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「水晶の夜⑩」(2020/03/07 (土) 01:28:58) の最新版変更点
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<p> </p>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">後日談がある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あれからの、部室でのみんなの様子は特別変わりはない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒと長門は、互いにわだかまりを持っているわけではなさそうだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少なくとも俺の目にはそう見える。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけど全く変わっていないかというとそうでもない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ハルヒに「イスになってやろうか？」と言ったら、後ろから長門に「エッチ」と言われ、ハルヒにジト目でにらまれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒが土下座させなくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
いつだか団長机の上で胡座をかいていたからそうっと覗いてみたら、スカートの下にブルマーを履いていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つまらん。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんな、あれから一週間経った土曜日のことだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あのー、ここに入るのだけはちょっと…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">朝比奈さんはおれの手をしっかり握って離そうとしない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">はっきり言って不安だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あの世界での、朝比奈さんに怯えられ、鶴屋さんに古武術の技をかけられたシーンがフラッシュバックする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「キョン君、あたしが行きたいところならどんな所でも行くって言ったのはウソですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「えーと、おれはこの店にトラウマがあってですね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あたしの膝枕で寝たことがあるのを涼宮さんにバラしますよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">とうとう中にひっばりこまれてしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いらっしゃいま…せ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さんが笑顔で出迎えてくれた…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「また違うタイプの美少女を連れてきたわね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">連れてきたように見えますか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">連れてこられたようにしか見えないと思うんですが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そういうことじゃなくて、なんで今日はこの子と二人きりなの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
くじ引きというか、偶然というか、情報操作というか、インチキパワーというか、そういったものです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ハルヒちゃんはインチキだって知ってるの？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">知らないわよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">知ってたらインチキじゃなくなるもの。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
『やたらテリトリーを増やすんじゃなくて、自分のテリトリーに対する責任をしっかり負うべきだ』とかいう言葉を聞いたような気がするけど、幻聴だったのかしら。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">経営哲学ですか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
利益が上がったからといってやたらに店を増やすんじゃなくて、今ある店を充実させるとか今いる従業員を大事にするべきだということですかね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">勉強になります。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「わたしは防御の姿勢ってものが大嫌いだけど、どんな時でもテリトリーに対する責任はしっかりと負っているつもりよ。君と違ってね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あのー朝比奈さん、そろそろ手を離してもらえますか…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これが店長さんの誤解を招いていると思いますが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それ以上に怖いんですよ、これもトラウマなんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">朝比奈さんはおれの手をそっと離して言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いやなんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いやなわけがないでしょう！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただ、天使の体に触れていたらバチが当たりそうな気がするんです…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「神様の体にはベタベタさわるくせに。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう思われていたのか、ショックだな…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店内を見回してみた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わずか一週間だが、装いを新たにしている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">冬物から春物への過渡期のようだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">朝比奈さんはおれを入り口付近に残して歩き出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「君、そこに突っ立ってたら他のお客さんが入れないでしょ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さっさと奥に来なさい。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">語調はきつくないがやはり威圧感がある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この人、怒ってるんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今度、ハルヒを連れてきますから勘弁して下さい…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それ、あの子に聞こえるように言ってみたら？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">言ったら気まずくなるんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わからない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今日の朝比奈さんは変だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店員としばらく相談して試着室の中に消えていった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それにしても誰のそばに立ってもサマになる男だわね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">引き立て役ということだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「褒められてるとは思えません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「褒めてないわよ？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さっき、膝枕がどうとか言ってたわね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「情けないことに気絶してしまいましてね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だからおれ自身はそのことを覚えていないんですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">残念ながら。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">試着室から声がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あの時、あたしが何をしてたか知ってますか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">耳をひっぱったり息を吹きかけたりして遊んでましたね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「気絶していたのによくわかりますね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それはですね…、説明できない事情がありまして。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「飛び起きるフリをしただけで、目を覚ましてからしばらくあたしの太腿の感触を味わっていたとか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの…、怒ってます？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなことで怒るわけがないでしょう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしが怒っているのは別のことです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「はあ…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この人を怒らせたおぼえはないんだが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やむを得ず試着室の前まで歩いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「長門さんに、『三人の中であたしにいちばん女を感じない』って言ったそうですね！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">な、ながと…、何てことを。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「もし部室でこのことを責めたら、『長門を納得させるための方便ですよ』なんてあなたは言ったでしょうけど、ここではそうは言えないでしょう？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">試着室のカーテンがサッと開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「よくお似合いです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒと違ってこの人にはすぐに言えるな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「シックでフェミニンな格好をして、髪形もふだんと違う。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんで今日はポニーテールなんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「おませな女の子がちょっと気合いを入れてシャレっ気出してみました的な微妙さ加減が素晴らしいです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">本当にそう思った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「スカートの丈もちょうどいい。あなたの少女っぽい…失礼な言い方を許して下さい。どちらかといえば子供っぽい容姿と服装のシックさのミスマッチがかえって双方の魅力を引き出しています。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただ、調和していないとすれば、その髪形ですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">全身のシルエットとポニーが相容れない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどポニーテールを崩すのは惜しいな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「ポニーテールを高校の運動部っぽいとハルヒは言っていましたが、大人の女性のポニーもいいものです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そうですね……、そのドレスの形状そのものはこのままでいいです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">色彩を変えればいい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">布地の色はこのままでいいです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ボタンの色は…、変えるとなると全て変えなくちゃならないですね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
リボンをもう少し明るいものにして上半身に可愛らしさのポイントを集めれば、全身のシックさと相まって完璧にバランスする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まあ、おれの言えることはこの程度です。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ワンピースひとつでよく言えますね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたが着ればドレスです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さんが目を丸くしている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女の洋服を褒めるなんてそう難しいことじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「見えたモノを見えたように言っただけですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮さんとあたしと…、ずいぶん扱いが違うんですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「たしかに…、けじめをつけるのはわかるけど、本命かそうでないかでこここまで違うように扱っているのを見せられると、さすがに引くわ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたとハルヒが同じ扱いなわけがないでしょう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒが着ているモノなんてデパートの包装紙みたいなもんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれにとってはみな同じです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「男の人って…、大事なひととそうでない女の子を、本当に残酷なまでに差別するんですね…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ところであなたは、お届け物の包装紙をどんな風に剥がしますか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「爪楊枝まで使って丁寧に剥がしますよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">妹の教育上の問題もあるからな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">破いて剥がすようなことは絶対にしない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「きっとやさしく脱がすんでしょうね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「中に涼宮さんが入ってさえいれば包みなんてどうでもいいんでしょうね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「君が好きな女の子ほど焦らして意地悪したがる変態だっていうことは知っているわ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あたしは焦らす価値もないってことですね…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門さんが言っていた通りです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門はあとで叱っておきます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わざわざ長門さんを喜ばせるようなことはしなくていいです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">試着室のカーテンが勢い良く閉じられる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり今日は変だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
甘ったるいエンジェル・ボイスで怒鳴られても全く迫力はないが、この人に怒られていると思うとなんとなく鬱になる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「長門もハルヒも、結局おれしかいないんですよ。だけどあなたは誰からも愛されている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だいいち鶴屋さんがいるじゃないですか。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「鶴屋さんが寂しがってました。なんだかキョン君に距離を置かれているみたいだって。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">鶴屋さん自身は知らないでしょうけどね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">うっかりしたことをするとまた技をかけられるんじゃないかっていう気がするんですよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「最近なぜ涼宮さんがあなたに土下座をさせないかわかります？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんとなくわかってますよ。言えませんけどね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「少なくとも来週の中ごろまでは無理だと思います。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんなにかかるんだ。女って大変だな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「男にとって好きだとは見ることでしかない、って言ったそうですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言ったのは長門で、おれは返事をしただけですが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">朝比奈さんが急に語調を変えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ならば女の子にとって見られるってどんなことだかわかりますか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれの返事を待たずに言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「真剣勝負。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「触れれば肌が切れそうなほどの、ね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少し間が空いてから声がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「長門さんはあんなことを言っていたそうですけど、涼宮さんはあなたに汚れた下着を見られるくらいなら死ぬと思いますよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">死ぬって…、俺は気にしないのに。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつだって女なんだ。下着ぐらい汚すだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それは、男の人の理屈。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">うっ、声に出ていたらしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">生臭いことを天使の耳に入れてしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「天使って…、やっぱり女だと思ってないってことですかぁ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういう意味じゃないんだけど…。確かに天使に性別はない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮さんは女の中の女ですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんなことを言ってた奴がいましたね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あなたは長門さんに、涼宮さんが自信があるようにふるまっているのは内面の不安を隠すためだって言ったそうですけど、わたしたちには不安なんか一切見えません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんはね、知っているんですよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だれがあなたに特別にやさしくされているかをね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
自分以外の人間があんな態度を取ることを、あなたが絶対に許さないことを知っているんです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まあ、ハルヒが許さないでしょうけどね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それは別の話です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今の涼宮さんは自信に満ちあふれています。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつは容姿端麗で勉強もスポーツも優秀な奴です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おまけに歌も、料理もうまい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなものは手段にすぎません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたの言葉を借りれば、それこそ道具でしかありません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
涼宮さんは、目的を達成するための手段と、目的そのものを混同するようなことは絶対にしません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんがあのフォルダの存在を確認していることを知っていますか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
やばい、ＭＩＫＵＲＵフォルダを…、っておれにとってはあなたが知っていることの方がショックですが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なぜ涼宮さんが怒らなかったかわかります？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ま、まさか…、なんだか負けた気がする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あなたが保存していた写真が全て、わたしを撮るフリをしながらしっかり涼宮さんを撮っていたものだと知っているからです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
自分の好きな人に求められていて、だからこそ特別にやさしくされているなんて、まさしく女社会の特権階級です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういう意味で涼宮さんは女の中の女なんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自信に満ちあふれていてもおかしくないでしょう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そして涼宮さんが自信のかたまりみたいになったのは、実はあの五月からなんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">特権階級というより、ヒエラルキーの頂点に君臨しているんですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんとなく「食物連鎖の頂点」という言葉を思い出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒが朝比奈さんを捕食する光景が浮かんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">全然不自然じゃないな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いつものセクハラもそんな感じだし。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あれはわたしを食べたいんじゃありませんよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いくらあいつでも人肉を食ったりはしないでしょう。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なぜ涼宮さんがわたしにあんなことをしてくるかわかります？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたがかわいいからです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だったら、なぜあれをするのがあなたがいる時だけだかわかります？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">スルーされた。悲しい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「この間の……、団活の時、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんはいつものようにあたしにからんできました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどあなたは古泉君とのボードゲームに夢中なフリをして動きませんでした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたが涼宮さんより古泉君を気にかけているなんてことはあり得ないのに。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それはともかく、あなたにかまってもらえなかった涼宮さんはわたしへの攻撃をさらにエスカレートさせました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
見かねて立ち上がったあなたは涼宮さんの背後にまわり、背中からお腹に手を廻して、おへその上辺りで両手を組みましたね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの時のひそひそ声も聞こえていました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ばか……、どこさわってんのよ…。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『悪いことは言わないからその手を離せ。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『いつもみたいに、あたしの手を引きはがせばいいじゃない。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『それはちょっとまずいんだ。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『何がまずいのか、説明しなさい。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『言わなきゃダメか？』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『言いなさい。返答しだいでは大声上げるわよ…。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
『いつもみたいにすると、おまえの手だけじゃなくて、朝比奈さんの背中にもさわらなきゃならないからだ…。』」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だから、あなたの体に触れるのは怖いんですよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
どこからか鶴屋さんがやってきて「おイタはだめにょろ～」とか言いいながら腕をねじりあげてきそうな気がするし。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それ以前に、二度とあなたにあんな目で見られたくないんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「『たしかにみくるちゃんは団の大切なマスコットだもんね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あんたみたいな奴の手垢がついたらたまらないわ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">犠牲になるのはあたしだけで十分よ。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『わかってくれたか、ハルヒ。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『わかったわ…。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言って涼宮さんはわたしの胸からそっと手を離しました。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だったらいいじゃないですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あの後涼宮さんはあなたに胴を抱かれてあとずさりをしながら、真っ赤な顔で、わたしを見下したようにニヤッと笑いました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの屈辱は忘れられません！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんだか長門もそんなことを言ってましたが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたにさわられたいだけのためにあたしに絡んでくるなんてひどいです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしは噛ませ犬ですか！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だから今度涼宮さんがあんなことをしようとしたらこう言ってやるつもりです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
『あたし、キョン君(の前で、あなた)にお嫁にいけないようなことをされてしまいました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だから、キョン君に責任を取ってもらうつもりです…。』」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どこが「だから」なんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「膝枕のことや、同じ部屋で寝たことも話せばきっと信じるでしょう。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「やめて下さい…、殺されるかもしれません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮さんがあなたを殺すはずがないでしょう？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「………、あなたがですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…………。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの五月のように。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「自爆テロはやめましょう。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…………キョン君、この時代に『朝比奈』という苗字は多いんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「多いというほどではありませんが、珍しくはありません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「『みくる』という名前は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「平仮名で『みくる』というのは珍しいですが。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「未来」は「みくる」とも読める。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もしかしたら時間管理局が名乗らせた偽名なのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なら本名は何だろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">教えてくれないだろうな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だけど、全く無い名前じゃないですよね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それはそうです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この人も名前にこだわっているんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「当然『朝比奈みくる』っていう人もいるでしょうね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そりゃいるでしょう。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いきなりカーテンが乱暴に引き開けられた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あなたを虫みたいに見ておびえていたっていう『朝比奈みくる』とかいう名前の女は、わたしと何の関係もありません！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いきなりのことで声が出ない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あなたが倒れた時、あなたの体に取りすがって、泣きながらあなたの名前を呼び続けていた、それがあたしです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涙目で上目遣いににらみつけてくる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かわいい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどこれは拗ねてるんじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">正真正銘の怒りだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「それからもう一つ、さんざん無礼を働いたあげく、あなたにひどく嫌な思いをさせた女と、わたしの大切なお友達とは何の関係もありません！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれは朝比奈さんの左胸を凝視していた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ぽつりと言っていた。「あなたはまぎれもなく……、」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「おれの朝比奈さんですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">朝比奈さんの顔だけでなく全身が真っ赤になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ようやく自分の体を覆っているのが下着だけだと気がついたらしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わ…、わかってるんだったらいいです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">カーテンがビシャッと閉じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「だいたいキョン君はあたしと涼宮さんの扱いが違うのはとにかく、長門さんとさえ違いすぎます！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなことをした覚えはありませんが。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あの眼鏡をかけた子と長門さん、光陽園の長髪の女の子と涼宮さんとを、あなたは別人だとはっきり区別しているじゃないですか！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんでわたしだけ違うんですか！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">必ずしもそうではない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やはりおれはあいつに「ハルヒ」と呼びかけて拒絶されたことがショックだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつに「涼宮」と呼び続けたのはそのことを根に持っていたのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ハルヒ」と呼んでいいかと改めて許可を求めたのもそのせいかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなことないでしょう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたが眼鏡をかけている長門さんを認めるわけがないです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だってあなたが外させたんですから。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">眼鏡をかけていないから長門さんなんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんだって同じはずです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒの髪を短くさせたのは俺のようだが、いまいち因果関係がわからない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
なんであいつは「曜日によって髪形変えるのは宇宙人対策か」と言っただけで髪を切ったんだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それに、短髪の方が好みというわけじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長髪のハルヒをポニーテールにさせちまったし。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あのポニーは完璧だったな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そっちじゃありませんよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もっとはっきりした違いがあるでしょう！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたが、光陽園学院の制服を着ている女の子を認めるはずがありません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どっちかというと、あの黒ブレザーの方がおれの趣味に合ってたんだが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">単に新鮮だったからだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だって涼宮さんに北高の制服を着せたのはあなたじゃないですか！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「………。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれはデジャブは嫌いなんだが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いやあな沈黙。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれは後ろを振り返って弁明を始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「みなさん、ちょっと聞いて下さい！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
長門の眼鏡を外したことについては自分の趣味であいつの外見を（ほんの少し）いじったことを認めましょう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただ、ハルヒの髪を短くさせたのはおれの趣味じゃありません。断固として違います。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれはどっちかというと長髪のころのあいつの方が（外見的には）好きです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それから、ハルヒに北高の制服を着せたというのは絶対に誤解です！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれは制服マニアじゃありません！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">北高の制服の方が光陽園の制服よりいいなどと思ったことはありません！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まして等身大の着せ替え人形みたいに、下着姿のあいつを立たせておいて制服を着せるなんてことはしてません！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれはそんな変態じゃありません！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんなことをしたらさすがに責任が発生することぐらいわかってます！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">後ろから声がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「その気になればどんなに偏差値の高い高校にも入れた涼宮さんを、わざわざ自分の通う高校に入学させたのはあなたでしょう！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「………。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これは、どう言ったらいいんだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれはそのことを知らなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">責任は決断に帰結する。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そうすると決めたのはあいつだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だったら責任はおれじゃなくてあいつにあるはずだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんて言ったらまた殴られるだろうな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「………そんなこともありましたね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">北高の制服を着せたんじゃない、着させただけだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなこと、ですませるつもり？ たいした片思いだわ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あのー、ちゃんと認めたのになんで手の平をモノサシでぴたぴた叩いてるんですか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ん？ 君がものすごく図々しいことを考えているのが顔に出ていたからよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「しかも同じクラスに入れて、自分の席の後ろに座らせて…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「い、いーじゃないですか！ あいつは別に後悔してるわけじゃありませんよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「後悔はさせないからおれのそばにいろ、ですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">きちんと責任を果たしているわけですね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういうところが涼宮さんを特別扱いしてるって言うんです！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんが特権階級だっていうのはそういうことです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自分の全てを理解し、自分の全てを受け入れ、自分の全てを許してくれる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どんなことがあろうとも自分の味方をしてくれる人がいる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まるで幼い子を持つ父親のように。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それでいてその人は父親ではなく、自分が恋した人。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれはどんなことがあってもあいつの味方でいるわけじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれには、たとえあいつでも許すことが出来ない一線がある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お人好しだとしか見られていないが、同時に俺はもの凄く頑固なんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自分でもそう思う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そのことをハルヒは知っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどこの人は知らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">酔っぱらってたからな…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんな人がわたしたちに自分の不安を感じさせるわけがないでしょう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だから涼宮さんの心の中の不安を感じることができるのは、あなただけなんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんの不安っていうのはただ一つ、あなたを失うことだけなんです！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
涼宮さんが、三日間あなたに守られていなかったのがひどく怖かったって言ってたそうですけど、そんなのはウソです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たしかに、おれはあいつを守っているつもりだっだだけかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あの時の涼宮さんは大変だったんですよ……。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まるでどっちが病人かわからないくらいに取り乱してました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あなたはいつかは目を覚ますだろうけど、それより先に涼宮さんが壊れてしまうかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そこであなたの家と涼宮さんの家が合議した結果、苦肉の策として涼宮さんをあの病室に泊めることにしたんです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">確かに嫁入り前の娘にあんなことをさせるなんて、普通だったら絶対に認めないだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この時計が送られてきたのはあの直後だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「そうしたら、あれほど必死だった涼宮さんが、あなたの寝息が聞こえるところにいるだけでぐうぐう寝だしたじゃないですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたが目を覚ました時、涼宮さんがよく眠っていたのを覚えているでしょう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんが眠ることができた場所は、世界中であそこだけだったんです！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの時涼宮さんはあなたに守られていなかったんじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただ、昏睡していたあなたは、あの場所でしか涼宮さんを守れなかったんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんはあの三日間でさえ、あなたに守られていたんです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なんだかあいつの話と微妙に違いますよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんだかゲロが出るほど怖かったとか言ってました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それは、病室で寝られると聞く前の話です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの涼宮さんがあなたの隣に寝ていて何かを怖がるわけがないじゃないですか！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんなことを言ったのは、あなたに甘えてるだけです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あいつが秘密にしておきたいようなことを大声で言うのはやめて下さい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…………。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まずい。おれが大声を出してしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">試着室に向き直って声をかけた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「朝比奈さん…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ほうら、やっぱりエコヒイキだ…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんなこと言われても。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「長門さんは涼宮さんのことを、嫉妬深く、疑り深く、独占欲が強く、悋気病みで、妬み深く、重度のやきもち焼きだって言ってますけどね、わたしはそうとは思いません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まえにあいつのことをやきもち焼きだって言ってませんでしたか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮さんは疑り深くなんかないです。涼宮さんはあなたの気持ちを知ってますよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">きっとそれを疑ったことなんか、一度もないでしょう。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さっきあなた、あいつがおれに対して不安を抱いているって言ってましたけど……。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ま、あの子が不安を抱えているのは君が浮気者だからとしか考えられないけどね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんですか、浮気って…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ん？ 君が今やってることよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どんな時でも、目の前のことに本気で対応しているだけです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮さんはあなたの前に立っている時はいつだって本気ですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それじゃあいつリラックスしているんです？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたの背中を見ている時に決まってるじゃないですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんはほんの少しの間でも自分のものをひとに触らせたくないんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">疑り深いんじゃありません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">欲張りなんです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">最後の一行には全面的に賛成ですが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「否定しか返ってこないような質問をわざわざ何度もするんですよ…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それはどちらかというと俺がやってることだと…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「『みくるちゃんとのデートは楽しかった？』って聞かれる度にあなたは涼宮さんをこう怒鳴りますよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『だから、デートじゃねえって！』。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんなことを何度も聞かされて、あたしが傷つかないとでも思ったんですか！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いや、あなたも変な風に誤解されたくないだろうと思ったからで…。。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「涼宮さんと長門さんは、わざとあたしがいる時に『みくるちゃんとのデート』だとか『朝比奈みくるとの逢い引き』とかいう言葉をあなたとの会話の中にさりげなく混ぜている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたがやっきになって否定するのが楽しいんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『いい加減にしろ！ 長門もハルヒも！』って何回でも怒鳴られたいんですよ…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">似たようなことがもう一回ありましたよね。覚えてます？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">覚えてません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あのアメフトの試合の時のことです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
涼宮さんはわざわざわたしの前で、あなたに『あたしじゃなくてみくるちゃんと抱き合いたいの？』って聞きましたよね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの時おれは否定なんかせずにあなたとハルヒを等時間見るようにしたはずですが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あの時あなたは、わたしを申し訳なさそうに見て、涼宮さんを今にも抱きつきそうな、いやらしい目で見てましたね！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういう風に見えただけなんじゃ…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あの後わたしを見た涼宮さんの微笑は、神様じゃなくて悪魔でした！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「小」が抜けてます…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたはわたしが危機に陥ったら、必ず助けてくれます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの七月もあなたがいなければどうにもなりませんでした。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">助けてくれたのは長門です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">というより、あれはあらかじめ仕組まれていたんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたは知らないでしょうが、仕組んだのはあなた自身です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「そしてあなたは、わたしにとって、わたしたちにとってとても大切な人の命を救ってくれました。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あれは体がいつの間にか動いていただけです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたのためではありません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">とは言えない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「だけど危機から救って、あたしの無事を確認すると同時に全速力で涼宮さんのところに戻って機嫌を取り始めるってどういうことですか！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">多分これからもずっとそうなんでしょうね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたはパートタイムの月光仮面ですか！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">月光仮面って……、あなた未来人ですよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だけどわたしも長門さんも、あなたに頼るほかない…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
確かに、全ての事情を理解していながら組織からの制約を一切受けない、ニュートラルな立場にいるのはおれだけだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれだけが自分の意志のみで行動することができる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「全く知らない世界にぽつんと取り残されたわたしたち…、何の見返りもあげられないわたしたちを助けてくれるのはあなたしかいません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
だけどね、わたしと長門さんがあなたに頼り切っている、そのことがどんなに涼宮さんを傷つけているか、考えたことがありますか！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんだか錯綜してるぞ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この人はハルヒを可哀相だと思っているのか、そうでないのか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それともおれを頼るのがいやなんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなわけないでしょ！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんは勢い任せに行動した後、最後にはあなたに頼る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それよりもあたしみたいに、最初からあなたに頼っている方がはるかに潔いです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「何を言いたいのかさっぱりわかりません！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">言動が矛盾してます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">完璧に論理が破綻しています！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あたしは女の子ですよ！ 涼宮さんみたいな女の中の女じゃなくても、まぎれもなく女の子です！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わかってますよ。俺が知る限りあなたほど女の子っぽい人はいません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「女の子にロジックなんてものが通用すると思ったら大間違いです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">このセリフ、おれが言ったら差別発言だろうな…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それに通用するかどうかは人によりけりだと思うし。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「キョン君！ いま佐々木さんのこと考えましたね！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やはりこの人は佐々木を知っていたか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「女の子にとって大切なのはとりあえず気持ちなんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけど確かめようのない気持ちだけじゃなく、鼓膜を震わす言葉がほしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あの佐々木さんだって小難しい理屈なんかより気持ちに訴える言葉を欲しがっていたはずです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">理屈を言っていたのはあいつの方です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたが佐々木さんをどのように扱っていたかくわしくは知りませんけどね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
一週間前、色々言ったみたいですけど、涼宮さんが聞いていたのは『おれがおぼえている』とかそういう言葉だけでしょう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門さんだってあの『返事は』以外の言葉なんてどうでもいいと思っているでしょう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あたしだって、さっきからいろんなことを言われましたが、『おれの朝比奈さん』以外は全部忘れました！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">他にも何か、あたしの心に残るようなことを言って下さい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やれやれ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「おれの朝比奈さんは、そんな支離滅裂なことは言いません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ず…、ずるいですぅ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">カーテンがシャッと開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あたしは誰です？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ごめんなさい！ おれの朝比奈さんです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あわててカーテンを閉じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わかってくれるんならいいです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">はぁ…、この人もハルヒみたいなやり方をするようになったな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「何言ってるんですか…。もともとこういうのはあたしのやり方です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしが敢えて部室の鍵を開けたまま着替えているのは知ってますよね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だからノックしているじゃないですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮さんがパクッたんですよ、あたしがやっていることを。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それに…、ちょっと胸を押しつけてあなたの反応を楽しんでいただけなのに、あんなに怒って…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あそこまでやきもちを焼くことないのに…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなた、さっきハルヒはそうじゃないって言ってませんでしたか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それでいて、あたしが妬いているのを見て楽しんでるんですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつはそんなに陰険じゃないですよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だいいち普段おれが、あなたよりハルヒを優遇している要素なんかありましたか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「何を言ってるんですか！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">呼び名ですよ、呼び名！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わたしが『みくるちゃんって呼んで下さい』って言ったのを忘れたんですか！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">忘れてました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あのー、いくらなんでも年上の人を『ちゃん』づけで呼ぶのは…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あたしがいつあなたより年上だと言いました？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言えばこの人、年齢不詳だったな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だいたいあなたの生まれ年よりわたしの方がずっと後です！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それを言ったら何でもアリになっちゃいます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">水戸黄門と安徳天皇とどちらが年上か、っていうのと同じです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「名前呼びはね、あなたが涼宮さんに与えた最大の特権です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今の涼宮さんにとって自分の苗字が何を意味するかなんてどうでもいいんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それよりもこの特権を守ることの方がずっと大事なんですよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いい加減にしろ！ …みくる！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「………。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">試着室の中から荒い息が聞こえる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">照れているのか…、怒っているのか…、姿が見えないからわからない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「やっぱりずるいです…、どうせなら涼宮さんの前でそう呼んで下さい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「長門でさえそこまでは言いませんでしたよ…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あなたは長門さんを傷つけないように、それでいて本気にさせないように常に気を配っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどキョン君…、あたしのことナメてませんか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「は…？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あたしはどうせ涼宮さんより、もしかしたら長門さんよりもあなたのそばに長くいられない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしだったら本気にさせちゃってもどうせ逃げられるとか思ってません？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「君だったらそれぐらい図々しいこと考えていてもおかしくないわね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さん、会話に入ってくるのはいいですが、ややこしくさせないで下さい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だから涼宮さんの前でも平気であたしにやさしくできるんじゃないですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれがあなたに冷たくなんかできるわけがないでしょう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あたしを本気にさせちゃったら間に入ってほしいと涼宮さんに言ったそうですね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それは話の流れで…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なんであたしの想いがバカップルの痴話喧嘩のネタにされなきゃならないんですか！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門…、また余計なことを…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「これは涼宮さんから聞きました！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『あなたがあいつなんか相手にするわけないけどね…』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">とか、わざとらしい前置きをして、実に自慢気に話してました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
おしまいには『全くあいつはあたしを頼る気満々なんだから…、雑用のくせに図々しいと思わない？』って、図々しいのはどっちだーっ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒ…、思いっきり余計なことを…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「『朝比奈さんだったらおまえらに譲るだろう』とも言ったそうですね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何を譲るっていうんです？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">好きな人をですか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういうのがあたしをナメてるって言うんです！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">確かにわたしには涼宮さんのようなあなたを引っ張っていく行動力などありません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門さんのようなあなたをどんな危険からも守る力などありません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今のあなたはじゅうぶんアグレッシブでパワフルですけどね…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だけどあたしには、キョン君の大好きな…、おっぱいがあります！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういうことを言いながらカーテンを開けるのはやめて下さい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">閉めるのが勿体ないと思っちゃったじゃないですか…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「おれは別に胸で人を見てるわけじゃありません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「何言ってるんですか。いつもあたしの顔じゃなくて、胸を見て話してるくせに…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だまれ乳女。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「聞こえましたよ…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「うわぁっ、ごめんなさい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「本気になっちゃったら、あたしが別れの時に泣くと思ってるでしょう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどナメないで下さい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">泣くのはわたしじゃなくて、あなたかもしれませんよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あの朝比奈さんが言っていた「わたしとはあまり仲良くしないで」というのは、そういう意味だったのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「じゃあ、どうすればいいんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「どうして男の人っていくつになっても、なんでも『それなーに』、って聞きたがるんでしょうね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少しは自分で考えて下さい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今日の朝比奈さんはハルヒより聞き分けが無く、長門より強情だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「まあ、さんざん面倒を見ておいて、肝心なことはとぼけるのは男のほうだけど。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「本気でわかんないんですが。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「聞いてればこの子から言うわよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなもんですか。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたは涼宮さんに世界そのものをあげましたね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門さんには心をあげました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしには何にもないんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あの…、一応聞いておきたいんですが、あなたはおれがハルヒにはもう何もやらなくていいと思ってるんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門はそうじゃないと考えているような口調だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮さんは…、まだほしいものがあるようです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それが何なのか、あなたは知っているんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それをわたしに言わせたいんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">質問返しだな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「もしそれをあなたが知っていて、おれに教えたくないんだったら…、あなたがあいつの願いを叶えてやって下さい。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「………キョン君、死にたい？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そうですか…、わかりました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">しかし今のおれではあいつの願いを叶えてやることはできません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「本当にわかったんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「今のあなたの答えでわかりました。あいつは…、おれが死ぬことを望んでいるわけですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">論理的にはそうなる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…………。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">白けきった沈黙があたりを包みこむ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「冗談ですよ。あいつが人の死なんて望むわけがないじゃないですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たとえ誰のものであっても。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少なくともおれは、あの孤島ではそのことを知っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ということは、自爆テロにはならないっていうことですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あ、論理的だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんか墓穴をほったか、俺？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「結局おれにどうしろと…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この人がほしがるものってなんだろう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門よりわかりにくいな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">カレー十一杯分（今日の昼に奢らされた）ではなさそうだし。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「未来。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたが未来人だっていうのはよく知ってますが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたの未来を、あたしに下さい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ちょっと待って下さい！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたとおれが未来をともにするってことは…、あり得ないんでしょう？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「誰がそんなこと言ったんですか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたの思いこみでしょう、そんなのは。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">初めて二人で話した時、そんなことを言っていたような気がしますが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり支離滅裂だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたが時空の歪みになってどうするんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
朝比奈さんが成長すると自分の言いたいことばかり言うようになるのは、このころから萌芽があったのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「だいいちおれはあなたにはそんな…、責任が発生するようなことはしてないと思いますが。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「キョン君、あたしがあなたの朝比奈みくるだって、どうしてわかったんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「左胸にある星形のホクロですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「はいっ、いま責任が発生しました！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">勢いよくカーテンが開けられる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">閉めさせないつもりなのか、束ねた布をぎゅっと握っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あなたは涼宮さんの秘密を守るためにあれほど気を配ったのに、あたしの秘密は大声でしゃべるんですね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">責任取って下さい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「へええ、君。この子の左胸にホクロがあるっていう『秘密』を知ってたんだ…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それもその口振りでは随分前からみたいね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あの、そういう言い方をされると、「秘密」って言葉になんだかおかしなニュアンスが…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「だいたい、長門さんは眼鏡をかけていないだけで、涼宮さんは北高の制服を着ているだけで認めてもらえるのに、なんであたしは胸を出さないと認めてもらえないんですか！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いくらあなたでも…、そんなにじっと見られたら…、は、はずかしいんですよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いえ、十分美しいですから、恥じることなどありません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何を言ってるんだおれは…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「責任って言われても…、あなたの胸にホクロを発生させたのはおれじゃありません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「君、またモノサシでぶっ叩かれたい？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">完璧に誤解している人が一人…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もしかしたら一人じゃないかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたは何故わたしの胸にホクロがあると知ったんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そう、そういうことよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり誤解している。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたに教えてもらいました。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「へーえ、そうなんだ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いつわたしがそんなことを言いました？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「言葉で聞いたんじゃないんじゃないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「これから言うんですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">言葉だけで理解したわけじゃないんだが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">急に朝比奈さんがこっちをにらみながら黙りこんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なるほど、そういうことですか…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「これ以上は禁則です。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「……、涼宮さんにあなたがあたしの左胸に星形のホクロがあることを『知っている』ことをバラしますよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自爆じゃない、ただのテロですそれは。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「勘弁して下さい…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何をすればいいんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あたしと出掛けたことをデートだったと認めて下さい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ノックをせずに部室に入ってきて下さい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんの前で『みくる』って呼び捨てにして下さい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">一度でいいですから、長門さんの前で『乳女』って呼んで下さい。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">一つ変なのが混じってましたよ…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あたしの前では『涼宮』って呼んで下さい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いきなりズボンの尻ポケットが鳴りだした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">とび上がりそうになった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ポケットが鳴るわけがない、携帯電話だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この着信音は…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どうしたらいいんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんだか店じゅうの視線を浴びているような気がする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">気のせいではないだろうな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">早くあきらめて向こうから切ってほしいんだが…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">無理だな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれが出るまで何コールでもするつもりだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">着信メロディーがフルコーラスを終わった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">再び前奏が鳴り響く。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">保留にするか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">問題を先送りにするだけだがここで通話するよりマシだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ポケットから携帯を取り出したと同時に奪われた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「へっ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あ、涼宮様でございますか。先日はご来店ありがとうございました。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何やってんですか！ それはおれの電話で…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「浮気中の彼氏ですか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あ、照れなくていいです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何をしているかお知りになりたいわけですね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これはわたしの口からはとても言えません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だったら電話に出なきゃいいじゃないですか！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いま本人に代わりますので。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さんはにこにこしている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「さあ、君がいま何を話していたか、ハルヒちゃんに言ってごらんなさい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もちろんこちらの、みくるちゃんにも聞こえる所でね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ぐっと携帯がこちらに差し出される。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">その待ち受けの笑顔は…、目をそらしたくなるくらいに、まぶしかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">（完）</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">作者より</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">このＳＳでは、原作、漫画版、アニメ版の設定がごたまぜになっています。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
例をあげますと、「消失」でキョンが長門の頭に降った雪を払ったのは劇場アニメ版のみであり、ハルヒの寝袋のそばに栄養ドリンクの空き瓶が転がっていたのは漫画版のみです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">一事が万事この調子ですので、そのつもりでお読み下さい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それから、「わたしはここにいる」の「ＳОＳ」又は「わたしはここから動かない」との解釈は、同人誌「閉じられた世界」から拝借させて頂きました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">その他、多くのセリフ、解釈など多くの先行のＳＳに負っています。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">無断借用したことをお詫び申し上げます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もう一つ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「悪夢の背中」を投稿した際、投稿ミスを犯してしまいました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「悪夢の背中 訂正」が本来の形です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">迷惑をかけてしまいました皆様、本当に申し訳ありませんでした。</div>
<p> </p>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">後日談がある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あれからの、部室でのみんなの様子は特別変わりはない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒと長門は、互いにわだかまりを持っているわけではなさそうだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少なくとも俺の目にはそう見える。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけど全く変わっていないかというとそうでもない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ハルヒに「イスになってやろうか？」と言ったら、後ろから長門に「エッチ」と言われ、ハルヒにジト目でにらまれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒが土下座させなくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
いつだか団長机の上で胡座をかいていたからそうっと覗いてみたら、スカートの下にブルマーを履いていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つまらん。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんな、あれから一週間経った土曜日のことだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あのー、ここに入るのだけはちょっと…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">朝比奈さんはおれの手をしっかり握って離そうとしない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">はっきり言って不安だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あの世界での、朝比奈さんに怯えられ、鶴屋さんに古武術の技をかけられたシーンがフラッシュバックする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「キョン君、あたしが行きたいところならどんな所でも行くって言ったのはウソですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「えーと、おれはこの店にトラウマがあってですね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あたしの膝枕で寝たことがあるのを涼宮さんにバラしますよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">とうとう中にひっばりこまれてしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いらっしゃいま…せ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さんが笑顔で出迎えてくれた…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「また違うタイプの美少女を連れてきたわね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">連れてきたように見えますか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">連れてこられたようにしか見えないと思うんですが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そういうことじゃなくて、なんで今日はこの子と二人きりなの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
くじ引きというか、偶然というか、情報操作というか、インチキパワーというか、そういったものです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ハルヒちゃんはインチキだって知ってるの？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">知らないわよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">知ってたらインチキじゃなくなるもの。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
『やたらテリトリーを増やすんじゃなくて、自分のテリトリーに対する責任をしっかり負うべきだ』とかいう言葉を聞いたような気がするけど、幻聴だったのかしら。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">経営哲学ですか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
利益が上がったからといってやたらに店を増やすんじゃなくて、今ある店を充実させるとか今いる従業員を大事にするべきだということですかね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">勉強になります。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「わたしは防御の姿勢ってものが大嫌いだけど、どんな時でもテリトリーに対する責任はしっかりと負っているつもりよ。君と違ってね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あのー朝比奈さん、そろそろ手を離してもらえますか…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これが店長さんの誤解を招いていると思いますが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それ以上に怖いんですよ、これもトラウマなんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">朝比奈さんはおれの手をそっと離して言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いやなんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いやなわけがないでしょう！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただ、天使の体に触れていたらバチが当たりそうな気がするんです…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「神様の体にはベタベタさわるくせに。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう思われていたのか、ショックだな…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店内を見回してみた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わずか一週間だが、装いを新たにしている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">冬物から春物への過渡期のようだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">朝比奈さんはおれを入り口付近に残して歩き出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「君、そこに突っ立ってたら他のお客さんが入れないでしょ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さっさと奥に来なさい。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">語調はきつくないがやはり威圧感がある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この人、怒ってるんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今度、ハルヒを連れてきますから勘弁して下さい…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それ、あの子に聞こえるように言ってみたら？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">言ったら気まずくなるんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わからない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今日の朝比奈さんは変だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店員としばらく相談して試着室の中に消えていった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それにしても誰のそばに立ってもサマになる男だわね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">引き立て役ということだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「褒められてるとは思えません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「褒めてないわよ？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さっき、膝枕がどうとか言ってたわね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「情けないことに気絶してしまいましてね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だからおれ自身はそのことを覚えていないんですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">残念ながら。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">試着室から声がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あの時、あたしが何をしてたか知ってますか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">耳をひっぱったり息を吹きかけたりして遊んでましたね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「気絶していたのによくわかりますね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それはですね…、説明できない事情がありまして。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「飛び起きるフリをしただけで、目を覚ましてからしばらくあたしの太腿の感触を味わっていたとか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの…、怒ってます？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなことで怒るわけがないでしょう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしが怒っているのは別のことです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「はあ…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この人を怒らせたおぼえはないんだが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やむを得ず試着室の前まで歩いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「長門さんに、『三人の中であたしにいちばん女を感じない』って言ったそうですね！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">な、ながと…、何てことを。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「もし部室でこのことを責めたら、『長門を納得させるための方便ですよ』なんてあなたは言ったでしょうけど、ここではそうは言えないでしょう？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">試着室のカーテンがサッと開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「よくお似合いです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒと違ってこの人にはすぐに言えるな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「シックでフェミニンな格好をして、髪形もふだんと違う。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんで今日はポニーテールなんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「おませな女の子がちょっと気合いを入れてシャレっ気出してみました的な微妙さ加減が素晴らしいです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">本当にそう思った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「スカートの丈もちょうどいい。あなたの少女っぽい…失礼な言い方を許して下さい。どちらかといえば子供っぽい容姿と服装のシックさのミスマッチがかえって双方の魅力を引き出しています。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただ、調和していないとすれば、その髪形ですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">全身のシルエットとポニーが相容れない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどポニーテールを崩すのは惜しいな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「ポニーテールを高校の運動部っぽいとハルヒは言っていましたが、大人の女性のポニーもいいものです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そうですね……、そのドレスの形状そのものはこのままでいいです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">色彩を変えればいい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">布地の色はこのままでいいです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ボタンの色は…、変えるとなると全て変えなくちゃならないですね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
リボンをもう少し明るいものにして上半身に可愛らしさのポイントを集めれば、全身のシックさと相まって完璧にバランスする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まあ、おれの言えることはこの程度です。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ワンピースひとつでよく言えますね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたが着ればドレスです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さんが目を丸くしている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女の洋服を褒めるなんてそう難しいことじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「見えたモノを見えたように言っただけですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮さんとあたしと…、ずいぶん扱いが違うんですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「たしかに…、けじめをつけるのはわかるけど、本命かそうでないかでこここまで違うように扱っているのを見せられると、さすがに引くわ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたとハルヒが同じ扱いなわけがないでしょう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒが着ているモノなんてデパートの包装紙みたいなもんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれにとってはみな同じです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「男の人って…、大事なひととそうでない女の子を、本当に残酷なまでに差別するんですね…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ところであなたは、お届け物の包装紙をどんな風に剥がしますか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「爪楊枝まで使って丁寧に剥がしますよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">妹の教育上の問題もあるからな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">破いて剥がすようなことは絶対にしない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「きっとやさしく脱がすんでしょうね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「中に涼宮さんが入ってさえいれば包みなんてどうでもいいんでしょうね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「君が好きな女の子ほど焦らして意地悪したがる変態だっていうことは知っているわ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あたしは焦らす価値もないってことですね…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門さんが言っていた通りです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門はあとで叱っておきます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わざわざ長門さんを喜ばせるようなことはしなくていいです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">試着室のカーテンが勢い良く閉じられる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり今日は変だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
甘ったるいエンジェル・ボイスで怒鳴られても全く迫力はないが、この人に怒られていると思うとなんとなく鬱になる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「長門もハルヒも、結局おれしかいないんですよ。だけどあなたは誰からも愛されている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だいいち鶴屋さんがいるじゃないですか。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「鶴屋さんが寂しがってました。なんだかキョン君に距離を置かれているみたいだって。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">鶴屋さん自身は知らないでしょうけどね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">うっかりしたことをするとまた技をかけられるんじゃないかっていう気がするんですよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「最近なぜ涼宮さんがあなたに土下座をさせないかわかります？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんとなくわかってますよ。言えませんけどね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「少なくとも来週の中ごろまでは無理だと思います。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんなにかかるんだ。女って大変だな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「男にとって好きだとは見ることでしかない、って言ったそうですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言ったのは長門で、おれは返事をしただけですが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">朝比奈さんが急に語調を変えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ならば女の子にとって見られるってどんなことだかわかりますか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれの返事を待たずに言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「真剣勝負。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「触れれば肌が切れそうなほどの、ね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少し間が空いてから声がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「長門さんはあんなことを言っていたそうですけど、涼宮さんはあなたに汚れた下着を見られるくらいなら死ぬと思いますよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">死ぬって…、俺は気にしないのに。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつだって女なんだ。下着ぐらい汚すだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それは、男の人の理屈。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">うっ、声に出ていたらしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">生臭いことを天使の耳に入れてしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「天使って…、やっぱり女だと思ってないってことですかぁ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういう意味じゃないんだけど…。確かに天使に性別はない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮さんは女の中の女ですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんなことを言ってた奴がいましたね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あなたは長門さんに、涼宮さんが自信があるようにふるまっているのは内面の不安を隠すためだって言ったそうですけど、わたしたちには不安なんか一切見えません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんはね、知っているんですよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だれがあなたに特別にやさしくされているかをね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
自分以外の人間があんな態度を取ることを、あなたが絶対に許さないことを知っているんです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まあ、ハルヒが許さないでしょうけどね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それは別の話です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今の涼宮さんは自信に満ちあふれています。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつは容姿端麗で勉強もスポーツも優秀な奴です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おまけに歌も、料理もうまい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなものは手段にすぎません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたの言葉を借りれば、それこそ道具でしかありません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
涼宮さんは、目的を達成するための手段と、目的そのものを混同するようなことは絶対にしません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんがあのフォルダの存在を確認していることを知っていますか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
やばい、ＭＩＫＵＲＵフォルダを…、っておれにとってはあなたが知っていることの方がショックですが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なぜ涼宮さんが怒らなかったかわかります？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ま、まさか…、なんだか負けた気がする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あなたが保存していた写真が全て、わたしを撮るフリをしながらしっかり涼宮さんを撮っていたものだと知っているからです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
自分の好きな人に求められていて、だからこそ特別にやさしくされているなんて、まさしく女社会の特権階級です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういう意味で涼宮さんは女の中の女なんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自信に満ちあふれていてもおかしくないでしょう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そして涼宮さんが自信のかたまりみたいになったのは、実はあの五月からなんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">特権階級というより、ヒエラルキーの頂点に君臨しているんですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんとなく「食物連鎖の頂点」という言葉を思い出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒが朝比奈さんを捕食する光景が浮かんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">全然不自然じゃないな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いつものセクハラもそんな感じだし。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あれはわたしを食べたいんじゃありませんよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いくらあいつでも人肉を食ったりはしないでしょう。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なぜ涼宮さんがわたしにあんなことをしてくるかわかります？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたがかわいいからです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だったら、なぜあれをするのがあなたがいる時だけだかわかります？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">スルーされた。悲しい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「この間の……、団活の時、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんはいつものようにあたしにからんできました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどあなたは古泉君とのボードゲームに夢中なフリをして動きませんでした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたが涼宮さんより古泉君を気にかけているなんてことはあり得ないのに。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それはともかく、あなたにかまってもらえなかった涼宮さんはわたしへの攻撃をさらにエスカレートさせました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
見かねて立ち上がったあなたは涼宮さんの背後にまわり、背中からお腹に手を廻して、おへその上辺りで両手を組みましたね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの時のひそひそ声も聞こえていました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ばか……、どこさわってんのよ…。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『悪いことは言わないからその手を離せ。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『いつもみたいに、あたしの手を引きはがせばいいじゃない。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『それはちょっとまずいんだ。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『何がまずいのか、説明しなさい。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『言わなきゃダメか？』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『言いなさい。返答しだいでは大声上げるわよ…。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
『いつもみたいにすると、おまえの手だけじゃなくて、朝比奈さんの背中にもさわらなきゃならないからだ…。』」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だから、あなたの体に触れるのは怖いんですよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
どこからか鶴屋さんがやってきて「おイタはだめにょろ～」とか言いいながら腕をねじりあげてきそうな気がするし。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それ以前に、二度とあなたにあんな目で見られたくないんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「『たしかにみくるちゃんは団の大切なマスコットだもんね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あんたみたいな奴の手垢がついたらたまらないわ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">犠牲になるのはあたしだけで十分よ。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『わかってくれたか、ハルヒ。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『わかったわ…。』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言って涼宮さんはわたしの胸からそっと手を離しました。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だったらいいじゃないですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あの後涼宮さんはあなたに胴を抱かれてあとずさりをしながら、真っ赤な顔で、わたしを見下したようにニヤッと笑いました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの屈辱は忘れられません！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんだか長門もそんなことを言ってましたが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたにさわられたいだけのためにあたしに絡んでくるなんてひどいです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしは噛ませ犬ですか！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だから今度涼宮さんがあんなことをしようとしたらこう言ってやるつもりです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
『あたし、キョン君(の前で、あなた)にお嫁にいけないようなことをされてしまいました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だから、キョン君に責任を取ってもらうつもりです…。』」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どこが「だから」なんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「膝枕のことや、同じ部屋で寝たことも話せばきっと信じるでしょう。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「やめて下さい…、殺されるかもしれません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮さんがあなたを殺すはずがないでしょう？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「………、あなたがですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…………。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの五月のように。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「自爆テロはやめましょう。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…………キョン君、この時代に『朝比奈』という苗字は多いんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「多いというほどではありませんが、珍しくはありません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「『みくる』という名前は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「平仮名で『みくる』というのは珍しいですが。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「未来」は「みくる」とも読める。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もしかしたら時間管理局が名乗らせた偽名なのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なら本名は何だろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">教えてくれないだろうな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だけど、全く無い名前じゃないですよね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それはそうです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この人も名前にこだわっているんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「当然『朝比奈みくる』っていう人もいるでしょうね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そりゃいるでしょう。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いきなりカーテンが乱暴に引き開けられた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あなたを虫みたいに見ておびえていたっていう『朝比奈みくる』とかいう名前の女は、わたしと何の関係もありません！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いきなりのことで声が出ない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あなたが倒れた時、あなたの体に取りすがって、泣きながらあなたの名前を呼び続けていた、それがあたしです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涙目で上目遣いににらみつけてくる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かわいい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどこれは拗ねてるんじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">正真正銘の怒りだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「それからもう一つ、さんざん無礼を働いたあげく、あなたにひどく嫌な思いをさせた女と、わたしの大切なお友達とは何の関係もありません！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれは朝比奈さんの左胸を凝視していた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ぽつりと言っていた。「あなたはまぎれもなく……、」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「おれの朝比奈さんですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">朝比奈さんの顔だけでなく全身が真っ赤になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ようやく自分の体を覆っているのが下着だけだと気がついたらしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わ…、わかってるんだったらいいです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">カーテンがビシャッと閉じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「だいたいキョン君はあたしと涼宮さんの扱いが違うのはとにかく、長門さんとさえ違いすぎます！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなことをした覚えはありませんが。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あの眼鏡をかけた子と長門さん、光陽園の長髪の女の子と涼宮さんとを、あなたは別人だとはっきり区別しているじゃないですか！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんでわたしだけ違うんですか！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">必ずしもそうではない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やはりおれはあいつに「ハルヒ」と呼びかけて拒絶されたことがショックだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつに「涼宮」と呼び続けたのはそのことを根に持っていたのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ハルヒ」と呼んでいいかと改めて許可を求めたのもそのせいかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなことないでしょう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたが眼鏡をかけている長門さんを認めるわけがないです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だってあなたが外させたんですから。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">眼鏡をかけていないから長門さんなんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんだって同じはずです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒの髪を短くさせたのは俺のようだが、いまいち因果関係がわからない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
なんであいつは「曜日によって髪形変えるのは宇宙人対策か」と言っただけで髪を切ったんだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それに、短髪の方が好みというわけじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長髪のハルヒをポニーテールにさせちまったし。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あのポニーは完璧だったな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そっちじゃありませんよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もっとはっきりした違いがあるでしょう！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたが、光陽園学院の制服を着ている女の子を認めるはずがありません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どっちかというと、あの黒ブレザーの方がおれの趣味に合ってたんだが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">単に新鮮だったからだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だって涼宮さんに北高の制服を着せたのはあなたじゃないですか！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「………。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれはデジャブは嫌いなんだが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いやあな沈黙。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれは後ろを振り返って弁明を始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「みなさん、ちょっと聞いて下さい！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
長門の眼鏡を外したことについては自分の趣味であいつの外見を（ほんの少し）いじったことを認めましょう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただ、ハルヒの髪を短くさせたのはおれの趣味じゃありません。断固として違います。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれはどっちかというと長髪のころのあいつの方が（外見的には）好きです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それから、ハルヒに北高の制服を着せたというのは絶対に誤解です！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれは制服マニアじゃありません！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">北高の制服の方が光陽園の制服よりいいなどと思ったことはありません！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まして等身大の着せ替え人形みたいに、下着姿のあいつを立たせておいて制服を着せるなんてことはしてません！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれはそんな変態じゃありません！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんなことをしたらさすがに責任が発生することぐらいわかってます！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">後ろから声がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「その気になればどんなに偏差値の高い高校にも入れた涼宮さんを、わざわざ自分の通う高校に入学させたのはあなたでしょう！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「………。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これは、どう言ったらいいんだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれはそのことを知らなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">責任は決断に帰結する。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そうすると決めたのはあいつだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だったら責任はおれじゃなくてあいつにあるはずだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんて言ったらまた殴られるだろうな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「………そんなこともありましたね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">北高の制服を着せたんじゃない、着させただけだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなこと、ですませるつもり？ たいした片思いだわ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あのー、ちゃんと認めたのになんで手の平をモノサシでぴたぴた叩いてるんですか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ん？ 君がものすごく図々しいことを考えているのが顔に出ていたからよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「しかも同じクラスに入れて、自分の席の後ろに座らせて…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「い、いーじゃないですか！ あいつは別に後悔してるわけじゃありませんよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「後悔はさせないからおれのそばにいろ、ですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">きちんと責任を果たしているわけですね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういうところが涼宮さんを特別扱いしてるって言うんです！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんが特権階級だっていうのはそういうことです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自分の全てを理解し、自分の全てを受け入れ、自分の全てを許してくれる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どんなことがあろうとも自分の味方をしてくれる人がいる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まるで幼い子を持つ父親のように。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それでいてその人は父親ではなく、自分が恋した人。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれはどんなことがあってもあいつの味方でいるわけじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれには、たとえあいつでも許すことが出来ない一線がある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お人好しだとしか見られていないが、同時に俺はもの凄く頑固なんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自分でもそう思う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そのことをハルヒは知っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどこの人は知らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">酔っぱらってたからな…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんな人がわたしたちに自分の不安を感じさせるわけがないでしょう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だから涼宮さんの心の中の不安を感じることができるのは、あなただけなんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんの不安っていうのはただ一つ、あなたを失うことだけなんです！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
涼宮さんが、三日間あなたに守られていなかったのがひどく怖かったって言ってたそうですけど、そんなのはウソです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たしかに、おれはあいつを守っているつもりだっだだけかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あの時の涼宮さんは大変だったんですよ……。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まるでどっちが病人かわからないくらいに取り乱してました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あなたはいつかは目を覚ますだろうけど、それより先に涼宮さんが壊れてしまうかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そこであなたの家と涼宮さんの家が合議した結果、苦肉の策として涼宮さんをあの病室に泊めることにしたんです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">確かに嫁入り前の娘にあんなことをさせるなんて、普通だったら絶対に認めないだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この時計が送られてきたのはあの直後だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「そうしたら、あれほど必死だった涼宮さんが、あなたの寝息が聞こえるところにいるだけでぐうぐう寝だしたじゃないですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたが目を覚ました時、涼宮さんがよく眠っていたのを覚えているでしょう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんが眠ることができた場所は、世界中であそこだけだったんです！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの時涼宮さんはあなたに守られていなかったんじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただ、昏睡していたあなたは、あの場所でしか涼宮さんを守れなかったんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんはあの三日間でさえ、あなたに守られていたんです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なんだかあいつの話と微妙に違いますよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんだかゲロが出るほど怖かったとか言ってました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それは、病室で寝られると聞く前の話です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの涼宮さんがあなたの隣に寝ていて何かを怖がるわけがないじゃないですか！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんなことを言ったのは、あなたに甘えてるだけです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あいつが秘密にしておきたいようなことを大声で言うのはやめて下さい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…………。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まずい。おれが大声を出してしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">試着室に向き直って声をかけた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「朝比奈さん…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ほうら、やっぱりエコヒイキだ…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんなこと言われても。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「長門さんは涼宮さんのことを、嫉妬深く、疑り深く、独占欲が強く、悋気病みで、妬み深く、重度のやきもち焼きだって言ってますけどね、わたしはそうとは思いません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まえにあいつのことをやきもち焼きだって言ってませんでしたか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮さんは疑り深くなんかないです。涼宮さんはあなたの気持ちを知ってますよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">きっとそれを疑ったことなんか、一度もないでしょう。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さっきあなた、あいつがおれに対して不安を抱いているって言ってましたけど……。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ま、あの子が不安を抱えているのは君が浮気者だからとしか考えられないけどね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんですか、浮気って…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ん？ 君が今やってることよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どんな時でも、目の前のことに本気で対応しているだけです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮さんはあなたの前に立っている時はいつだって本気ですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それじゃあいつリラックスしているんです？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたの背中を見ている時に決まってるじゃないですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんはほんの少しの間でも自分のものをひとに触らせたくないんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">疑り深いんじゃありません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">欲張りなんです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">最後の一行には全面的に賛成ですが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「否定しか返ってこないような質問をわざわざ何度もするんですよ…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それはどちらかというと俺がやってることだと…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「『みくるちゃんとのデートは楽しかった？』って聞かれる度にあなたは涼宮さんをこう怒鳴りますよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『だから、デートじゃねえって！』。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんなことを何度も聞かされて、あたしが傷つかないとでも思ったんですか！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いや、あなたも変な風に誤解されたくないだろうと思ったからで…。。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「涼宮さんと長門さんは、わざとあたしがいる時に『みくるちゃんとのデート』だとか『朝比奈みくるとの逢い引き』とかいう言葉をあなたとの会話の中にさりげなく混ぜている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたがやっきになって否定するのが楽しいんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『いい加減にしろ！ 長門もハルヒも！』って何回でも怒鳴られたいんですよ…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">似たようなことがもう一回ありましたよね。覚えてます？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">覚えてません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あのアメフトの試合の時のことです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
涼宮さんはわざわざわたしの前で、あなたに『あたしじゃなくてみくるちゃんと抱き合いたいの？』って聞きましたよね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの時おれは否定なんかせずにあなたとハルヒを等時間見るようにしたはずですが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あの時あなたは、わたしを申し訳なさそうに見て、涼宮さんを今にも抱きつきそうな、いやらしい目で見てましたね！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういう風に見えただけなんじゃ…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あの後わたしを見た涼宮さんの微笑は、神様じゃなくて悪魔でした！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「小」が抜けてます…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたはわたしが危機に陥ったら、必ず助けてくれます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの七月もあなたがいなければどうにもなりませんでした。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">助けてくれたのは長門です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">というより、あれはあらかじめ仕組まれていたんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたは知らないでしょうが、仕組んだのはあなた自身です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「そしてあなたは、わたしにとって、わたしたちにとってとても大切な人の命を救ってくれました。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あれは体がいつの間にか動いていただけです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたのためではありません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">とは言えない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「だけど危機から救って、あたしの無事を確認すると同時に全速力で涼宮さんのところに戻って機嫌を取り始めるってどういうことですか！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">多分これからもずっとそうなんでしょうね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたはパートタイムの月光仮面ですか！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">月光仮面って……、あなた未来人ですよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だけどわたしも長門さんも、あなたに頼るほかない…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
確かに、全ての事情を理解していながら組織からの制約を一切受けない、ニュートラルな立場にいるのはおれだけだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれだけが自分の意志のみで行動することができる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「全く知らない世界にぽつんと取り残されたわたしたち…、何の見返りもあげられないわたしたちを助けてくれるのはあなたしかいません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
だけどね、わたしと長門さんがあなたに頼り切っている、そのことがどんなに涼宮さんを傷つけているか、考えたことがありますか！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんだか錯綜してるぞ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この人はハルヒを可哀相だと思っているのか、そうでないのか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それともおれを頼るのがいやなんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなわけないでしょ！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんは勢い任せに行動した後、最後にはあなたに頼る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それよりもあたしみたいに、最初からあなたに頼っている方がはるかに潔いです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「何を言いたいのかさっぱりわかりません！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">言動が矛盾してます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">完璧に論理が破綻しています！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あたしは女の子ですよ！ 涼宮さんみたいな女の中の女じゃなくても、まぎれもなく女の子です！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わかってますよ。俺が知る限りあなたほど女の子っぽい人はいません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「女の子にロジックなんてものが通用すると思ったら大間違いです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">このセリフ、おれが言ったら差別発言だろうな…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それに通用するかどうかは人によりけりだと思うし。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「キョン君！ いま佐々木さんのこと考えましたね！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やはりこの人は佐々木を知っていたか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「女の子にとって大切なのはとりあえず気持ちなんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけど確かめようのない気持ちだけじゃなく、鼓膜を震わす言葉がほしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あの佐々木さんだって小難しい理屈なんかより気持ちに訴える言葉を欲しがっていたはずです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">理屈を言っていたのはあいつの方です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたが佐々木さんをどのように扱っていたかくわしくは知りませんけどね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
一週間前、色々言ったみたいですけど、涼宮さんが聞いていたのは『おれがおぼえている』とかそういう言葉だけでしょう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門さんだってあの『返事は』以外の言葉なんてどうでもいいと思っているでしょう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あたしだって、さっきからいろんなことを言われましたが、『おれの朝比奈さん』以外は全部忘れました！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">他にも何か、あたしの心に残るようなことを言って下さい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やれやれ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「おれの朝比奈さんは、そんな支離滅裂なことは言いません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ず…、ずるいですぅ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">カーテンがシャッと開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あたしは誰です？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ごめんなさい！ おれの朝比奈さんです！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あわててカーテンを閉じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わかってくれるんならいいです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">はぁ…、この人もハルヒみたいなやり方をするようになったな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「何言ってるんですか…。もともとこういうのはあたしのやり方です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしが敢えて部室の鍵を開けたまま着替えているのは知ってますよね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だからノックしているじゃないですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮さんがパクッたんですよ、あたしがやっていることを。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それに…、ちょっと胸を押しつけてあなたの反応を楽しんでいただけなのに、あんなに怒って…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あそこまでやきもちを焼くことないのに…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなた、さっきハルヒはそうじゃないって言ってませんでしたか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それでいて、あたしが妬いているのを見て楽しんでるんですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつはそんなに陰険じゃないですよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だいいち普段おれが、あなたよりハルヒを優遇している要素なんかありましたか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「何を言ってるんですか！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">呼び名ですよ、呼び名！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わたしが『みくるちゃんって呼んで下さい』って言ったのを忘れたんですか！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">忘れてました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あのー、いくらなんでも年上の人を『ちゃん』づけで呼ぶのは…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あたしがいつあなたより年上だと言いました？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言えばこの人、年齢不詳だったな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だいたいあなたの生まれ年よりわたしの方がずっと後です！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それを言ったら何でもアリになっちゃいます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">水戸黄門と安徳天皇とどちらが年上か、っていうのと同じです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「名前呼びはね、あなたが涼宮さんに与えた最大の特権です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今の涼宮さんにとって自分の苗字が何を意味するかなんてどうでもいいんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それよりもこの特権を守ることの方がずっと大事なんですよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いい加減にしろ！ …みくる！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「………。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">試着室の中から荒い息が聞こえる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">照れているのか…、怒っているのか…、姿が見えないからわからない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「やっぱりずるいです…、どうせなら涼宮さんの前でそう呼んで下さい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「長門でさえそこまでは言いませんでしたよ…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あなたは長門さんを傷つけないように、それでいて本気にさせないように常に気を配っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどキョン君…、あたしのことナメてませんか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「は…？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あたしはどうせ涼宮さんより、もしかしたら長門さんよりもあなたのそばに長くいられない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしだったら本気にさせちゃってもどうせ逃げられるとか思ってません？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「君だったらそれぐらい図々しいこと考えていてもおかしくないわね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さん、会話に入ってくるのはいいですが、ややこしくさせないで下さい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だから涼宮さんの前でも平気であたしにやさしくできるんじゃないですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれがあなたに冷たくなんかできるわけがないでしょう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あたしを本気にさせちゃったら間に入ってほしいと涼宮さんに言ったそうですね…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それは話の流れで…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なんであたしの想いがバカップルの痴話喧嘩のネタにされなきゃならないんですか！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門…、また余計なことを…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「これは涼宮さんから聞きました！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『あなたがあいつなんか相手にするわけないけどね…』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">とか、わざとらしい前置きをして、実に自慢気に話してました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
おしまいには『全くあいつはあたしを頼る気満々なんだから…、雑用のくせに図々しいと思わない？』って、図々しいのはどっちだーっ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒ…、思いっきり余計なことを…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「『朝比奈さんだったらおまえらに譲るだろう』とも言ったそうですね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何を譲るっていうんです？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">好きな人をですか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういうのがあたしをナメてるって言うんです！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">確かにわたしには涼宮さんのようなあなたを引っ張っていく行動力などありません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門さんのようなあなたをどんな危険からも守る力などありません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今のあなたはじゅうぶんアグレッシブでパワフルですけどね…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だけどあたしには、キョン君の大好きな…、おっぱいがあります！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういうことを言いながらカーテンを開けるのはやめて下さい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">閉めるのが勿体ないと思っちゃったじゃないですか…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「おれは別に胸で人を見てるわけじゃありません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「何言ってるんですか。いつもあたしの顔じゃなくて、胸を見て話してるくせに…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だまれ乳女。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「聞こえましたよ…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「うわぁっ、ごめんなさい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「本気になっちゃったら、あたしが別れの時に泣くと思ってるでしょう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどナメないで下さい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">泣くのはわたしじゃなくて、あなたかもしれませんよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あの朝比奈さんが言っていた「わたしとはあまり仲良くしないで」というのは、そういう意味だったのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「じゃあ、どうすればいいんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「どうして男の人っていくつになっても、なんでも『それなーに』、って聞きたがるんでしょうね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少しは自分で考えて下さい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今日の朝比奈さんはハルヒより聞き分けが無く、長門より強情だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「まあ、さんざん面倒を見ておいて、肝心なことはとぼけるのは男のほうだけど。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「本気でわかんないんですが。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「聞いてればこの子から言うわよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなもんですか。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたは涼宮さんに世界そのものをあげましたね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門さんには心をあげました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしには何にもないんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あの…、一応聞いておきたいんですが、あなたはおれがハルヒにはもう何もやらなくていいと思ってるんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門はそうじゃないと考えているような口調だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮さんは…、まだほしいものがあるようです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それが何なのか、あなたは知っているんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それをわたしに言わせたいんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">質問返しだな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「もしそれをあなたが知っていて、おれに教えたくないんだったら…、あなたがあいつの願いを叶えてやって下さい。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「………キョン君、死にたい？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そうですか…、わかりました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">しかし今のおれではあいつの願いを叶えてやることはできません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「本当にわかったんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「今のあなたの答えでわかりました。あいつは…、おれが死ぬことを望んでいるわけですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">論理的にはそうなる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…………。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">白けきった沈黙があたりを包みこむ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「冗談ですよ。あいつが人の死なんて望むわけがないじゃないですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たとえ誰のものであっても。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少なくともおれは、あの孤島ではそのことを知っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ということは、自爆テロにはならないっていうことですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あ、論理的だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんか墓穴をほったか、俺？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「結局おれにどうしろと…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この人がほしがるものってなんだろう？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門よりわかりにくいな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">カレー十一杯分（今日の昼に奢らされた）ではなさそうだし。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「未来。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたが未来人だっていうのはよく知ってますが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたの未来を、あたしに下さい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ちょっと待って下さい！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたとおれが未来をともにするってことは…、あり得ないんでしょう？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「誰がそんなこと言ったんですか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたの思いこみでしょう、そんなのは。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">初めて二人で話した時、そんなことを言っていたような気がしますが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり支離滅裂だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたが時空の歪みになってどうするんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
朝比奈さんが成長すると自分の言いたいことばかり言うようになるのは、このころから萌芽があったのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「だいいちおれはあなたにはそんな…、責任が発生するようなことはしてないと思いますが。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「キョン君、あたしがあなたの朝比奈みくるだって、どうしてわかったんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「左胸にある星形のホクロですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「はいっ、いま責任が発生しました！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">勢いよくカーテンが開けられる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">閉めさせないつもりなのか、束ねた布をぎゅっと握っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あなたは涼宮さんの秘密を守るためにあれほど気を配ったのに、あたしの秘密は大声でしゃべるんですね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">責任取って下さい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「へええ、君。この子の左胸にホクロがあるっていう『秘密』を知ってたんだ…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それもその口振りでは随分前からみたいね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あの、そういう言い方をされると、「秘密」って言葉になんだかおかしなニュアンスが…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「だいたい、長門さんは眼鏡をかけていないだけで、涼宮さんは北高の制服を着ているだけで認めてもらえるのに、なんであたしは胸を出さないと認めてもらえないんですか！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いくらあなたでも…、そんなにじっと見られたら…、は、はずかしいんですよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いえ、十分美しいですから、恥じることなどありません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何を言ってるんだおれは…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「責任って言われても…、あなたの胸にホクロを発生させたのはおれじゃありません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「君、またモノサシでぶっ叩かれたい？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">完璧に誤解している人が一人…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もしかしたら一人じゃないかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたは何故わたしの胸にホクロがあると知ったんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そう、そういうことよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり誤解している。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたに教えてもらいました。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「へーえ、そうなんだ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いつわたしがそんなことを言いました？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「言葉で聞いたんじゃないんじゃないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「これから言うんですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">言葉だけで理解したわけじゃないんだが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">急に朝比奈さんがこっちをにらみながら黙りこんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なるほど、そういうことですか…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「これ以上は禁則です。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「……、涼宮さんにあなたがあたしの左胸に星形のホクロがあることを『知っている』ことをバラしますよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自爆じゃない、ただのテロですそれは。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「勘弁して下さい…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何をすればいいんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あたしと出掛けたことをデートだったと認めて下さい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ノックをせずに部室に入ってきて下さい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涼宮さんの前で『みくる』って呼び捨てにして下さい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">一度でいいですから、長門さんの前で『乳女』って呼んで下さい。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">一つ変なのが混じってましたよ…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あたしの前では『涼宮』って呼んで下さい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いきなりズボンの尻ポケットが鳴りだした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">とび上がりそうになった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ポケットが鳴るわけがない、携帯電話だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この着信音は…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どうしたらいいんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんだか店じゅうの視線を浴びているような気がする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">気のせいではないだろうな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">早くあきらめて向こうから切ってほしいんだが…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">無理だな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれが出るまで何コールでもするつもりだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">着信メロディーがフルコーラスを終わった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">再び前奏が鳴り響く。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">保留にするか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">問題を先送りにするだけだがここで通話するよりマシだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ポケットから携帯を取り出したと同時に奪われた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「へっ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あ、涼宮様でございますか。先日はご来店ありがとうございました。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何やってんですか！ それはおれの電話で…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「浮気中の彼氏ですか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あ、照れなくていいです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何をしているかお知りになりたいわけですね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これはわたしの口からはとても言えません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だったら電話に出なきゃいいじゃないですか！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いま本人に代わりますので。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さんはにこにこしている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「さあ、君がいま何を話していたか、ハルヒちゃんに言ってごらんなさい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もちろんこちらの、みくるちゃんにも聞こえる所でね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ぐっと携帯がこちらに差し出される。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">その待ち受けの笑顔は…、目をそらしたくなるくらいに、まぶしかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">（完）</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">作者より</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">このＳＳでは、原作、漫画版、アニメ版の設定がごたまぜになっています。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
例をあげますと、「消失」でキョンが長門の頭に降った雪を払ったのは劇場アニメ版のみであり、ハルヒの寝袋のそばに栄養ドリンクの空き瓶が転がっていたのは漫画版のみです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">一事が万事この調子ですので、そのつもりでお読み下さい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それから、「わたしはここにいる」の「ＳОＳ」又は「わたしはここから動かない」との解釈は、同人誌「閉じられた世界」から拝借させて頂きました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">その他、多くのセリフ、解釈など多くの先行のＳＳに負っています。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">無断借用したことをお詫び申し上げます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もう一つ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「悪夢の背中」を投稿した際、投稿ミスを犯してしまいました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「悪夢の背中 訂正」が本来の形です。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">迷惑をかけてしまいました皆様、本当に申し訳ありませんでした。</div>
