第三章 サードイブ
第三章 サードイブ俺とハルヒは地元の国立大学の同じ学科に進学した。「あたしは随分、レベル下げてんだからあんた合格しなさいよ。落ちたら死刑だから」ハルヒの殺人的な補習のおかげで、なんとか俺はハルヒと同じ学科に滑り込んだ。それ以来、朝から晩まで大体いつもいっしょにいるんだから、客観的に見たら「つきあっている」以外の何物でも無いような気がするが、依然として俺たちはつき合っていると公言することは無く、実際、キスすらしてなかった。ハルヒは時々、ものいいたげに「あのさ」と切り出すのだが、すぐ「なんでもない」と話の先を繋がなかった。俺には何がいいたいのか大体解ったけどな。長門が待機モードに入ってから3度目のクリスマスイブが来ようとしていた。今度はハルヒは「絶対、あたしも行くから」と言って聞かなかった。まあ、実際、あいつに行くなと言う権利は俺にも長門にもないよな。当日は朝から並んで、開園と同時に入園した。「どこにいんのよ」とか言われてもなあ。俺だって解らん。あてもなく歩き回っていると前方に制服を来た少女がぽつんとたたずんでいるのが見えた。「有希?有希じゃない!」ハルヒは全速力で駆けて行くと長門に抱きついた。「あんた、何にも言わないでいっちゃうんだもん、ひどいよ」長門は無言だった。無言で俺を見ていた。ハルヒは俺の手を引いて長門の前まで来ると、とんでもないことを言い出した。「有希、あのさ、言いたいことがあるんだ」ハルヒは切り出した。「あんたのことはキョンから聞いた。正直信じられない。でも、そうかもしれないって思うこともある。もし、信じるとしたら、有希に聞きたいことがあるんだ。あたしとキョンがつきあってもいいかな?」長門は表情を変えずにハルヒを見返した。「あんたに許可をもらえないと、キョンとつきあえないよ。だってさ、ひどすぎるじゃない。逆の立場だったらあたしは耐えられない。あたしは1年に一回しか目が醒めない。キョンと有希がつきあってて、自分は若いままなのに二人は結婚して子供生んで年とっていく。しかも、キョンをとりあって負けたならともかく、あたしの方はまったく蚊帳の外。一年に一回じゃあ勝負できない。もしそうだったら、死んだ方がまし。だから、有希に聞きたい。許可が欲しい」長門はじっと俺の方を見た後、ハルヒの方を向き言った。「許可できない...」ハルヒが息を飲むのが聞こえた「と言ったら?」「そうしたら、キョンはあきらめる。あたしが逆の立場だったら、キョンが有希以外の女性とくっつくんなら耐えられるような気がする。でも、有希だったら耐えられない。だから、諦める。だって、不公平でしょ、こんなの」ハルヒ、お前はあいかわらず、考え方が常人離れしてるな。それに当事者の俺の意志は完全に無視か?長門はじっとハルヒと俺をみた。それから言った。「いい。許可する」ハルヒは長門に抱きいた。どうも涙が流れているようだ。「ごめん、有希、つらいよね。不公平だよね」それから俺の方を向くと「きいた、キョン。あたしたちはつき合うことに決まったの。でもそれは明日からよ。今日はあんたは有希につきあいなさい!」と俺を有希の方に押しやると、呆然としている俺を置き去りにしてスタスタと歩き去った。なんだあれは。あいかわらず、勝手なやつだな。有希に袖をつかまれて我に帰った。「何がしたい?ここからでられないのか」「でられない。したいことは特にない。いっしょにいて」手近なベンチに並んで座り、長門は厚い本に読み耽った。俺は何もすることはなかったが、なんとなく長門の肩に手をかけてみたくなった。すると長門は読むのをやめて、俺の方をじっとみたが、すぐに本に視線を戻した。結局、そのままベンチから一歩も動くこと無く、俺たちは閉園の時間を迎えた。本を閉じる長門。「これでよかったのか?」「いい」「もう二度と一人では来れないぞ、きっと。いつもハルヒがいっしょだ」「構わない。他の人も連れて来ていい」「そうか」「そう」俺と長門はじっと見つめあったままだった。「来年も待っている」「ああ、きっと来るよ」その次の日から俺とハルヒは公式に「恋人どうし」ってことになった。俺は聞いた。「ハルヒ、おまえ有希に遠慮してたのか?」「良く解らない。でも、なんだか、有希が急に転校してから、なんかあんたとの関係が変になっちゃって。なんだかいつもあたし以外のことを考えているような感じで」確かに、SOS団時代はお前のことしか考えてなかったな。ロマンチックな意味あいは非常に薄かったとは言え。「で、なんでかなって思ったらあんたは有希のことを考えているんじゃないかって思えて来て。だから、去年のイブにすっぽかされたときもすぐに有希の顔が思い浮かんだよの。あたしをすっぽかしてまであんたが行くところっていったら有希くらいしか思い付かなかったし。それからあの話を聞いて、全部は信じられないけど、有希が1年に一回しかあんたに会えないのは信じられる気がして。そうすると、なんか抜け駆けみたいだしさ。つきあいたいって言う気持ちがうせちゃって」「有希が許可しないっていったらどうする気だったんだ?本当にあきらめたのか?」「わかんないけど、その時はそう思ったのよ。でも、きっとあたしは有希が許可しないとは言わないって知ってたんだと思う。ズルイねあたしって」それからしばらくして、ハルヒは俺とすぐに結婚すると言い出してみんなを慌てさせた。結婚してもいっしょには住まない。大学もやめない。じゃあ、なんで結婚したいんだ。意味ないだろう。だが、その後、ハルヒは披露宴はクリスマスイブの日に,USJの中でやるというむちゃなことを言い始めた。普通だったら無理な話だよな。もちろん、鶴屋家や機関が裏で動いたのは公然の秘密だ。なんでそんなことを言い出したのか、俺にはすぐ解ったけど。当日、つまり長門が待機モードに入ってから4度目のクリスマスイブの日。披露宴の片隅には長門がいて、厚い本をずっと読んでいた。北高時代の仲間たち、古泉や国木田や谷口やコンピ研の部長や鶴屋さんや生徒会長がいた。彼らはなぜ呼ばれたのかよく解らなかったんじゃないかな。披露宴が終わって、閉園時刻が近づいたとき、ハルヒは長門を連れてどこかに行った。戻って来たときは一人だった。「長門、なんだって?」「ありがとうって。あと結婚まで許可した覚えは無い、だってさ」「そうか」「それから、来年も来てってさ」「来るさ」「最後に、あんたに話があるって」「そうか」俺は一人で長門のところに行った。「涼宮ハルヒは、私には選択肢は無いと言った。でもそれは間違い」「なんのことだ?」「あなたをめぐる争い。わたしには選択肢がないと」「そのことか。でも間違いって?」「あなたは私と残ることもできた。時空間を凍結すれば、あなたはわたしと一緒に年一回だけ目覚めることができる」そうか。俺と朝比奈さんを未来に送り返すためにマンションの一角で保存したのと同じ手を使えば。長門は俺をじっと見ていた。「でも、わたしはそんなことをあなたにさせたくはない。きっとあなたも望まない」「長門、俺は...」「答えなくていい。きくべきじゃなかった。もう行って。来年も待ってる。今日は本当にありがとう」「ああ、じゃあ行くよ」俺は長門と別れた後、ふと振り返ってみたが、もう、長門の姿は見えなかった。「有希、なんだって?」「俺には選択肢があったそうだ」「どういう意味?」「俺が望めば、有希と一緒に1年に一回だけ目覚める人生もおくれるそうだ」ハルヒは俺の手を握って来た。「まさか、行かないよね、いまさら」「長門は、答えなくていいと言ったよ。きくべきじゃなかったと」「....」「さあ、行こう。もうここは閉園時間だ」出口で、ハルヒはもう一度、振り返ると、こうつぶやいたみたいだった。「ごめん。さよなら。また来るよ」
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