の気恥ずかしさや人見知り等の煩わしさを排除するため。信頼してもらってるんだか、結局は除け者扱いなんだか…いや、まあ、長門さんでさえ、記憶を引き継いでいる点以外はただの園児となっている中で、更に僕まで子どもになってしまっていたら、本当にどうしようも無かったんだけど…こんな事になるなら、涼宮さんにレンタルビデオ店のあのコーナーのレジ打ちか、と聞かれた時に、「あ、はい。流石、ご名答です。実は年齢を二十歳と偽っていまして」とでも言っておけば良かっ…良くないな。全然良くない。それだと、「じゃ、今度一番人気のやつ借りて来て!バイトくん特権で少しは安くなるんじゃない?みんなで見ましょ!」なんて運びには絶対にならないとも言い切れない。それはそれで恐ろしい。目茶苦茶恐ろしい。……ええと、何をするべきなんだろう…神人やカマドウマの時のように、明確な敵がいて、それを倒せばいい訳ではないし、雪山の屋敷に閉じ込められた時のように、パズルを解いてクリア、という訳でもなさそうだし…せめて誰かヒントでもくれれば…「…そうだ!」「?」「喜緑さん!」「きみどいえみー?」「そうです!彼女なら力になってくれるかもしれません」「きみどいえみーは、おんけんは。しゅじゅみやはるひのどーこーを、かんさちゅし、しれーがくだらないかぎり、きょくりょくじぶんからは、かかわりをもたにゃい。こんかいも、かのじょはてだちをしないであろー。きょーりょくはきたいできにゃい」長門さんはそう言ってから、空中の一点に視線を固定し、何か考え込んでいるようだった。ちなみに、他の三人は、「ねーねー、いつきせんせーとゆき、なんのおはなししてるのかなあ?あたしのなまえがさっきからいっぱいでてるよー」「ふえ、みくるのしらないことばばっかり…わかんない…」「はるひ、みくるちゃん、あれはせーじのはなし。てれびでえらいおじさんたちが、にたようなこといってるのきいたことある。はるひってせいじかがいるんだよ!」「そっか!じゃあ、あたしもきっと、そのひとみたいに、すごいことできるようになるよね!」「ゆきちゃんえらいなあ…みくるもおべんきょーしたいな…」と、見事に勘違いをしてくれていた。まさか涼宮さんの目の前で、この手の会話を堂々と出来る日が来るとは。…涼宮さん、あなたはそんじょそこらの政治家では出来ないような事を成し遂げて、今そうしているんですよ。だというのに、ああ、当事者ほど呑気なものだ。溜息くらい吐いたってばちは当たらないだろう。はー…まったく…ふー…考えがまとまったのか、長門さんが僕を見上げる。身長差がかなりあるので、首の傾斜も急だ。辛いだろうと思い、僕は床に片方の膝を付いて、目の位置を下げた。「しかち、じょーほーとーごーしねたいとのつながりしゃえ、たたれたいま、わたしのかわりに、このじょーきょーを、ほーこくしてもらうひちゅよーがありゅ」みんなより二つ年下だからか、先程の三人と比べ、長門さんの方が明らかに舌足らず度が高い。成長期真っ直中の二年の差は大きい。いや、子どもに関わったことなんて殆ど無いから良く解らないけど。「では、喜緑さんをここにお連れします。彼女は放課後は大抵生徒会室にいらっしゃいますから」喜緑さんが僕達を助けてくれる可能性は、さっき長門さんに否定されたばっかりだが、僕よりは頼りになるだろう事は間違い。…自分で言ってて虚しい。「それでは、できるだけ早く戻ってこれるようにしますので。それまで涼宮さん達をお願いしま…」立ち上がってUターンして、扉へと向かうべく一歩踏み出した。ら、ズボンを引っ張られた。「あの…?」後ろを振り返ると、右手で僕のズボンの膝裏の部分を握り締めている長門さんと目が合った。…右手、やっぱり普通に使えてる…怪我はどうしたんだ…「わたしもちゅれてって」「え」「あにゃただけがおもむいて、せちゅめーしゅるより、わたしをみちぇたほーが、きみどいえみーのりかいもすむーじゅ」「それはそうですが…」「はくちゅっ」「…長門さん?」「さむい」鼻を人差し指で撫でる長門さんを見て、そう言えばみんなは、セーラーもしくはブレザーを羽織っているだけだったっけ、と思い出した。なんとも可愛らしいくしゃみに和みつつ、いやいやそんな場合じゃないない、と僕はブレザーを脱いで、長門さんのセーラーの上に掛けた。すると、「あたしもさむい!」「せんせいは、ひいきしたらだめなんだぞっ」割と大人しかった三人の内二人が唇を尖らせる。朝比奈さんはふわふわのメイド服に包まれていて、特に寒くはなさそうだ。風邪を引かせる訳にもいかないし、どうしよう。「…そうだ!」「?」「森さん!」「もりしょのー?」「そうです!彼女にだって責任はあるはずです。子ども服を持って来るくらいの責任は」長門さんに着せたブレザーのポケットから携帯を取り出し、本日二度目の困った時の森頼み。「はい、こちら森。古泉ね、バイトの件、上手く誤魔化せたかしら?」「いえ、それがそうも行かなくて。誤魔化せるには誤魔化せたんですけど」森さん、あなたの案に乗ったら、かくかくしかじかまるばつさんかく…になってしまいました。「はあ?あんた何寝ぼけてんの?幼稚園児って、嘘吐くならもう少し頭を使いなさい」軽く一蹴されてしまった。…よし、こんな時こそ写メの出番だ。すぐに信じて頂けるかと、と言って僕は通信を切り、携帯のカメラを起動させた。「皆さん、ちょっとの間動かないで…あ、ムービーの方がいいかな。やっぱり動いてて下さい」「どっちだよ」彼からの突っ込みを右から左へ流し、携帯を掲げて録画を開始する。涼宮さんが、びでおとってるのー?だれにおくるのー?とレンズに近付いて来る。いい感じにアップだ。涼宮さんのイメージなのか、実際の子どもの頃の容姿がこうだったかは定かではないが、割とみんな、そこまで顔つきに大きな変化は見られない。事情を知らない人に、妹や弟だと言えば、道理でそっくりだ、とすんなりと納得してもらえそうだ。しかし涼宮さんに妹がいない事を知っている機関の人達は、これを見れば、誰もが彼女が涼宮さん本人だと確信するだろう。ちょこちょこと、涼宮さん以外にも、彼と朝比奈さんと長門さんもカメラに収めて、メールにムービーデータを添えて森さんに送信する。送信が完了しました、の画面が出てから30秒と経たずに、「ぱーんぱっかぱ~ん!ぱかぱっかぱっかっぱ~ん!!」「!?」うわ、長門さんが無断で設定したこの着メロのままだった!!「めろんぱんなちゃんだよーっ!!」「あー、いつきせんせーいいなー。めろんぱんなちゃん」「ほんとだ。いつき、ばいきんまんは?」「めろんぱんなちゃんからおでんわ…?」どうやら戦うパンは、未来でも茶番劇を繰り広げているらしい。いや、茶番なのは僕達の方か。この電話が終わった瞬間に着メロを変更しなくては、と僕は通話ボタンを押した。「こーいずみぃ!」森さんの怒声が電話越しからにも関わらず、鼓膜を強く叩く。耳がキンキンしたので、腕を可能な限り伸ばして携帯を遠ざける。「あんた何て事してくれたの!!今夜は、森園生☆必殺ぐりぐり攻撃withナックルダスターの刑(は・あ・と)よ!」「あれは死ぬ!てか死んだ!!もっかい殺す気か!!森さんだって!元はと言えばあなたの提案がきっかけです!まさか僕だけに全ての責任があるとでもお考えで!?」「そうよ!」「ちょ、そうよ!?そこまではっきり責任逃れされるとキレ難っ!!」「おちちゅいて。しゅじゅみやはるひたちがこわがっていりゅ」「え、あ…はい……森さん、涼宮ハルヒと彼が固まって黙り込んでしまいました。朝比奈みくるに至っては声を殺して泣いています。どうして下さるんですか」「どうもしないわ…と言いたいけど、私にも耳掻き一杯分には責任があるだろうし、そうにも行かないわね。で?私にどうしろって?」「耳掻き一杯分……とりあえず、替えの服を持って来て下さい。子ども用の…そうですね、目分量ですが、涼宮ハルヒと彼、朝比奈みくるは身長110cm、長門さ…長門有希のみ90cm程度。そのサイズでお願いします。このままでは風邪を引いてしまいますので」「わかったわ、了解。対策については後でじっくり話し合いましょう」「はい、よろしくお願いします。では、さよ…」「あ、古泉、長門有希があんたの制服着てるみたいだけど、この前の定期報告の時といい、あんた…」「あでゅー」「あ、ちょ、切るな切」プチッ、ツー、ツー、ツー…「……いつきせんせー?おこってる?」電源ごと切り、携帯をズボンのポケットの中に滑らせると、涼宮さんが恐る恐ると聞いてきた。「いいえ、怒っていませんよ」咄嗟に爽やかスマイルを貼り付ける。それにしても、涼宮さんはもっと、いじめっことまでは言わないけど、ガキ大将気質かと思っていたんだけど。もしかして、先生の前では猫被りいいこちゃんタイプだろうか。「さ、喜緑さんの所に行きましょう。会長は適当に誤魔化して帰って頂きますので」長門さんの頭にブレザーを被せ、抱え上げる。外からは長門さんは見えないが、それでもこの膨らみ方は不審だ。果してこれでカモフラージュになっているだろうか…まあ、まさか子どもが入っているとは誰も思わないだろうし、いいかな。ん、いいのか…?「あんしんちて。もちかんじゅかれたりゃ、きみどいえみーに、がいとーしゅるものがもちゅ、きおくをさくじょさしぇる」「あ、助かります。ありがとうございます。…で、僕が出て行った途端に涼宮さんが大暴れをする可能性は」「こーかくりちゅ」「やはりそうですか…隣のコンピ研にこちらの騒音が漏れるのは日常茶飯事ですが、流石に、それが子どもの声となると…」「わたしにてーあんがありゅ」そう言った長門さんは僕の肩に手を置いて、体を伸び上がらせ、片手で口元に手をやった。僕の耳にその手を衝立のようにして持って行き、ひそひそ話の体勢完成。ごにょごにょごにょ。こしょこしょこしょ。「…それは…あの……」「ぱーぺき」「ぱ…!?ちょ、あなたどこでそれを…古っ!じゃなくって、それは確かに効きそうで、す、けど…」「なりゃ、はやく」「ええと、その…かなりキモウザくなる、かと…」「だいじょぶ。そりぇが、あにゃたのほんりゃいのきゃらくたー」「え!?ひど!」「はやく」「…良ければ、長門さんが僕の代わりに……」「だめ。あにゃたでなくては、こーのーがにゃい」「…その、恥ずかしい、で、す。」「もたもたしにゃいで」「くっ…」さっきから、なになに?と僕達を見上げて首を全く同じ角度で傾げている、まるで三つ子のような彼等を見て、僕は無理矢理笑顔を作った。「ちょっと用が出来たので、僕達は出て行きます」「えー、いつきせんせーとゆきだけ?あたしたちはー?」「あー、わかったぞ!ふたりでどっかあそびにいくんだろ!」「いいなあ…ずるい…」ああ、もう…ここで長門さんが提案した、あの台詞か…いや、やるんだ一樹。頑張れ一樹、十秒も掛からない。せーので行くぞ。仕方無いな、わかったよ。せーの…で始めるからな。おい!紛らわしいこと言うなよ!フライングしかけただろ!…うん、現実逃避はこの辺にしておこう…せぇーの!!「すぐに戻って来ますので、いいこは大人しく待っていて下さいね」ここで、僕は長門さんを抱えていない方の手を、人差し指を立てて顔の横に持って行く。十六歳涼宮さんのように、びしっ!と勢い良く前に突き出さず、あくまで教育番組のお兄さんのように爽やかでにこやかに、「い、いつ、い…せん…せ…い…」「はやく」「…。一樹先生とのお約束です。……うああ…」恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!てか認めちゃった!先生って認めちゃったよーい!!「ぱーぺき」長門さんが、なんだか若干楽しんでいるような気がするようなしないような!「はーい!」「へえい」「はあい」手を振り上げて元気な返事をした涼宮さんを見る限り、長門さんが言った通り、釘をさしておけば問題は無さそうだ…多分。僕は引きつった笑顔の横で、ひらひらと手を振り、ドアノブを捻って退室する。「はい、あなたがおっしゃった通りにしましたよ」まだ照れが抜けなくて、それを隠すために、普段の僕にしては珍しく少しばかり無愛想気味に言いながら廊下を歩く。「そう」制服に埋もれた三歳児は、「こいじゅみいちゅき、ちぇんちぇー」「……」ピノコかよ!との突っ込みも咄嗟には思い付かない。「ゆにーく」赤くなった顔をじっと見上げられてそう言われたので、僕はブレザーの襟を引っ張って長門さんの目の前に垂らした。「てれてりゅ?」「……お静かに…」誰に聞かれているか解らないので、と言うと、長門さんは頷いて、僕のシャツを両手で軽く握った。二へ続く「以上『新米保父さん一樹は大童・一』でした。長門さん、この物語でのあなたの抱負をどうぞ」「いかにして、こいじゅみいちゅきを、ろりこんにめじゃめしゃしぇるか」「……………『二』を、お楽しみ、に……僕はぜんっぜんぜーんっぜんっ!楽しみではありませんが…」
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