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「本の虫」(2020/03/12 (木) 16:10:40) の最新版変更点
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<div class="main">
<div>
俺が掃除当番を終え、部室のドアをノックすると……なんと、返事がない。<br>
今は長門が一人でいる時間なわけもなく、なんらかの反応があってもいいはずだ。<br>
とりあえず、俺は意を決してドアを開けた。<br>
……………なんだこれは。<br>
本を読む少女が三人、野郎が一人。<br>
黙々と、返事もせずに本を読んでいた。その中の一人、ハルヒが俺の存在を確認するや否や、満面の笑みを浮かべて喋り出した。<br>
「キョン!待ってたわ!!さぁ、ミーティングよっ!」<br>
『待ってたわ』だと?<br>
この異様な空気を取り払ったのは俺だということか?<br>
ハルヒの笑顔は、安堵と感謝で埋め尽くされていた。<br></div>
<br>
<div>
「え~と、今日のミーティングは有希が司会、進行役を務めたいと言ったので、一任します!」<br>
長門が!?……こりゃ、何かの前触れだな。<br>
「……今週は読書週間。わたしは今週の活動を読書に当てたいと希望する。………だめ?」<br>
いつも本を読んでる奴が言うセリフか!!と心の中のツッコミを聞いていたかのように、長門は話を続けた。<br>
「わたしはみんなにも本の良さをわかって欲しい」<br>
なるほど、それでさっきの状況か。<br>
つまり、本の良さをわかってもらおうとみんなに長門の本を読ませたが理解出来ずにさっきの空気になっていたのか。<br>
俺は、脳内で勝手に考えをまとめた後、長門に意見した。<br>
「なぁ、長門。確かに本を読ませたいのはわかる。だが、みんなにはみんなの好みがあるんだ、お前の読む本をみんなに読ませるのは少々辛いと思うぞ」<br>
三人からの尊敬のまなざしに気付いた。どうやら、誰一人長門に意見出来なかったらしいな。<br>
「………あなたの言うとおり。わたしには思慮が足りなかった」<br>
ふぅ、柄にもなく意見するのに緊張してしまった。<br></div>
<br>
<div>
「わかってくれりゃいいさ。それなら、みんなで図書館にでも行って本を借りようぜ」<br>
俺はそのまま、部室を出ようとした。すると、長門が袖を掴み、上目遣いで俺を見てきた。<br>
正直、これには萌えた。<br>
「……あした」<br>
「ん?なんだって?」<br>
長門はみんなに聞こえるように続けた。<br>
「……あしたまで待って。わたしが……選んでみる。」<br>
そう言うと、長門は部室を去って行った。<br></div>
<br>
<div>「さてさて、どうしたものでしょう」<br>
大して困った様子もない古泉が口を開いた。<br>
ハルヒも、朝比奈さんも何かを考えるような顔をしていた。しょうがない、俺が意見を出すか。<br>
俺には長門の行為がとても嬉しかった。積極的に、能動的に動いている長門がとても俺達に近くなった気がしたからだ。<br>
「なぁ、みんな。聞いてくれ」<br>
三人の視線がこっちへと向いた。<br>
「せっかく長門が自分を積極的に出そうとしてるんだ。みんな、一週間だけ我慢して付き合ってやってくれ。この通りだ」<br>
俺は腰の辺りまで頭を下げた。これくらいの事で、長門がみんなにもっと打ち解けることが出来るなら、お安いご用だ。<br>
しばらくすると、三人から声がかかった。<br>
「わかりました……だからキョンくん、頭を上げてください」<br>
「ふふふ、さすがはキョンくんですね。いいでしょう、僕も協力します」<br>
「む~、わかったわ。あんたがそこまで言うなら協力するわよ」<br>
三人とも協力してくれるようだ。よかったな、長門……<br>
こうして、本日はそのまま解散となった。<br></div>
<br>
<br>
<div>
次の日の放課後、長門は大きな荷物を抱えて、全員の待つ部室に入ってきた。<br>
「………おまたせ」<br>
長門は平坦な口調で言葉を発した後、本を取り出し始めた。<br>
「……一人ずつ、取りにきて」<br></div>
<br>
<div>まず、朝比奈さんが取りに行った。<br>
俺は目を凝らして、本のタイトルを読んだ。<br>
《お茶のおいしい淹れ方・選び方》<br>
ほうほう、ナイスなチョイスだ。これなら心配はいらなそうだな……もう一冊?<br>
《コスプレのススメ》<br>
……長門、それはどっちかと言うとハルヒに渡すべきだ。<br>
「…え?あ、あの……?」<br>
「よんで」<br>
その一言に気圧されたのか、朝比奈さんは本を抱えて椅子に座った。<br>
</div>
<br>
<div>次に向かったのは古泉。<br>
《初心者のための囲碁》、《初心者のための将棋》<br>
完璧な選択だ。これには誰の文句もつけれないな。<br>
「ありがとうございます。せめて、キョンくんに勝てるくらいに勉強しますよ」<br>
「………そう」<br>
長門に向かい一つ礼をして、椅子に座った。<br>
残念だが、まだまだお前には負けないさ。<br></div>
<br>
<div>その次はハルヒ。……俺は最後かよ。<br>
《未確認生物の姿形を探る》<br>
……なんでそんな本を渡すんだよ、火に油だ。次の探索は山か、森か……。<br>
ここで、長門とハルヒはこっちに背を向けて本の受け渡しをした。<br>
そして長門が何やら囁くと、ハルヒは耳と顔を真っ赤にして団長席に座り、本を開いた。<br>
</div>
<br>
<div>最後に俺が受け取りに行った。<br></div>
<br>
<div>「俺には、どんな本をくれるんだ?」<br>
長門に尋ねると、ハードカバーのSF小説を渡された。<br>
「あなたには、わたしのすきなものを理解して欲しい」<br>
……これも一つ喜ばしいことか。長門が俺と価値観を共有したいと思ってくれているのだろう。<br>
とか考えていると、もう一冊手渡された。<br>
「……頑張って」<br>
タイトルで内容がわかったね。いわゆる、恋愛指南書ってやつだ。<br>
あぁ、お前の気持ちはわかったよ。<br>
それからの一週間、俺達は普段のうるささのないSOS団部室で、黙々と、真剣に本を読み続けた。そう、まるで本の虫のように……。<br>
</div>
<br>
<br>
<div>
読書週間も明け、久しぶりの市内探索の日、長門の奢りでみんなで昼飯を食べていた。<br>
「みんな、読書週間を頑張ってくれたから……ごほうび」<br>
長門の優しさに涙が出そうになるぜ。何故なら今日も俺が一番最後だったしな。<br>
朝は長門、古泉と。<br>
昼はなんとも珍しいことにハルヒと二人になった。<br>
これはチャンスだ。長門からもらった恋愛指南書によると、《普段なれない状況で二人きりの時が告白のチャンス!》らしいからな。<br>
まさに、うってつけの状況だぜ。<br>
「さて、何処から探索するんだ?ハルヒ」<br></div>
<br>
<div>俺が尋ねると、少し考えてから返事が返ってきた。<br>
「じゃ、じゃあ北にある公園に行きましょ。……ほ、ほら!あそこにはちょっとした雑木林があるしさ!!」<br>
何を慌ててるんだ?こいつは。しかし、これまた幸運だ。指南書では、《公園のベンチなどが雰囲気作りにはベター!》とか書いてあったからな。おとなしくついて行くことにしよう。<br>
俺は大股でズンズン歩くハルヒを後ろから追いかけた。<br>
公園に着くまでに俺は何度も頭の中で繰り返し確認した。指南書の告白のページ。<br>
《告白するときは、立って、相手の肩を掴み、相手の目を見てストレートに伝えましょう!》<br>
あぁ、やってやるよ。やってやろうじゃないか。<br>
長門が俺の為に準備してくれた物を無にするわけにはいかない。<br>
ハルヒと付き合う為に、藁にも縋る思いだってこともあるがな。<br>
俺達は公園の雑木林の中を一通り歩くと、近くのベンチに二人で腰かけた。<br>
ヤバい緊張してるぞ。いつも通り、話しかけるんだ。<br>
「つ、疲れたな」<br>
「そ、そうね」<br>
………沈黙。<br>
くそ!こうなったら当たって砕けろだ!<br>
俺は勢いよく立ち上がって声を出した。<br></div>
<br>
<div>「ハルヒ!話がある!」<br>
「キョン!話があるわ!」<br></div>
<br>
<div>
声が……被った?しかも、ハルヒまで立ち上がってやがる。<br>
「あ……悪い。先にいいぞ」<br>
「え?いや…キョンが先でいいわ」<br>
二人にまたもや沈黙が訪れた。俺は、これではらちがあかないと思い、ハルヒに提案した。<br>
「そ、それなら……同時に言うか?」<br>
ハルヒはコクンと頷いた。俺は、息を大きく吸い込んだ。<br>
「せーので行くわよ。3、2、1、せーの!!」<br></div>
<br>
<div>「ハルヒ!大好きだ!!」<br>
「キョン!大好き!!」<br></div>
<br>
<div>
俺は指南書通りに、ハルヒの肩を掴み、目を見て、考え得る限りのストレートな言葉を伝えた。<br>
だが、ハルヒもまったく同じことを俺にしていた。<br>
「「へ?」」<br></div>
<br>
<div>「ねぇ……あんたが有希にもらった本って……」<br>
「なぁ……お前が長門にもらった本って……」<br></div>
<br>
<div>実によくセリフが被る日である。<br>
「「《自分の気持ちの正しい伝え方》」」<br></div>
<br>
<div>
あぁ、やっぱりか。つまり長門は俺とハルヒに同じ本を渡したのだ。それで、同じような状況になったから、同じようなことをしたわけだ。<br>
………あれ?ということは……。<br>
「なぁ、ハルヒ。お前も……好きだったのか?」<br>
俺が問い掛けると、顔をみるみる赤くして返事が返ってきた。<br>
「そ、そうよ……。だから……あんたが鈍感だからあたしから言おうかなって……」<br>
俯いたハルヒの顔は、ただの恋をしている一少女のものだった。かわいくて、初々しい。<br>
「……鈍感な俺でよかったら、付き合ってくれないか?」<br>
俺の問い掛けにハルヒは顔を上げた。<br>
「こんな、がさつで強引なあたしでも良い?」<br>
二人の間に沈黙が流れた後、俺達はどちらからともなく、抱き合い、キスをした。<br>
</div>
<br>
<div>
集合場所に手を繋いで戻った俺達は、三人に別れを告げて、二人で帰ることにした。<br>
すると長門が後ろから引き止めた。<br>
「……おめでとう」<br>
そう言った時の長門の表情は、ハルヒにもわかるような《してやったり》の表情だった。……この野郎。<br>
「んっふっふ~、有希。ちゃんとお返しはあげるから期待しててね!!」<br>
ハルヒはそう言うと先に歩きだした。<br>
「長門、ありがとな」<br>
俺はそれだけ伝えるとハルヒに追いついて、手を繋いで帰った。<br>
</div>
<br>
<div>
翌日からの長門は、再び寡黙な読書少女に戻っていた。<br>
昨日までの長門は、読書週間にだけ出てくる本の虫にでも取り付かれていたのだろう。……いや、いつものことだが。<br>
と、大して上手くない冗談を心の中に押し込めながら、俺は今日もハルヒと手を取り合って帰った。<br>
</div>
<br>
<div>終わり<br></div>
</div>
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<div class="main">
<div>俺が掃除当番を終え、部室のドアをノックすると……なんと、返事がない。<br />
今は長門が一人でいる時間なわけもなく、なんらかの反応があってもいいはずだ。<br />
とりあえず、俺は意を決してドアを開けた。<br />
……………なんだこれは。<br />
本を読む少女が三人、野郎が一人。<br />
黙々と、返事もせずに本を読んでいた。その中の一人、ハルヒが俺の存在を確認するや否や、満面の笑みを浮かべて喋り出した。<br />
「キョン!待ってたわ!!さぁ、ミーティングよっ!」<br />
『待ってたわ』だと?<br />
この異様な空気を取り払ったのは俺だということか?<br />
ハルヒの笑顔は、安堵と感謝で埋め尽くされていた。</div>
<div>「え~と、今日のミーティングは有希が司会、進行役を務めたいと言ったので、一任します!」<br />
長門が!?……こりゃ、何かの前触れだな。<br />
「……今週は読書週間。わたしは今週の活動を読書に当てたいと希望する。………だめ?」<br />
いつも本を読んでる奴が言うセリフか!!と心の中のツッコミを聞いていたかのように、長門は話を続けた。<br />
「わたしはみんなにも本の良さをわかって欲しい」<br />
なるほど、それでさっきの状況か。<br />
つまり、本の良さをわかってもらおうとみんなに長門の本を読ませたが理解出来ずにさっきの空気になっていたのか。<br />
俺は、脳内で勝手に考えをまとめた後、長門に意見した。<br />
「なぁ、長門。確かに本を読ませたいのはわかる。だが、みんなにはみんなの好みがあるんだ、お前の読む本をみんなに読ませるのは少々辛いと思うぞ」<br />
三人からの尊敬のまなざしに気付いた。どうやら、誰一人長門に意見出来なかったらしいな。<br />
「………あなたの言うとおり。わたしには思慮が足りなかった」<br />
ふぅ、柄にもなく意見するのに緊張してしまった。</div>
<div>「わかってくれりゃいいさ。それなら、みんなで図書館にでも行って本を借りようぜ」<br />
俺はそのまま、部室を出ようとした。すると、長門が袖を掴み、上目遣いで俺を見てきた。<br />
正直、これには萌えた。<br />
「……あした」<br />
「ん?なんだって?」<br />
長門はみんなに聞こえるように続けた。<br />
「……あしたまで待って。わたしが……選んでみる。」<br />
そう言うと、長門は部室を去って行った。</div>
<div>「さてさて、どうしたものでしょう」<br />
大して困った様子もない古泉が口を開いた。<br />
ハルヒも、朝比奈さんも何かを考えるような顔をしていた。しょうがない、俺が意見を出すか。<br />
俺には長門の行為がとても嬉しかった。積極的に、能動的に動いている長門がとても俺達に近くなった気がしたからだ。<br />
「なぁ、みんな。聞いてくれ」<br />
三人の視線がこっちへと向いた。<br />
「せっかく長門が自分を積極的に出そうとしてるんだ。みんな、一週間だけ我慢して付き合ってやってくれ。この通りだ」<br />
俺は腰の辺りまで頭を下げた。これくらいの事で、長門がみんなにもっと打ち解けることが出来るなら、お安いご用だ。<br />
しばらくすると、三人から声がかかった。<br />
「わかりました……だからキョンくん、頭を上げてください」<br />
「ふふふ、さすがはキョンくんですね。いいでしょう、僕も協力します」<br />
「む~、わかったわ。あんたがそこまで言うなら協力するわよ」<br />
三人とも協力してくれるようだ。よかったな、長門……<br />
こうして、本日はそのまま解散となった。</div>
<div>次の日の放課後、長門は大きな荷物を抱えて、全員の待つ部室に入ってきた。<br />
「………おまたせ」<br />
長門は平坦な口調で言葉を発した後、本を取り出し始めた。<br />
「……一人ずつ、取りにきて」</div>
<div>まず、朝比奈さんが取りに行った。<br />
俺は目を凝らして、本のタイトルを読んだ。<br />
《お茶のおいしい淹れ方・選び方》<br />
ほうほう、ナイスなチョイスだ。これなら心配はいらなそうだな……もう一冊?<br />
《コスプレのススメ》<br />
……長門、それはどっちかと言うとハルヒに渡すべきだ。<br />
「…え?あ、あの……?」<br />
「よんで」<br />
その一言に気圧されたのか、朝比奈さんは本を抱えて椅子に座った。</div>
<div>次に向かったのは古泉。<br />
《初心者のための囲碁》、《初心者のための将棋》<br />
完璧な選択だ。これには誰の文句もつけれないな。<br />
「ありがとうございます。せめて、キョンくんに勝てるくらいに勉強しますよ」<br />
「………そう」<br />
長門に向かい一つ礼をして、椅子に座った。<br />
残念だが、まだまだお前には負けないさ。</div>
<div>その次はハルヒ。……俺は最後かよ。<br />
《未確認生物の姿形を探る》<br />
……なんでそんな本を渡すんだよ、火に油だ。次の探索は山か、森か……。<br />
ここで、長門とハルヒはこっちに背を向けて本の受け渡しをした。<br />
そして長門が何やら囁くと、ハルヒは耳と顔を真っ赤にして団長席に座り、本を開いた。</div>
<div>最後に俺が受け取りに行った。</div>
<div>「俺には、どんな本をくれるんだ?」<br />
長門に尋ねると、ハードカバーのSF小説を渡された。<br />
「あなたには、わたしのすきなものを理解して欲しい」<br />
……これも一つ喜ばしいことか。長門が俺と価値観を共有したいと思ってくれているのだろう。<br />
とか考えていると、もう一冊手渡された。<br />
「……頑張って」<br />
タイトルで内容がわかったね。いわゆる、恋愛指南書ってやつだ。<br />
あぁ、お前の気持ちはわかったよ。<br />
それからの一週間、俺達は普段のうるささのないSOS団部室で、黙々と、真剣に本を読み続けた。そう、まるで本の虫のように……。</div>
<div>読書週間も明け、久しぶりの市内探索の日、長門の奢りでみんなで昼飯を食べていた。<br />
「みんな、読書週間を頑張ってくれたから……ごほうび」<br />
長門の優しさに涙が出そうになるぜ。何故なら今日も俺が一番最後だったしな。<br />
朝は長門、古泉と。<br />
昼はなんとも珍しいことにハルヒと二人になった。<br />
これはチャンスだ。長門からもらった恋愛指南書によると、《普段なれない状況で二人きりの時が告白のチャンス!》らしいからな。<br />
まさに、うってつけの状況だぜ。<br />
「さて、何処から探索するんだ?ハルヒ」</div>
<div>俺が尋ねると、少し考えてから返事が返ってきた。<br />
「じゃ、じゃあ北にある公園に行きましょ。……ほ、ほら!あそこにはちょっとした雑木林があるしさ!!」<br />
何を慌ててるんだ?こいつは。しかし、これまた幸運だ。指南書では、《公園のベンチなどが雰囲気作りにはベター!》とか書いてあったからな。おとなしくついて行くことにしよう。<br />
俺は大股でズンズン歩くハルヒを後ろから追いかけた。<br />
公園に着くまでに俺は何度も頭の中で繰り返し確認した。指南書の告白のページ。<br />
《告白するときは、立って、相手の肩を掴み、相手の目を見てストレートに伝えましょう!》<br />
あぁ、やってやるよ。やってやろうじゃないか。<br />
長門が俺の為に準備してくれた物を無にするわけにはいかない。<br />
ハルヒと付き合う為に、藁にも縋る思いだってこともあるがな。<br />
俺達は公園の雑木林の中を一通り歩くと、近くのベンチに二人で腰かけた。<br />
ヤバい緊張してるぞ。いつも通り、話しかけるんだ。<br />
「つ、疲れたな」<br />
「そ、そうね」<br />
………沈黙。<br />
くそ!こうなったら当たって砕けろだ!<br />
俺は勢いよく立ち上がって声を出した。</div>
<div>「ハルヒ!話がある!」<br />
「キョン!話があるわ!」</div>
<div>声が……被った?しかも、ハルヒまで立ち上がってやがる。<br />
「あ……悪い。先にいいぞ」<br />
「え?いや…キョンが先でいいわ」<br />
二人にまたもや沈黙が訪れた。俺は、これではらちがあかないと思い、ハルヒに提案した。<br />
「そ、それなら……同時に言うか?」<br />
ハルヒはコクンと頷いた。俺は、息を大きく吸い込んだ。<br />
「せーので行くわよ。3、2、1、せーの!!」</div>
<div>「ハルヒ!大好きだ!!」<br />
「キョン!大好き!!」</div>
<div>俺は指南書通りに、ハルヒの肩を掴み、目を見て、考え得る限りのストレートな言葉を伝えた。<br />
だが、ハルヒもまったく同じことを俺にしていた。<br />
「「へ?」」</div>
<div>「ねぇ……あんたが有希にもらった本って……」<br />
「なぁ……お前が長門にもらった本って……」</div>
<div>実によくセリフが被る日である。<br />
「「《自分の気持ちの正しい伝え方》」」</div>
<div>あぁ、やっぱりか。つまり長門は俺とハルヒに同じ本を渡したのだ。それで、同じような状況になったから、同じようなことをしたわけだ。<br />
………あれ?ということは……。<br />
「なぁ、ハルヒ。お前も……好きだったのか?」<br />
俺が問い掛けると、顔をみるみる赤くして返事が返ってきた。<br />
「そ、そうよ……。だから……あんたが鈍感だからあたしから言おうかなって……」<br />
俯いたハルヒの顔は、ただの恋をしている一少女のものだった。かわいくて、初々しい。<br />
「……鈍感な俺でよかったら、付き合ってくれないか?」<br />
俺の問い掛けにハルヒは顔を上げた。<br />
「こんな、がさつで強引なあたしでも良い?」<br />
二人の間に沈黙が流れた後、俺達はどちらからともなく、抱き合い、キスをした。</div>
<div>集合場所に手を繋いで戻った俺達は、三人に別れを告げて、二人で帰ることにした。<br />
すると長門が後ろから引き止めた。<br />
「……おめでとう」<br />
そう言った時の長門の表情は、ハルヒにもわかるような《してやったり》の表情だった。……この野郎。<br />
「んっふっふ~、有希。ちゃんとお返しはあげるから期待しててね!!」<br />
ハルヒはそう言うと先に歩きだした。<br />
「長門、ありがとな」<br />
俺はそれだけ伝えるとハルヒに追いついて、手を繋いで帰った。</div>
<div>翌日からの長門は、再び寡黙な読書少女に戻っていた。<br />
昨日までの長門は、読書週間にだけ出てくる本の虫にでも取り付かれていたのだろう。……いや、いつものことだが。<br />
と、大して上手くない冗談を心の中に押し込めながら、俺は今日もハルヒと手を取り合って帰った。</div>
<div>終わり</div>
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