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「命の価値」(2020/08/17 (月) 16:22:28) の最新版変更点
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<div class="main">
<div>
妹が、死んだ。母さんも、父さんも、俺を置いて3人で死んだ。<br>
家を出て10分の所での、トラックとの衝突事故。<br>
車に乗っていた3人は即死だったらしい。<br>
俺は3人の遺体を見た。事故に遭ったとは思えないくらい安らいだ顔で、外傷もそんなになく眠っている。<br>
瞬間、涙が溢れだした。<br>
あぁ…これから、俺は一人なんだ………。<br></div>
<br>
<br>
<div>
3人の遺骨を部屋に置き一人佇んでいるとノックの音。<br>
返事をするのも億劫で黙っていると、ドアが開いた。<br>
「キョン……。」<br>
そこには、ハルヒが立っていた。<br>
最初は何か言いたげな顔だった。それもそのはず、俺は学校に行かなくなり2週間がたっていた。<br>
ドアを開けてしばらく俺の顔を見たハルヒは、無言で近付き、俺を抱き締めた。<br>
「ごめんね?……何もしてあげられなくて、ごめんね?」<br>
ハルヒは涙を流しながら、俺を抱き締めていた。<br>
誰が悪いわけでもない、ただ、俺が現実から逃げているだけだ。<br>
「もう、疲れたよ。俺には、何もなくなった。」<br>
ハルヒにそう声をかける。<br>
顔を鏡で見ることはなかったが、たぶん生気など一かけらもない顔をしていたのだろう。<br>
</div>
<br>
<div>
ハルヒの顔は青ざめ、俺を抱き締める力は強くなっていた。<br>
「そんなこと言っちゃダメ!あんたには、あたし達がいる。あたし達には、あんたが必要なの!!」<br>
ハルヒの大声が、今はやけに邪魔くさい。頭では、うれしい言葉だと理解しても、心が人を、拒む。<br>
「気持ちはうれしいが、帰ってくれ。俺は…疲れた。」<br>
涙など流し尽くした。それでも、夜になるとまだ、出てくる涙。孤独感。<br>
そんな様々な感情で、俺は生命力を無くしていく。<br>
ハルヒは、俺からゆっくりと体を離し、口を開いた。<br>
「あたし達、かわりばんこであんたを見張りに、泊まりに来るから。……絶対に、一人になんかしないんだからっ!!」<br>
そう言うと、走って俺の部屋から去った。<br></div>
<br>
<br>
<div>
「何故、3人が死んだんだ?何故、俺じゃなかった。俺は何故、生き残った。」<br>
そんなことを考えてしまう。<br>
寝てる時も、目が覚めた時も。<br>
まだ、親には何一つ恩を返していない。妹なんて、これからが成長期だ。<br>
何故、俺だけが残らなきゃならなかった。<br>
いっその事、俺だけが死ねばよかったじゃないか。<br>
「キョンくんっ!!」<br>
朝比奈さんの声が俺の部屋に響く。<br>
「だ、大丈夫。大丈夫ですから……お願いだからそんな思い詰めた顔、しないでぇ……。」<br>
ハルヒ同様、俺を抱き締めながら泣いている。<br>
掴まえてないと、俺が消えるとでも思っているのか。<br>
……消える、か。それも構わないかもしれない。<br>
俺は、抱き付かれながらも、何処か焦点の合わない目をしていたのだろう。<br>
朝比奈さんに両頬を挟まれ、見つめ合わされた。<br>
「わたしは此処にいます、からぁ……。」<br>
それでも、俺は返事をせずにずっと考えていた。<br></div>
<br>
<div>
『俺の代わりに3人を生き返らせる』、そんな事が出来るなら喜んで俺は受け入れよう。<br>
俺にとっての家族3人は《命に代えても助けたい人》だ。今すぐにでも代わってやる……そんなことが可能なら、な。<br>
「キョンくん。あなたまさか……後を追おうなんて考えてないですよね?」<br>
今日は、古泉がいる。<br>
さすがのこいつも、ニヤけ面を浮かべられないらしい。<br>
深刻な表情をして、俺の横に座り、俺の顔を睨む。<br>
「さぁ…な。」<br>
それだけ伝えると、俺は目を逸らした。<br>
古泉は、怒りを覚えたのか、俺の肩を掴み叫んだ。<br>
「そんなこと言わないでください!あなたは…僕にとっての、かけがえの、ない………くっ…すみません。」<br>
途中で、古泉は涙を流し始めた。<br>
俺は、何も言わずに思案に耽ることを再開した。<br>
順番的にいくと、明日来るのは長門だ。<br>
あいつなら……。<br></div>
<br>
<br>
<div>「待ってたぞ、長門。」<br>
俺は、ドアを開けた長門に声をかけた。<br>
「俺の命の代わりに3人を……「出来る。だけど、推奨しない。」<br>
全てがお見通しだったようだ。<br>
「それは、わたしもシミュレートした。しかし、推奨出来ない。」<br>
</div>
<br>
<div>
まるで、俺が言い出すのをわかっていたかの様に言葉を継いでいた。<br>
しかし、決意は変わらない。変えない。<br>
「お前の推奨なんて、関係ない。決めたんだ。」<br>
そこで、長門は俺の考えもよらないことを言った。<br>
「それで代わっても、あなたの家族には被害が出る。」<br>
……なんだって?<br>
じゃあ、俺以外に誰かが死ぬ事は規定事項だと言うのか?<br>
俺がまた、考えていると長門が口を開いた。<br>
「シミュレート結果をあなたの頭脳に映像として送る。これは、涼宮ハルヒの力を使い、あなたと家族の死を入れ替えたシミュレート映像。」<br>
見る……しかない。少しでも、可能性があることにかけて俺は頷いた。<br>
</div>
<br>
<div>………此処は?<br>
「あなたとわたしは、俯瞰視点で見れるように映像の中を動き回れる。」<br>
辺りを見回す。<br>
黒と白が基調となった服ばかりの世界。<br>
俺の遺影、その下に佇む俺の体。<br>
家族の姿を探す。<br>
……居た。来てくれた人に、まともな挨拶も出来ずに泣いている両親。<br>
SOS団に囲まれ、みんなで泣いている妹。<br></div>
<br>
<div>よかった……無事じゃねーか…。<br>
みんなの姿を確認し、俺は涙を流した。<br>
「長門、ありがとう。みんなが無事ならこれでいい。力を……「まだ。」<br>
長門が、俺の言葉を遮る。<br>
「何がまだなんだ。みんな、無事でいるだろうが。」<br>
俺は怒気を含んだ声で口をだした。<br>
「これからが、問題。」<br>
すると、長門は映像を早送りのようにした。<br>
「な、なんだよ…これ。」<br>
俺が早送りされる映像で見たもの。<br>
葬式の翌日から、食事をしなくなり、入院し、栄養失調で死んでいく妹の姿だった。<br>
「長門!!これは…これはどうにかならないのか!?」<br>
長門は、横に首を振った。<br>
「不可能。……あらゆる可能性の亡くなり方で、あなたの死をシミュレートしても、あなたの妹は後を追う。」<br>
突き付けられた残酷な真実。気がつくと、俺は現実世界に戻っていた。<br>
深くうなだれるしかない俺に、長門が声をかけてきた。<br>
「あなたは、生きるしかない。」<br>
張り詰めていたものが切れた音がした。<br>
「っ!!勝手な事言ってんじゃねぇよ!!俺が…俺がどんな苦し………。」<br>
本能のままに掴みかかった長門の目には、無表情ながらも涙が流れていた。<br>
</div>
<br>
<div>
「わたしも、どうにかしたかった。……だけど、有機生命体の死は、どうにもならない。」<br>
その、悲しくて澄んだ涙で俺は正気に戻った。<br>
「ごめん、長門。……ごめん。…わりぃ。」<br>
気がつくと、流し尽くしたと思っていた涙が、再び流れていた。<br>
止まらない程、止められない程流れる涙。<br>
これまでで一番多い量の涙が頬を伝い、部屋の床に落ちて弾けて、消えていった。<br>
すると、長門が天井を見上げた。<br>
「……この部屋の情報量が、もの凄い勢いで増加している。まさか……情報統合思念体?」<br>
言い終わるや否や、脳に直接声が聞こえてきた。<br>
「キョンくん、聞こえる?」<br>
まさか…妹の声だ。<br>
「聞こえる、聞こえるぞ!!」<br>
「よかった!あのね、情報なんとかって人が少しだけ話していいって。」<br>
「そ、そうか。」<br>
「でも、時間ないから言いたいことだけ言うね?」<br>
「お、おう…。」<br>
「キョンくんは、生きて。あたしとお母さんとお父さんは死んじゃったけど、キョンくんの中で生き続けるからねっ!!」<br>
俺は、溢れる涙を止められなかった。<br>
「最後に!SOS団のみんな泣かしちゃダメだよ?全部見てたんだから!!」<br>
ただ、頷くしか出来ない。<br>
「幸せになってね、キョンくんっ!!……大好きだよ、お兄ちゃん!」<br>
そう言うと、俺達の回りを包んでいた違和感が消えた。<br>
「膨大な情報量は、消失した。」<br>
長門は、涙を流しながらも平坦な声で言った。<br>
「な……なが、と……今の……は…?」<br>
俺は同じように涙を流しながらも、途切れ途切れ、声を絞り出した。<br>
「……わたしにも詳しくはわからない。おそらく、情報統合思念体の力であることは間違いないが意図は、不明。」<br>
「そうか…。長門、悪い…けど、……一人にしてくれ。」<br>
長門は、小さく頷き部屋の外に出ていった。<br></div>
<br>
<br>
<div>妹は言った。<br>
俺の中で生き続けると。<br>
全部見てると。<br>
SOS団を泣かすなと。<br>
幸せになれと。<br>
……俺のことを、《大好きだ、お兄ちゃん》と。<br></div>
<br>
<div>生きよう。<br>
生きて、約束を守って、天寿を全うして、胸を張って成長した妹に会おう。<br>
そう決めたら、まずやる事は一つだ。<br>
俺は、長門を部屋の中に呼び、手分けしてメンバーを家に呼び出した。<br>
</div>
<br>
<div>
「すまない、みんな。もう大丈夫だ。心配かけたな。」<br>
俺は心の底からのお詫びと感謝を伝えた。<br>
「ぐすっ…ほんとに……心配しましたよぉ…。」<br>
「ごめんなさい、朝比奈さん。」<br>
「無事に元のキョンくんに戻ってくれて、僕もうれしいですよ。」<br>
朝比奈さんは涙ながらに、古泉は元通りのにこやかな顔に戻って返事をくれた。<br>
長門も、何も言わずに頷いてくれた。<br>
みんなが今までと同じ対応をしてくれたことが、とてもうれしかった。<br>
ただ、一人。ハルヒだけが俯いたまま、何の返事もくれなかった。<br>
俺は、他のメンバーにしばらく二人きりにしてくれと頼んだ。<br>
</div>
<br>
<div>「さっきな、妹に会ったよ。」<br>
ハルヒはこっちを不思議そうな顔で見てきた。<br>
「説教されちまった。死ぬなって、みんなを泣かすなってさ。」<br>
「そう……なんだ。」<br>
ハルヒはまだ、涙目でこっちを見ていた。<br>
「それでな、全部見てるからって、幸せに……なれって。」<br>
俺の目から涙が溢れた。ハルヒも、目から頬に涙を伝わせていた。<br>
「俺には……SOS団、みんながいなきゃ、ダメみたいだ。……見捨てないで、くれよな?」<br>
涙でハルヒの顔が見えない。俺は、自分の袖で、自分の目を拭った。<br>
「あ、あ……当たり前じゃないのよぉっ!!バカァッ!!」<br>
ハルヒは俺の胸に飛び込んで、ワンワン泣き出した。……泣かすなって約束、破っちまった。<br>
「……頼むから泣かないでくれ、ハルヒ。妹に叱られちまう。」<br>
ハルヒは俺の苦笑いの表情を見上げると、少し頷いた。<br>
「それにだ、約束を守るついでに…もう一つ、俺と……幸せになってくれ。」<br>
何のことだというような顔をしているハルヒに、俺はキスをした。<br>
「絶対に、一人になんてしないでくれよ?」<br>
ハルヒは理解したように頷き、いつもの笑顔に戻った。<br>
「あ、当たり前じゃないっ!これからは……ずっと、ずっと一緒なんだからっ!!」<br>
</div>
<br>
<div>俺はみんなを送るために、着替えている。<br>
みんなには先に外に出てもらった。<br>
ふと、カーテンを開けて、夜空を見上げる。<br>
妹の笑顔が空に映った。<br>
『おめでとう!よかったね、キョンくんっ!ハルにゃんとお幸せにっ!!』<br>
………今のは?<br>
あぁ、そうか。<br>
今のは空耳なんかじゃない。今のは、俺の中で生きている妹の声なんだ………。<br>
俺は自分の心の中の大事な人、家族達の姿に安堵しながら新しい、現実の大事な人、SOS団のみんなの所へと一歩ずつ歩きだした……。<br>
</div>
<br>
<div>終<br></div>
</div>
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<div class="main">
<div>妹が、死んだ。母さんも、父さんも、俺を置いて3人で死んだ。<br />
家を出て10分の所での、トラックとの衝突事故。<br />
車に乗っていた3人は即死だったらしい。<br />
俺は3人の遺体を見た。事故に遭ったとは思えないくらい安らいだ顔で、外傷もそんなになく眠っている。<br />
瞬間、涙が溢れだした。<br />
あぁ…これから、俺は一人なんだ………。</div>
<div>3人の遺骨を部屋に置き一人佇んでいるとノックの音。<br />
返事をするのも億劫で黙っていると、ドアが開いた。<br />
「キョン……。」<br />
そこには、ハルヒが立っていた。<br />
最初は何か言いたげな顔だった。それもそのはず、俺は学校に行かなくなり2週間がたっていた。<br />
ドアを開けてしばらく俺の顔を見たハルヒは、無言で近付き、俺を抱き締めた。<br />
「ごめんね?……何もしてあげられなくて、ごめんね?」<br />
ハルヒは涙を流しながら、俺を抱き締めていた。<br />
誰が悪いわけでもない、ただ、俺が現実から逃げているだけだ。<br />
「もう、疲れたよ。俺には、何もなくなった。」<br />
ハルヒにそう声をかける。<br />
顔を鏡で見ることはなかったが、たぶん生気など一かけらもない顔をしていたのだろう。</div>
<div>ハルヒの顔は青ざめ、俺を抱き締める力は強くなっていた。<br />
「そんなこと言っちゃダメ!あんたには、あたし達がいる。あたし達には、あんたが必要なの!!」<br />
ハルヒの大声が、今はやけに邪魔くさい。頭では、うれしい言葉だと理解しても、心が人を、拒む。<br />
「気持ちはうれしいが、帰ってくれ。俺は…疲れた。」<br />
涙など流し尽くした。それでも、夜になるとまだ、出てくる涙。孤独感。<br />
そんな様々な感情で、俺は生命力を無くしていく。<br />
ハルヒは、俺からゆっくりと体を離し、口を開いた。<br />
「あたし達、かわりばんこであんたを見張りに、泊まりに来るから。……絶対に、一人になんかしないんだからっ!!」<br />
そう言うと、走って俺の部屋から去った。</div>
<div>「何故、3人が死んだんだ?何故、俺じゃなかった。俺は何故、生き残った。」<br />
そんなことを考えてしまう。<br />
寝てる時も、目が覚めた時も。<br />
まだ、親には何一つ恩を返していない。妹なんて、これからが成長期だ。<br />
何故、俺だけが残らなきゃならなかった。<br />
いっその事、俺だけが死ねばよかったじゃないか。<br />
「キョンくんっ!!」<br />
朝比奈さんの声が俺の部屋に響く。<br />
「だ、大丈夫。大丈夫ですから……お願いだからそんな思い詰めた顔、しないでぇ……。」<br />
ハルヒ同様、俺を抱き締めながら泣いている。<br />
掴まえてないと、俺が消えるとでも思っているのか。<br />
……消える、か。それも構わないかもしれない。<br />
俺は、抱き付かれながらも、何処か焦点の合わない目をしていたのだろう。<br />
朝比奈さんに両頬を挟まれ、見つめ合わされた。<br />
「わたしは此処にいます、からぁ……。」<br />
それでも、俺は返事をせずにずっと考えていた。</div>
<div>『俺の代わりに3人を生き返らせる』、そんな事が出来るなら喜んで俺は受け入れよう。<br />
俺にとっての家族3人は《命に代えても助けたい人》だ。今すぐにでも代わってやる……そんなことが可能なら、な。<br />
「キョンくん。あなたまさか……後を追おうなんて考えてないですよね?」<br />
今日は、古泉がいる。<br />
さすがのこいつも、ニヤけ面を浮かべられないらしい。<br />
深刻な表情をして、俺の横に座り、俺の顔を睨む。<br />
「さぁ…な。」<br />
それだけ伝えると、俺は目を逸らした。<br />
古泉は、怒りを覚えたのか、俺の肩を掴み叫んだ。<br />
「そんなこと言わないでください!あなたは…僕にとっての、かけがえの、ない………くっ…すみません。」<br />
途中で、古泉は涙を流し始めた。<br />
俺は、何も言わずに思案に耽ることを再開した。<br />
順番的にいくと、明日来るのは長門だ。<br />
あいつなら……。</div>
<div>「待ってたぞ、長門。」<br />
俺は、ドアを開けた長門に声をかけた。<br />
「俺の命の代わりに3人を……「出来る。だけど、推奨しない。」<br />
全てがお見通しだったようだ。<br />
「それは、わたしもシミュレートした。しかし、推奨出来ない。」</div>
<div>まるで、俺が言い出すのをわかっていたかの様に言葉を継いでいた。<br />
しかし、決意は変わらない。変えない。<br />
「お前の推奨なんて、関係ない。決めたんだ。」<br />
そこで、長門は俺の考えもよらないことを言った。<br />
「それで代わっても、あなたの家族には被害が出る。」<br />
……なんだって?<br />
じゃあ、俺以外に誰かが死ぬ事は規定事項だと言うのか?<br />
俺がまた、考えていると長門が口を開いた。<br />
「シミュレート結果をあなたの頭脳に映像として送る。これは、涼宮ハルヒの力を使い、あなたと家族の死を入れ替えたシミュレート映像。」<br />
見る……しかない。少しでも、可能性があることにかけて俺は頷いた。</div>
<div>………此処は?<br />
「あなたとわたしは、俯瞰視点で見れるように映像の中を動き回れる。」<br />
辺りを見回す。<br />
黒と白が基調となった服ばかりの世界。<br />
俺の遺影、その下に佇む俺の体。<br />
家族の姿を探す。<br />
……居た。来てくれた人に、まともな挨拶も出来ずに泣いている両親。<br />
SOS団に囲まれ、みんなで泣いている妹。</div>
<div>よかった……無事じゃねーか…。<br />
みんなの姿を確認し、俺は涙を流した。<br />
「長門、ありがとう。みんなが無事ならこれでいい。力を……「まだ。」<br />
長門が、俺の言葉を遮る。<br />
「何がまだなんだ。みんな、無事でいるだろうが。」<br />
俺は怒気を含んだ声で口をだした。<br />
「これからが、問題。」<br />
すると、長門は映像を早送りのようにした。<br />
「な、なんだよ…これ。」<br />
俺が早送りされる映像で見たもの。<br />
葬式の翌日から、食事をしなくなり、入院し、栄養失調で死んでいく妹の姿だった。<br />
「長門!!これは…これはどうにかならないのか!?」<br />
長門は、横に首を振った。<br />
「不可能。……あらゆる可能性の亡くなり方で、あなたの死をシミュレートしても、あなたの妹は後を追う。」<br />
突き付けられた残酷な真実。気がつくと、俺は現実世界に戻っていた。<br />
深くうなだれるしかない俺に、長門が声をかけてきた。<br />
「あなたは、生きるしかない。」<br />
張り詰めていたものが切れた音がした。<br />
「っ!!勝手な事言ってんじゃねぇよ!!俺が…俺がどんな苦し………。」<br />
本能のままに掴みかかった長門の目には、無表情ながらも涙が流れていた。</div>
<div>「わたしも、どうにかしたかった。……だけど、有機生命体の死は、どうにもならない。」<br />
その、悲しくて澄んだ涙で俺は正気に戻った。<br />
「ごめん、長門。……ごめん。…わりぃ。」<br />
気がつくと、流し尽くしたと思っていた涙が、再び流れていた。<br />
止まらない程、止められない程流れる涙。<br />
これまでで一番多い量の涙が頬を伝い、部屋の床に落ちて弾けて、消えていった。<br />
すると、長門が天井を見上げた。<br />
「……この部屋の情報量が、もの凄い勢いで増加している。まさか……情報統合思念体?」<br />
言い終わるや否や、脳に直接声が聞こえてきた。<br />
「キョンくん、聞こえる?」<br />
まさか…妹の声だ。<br />
「聞こえる、聞こえるぞ!!」<br />
「よかった!あのね、情報なんとかって人が少しだけ話していいって。」<br />
「そ、そうか。」<br />
「でも、時間ないから言いたいことだけ言うね?」<br />
「お、おう…。」<br />
「キョンくんは、生きて。あたしとお母さんとお父さんは死んじゃったけど、キョンくんの中で生き続けるからねっ!!」<br />
俺は、溢れる涙を止められなかった。<br />
「最後に!SOS団のみんな泣かしちゃダメだよ?全部見てたんだから!!」<br />
ただ、頷くしか出来ない。<br />
「幸せになってね、キョンくんっ!!……大好きだよ、お兄ちゃん!」<br />
そう言うと、俺達の回りを包んでいた違和感が消えた。<br />
「膨大な情報量は、消失した。」<br />
長門は、涙を流しながらも平坦な声で言った。<br />
「な……なが、と……今の……は…?」<br />
俺は同じように涙を流しながらも、途切れ途切れ、声を絞り出した。<br />
「……わたしにも詳しくはわからない。おそらく、情報統合思念体の力であることは間違いないが意図は、不明。」<br />
「そうか…。長門、悪い…けど、……一人にしてくれ。」<br />
長門は、小さく頷き部屋の外に出ていった。</div>
<div>妹は言った。<br />
俺の中で生き続けると。<br />
全部見てると。<br />
SOS団を泣かすなと。<br />
幸せになれと。<br />
……俺のことを、《大好きだ、お兄ちゃん》と。</div>
<div>生きよう。<br />
生きて、約束を守って、天寿を全うして、胸を張って成長した妹に会おう。<br />
そう決めたら、まずやる事は一つだ。<br />
俺は、長門を部屋の中に呼び、手分けしてメンバーを家に呼び出した。</div>
<div>「すまない、みんな。もう大丈夫だ。心配かけたな。」<br />
俺は心の底からのお詫びと感謝を伝えた。<br />
「ぐすっ…ほんとに……心配しましたよぉ…。」<br />
「ごめんなさい、朝比奈さん。」<br />
「無事に元のキョンくんに戻ってくれて、僕もうれしいですよ。」<br />
朝比奈さんは涙ながらに、古泉は元通りのにこやかな顔に戻って返事をくれた。<br />
長門も、何も言わずに頷いてくれた。<br />
みんなが今までと同じ対応をしてくれたことが、とてもうれしかった。<br />
ただ、一人。ハルヒだけが俯いたまま、何の返事もくれなかった。<br />
俺は、他のメンバーにしばらく二人きりにしてくれと頼んだ。</div>
<div>「さっきな、妹に会ったよ。」<br />
ハルヒはこっちを不思議そうな顔で見てきた。<br />
「説教されちまった。死ぬなって、みんなを泣かすなってさ。」<br />
「そう……なんだ。」<br />
ハルヒはまだ、涙目でこっちを見ていた。<br />
「それでな、全部見てるからって、幸せに……なれって。」<br />
俺の目から涙が溢れた。ハルヒも、目から頬に涙を伝わせていた。<br />
「俺には……SOS団、みんながいなきゃ、ダメみたいだ。……見捨てないで、くれよな?」<br />
涙でハルヒの顔が見えない。俺は、自分の袖で、自分の目を拭った。<br />
「あ、あ……当たり前じゃないのよぉっ!!バカァッ!!」<br />
ハルヒは俺の胸に飛び込んで、ワンワン泣き出した。……泣かすなって約束、破っちまった。<br />
「……頼むから泣かないでくれ、ハルヒ。妹に叱られちまう。」<br />
ハルヒは俺の苦笑いの表情を見上げると、少し頷いた。<br />
「それにだ、約束を守るついでに…もう一つ、俺と……幸せになってくれ。」<br />
何のことだというような顔をしているハルヒに、俺はキスをした。<br />
「絶対に、一人になんてしないでくれよ?」<br />
ハルヒは理解したように頷き、いつもの笑顔に戻った。<br />
「あ、当たり前じゃないっ!これからは……ずっと、ずっと一緒なんだからっ!!」</div>
<div>俺はみんなを送るために、着替えている。<br />
みんなには先に外に出てもらった。<br />
ふと、カーテンを開けて、夜空を見上げる。<br />
妹の笑顔が空に映った。<br />
『おめでとう!よかったね、キョンくんっ!ハルにゃんとお幸せにっ!!』<br />
………今のは?<br />
あぁ、そうか。<br />
今のは空耳なんかじゃない。今のは、俺の中で生きている妹の声なんだ………。<br />
俺は自分の心の中の大事な人、家族達の姿に安堵しながら新しい、現実の大事な人、SOS団のみんなの所へと一歩ずつ歩きだした……。</div>
<div>終</div>
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