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「水晶の夜⑧」(2020/03/07 (土) 01:28:19) の最新版変更点
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<p> </p>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門の気配が消えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">振り返ってみた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっと帰ったか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">机につっぷした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「つ、疲れた…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">作戦終了だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">成功か失敗かは知らんが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「おつかれさま。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さんから初めてやさしい言葉をかけられた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ソフトランディングですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「確かにね。あれならコップの水もこぼれないわ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「お説教なら覚悟してますよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いくらなんでもおまえは捨石だとか言うべきじゃなかったかもしれません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">顔を上げて話を聞いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だけどハルヒちゃんとずいぶんやり方が違うわね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ハルヒには理屈は通用しません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門には感情は通用しません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それだけのことです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">佐々木と中学時代によく話していたのが役に立った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
デカルトだのパスカルだのシェークスピアだの予定説だの空の理論だの、全てあいつの受け売りだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの説明好きのウザイ野郎との会話も役に立ったのかもしれん。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなことないわよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり女は感情的な生き物なのよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さっきの『返事は』っていうのを聞いた時、ここにいたみんな全身の毛が逆立ったわ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゾクッときたわよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もちろん直撃を受けた長門さんがいちばんね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">嬉しいのを必死で隠してたじゃないの。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたには通用しなかったけど。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ハルヒの時にはみなさんバカにしてたじゃないですか。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あれも感動したわ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「バカだって言ってましたね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたのバカさに感動したのよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">最後までよくわからないことを言う人だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「嘘をつくなら本気でだませ、か。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">確かにあなたは、長門さんに最後まで嘘をつき通したわね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たいしたものだわ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「嘘じゃありませんよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">親に殺されかけたなんていつまでも信じさせてはいけないと思っていました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつが親に愛されているっていう解釈が出来ることはずっと考えてました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう信じさせることについては…、勝算がありました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">誰でも親に愛されていないなんて信じたくはないです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">幼い頃親に暴力を受けた子は、暴力こそが親の愛だと信じる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そうでなければ、自分が愛されていないということになってしまうから。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">現実を変えられない以上、解釈を変えるしかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だから成長して自分の子を愛すれば愛するほど暴力を加えざるを得ない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">解釈を変えれば自分が愛されていなかったということになるから。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それが虐待の連鎖を生む。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどあいつは決してそんな風に扱われてはいない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの雪山で親との連絡が断たれた時のあいつの様子を見ればわかる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あいつが愛されていると信じたならば、おれもそう信じます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつはまぎれもなく親に愛されているんです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そしてもう一つ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただの人間になろうなどと思わなくていいということ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今のままでいいということ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">無理矢理自分を変えようとしなくても、ゆっくりと変わっているということ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「やさしいわね…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ところで…、谷口君ってどういう人？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なんですか、いきなり。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「さっきの古泉君との話に出てきたでしょう？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">学校中の女子をランク付けしているバカ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いくら失敗してもナンパし続けている根性だけはある奴。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒに呆れられ、バカにされている奴。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつも気の毒だな、ずっとハルヒと同じクラスとは。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけど映画撮影の時、それでもハルヒたちと遊びたかったんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの時のハルヒは全く遊びのつもりなんかない、真剣そのものだったんだが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ハルヒは、自分の外見に食いついてきた奴をバカにする傾向があります。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれも初対面のころはそうだったな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">声をかけたきっかけもそれだったし。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「えーと、谷口君の話なんだけど。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">谷口がその典型だからですよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だけどハルヒは、あの容姿を手に入れるのにどんな努力をしたんでしょうか。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">谷口は自分がハルヒに全く相手にされていないことをよく知っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それでもあいつは映画撮影の現場にやってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それでもあいつはハルヒと一緒にいたかったんじゃないだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ハルヒはナンパしてきた奴をことごとく撃墜しています。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
だけどそいつらは、滅多にいないような美少女を見て少しでも近づきたいと声をかけてきました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
少なくともそいつらは一か八かでも知らない人に声をかけるという努力をしているんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">谷口だって同じです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">相手にされないとわかっていても、好きな人と一緒にいたいと我慢しているんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
他のことならともかく、これに関してだけはハルヒに谷口を馬鹿にする資格なんかない。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">できもしないくせに母親が作ってくれた料理に文句をつけるのと同じだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あいつは、好きな人と一緒にいるために努力したことなんか一度でもあるんでしょうか。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">男は女に比べて積極的に異性に働きかける。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
谷口の場合はそれが極端すぎるが、結局おれだって同じ、というよりどんな男でも同じだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女どもはそれをバカにする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどそれは男が動物的で女が理性的であることを意味しない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女が男に働きかけるのははしたないっていう常識がある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">常識っていうことは文化的なものだと言えるが、どんな文化にも自然の裏付けがある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">男が女を求めるのは遺伝子の命令であるように、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女が男を警戒するのも遺伝子の命令でしかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女は努力して男を求めずにいられるようになったわけじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だからハルヒが谷口をバカにするのには、同じ男として心苦しいものがある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「えーと、君はここに女物の洋服を買いにきたのかしら。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「違います。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だったら君はなんでここにいるわけ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あいつに呼び出されたからですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それが何を意味するかわかる？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「買い物に付き合えという命令に従っているわけですが。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あの子がそう言った理由は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「命令に理由を尋ねたりはしません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">従えばいいだけのことだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「質問を変えるわ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">君はあの子と一緒にいるために、どんな努力をした？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ありとあらゆる雑用をしています。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お茶代を全員分出してます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつの思いつきにすべてつきあってます。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こまごましたことを言えばきりがないな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そういうことじゃなくて、あの子を呼び出したことがある？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あるわけないじゃないですか。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「どうして？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「来るわけがないからです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「じゃああの子がもうすぐここに来るのはなぜ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「言ったじゃないですか……、あいつはここに買い物に来るんですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「君が長門さんにそんな風に言い続けたのは、優しい嘘じゃなかったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「信頼関係を保つっていうのは、絶対に嘘をつかないことです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれがハルヒにならともかく長門に嘘をつくはずがない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ここで客扱いされていないっていうのはこの人には方便だと言ったが半ば以上本音だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あの子が君に会いたいからここに来るって考えられないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あいつがさっき電話を切る前に何て言ったか聞いていましたか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「『もし逃げたら、絶対に許さないわよ、たとえあんたでもね。』って言ってたわ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたはあいつの言葉をそのまま受け取ってはいけないと言ってましたね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この言葉の意味するものをずっと考えていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
例えおれであってもこの場からいなくなっても許さないということは、つまり、おれ以上にこの場からいなくなったら許されない者がいるということだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">実際にこの場にいる人という意味ではないだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これはそのまま受け取るところじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれ以上にこの場にいてほしい誰かがいるということ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれよりもブティックの試着室の前にいてほしい人がいる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">彼氏の役割をしてほしい人がいる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
おれ程度の存在であっても許されないということは、あいつにとってもっと重要な存在があるということだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ここから出る答えははっきりしている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつには恋愛対象としてのおれは必要ない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">論理的だ。破綻していない。飛躍もない。完璧だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ならばあいつに必要なのは誰だろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わかっている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">古泉だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">創造神、つまり予定説の神は人間の自由意志までも決定することができる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">神はサイコロを振らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そのことをカマドウマ事件で認識させられた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自分に対する恋愛感情を持たせたのには理由があるはずだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">古泉に恋愛感情を持たせたのは彼氏にするため。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">（そう考えると、朝比奈さんはおれに対しておびえという感情を秘めていることになる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今までどおり付き合うのはまずいな。なれなれしくしないようにせねば。）</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒがおれに恋愛感情を持たせたのは鍵という役割をさせるためでしかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう考えると全てつじつまが合う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今のおれに必要なものは何だろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それもわかっている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「割り切り」だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それでもおれにはあいつが必要なんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たとえ神の道具としての役割しか与えられなくても、あいつのそばにいられるならいいじゃないか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの十二月を思い出せ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの時、おれはただハルヒに会いたかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だったらそれでいいじゃないか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけど人柱は………おれか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「て、て、店長…。この男ぶん殴ってもいいですか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いくら悪気がないといってもバカすぎます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">このバカは犯罪です！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わたしがやるわよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ボカッ！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">い、いてえ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何するんですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれは今失恋の痛みに…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「謝りなさい！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">世界中の本当に失恋して傷ついている全ての男と女に謝りなさい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれも本当に失恋したんですが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">始まってもいないのに終わってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「終わったって、何のこと？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この人はまた誰かを思い出させる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「この弓状列島の住民が千年以上かけて作った言葉で言えば…、『物語』ですかね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「じゃあ君にキスされてあの子が世界を捨てるのをやめたっていうのは？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だから、腹が減ったんですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「三日間君の病室を片時も離れなかったっていうのは？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">きっとあいつは寝袋で寝るのが趣味で……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言ったら殴られるというより殺されそうな気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">死ぬのはいやだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「団員の心配をするのは団長の務めなんだそうです。本人が言ってました。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">古泉に対しても同じことをするっていうことだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「さっきの電話の、こっちが聞いていて恥ずかしくなるようなバカップルの痴話喧嘩は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「バカップルとか痴話喧嘩とか何の話なのかわかりませんが、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">戦況は一瞬一瞬に変化します。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">一時間以上前の情報なんて情報じゃありません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">情報はいちばん新しいものじゃなければ意味がない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
おれにとってあいつのいちばん新しい情報は、『おれ程度の男でもこの場を去ることは許されない』っていうことです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さんが肩で息をしながらはあはあ言っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ちょっとお互いに落ち着こうじゃないの。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれはずっと落ち着いてますけど。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あのさ、君はあの子の『たとえあんたでも』っていう言葉を『おれ程度の男でさえも』っていう意味に取ることを前提にしているみたいだけど、そういう前提から入ったらそういう結論しか出ないんじゃないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「おれ程度の男」に決まってるじゃないですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何せ失恋したんだから。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ん？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつにとって「おれ程度の男」だからおれは失恋した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれは失恋したからあいつにとって「おれ程度の男」だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">またトートロジーか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いや、どこかおかしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「同義反復って言えばそうですけどね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれは失恋したんです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれがそう感じていることは疑いない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どうも長門と話をした後は理屈っぽくなっていかんな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わかるんですよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わかってしまうのだからしかたがない。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「事務所でもそんなことを言ってたけど、その『わかってしまうんだから仕方がない』っていうのは何なのよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これは信じてもらえないだろうな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけど言ってみるか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「店でもそう言いましたね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あなたになぜあいつを追いかけないかと聞かれて、おれが追いかけるべきではないと答えた時に。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなことを言ってたわね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あいつが泣き顔をおれに見せたくないだとか、あいつがおれに迷惑をかけないようにしてくれただの言いましたが、そんなのは人前でカッコつけたにすぎません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もっとカッコ悪いことだとおれは知っていたんですよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わかってしまうからしかたがないっていうのはそういうことです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もちろんカッコ悪いのはおれだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あいつのあの携帯での無言電話…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">バカァ、とは言ってたが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「その無言にはあるメッセージが乗せられていました。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ボールペンを机に転がそうとして他人の物だと気がついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">丁寧に置いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">椅子からゆっくり立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「その内容はたぶん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たぶん、としか言えない。だけど間違ってはいないと思う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">息を吸ってから叫んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わたしは、ここにいる！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ここ」というのがどこかはすぐわかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒが突然訪ねてすぐに上げてもらえるような所は多くないだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
朝比奈さんは…、朝比奈さんはすぐに上げてくれるだろうが、上級生をちゃんづけで呼んでるんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつは朝比奈さんの前ではカッコつけたがるはずだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
学校……というのもなさそうだ。誰が泣き顔でいちばん知り合いに会いそうな所に行くか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">古泉の家は無理だろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自宅というのもないだろう。休日のあの時間でも誰もいないかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつの親に対する気持ちを考えると、誰かいたほうがかえっていやかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつが行きそうなところは一つしかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わたしはここにいる…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さんがブツブツ言いながら目を見張っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ほかの店員、客どもが明らかにヒいている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そりゃそうだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">全員信じられないものを見たような顔をしている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">無言電話にそんな意味があるなんて言われても信じないよな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">納得できるわけがない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">電波人間の一丁上がりだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれはこういうのには慣れているんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">全員知り合いじゃないからあの時よりずっとマシだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さんがパクパク口を開けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">救急車を呼ばれるんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わたしはここにいるって……、それはどう考えてもあの子から君への……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ＳＯＳじゃないの！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「君、救難信号を受け取っていながら何もしなかったわけ？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それって犯罪だって知ってる？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それを知っていながらのんきに片思いだの髪形変えさせただけだのくっだらないことを話してたわけ？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女の子が救助要請をしているのをカッコ悪いだなんて、何考えてるのよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう解釈したか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「そう考えている人が多いんですが、『わたしはここにいる』っていうのは、『だから会いに来て』っていう意味では『ない』んですよ。」</div>
<p> </p>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門の気配が消えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">振り返ってみた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっと帰ったか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">机につっぷした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「つ、疲れた…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">作戦終了だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">成功か失敗かは知らんが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「おつかれさま。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さんから初めてやさしい言葉をかけられた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ソフトランディングですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「確かにね。あれならコップの水もこぼれないわ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「お説教なら覚悟してますよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いくらなんでもおまえは捨石だとか言うべきじゃなかったかもしれません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">顔を上げて話を聞いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だけどハルヒちゃんとずいぶんやり方が違うわね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ハルヒには理屈は通用しません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長門には感情は通用しません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それだけのことです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">佐々木と中学時代によく話していたのが役に立った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
デカルトだのパスカルだのシェークスピアだの予定説だの空の理論だの、全てあいつの受け売りだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの説明好きのウザイ野郎との会話も役に立ったのかもしれん。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなことないわよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり女は感情的な生き物なのよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さっきの『返事は』っていうのを聞いた時、ここにいたみんな全身の毛が逆立ったわ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゾクッときたわよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もちろん直撃を受けた長門さんがいちばんね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">嬉しいのを必死で隠してたじゃないの。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あなたには通用しなかったけど。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ハルヒの時にはみなさんバカにしてたじゃないですか。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あれも感動したわ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「バカだって言ってましたね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたのバカさに感動したのよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">最後までよくわからないことを言う人だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「嘘をつくなら本気でだませ、か。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">確かにあなたは、長門さんに最後まで嘘をつき通したわね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たいしたものだわ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「嘘じゃありませんよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">親に殺されかけたなんていつまでも信じさせてはいけないと思っていました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつが親に愛されているっていう解釈が出来ることはずっと考えてました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう信じさせることについては…、勝算がありました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">誰でも親に愛されていないなんて信じたくはないです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">幼い頃親に暴力を受けた子は、暴力こそが親の愛だと信じる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そうでなければ、自分が愛されていないということになってしまうから。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">現実を変えられない以上、解釈を変えるしかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だから成長して自分の子を愛すれば愛するほど暴力を加えざるを得ない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">解釈を変えれば自分が愛されていなかったということになるから。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それが虐待の連鎖を生む。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどあいつは決してそんな風に扱われてはいない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの雪山で親との連絡が断たれた時のあいつの様子を見ればわかる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あいつが愛されていると信じたならば、おれもそう信じます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつはまぎれもなく親に愛されているんです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そしてもう一つ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただの人間になろうなどと思わなくていいということ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今のままでいいということ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">無理矢理自分を変えようとしなくても、ゆっくりと変わっているということ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「やさしいわね…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ところで…、谷口君ってどういう人？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なんですか、いきなり。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「さっきの古泉君との話に出てきたでしょう？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">学校中の女子をランク付けしているバカ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いくら失敗してもナンパし続けている根性だけはある奴。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒに呆れられ、バカにされている奴。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつも気の毒だな、ずっとハルヒと同じクラスとは。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけど映画撮影の時、それでもハルヒたちと遊びたかったんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの時のハルヒは全く遊びのつもりなんかない、真剣そのものだったんだが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ハルヒは、自分の外見に食いついてきた奴をバカにする傾向があります。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれも初対面のころはそうだったな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">声をかけたきっかけもそれだったし。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「えーと、谷口君の話なんだけど。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">谷口がその典型だからですよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だけどハルヒは、あの容姿を手に入れるのにどんな努力をしたんでしょうか。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">谷口は自分がハルヒに全く相手にされていないことをよく知っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それでもあいつは映画撮影の現場にやってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それでもあいつはハルヒと一緒にいたかったんじゃないだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ハルヒはナンパしてきた奴をことごとく撃墜しています。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
だけどそいつらは、滅多にいないような美少女を見て少しでも近づきたいと声をかけてきました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
少なくともそいつらは一か八かでも知らない人に声をかけるという努力をしているんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">谷口だって同じです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">相手にされないとわかっていても、好きな人と一緒にいたいと我慢しているんです。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
他のことならともかく、これに関してだけはハルヒに谷口を馬鹿にする資格なんかない。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">できもしないくせに母親が作ってくれた料理に文句をつけるのと同じだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あいつは、好きな人と一緒にいるために努力したことなんか一度でもあるんでしょうか。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">男は女に比べて積極的に異性に働きかける。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
谷口の場合はそれが極端すぎるが、結局おれだって同じ、というよりどんな男でも同じだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女どもはそれをバカにする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけどそれは男が動物的で女が理性的であることを意味しない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女が男に働きかけるのははしたないっていう常識がある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">常識っていうことは文化的なものだと言えるが、どんな文化にも自然の裏付けがある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">男が女を求めるのは遺伝子の命令であるように、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女が男を警戒するのも遺伝子の命令でしかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女は努力して男を求めずにいられるようになったわけじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だからハルヒが谷口をバカにするのには、同じ男として心苦しいものがある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「えーと、君はここに女物の洋服を買いにきたのかしら。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「違います。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だったら君はなんでここにいるわけ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あいつに呼び出されたからですね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それが何を意味するかわかる？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「買い物に付き合えという命令に従っているわけですが。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あの子がそう言った理由は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「命令に理由を尋ねたりはしません。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">従えばいいだけのことだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「質問を変えるわ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">君はあの子と一緒にいるために、どんな努力をした？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ありとあらゆる雑用をしています。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お茶代を全員分出してます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつの思いつきにすべてつきあってます。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こまごましたことを言えばきりがないな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そういうことじゃなくて、あの子を呼び出したことがある？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あるわけないじゃないですか。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「どうして？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「来るわけがないからです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「じゃああの子がもうすぐここに来るのはなぜ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「言ったじゃないですか……、あいつはここに買い物に来るんですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「君が長門さんにそんな風に言い続けたのは、優しい嘘じゃなかったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「信頼関係を保つっていうのは、絶対に嘘をつかないことです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれがハルヒにならともかく長門に嘘をつくはずがない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ここで客扱いされていないっていうのはこの人には方便だと言ったが半ば以上本音だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あの子が君に会いたいからここに来るって考えられないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あいつがさっき電話を切る前に何て言ったか聞いていましたか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「『もし逃げたら、絶対に許さないわよ、たとえあんたでもね。』って言ってたわ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたはあいつの言葉をそのまま受け取ってはいけないと言ってましたね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この言葉の意味するものをずっと考えていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
例えおれであってもこの場からいなくなっても許さないということは、つまり、おれ以上にこの場からいなくなったら許されない者がいるということだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">実際にこの場にいる人という意味ではないだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これはそのまま受け取るところじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれ以上にこの場にいてほしい誰かがいるということ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれよりもブティックの試着室の前にいてほしい人がいる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">彼氏の役割をしてほしい人がいる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
おれ程度の存在であっても許されないということは、あいつにとってもっと重要な存在があるということだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ここから出る答えははっきりしている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつには恋愛対象としてのおれは必要ない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">論理的だ。破綻していない。飛躍もない。完璧だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ならばあいつに必要なのは誰だろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わかっている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">古泉だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">創造神、つまり予定説の神は人間の自由意志までも決定することができる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">神はサイコロを振らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そのことをカマドウマ事件で認識させられた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自分に対する恋愛感情を持たせたのには理由があるはずだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">古泉に恋愛感情を持たせたのは彼氏にするため。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">（そう考えると、朝比奈さんはおれに対しておびえという感情を秘めていることになる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今までどおり付き合うのはまずいな。なれなれしくしないようにせねば。）</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒがおれに恋愛感情を持たせたのは鍵という役割をさせるためでしかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう考えると全てつじつまが合う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今のおれに必要なものは何だろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それもわかっている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「割り切り」だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それでもおれにはあいつが必要なんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たとえ神の道具としての役割しか与えられなくても、あいつのそばにいられるならいいじゃないか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの十二月を思い出せ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの時、おれはただハルヒに会いたかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だったらそれでいいじゃないか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけど人柱は………おれか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「て、て、店長…。この男ぶん殴ってもいいですか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いくら悪気がないといってもバカすぎます。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">このバカは犯罪です！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わたしがやるわよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ボカッ！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">い、いてえ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何するんですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれは今失恋の痛みに…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「謝りなさい！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">世界中の本当に失恋して傷ついている全ての男と女に謝りなさい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれも本当に失恋したんですが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">始まってもいないのに終わってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「終わったって、何のこと？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この人はまた誰かを思い出させる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「この弓状列島の住民が千年以上かけて作った言葉で言えば…、『物語』ですかね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「じゃあ君にキスされてあの子が世界を捨てるのをやめたっていうのは？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だから、腹が減ったんですよ。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「三日間君の病室を片時も離れなかったっていうのは？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">きっとあいつは寝袋で寝るのが趣味で……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言ったら殴られるというより殺されそうな気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">死ぬのはいやだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「団員の心配をするのは団長の務めなんだそうです。本人が言ってました。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">古泉に対しても同じことをするっていうことだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「さっきの電話の、こっちが聞いていて恥ずかしくなるようなバカップルの痴話喧嘩は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「バカップルとか痴話喧嘩とか何の話なのかわかりませんが、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">戦況は一瞬一瞬に変化します。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">一時間以上前の情報なんて情報じゃありません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">情報はいちばん新しいものじゃなければ意味がない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
おれにとってあいつのいちばん新しい情報は、『おれ程度の男でもこの場を去ることは許されない』っていうことです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さんが肩で息をしながらはあはあ言っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ちょっとお互いに落ち着こうじゃないの。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれはずっと落ち着いてますけど。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あのさ、君はあの子の『たとえあんたでも』っていう言葉を『おれ程度の男でさえも』っていう意味に取ることを前提にしているみたいだけど、そういう前提から入ったらそういう結論しか出ないんじゃないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「おれ程度の男」に決まってるじゃないですか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何せ失恋したんだから。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ん？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつにとって「おれ程度の男」だからおれは失恋した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれは失恋したからあいつにとって「おれ程度の男」だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">またトートロジーか？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いや、どこかおかしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「同義反復って言えばそうですけどね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれは失恋したんです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれがそう感じていることは疑いない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どうも長門と話をした後は理屈っぽくなっていかんな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わかるんですよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わかってしまうのだからしかたがない。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「事務所でもそんなことを言ってたけど、その『わかってしまうんだから仕方がない』っていうのは何なのよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これは信じてもらえないだろうな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だけど言ってみるか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「店でもそう言いましたね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あなたになぜあいつを追いかけないかと聞かれて、おれが追いかけるべきではないと答えた時に。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなことを言ってたわね。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「あいつが泣き顔をおれに見せたくないだとか、あいつがおれに迷惑をかけないようにしてくれただの言いましたが、そんなのは人前でカッコつけたにすぎません。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もっとカッコ悪いことだとおれは知っていたんですよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わかってしまうからしかたがないっていうのはそういうことです。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もちろんカッコ悪いのはおれだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あいつのあの携帯での無言電話…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">バカァ、とは言ってたが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「その無言にはあるメッセージが乗せられていました。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ボールペンを机に転がそうとして他人の物だと気がついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">丁寧に置いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">椅子からゆっくり立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「その内容はたぶん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たぶん、としか言えない。だけど間違ってはいないと思う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">息を吸ってから叫んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わたしは、ここにいる！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ここ」というのがどこかはすぐわかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒが突然訪ねてすぐに上げてもらえるような所は多くないだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
朝比奈さんは…、朝比奈さんはすぐに上げてくれるだろうが、上級生をちゃんづけで呼んでるんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつは朝比奈さんの前ではカッコつけたがるはずだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
学校……というのもなさそうだ。誰が泣き顔でいちばん知り合いに会いそうな所に行くか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">古泉の家は無理だろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自宅というのもないだろう。休日のあの時間でも誰もいないかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつの親に対する気持ちを考えると、誰かいたほうがかえっていやかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あいつが行きそうなところは一つしかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わたしはここにいる…。」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さんがブツブツ言いながら目を見張っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ほかの店員、客どもが明らかにヒいている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そりゃそうだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">全員信じられないものを見たような顔をしている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">無言電話にそんな意味があるなんて言われても信じないよな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">納得できるわけがない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">電波人間の一丁上がりだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">おれはこういうのには慣れているんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">全員知り合いじゃないからあの時よりずっとマシだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店長さんがパクパク口を開けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">救急車を呼ばれるんだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わたしはここにいるって……、それはどう考えてもあの子から君への……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ＳＯＳじゃないの！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「君、救難信号を受け取っていながら何もしなかったわけ？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それって犯罪だって知ってる？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それを知っていながらのんきに片思いだの髪形変えさせただけだのくっだらないことを話してたわけ？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女の子が救助要請をしているのをカッコ悪いだなんて、何考えてるのよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう解釈したか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「そう考えている人が多いんですが、『わたしはここにいる』っていうのは、『だから会いに来て』っていう意味では『ない』んですよ。」</div>
