「凉宮ハルヒの編物@コーヒーふたつ」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

凉宮ハルヒの編物@コーヒーふたつ」(2020/03/12 (木) 15:46:46) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

…━━━━もうすぐクリスマスがやってくる…。<br> …街中が恋とプレゼントの話題で騒がしい。<br> ところで…「手編みのマフラーとかセーターとか…貰うと結構困るよね…」なんて言う輩を希に見掛ける昨今……<br> 実を言うと俺は、そういったプレゼントに僅かながらも、密かに憧れを抱いていたりするのだった━━━━━…<br> <br> <br> 【凉宮ハルヒの編物@コーヒーふたつ】<br> <br> <br> 吐息も凍る様な、寒空の朝…<br> 俺は、相も変わらずいつもの公園でハルヒを待っていた。<br> つい先程まで、自転車を走らせる事により体温を気温と反比例させる事が出来ていた俺だが、公園に辿り着いてから暫くの間に指先は痺れる様な寒さを感じ始めていた。<br> (まったく…こんな日に限って待たせる…)<br> 大体…ハルヒの奴はいつもそうだ。<br> 来て欲しい時に来なくて、来て欲しくない時に限って現れる…<br> <br> 「まったく…俺に何か恨みでもあるのか…」<br> 「ん?何か言ったかしら?」<br> 「…………へ?……うおっ!?!」<br> <br> 気付かぬうちに側に居たハルヒに、俺は思わず驚きの声をあげる。<br> <br> そして…その驚きの声を辛うじて挨拶に差し変えた。<br> <br> 「お…おおはよう!だな…」<br> 「うん、おはよう。…何慌ててんのよ?…………まあ、良いわ。あのさ…これ、前のカゴに入れてって?」<br> 「あ?ああ…」<br> <br> ハルヒが差し出したのは、見覚えがあるデパートのロゴの入った紙製の手提げ袋だった。<br> その半開きになった口の中には、いくつかの青い毛糸と…編み針?…そして、編みかけの『何か』が見える…。<br> <br> 「ハルヒ?これ…」<br> 「ああ、マフラー…もう少しで完成なのよ!だから、学校で仕上げちゃおうと思って…」<br> 「ああ、そうか…」<br> <br> 気の無い返事をして見せたものの…<br> 俺は今……<br> 猛烈に感動していたっ!!<br> <br> だって、そうだろ!?<br> このハルヒに限って『手編み』など絶対に有り得ないと思っていたが、今まさに…その『手編み』のマフラーを制作中なのだ!<br> しかも、この場合のプレゼントの相手は禍いなりにも『彼氏』であるこの俺だろう!<br> この世に生を受けて十余年…<br> 遂に俺の首に手編みのマフラーが巻かれようとしているっ!<br> ところで…コレはクリスマスプレゼントなのか?<br> だとしたら少し気が早い気もするが、セッカチなハルヒなら十分ありえる話だ…。<br> 俺は逸る気持を押さえきれずに、自転車の後ろにハルヒを乗せると力一杯ペダルを踏み始めた。<br> <br> 「ち…ちょっとキョン!何、急いでんのよ?」<br> 「ん?急いでなんかないさ!それより、いつもの販売機に寄るだろ…?」<br> 「え?…まあ、寄るけど…」<br> <br> 「奢ってやるよ!」<br> 「はあ?」<br> 「だから、奢ってやるって!」<br> 「…うん。…………(キョンが元気いっぱいだと、微妙な気分になるのは何故かしら)…」<br> 「ん?何か言ったか?」<br> 「べ…別に何も言ってないわよっ!」<br> <br> やがて、いつもの販売機にハルヒを乗せて到着した俺は、自転車から降りる瞬間にハルヒに気付かれない様、そっとカゴの中の袋に目をやった。<br> 先程の通りに半開きになった口から、編みかけのマフラーが見える。<br> 俺は、思わずニヤケそうになるのを必死に堪えながら販売機に向かうと、コーヒーとカフェオレを買いカフェオレをハルヒに手渡した。<br> <br> 「ほら…飲めよ」<br> 「あ、ありがと…」<br> 「大変だったろ?」<br> 「え?何がよ」<br> 「編みモノ」<br> 「…うん。まあね…」<br> 「そうか…」<br> <br> 大変だったんだろうな……だが!<br> だからこそ手編みは良いのだ!<br> その『大変』な作業により編み込む想いの数々…これこそが手編みの醍醐味だ…!<br> 俺はコーヒーを一気に飲み干すと、ハルヒを自転車に乗せ、再び全力でペダルを踏み始めた。<br> <br> <br> <br> 学校に着いて…授業が始まっても、俺の意識は黒板へと向く事は無かった。<br> (今、この時も…おそらくハルヒは俺の為に一生懸命にマフラーを編んでいる…)<br> 考えただけで、顔の筋肉が弛緩む。<br> そして、振り返って様子を伺ってやりたくなる…が、今は止めておく。<br> 楽しみは後回しにしたほうが喜びが大きいからな。<br> (さて、今のうちにマフラーを受け取った時に言う言葉でも考えておこうか…)<br> 俺は、ハルヒがどんな顔をしてマフラーを俺に手渡すのか考えてみた。<br> <br> そして…やっぱりハルヒの顔が少しだけ見たくなって、気付かれない様にそっと振り返えった。<br> 伏し目がちに手元を見つめながら、忙しく編み針を動かすハルヒが見える…<br> もうそれだけで俺は、胸の中にジンワリとこみあげて来るモノを感じていた。<br> 様子から察するに、おそらく完成は放課後くらいだろうか…。<br> 長い一日になりそうだ。<br> <br> <br> 昼休みになっても、ハルヒの手は止まる事は無かった。<br> 俺は何か労いの言葉でも…と考えながらも、(やっぱり、そういうのは後にとっておこう)と思い直して、ただ振り返ってハルヒを見つめるだけにする。<br> そんな俺の様子に気付いたハルヒが、手元と目線はそのままに俺に語りかけてきた。<br> <br> 「なあに、キョン…どうしたのよ…」<br> 「えっ…ああ、いや…その…毛糸の色、良いな」<br> <br> 俺は上手い言葉が思い付かずに、適当に見つけた言葉を返した。<br> ハルヒは、そのまま話を続ける。<br> <br> 「そう。この毛糸を見付けた時ね?この色は絶対にアタシに似合うって思ったのよ。<br> 丁度…良さそうなマフラーが売って無くて、がっかりしてた時だったから…すぐに自分で作る事を決めたわ!」<br> <br> <br> (何……と?)<br> <br> <br> <br> 「あら、キョン?どうしたの?固まっちゃって…」<br> 「……………いや、何でも………無い」<br> <br> …やっぱり…ハルヒはハルヒだった…。<br> <br> 俺は、今朝からの浮かれまくった自分を思いだし、激しく自己嫌悪に陥りながらも姿勢を元に正しながら冷静に考えてみる。<br> (そういえば、ハルヒの得意なセリフの一つに「無ければ自分で作ればいいのよっ!」ってのがあったな…)<br> おそらく今回も…街へマフラーを買いに行ったものの、気に入ったものを見付けられずに結局自分で作る事を思い付いたんだろう。<br> (なんてことだ…まったく…俺ときたら…)<br> やがて…授業が始まっても、俺の意識は黒板へと向く事は無かった。<br> 今朝からの激しい期待感を失った事に因る倦怠感が全身を漂っている…。<br> ああ…長い一日になりそうだ…。<br> <br> <br> そして…放課後…<br> <br> 部室に行くと、既にそこには古泉と朝比奈さん…そして長門に…ハルヒも居た。<br> <br> 「あら…古泉君。素敵なマグカップですねぇ…」<br> <br> 朝比奈さんが、古泉の持ってきたと思われるマグカップを、何やら羨ましげに眺めている。<br> そして、毎度お馴染のニヤケ面で古泉がそれに応えている…。<br> (ふん、たいしたマグカップじゃ無いじゃないか…)<br> 俺は意味もなく腹立たしくなり、二人の前を軽く挨拶をしてすり抜けると、ストーブの近くの椅子に腰を下ろした。<br> ハルヒは教室より引き続き、忙しく編み物に興じている。<br> <br> そして俺の存在に気付くと、先程と同じく手元と視線はそのままに「見てなさい?もう少しで完成するわよっ」と得意気な口調で話しかけてきた。<br> 俺は「ああ…そうか」とそっけない返事をしながら、ストーブに両手をかざす。<br> そんな俺とハルヒの様子に気が付いた古泉が、ハルヒの方に視線を送りながら「キョン君のですか?羨ましいですね?」とでも言わんばかりに俺に微笑みかけてきた。<br> 俺は「違う違うっ」と手を鼻先で二三度振ると、古泉が「それは残念」と両掌を天井に向けるのを待って、ポケットから携帯を取り出して開いた。<br> とりあえず…授業中に来ていた分のメールを確認しようとディスプレイを見るが…なんだか面倒だ……そしてダルい…。<br> 俺は何もしないまま、携帯を閉じると机に上体を伏せた。<br> ふと気が付くと、視界に本を読む長門が映る…。<br> (ああ…こいつは、こんなダルさとは生涯無縁なんだろうな…)<br> <br> やがて、俺は足元に当たるストーブの暖かな感触に眠気を覚え…そっと目を閉じた。<br> <br> <br> <br> <br> 「…ョン…」<br> 「ん…?」<br> 「…キョン……」<br> 「なん…だ…?」<br> <br> 「起きなさいよっ!バカキョンっ!」<br> <br> <br> ハルヒの怒鳴り声に慌てて体を起こすと、既に部室の中にはハルヒ以外に誰も居なくなっていた。<br> <br> 「あれ?みんなは…どうした?」<br> 「とっくに帰ったわよ!……それより…ねえ、見て?遂に完成したわよ!素晴らしい出来栄えだと思わない?」<br> 「ああ…まあな…」<br> 「いっその事…もういくつか作って、アタシのブランドでも立ち上げてネットで売り捌いてやろうかしらっ?」<br> <br> <br> ハルヒは、出来上がったばかりのマフラーを俺に見せながら満面の笑みを浮かべていた。<br> (手編みは貰い損ねちまったが…まあ、いいか…)<br> <br> 俺は「良かったな」とハルヒに軽く微笑みかけると、立ち上がって帰り支度を始めた。<br> ハルヒは既に支度を終らせていた様子で、コートをはおり手袋も着けている。<br> そして…俺がコートを着終わるのを見計らって、出来上がったばかりのマフラーを首に巻き始めた。<br> (確かに…ハルヒに似合う色だ………あれっ?)<br> ハルヒがマフラーを首に巻き始めたその時…俺は、ある事に気が着いた。<br> ハルヒの作り出したマフラーは………恐ろしく長い…!<br> <br> 戸惑う俺をよそに、ハルヒは手早くマフラーを巻くと、俺に余った長い部分を差し出した。<br> <br> 「…はい、キョン」<br> 「ん?な、なんだっ?」<br> 「アンタの分よ……」<br> <br> そう言いながら、ハルヒの顔がみるみるうちに赤くなってゆく……<br> そして…とりあえず言う通りに、余った分を首に巻いた俺を見て「ふふっ、暖かい?」と照れた様に笑った。<br> <br> <br> 「暖かいが……物凄く恥ずかしい……」<br> 「ええっ?何よ!この場合『恥ずかしい』じゃなくて『嬉しい』じゃないのっ?」<br> <br> 俺達は暗くなり始めた部室棟の廊下を、二人三脚の様にぎこちなく歩く…。<br> <br> しかし…全くハルヒの奴ときたら、とんでもない事を思い付くものだ。<br> こんなところを誰かに見られたらと思うと、恥ずかしくてしょうがない………<br> <br> ただ…マフラーからハルヒの匂いがして、少し幸せだったりするが…<br> <br> 「こらっ!もっと嬉しそうにしなさいよっ!…えいっ!」<br> 「ぐあっ!ひ…引っ張るなっ、首が締まるっ!」<br> 「あははっ!面白~いっ!…えいっ!」<br> 「ぐあっ!し…洒落にならん…」<br> 「…えいっ!」<br> 「グァ……」<br> 「…いっ!」<br> 「…ァ」<br> 「……」<br> 「…」<br> 「」<br> <br> <br> <br> 「なあ、ハルヒ…」<br> 「なあに?」<br> 「ありがとう…な」<br> <br> <br> おしまい
<p>…━━━━もうすぐクリスマスがやってくる…。<br /> …街中が恋とプレゼントの話題で騒がしい。<br /> ところで…「手編みのマフラーとかセーターとか…貰うと結構困るよね…」なんて言う輩を希に見掛ける昨今……<br /> 実を言うと俺は、そういったプレゼントに僅かながらも、密かに憧れを抱いていたりするのだった━━━━━…<br /> <br /> <br /> 【凉宮ハルヒの編物@コーヒーふたつ】<br /> <br /> <br /> 吐息も凍る様な、寒空の朝…<br /> 俺は、相も変わらずいつもの公園でハルヒを待っていた。<br /> つい先程まで、自転車を走らせる事により体温を気温と反比例させる事が出来ていた俺だが、公園に辿り着いてから暫くの間に指先は痺れる様な寒さを感じ始めていた。<br /> (まったく…こんな日に限って待たせる…)<br /> 大体…ハルヒの奴はいつもそうだ。<br /> 来て欲しい時に来なくて、来て欲しくない時に限って現れる…<br /> <br /> 「まったく…俺に何か恨みでもあるのか…」<br /> 「ん?何か言ったかしら?」<br /> 「…………へ?……うおっ!?!」<br /> <br /> 気付かぬうちに側に居たハルヒに、俺は思わず驚きの声をあげる。<br /> <br /> そして…その驚きの声を辛うじて挨拶に差し変えた。<br /> <br /> 「お…おおはよう!だな…」<br /> 「うん、おはよう。…何慌ててんのよ?…………まあ、良いわ。あのさ…これ、前のカゴに入れてって?」<br /> 「あ?ああ…」<br /> <br /> ハルヒが差し出したのは、見覚えがあるデパートのロゴの入った紙製の手提げ袋だった。<br /> その半開きになった口の中には、いくつかの青い毛糸と…編み針?…そして、編みかけの『何か』が見える…。<br /> <br /> 「ハルヒ?これ…」<br /> 「ああ、マフラー…もう少しで完成なのよ!だから、学校で仕上げちゃおうと思って…」<br /> 「ああ、そうか…」<br /> <br /> 気の無い返事をして見せたものの…<br /> 俺は今……<br /> 猛烈に感動していたっ!!<br /> <br /> だって、そうだろ!?<br /> このハルヒに限って『手編み』など絶対に有り得ないと思っていたが、今まさに…その『手編み』のマフラーを制作中なのだ!<br /> しかも、この場合のプレゼントの相手は禍いなりにも『彼氏』であるこの俺だろう!<br /> この世に生を受けて十余年…<br /> 遂に俺の首に手編みのマフラーが巻かれようとしているっ!<br /> ところで…コレはクリスマスプレゼントなのか?<br /> だとしたら少し気が早い気もするが、セッカチなハルヒなら十分ありえる話だ…。<br /> 俺は逸る気持を押さえきれずに、自転車の後ろにハルヒを乗せると力一杯ペダルを踏み始めた。<br /> <br /> 「ち…ちょっとキョン!何、急いでんのよ?」<br /> 「ん?急いでなんかないさ!それより、いつもの販売機に寄るだろ…?」<br /> 「え?…まあ、寄るけど…」<br /> <br /> 「奢ってやるよ!」<br /> 「はあ?」<br /> 「だから、奢ってやるって!」<br /> 「…うん。…………(キョンが元気いっぱいだと、微妙な気分になるのは何故かしら)…」<br /> 「ん?何か言ったか?」<br /> 「べ…別に何も言ってないわよっ!」<br /> <br /> やがて、いつもの販売機にハルヒを乗せて到着した俺は、自転車から降りる瞬間にハルヒに気付かれない様、そっとカゴの中の袋に目をやった。<br /> 先程の通りに半開きになった口から、編みかけのマフラーが見える。<br /> 俺は、思わずニヤケそうになるのを必死に堪えながら販売機に向かうと、コーヒーとカフェオレを買いカフェオレをハルヒに手渡した。<br /> <br /> 「ほら…飲めよ」<br /> 「あ、ありがと…」<br /> 「大変だったろ?」<br /> 「え?何がよ」<br /> 「編みモノ」<br /> 「…うん。まあね…」<br /> 「そうか…」<br /> <br /> 大変だったんだろうな……だが!<br /> だからこそ手編みは良いのだ!<br /> その『大変』な作業により編み込む想いの数々…これこそが手編みの醍醐味だ…!<br /> 俺はコーヒーを一気に飲み干すと、ハルヒを自転車に乗せ、再び全力でペダルを踏み始めた。<br /> <br /> <br /> <br /> 学校に着いて…授業が始まっても、俺の意識は黒板へと向く事は無かった。<br /> (今、この時も…おそらくハルヒは俺の為に一生懸命にマフラーを編んでいる…)<br /> 考えただけで、顔の筋肉が弛緩む。<br /> そして、振り返って様子を伺ってやりたくなる…が、今は止めておく。<br /> 楽しみは後回しにしたほうが喜びが大きいからな。<br /> (さて、今のうちにマフラーを受け取った時に言う言葉でも考えておこうか…)<br /> 俺は、ハルヒがどんな顔をしてマフラーを俺に手渡すのか考えてみた。<br /> <br /> そして…やっぱりハルヒの顔が少しだけ見たくなって、気付かれない様にそっと振り返えった。<br /> 伏し目がちに手元を見つめながら、忙しく編み針を動かすハルヒが見える…<br /> もうそれだけで俺は、胸の中にジンワリとこみあげて来るモノを感じていた。<br /> 様子から察するに、おそらく完成は放課後くらいだろうか…。<br /> 長い一日になりそうだ。<br /> <br /> <br /> 昼休みになっても、ハルヒの手は止まる事は無かった。<br /> 俺は何か労いの言葉でも…と考えながらも、(やっぱり、そういうのは後にとっておこう)と思い直して、ただ振り返ってハルヒを見つめるだけにする。<br /> そんな俺の様子に気付いたハルヒが、手元と目線はそのままに俺に語りかけてきた。<br /> <br /> 「なあに、キョン…どうしたのよ…」<br /> 「えっ…ああ、いや…その…毛糸の色、良いな」<br /> <br /> 俺は上手い言葉が思い付かずに、適当に見つけた言葉を返した。<br /> ハルヒは、そのまま話を続ける。<br /> <br /> 「そう。この毛糸を見付けた時ね?この色は絶対にアタシに似合うって思ったのよ。<br /> 丁度…良さそうなマフラーが売って無くて、がっかりしてた時だったから…すぐに自分で作る事を決めたわ!」<br /> <br /> <br /> (何……と?)<br /> <br /> <br /> <br /> 「あら、キョン?どうしたの?固まっちゃって…」<br /> 「……………いや、何でも………無い」<br /> <br /> …やっぱり…ハルヒはハルヒだった…。<br /> <br /> 俺は、今朝からの浮かれまくった自分を思いだし、激しく自己嫌悪に陥りながらも姿勢を元に正しながら冷静に考えてみる。<br /> (そういえば、ハルヒの得意なセリフの一つに「無ければ自分で作ればいいのよっ!」ってのがあったな…)<br /> おそらく今回も…街へマフラーを買いに行ったものの、気に入ったものを見付けられずに結局自分で作る事を思い付いたんだろう。<br /> (なんてことだ…まったく…俺ときたら…)<br /> やがて…授業が始まっても、俺の意識は黒板へと向く事は無かった。<br /> 今朝からの激しい期待感を失った事に因る倦怠感が全身を漂っている…。<br /> ああ…長い一日になりそうだ…。<br /> <br /> <br /> そして…放課後…<br /> <br /> 部室に行くと、既にそこには古泉と朝比奈さん…そして長門に…ハルヒも居た。<br /> <br /> 「あら…古泉君。素敵なマグカップですねぇ…」<br /> <br /> 朝比奈さんが、古泉の持ってきたと思われるマグカップを、何やら羨ましげに眺めている。<br /> そして、毎度お馴染のニヤケ面で古泉がそれに応えている…。<br /> (ふん、たいしたマグカップじゃ無いじゃないか…)<br /> 俺は意味もなく腹立たしくなり、二人の前を軽く挨拶をしてすり抜けると、ストーブの近くの椅子に腰を下ろした。<br /> ハルヒは教室より引き続き、忙しく編み物に興じている。<br /> <br /> そして俺の存在に気付くと、先程と同じく手元と視線はそのままに「見てなさい?もう少しで完成するわよっ」と得意気な口調で話しかけてきた。<br /> 俺は「ああ…そうか」とそっけない返事をしながら、ストーブに両手をかざす。<br /> そんな俺とハルヒの様子に気が付いた古泉が、ハルヒの方に視線を送りながら「キョン君のですか?羨ましいですね?」とでも言わんばかりに俺に微笑みかけてきた。<br /> 俺は「違う違うっ」と手を鼻先で二三度振ると、古泉が「それは残念」と両掌を天井に向けるのを待って、ポケットから携帯を取り出して開いた。<br /> とりあえず…授業中に来ていた分のメールを確認しようとディスプレイを見るが…なんだか面倒だ……そしてダルい…。<br /> 俺は何もしないまま、携帯を閉じると机に上体を伏せた。<br /> ふと気が付くと、視界に本を読む長門が映る…。<br /> (ああ…こいつは、こんなダルさとは生涯無縁なんだろうな…)<br /> <br /> やがて、俺は足元に当たるストーブの暖かな感触に眠気を覚え…そっと目を閉じた。<br /> <br /> <br /> <br /> <br /> 「…ョン…」<br /> 「ん…?」<br /> 「…キョン……」<br /> 「なん…だ…?」<br /> <br /> 「起きなさいよっ!バカキョンっ!」<br /> <br /> <br /> ハルヒの怒鳴り声に慌てて体を起こすと、既に部室の中にはハルヒ以外に誰も居なくなっていた。<br /> <br /> 「あれ?みんなは…どうした?」<br /> 「とっくに帰ったわよ!……それより…ねえ、見て?遂に完成したわよ!素晴らしい出来栄えだと思わない?」<br /> 「ああ…まあな…」<br /> 「いっその事…もういくつか作って、アタシのブランドでも立ち上げてネットで売り捌いてやろうかしらっ?」<br /> <br /> <br /> ハルヒは、出来上がったばかりのマフラーを俺に見せながら満面の笑みを浮かべていた。<br /> (手編みは貰い損ねちまったが…まあ、いいか…)<br /> <br /> 俺は「良かったな」とハルヒに軽く微笑みかけると、立ち上がって帰り支度を始めた。<br /> ハルヒは既に支度を終らせていた様子で、コートをはおり手袋も着けている。<br /> そして…俺がコートを着終わるのを見計らって、出来上がったばかりのマフラーを首に巻き始めた。<br /> (確かに…ハルヒに似合う色だ………あれっ?)<br /> ハルヒがマフラーを首に巻き始めたその時…俺は、ある事に気が着いた。<br /> ハルヒの作り出したマフラーは………恐ろしく長い…!<br /> <br /> 戸惑う俺をよそに、ハルヒは手早くマフラーを巻くと、俺に余った長い部分を差し出した。<br /> <br /> 「…はい、キョン」<br /> 「ん?な、なんだっ?」<br /> 「アンタの分よ……」<br /> <br /> そう言いながら、ハルヒの顔がみるみるうちに赤くなってゆく……<br /> そして…とりあえず言う通りに、余った分を首に巻いた俺を見て「ふふっ、暖かい?」と照れた様に笑った。<br /> <br /> <br /> 「暖かいが……物凄く恥ずかしい……」<br /> 「ええっ?何よ!この場合『恥ずかしい』じゃなくて『嬉しい』じゃないのっ?」<br /> <br /> 俺達は暗くなり始めた部室棟の廊下を、二人三脚の様にぎこちなく歩く…。<br /> <br /> しかし…全くハルヒの奴ときたら、とんでもない事を思い付くものだ。<br /> こんなところを誰かに見られたらと思うと、恥ずかしくてしょうがない………<br /> <br /> ただ…マフラーからハルヒの匂いがして、少し幸せだったりするが…<br /> <br /> 「こらっ!もっと嬉しそうにしなさいよっ!…えいっ!」<br /> 「ぐあっ!ひ…引っ張るなっ、首が締まるっ!」<br /> 「あははっ!面白~いっ!…えいっ!」<br /> 「ぐあっ!し…洒落にならん…」<br /> 「…えいっ!」<br /> 「グァ……」<br /> 「…いっ!」<br /> 「…ァ」<br /> 「……」<br /> 「…」<br /> 「」<br /> <br /> <br /> <br /> 「なあ、ハルヒ…」<br /> 「なあに?」<br /> 「ありがとう…な」<br /> <br /> <br /> おしまい</p>

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: