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規定事項の子守唄 第五話」(2020/03/15 (日) 16:41:10) の最新版変更点

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 豪快な音をたてて、文芸部室の戸が開けはなたれました。涼宮さんがもどってきたのです。<br />  団長席の椅子にどっかりと腰をおろし、涼宮さんはわたしをじっと見据えました。<br /> 「で、話ってなに? 」<br /> 「そ、そんなにあわてないでくださいよう」<br />  すぐに、わたしは部室の鍵をかけました。かちゃりと、音がなりました。<br /> 「あら、鍵かけたの? べつにそんなことしなくても、どうせ今日はだれもはいってこないわよ? 」<br /> 「え、そうですかぁ? 」<br />  あいまいな感じに見えるようにうなずいたあと、わたしはおもむろに自分の荷物を物色しはじめました。そうして、用意しておいた品物を取りだしました。<br />  赤ちゃんサイズのお人形というか、ぬいぐるみです。布製で、なかに綿をつめたものでした。<br />  ただし、用意しておいたといっても、これそのものは今回の任務とは関係ありません。単純に、お友だちにあげるための記念品です。<br /> 「まずは、どうぞ。卒業記念の贈り物です」<br />  涼宮さんは、ぬいぐるみを受けとると、目をまるくしました。そうして、うえにかざしたり、ひっくりかえしたりして興味ぶかげに観察をはじめました。<br /> 「へえ……。これ、ハンドメイドよね。もしかして、みくるちゃんがつくったの? 」<br />  指摘されたとおり、それは手づくりの品物でした。彼女にあげたのは、北高の制服を着ていて、頭に黄色いカチューシャをあしらったデザインのものでした。<br />  デフォルメしてあるので、モデルにしたというほど似てはいませんが、いちおう涼宮さんの姿をもとにしてつくりました。<br /> 「鶴屋さんとふたりでつくったんですよ。ほかの団員のぶんもあります」<br />  なお、鶴屋さんは焼きそば喫茶『どんぐり』の制服を着たデザインのものを、わたしはメイド服姿のものを、それぞれもっています。おたがいに、相手に似せたものをつくって交換したのです。<br /> 「そうなんだ……。ありがとう、みくるちゃん。一生だいじにするわ。ううん、子々孫々まで受け継いで、うちの家宝にするわ」<br />  ぬいぐるみをだきしめたまま、涼宮さんがいいました。感触が気にいったのか、ほおずりをしています。<br /> 「そんなふうにいっていただけると、つくったかいがあります」<br />  よろこんでもらえて、まずはほっとひといきでした。<br /> 「……でも、ほかの団員のぶんもってことは、みんなの姿に似せてあるってことよね」<br />  にやりと、涼宮さんが笑みをうかべました。それから、もっていたぬいぐるみを団長机のうえ、三角錐のとなりにおきました。<br />  とりあえず、予想どおりの展開でした。<br /> 「いまは、だせないですよ? あげるひとに、一番に見せたいんです」<br /> 「いいじゃない。ケチケチしないで、見せなさいよ」<br />  あとのためにも、ここでペースをとられるわけにはいきません。わたしは、がんとしてことわりました。<br />  最近の涼宮さんは、きちんと拒否したことについては、あまりむりをとおそうとはしなくなりました。案の定、彼女はあっさりとひきさがってくれました。<br /> 「しょうがないわねえ。じゃ、ぜんぶおわるまで我慢するわ。それで、話はこれだけなの? 」<br /> 「い、いえ。じつは、ずっとまえからいちど、涼宮さんにお願いしたいことがあって」<br />  さあ、いよいよ本題です。わたしの全身に、緊張がはしりました。<br /> 「お願いしたいこと? 」<br /> 「えっと、そのまえに……。しゅ、涼宮さん、いま身長はどのぐらいでしたっけ? 」<br />  しっていましたが、あえてたずねてみました。<br /> 「身長? たしか百五十九センチちょいだったかしら。あたし、みくるちゃんとちがって背がのびないのよねえ」<br />  いいながら、涼宮さんは、団長席のぬいぐるみの頭をぽんぽんとたたきました。<br />  もっけのさいわいでした。わたしは彼女がよそ見をしているうちに、一歩だけあゆみよりました。<br /> 「六センチ差ですね、わたしと」<br /> 「あら、じゃあ、みくるちゃんはいま百六十五センチ? へえ、ほんとに背がのびたもんだわ」<br />  はじめて涼宮さんにあった日のことを、わたしは思いだしていました。<br />  あの日、わたしは上司から、自分の教室に待機しているようにとの指示があり、いわれたとおりにしていたのです。<br />  すると、そこに涼宮さんがあらわれて、有無をいわせずわたしを部室に連行していったのでした。<br />  当時はまだ、涼宮さんに逆らうなというような命令はでていませんでした。でも、彼女のほうが背も高くて力も強く、ちょっと怖かったこともあって、いいなりにならざるをえませんでした。<br />  そのごのことは、みなさんもご存知のとおりです。楽しいこともたくさんありましたが、はじめのころは辛いことのほうがおおかった気もします。<br />  結果として、SOS団の仲間になることができたのは、よかったと思いますよ? だけど、自分のなかに、なにひとつわだかまりがのこっていないかというと、それはまた微妙なところでした。<br />  もう一歩、わたしは距離をつめました。<br />  すわっている涼宮さんのうえに、わたしの影がおちています。でも、彼女はとくに気にしたふうもなく、こちらを見あげていました。<br />  いまからなにが起こるか、きっと涼宮さんは想像もしていないのでしょうね。<br /> 「ちょうど、おととしの五月ごろとおなじ身長差ですね。あのころは、こっちのほうが背がひくかったですけど」<br /> 「たしかにそうね。でも、それがどうかしたの? 」<br />  だいじょうぶ。わたしはそう心の中でくりかえし、自分をふるいたたせました。<br />  さきほど、涼宮さんをまっているあいだに、掌に『入る』の字を三回書いて――なぜ『入る』なのかはよくしりませんが、緊張したときはこうするといいと鶴屋さんに聞きました――それを飲みこむというこの時代のおまじないを、三セットもやったのです。<br /> 「うーん? 」<br />  ようやくというべきか、涼宮さんが怪訝そうな表情をうかべました。そのあいだにも、わたしはさらに距離を半歩つめました。<br />  ほとんど、膝がふれあう距離でした。<br /> 「なんだかさっきから距離が近くない? みく……」<br />  最後まで、いわせませんでした。わたしは、やにわに涼宮さんにとりつきました。そうして、すばやく椅子のうしろに体をすべりこませると、左腕で彼女の両肩から肘のあたりを固め、同時に右腕をお腹にまわしました。<br />  お泊りのあいだに習った鶴屋流古武術のひとつ、秘技『鶴羽交い絞め』でした。もちろん、こんなことをするために教わったわけではないですけどね。<br /> 「る……え? えっ、ちょ、みくるちゃん、なんのつもり? 」<br /> 「いちどでいいから、やってみたかったんですぅ」<br />  どうやら、涼宮さんは、もがこうとしているようでした。でも、すでに技は完全に極まっていました。関節を封じているうえに、椅子も利用しているので、この状態ではろくに体を動かすこともできないはずです。<br /> 「はなしなさい! なにこれ、腕に力がはいんないじゃない! 」<br />  これなら、左腕いっぽんでも、充分に彼女の体を抑えこめそうです。わたしは悠々と、右腕をはなしました。<br />  右手の指を、涼宮さんの目のまえにだして、わきわきとうごかしてみました。<br /> 「み、みくるちゃん、なにを」<br /> 「ふふ、ふふふ」<br />  ひいとさけんでさらに逃れようとする涼宮さんの、まず耳を甘噛みしました。それから、右手で彼女の胸をまさぐりました。<br /> 「ひゃあ、や、やめなさい! みくるちゃん、だめ! いやぁ」<br /> 「ほ、ほれほれぇ。ここがええのんか、ええのんかぁ」<br />  はむはむと、耳たぶを唇ではさみながら、ときにはひっぱったりしました。ついでに、耳の穴にも息をふきこみました。涼宮さんの、体格にふさわしい均整のとれたおおきさの乳房を、そっと持ちあげ、かるく押しつぶし、回すようにしてこねました。<br />  みるまに、涼宮さんの顔が真っ赤に色づいてきました。せつなげに、体をくねらせはじめました。<br /> 「ふあ、それだめっ。ほ、ほんとにだめだったら。おぉん、そんな」<br />  ああ、涼宮さんって、耳が弱かったんですね。自分の弱点だから、わたしをいじめるときにも、そこを重点的にえらんで責めていたんですね。<br />  えもいわれぬ感慨で、わたしの胸はいっぱいでした。だって、あの涼宮さんが、この腕の中で、身もだえしながらかわいい鳴き声をあげているのです。こんなことが現実にありえるなんて。<br />  しばらくのあいだそうやっていましたが、いつしか左腕のロックがあまくなってしまっていたようです。ふとした瞬間に、涼宮さんは体をはずすことに成功し、こちらから距離をとりました。<br />  椅子にすわったまま飛びのいたので、がたりとはでな音がしました。即座に立ち上がると、彼女はこちらに向きなおってきました。<br /> 「いいかげんになさい! いくらみくるちゃんでも、これ以上はゆるさ……」<br />  なぜか、涼宮さんの声が、途中でとまりました。体も、かたまっているようです。目のまえがぼやけていてよく見えませんが、もしかしたら彼女はとまどっているのかもしれません。<br /> 「ちょ、ちょっと、みくるちゃん? なんで泣いてるの? そんなに、こんなことがしたかったの? 」<br /> 「ちがいますぅ。き、緊張しすぎて」<br />  なんだか、わけがわからなくなってしまいました。目が熱くて、鼻のおくがつんとしています。<br /> 「ふぇ……ふぇええええん」<br />  気がつくと、わたしは涼宮さんにすがりついて泣きじゃくっていました。<br /> 「わ、やだ、みくるちゃん」<br />  驚いたような、困惑したような涼宮さんの声が聞こえてきました。<br /> 「なによこれ。なんなのよこれ。ああ、もう」<br />  口調だけなら、怒っているみたいでした。だけど涼宮さんは、言葉とは裏腹に、わたしを抱きしめてくれました。<br /> 「ほんとにもう。なんでみくるちゃんが泣いてるのよ。あ、あたしのほうがひどいことされたってのに、どうなってるのよ」<br />  それから、彼女は、やさしくわたしの髪をなでてくれました。<br /> 「泣きやみなさいよ。な、なんだか、こっちまでへんな気分になってくるじゃない。もう。やめてよ。ほんとに、やめてったら」<br />  いつのまにか、涼宮さんの声にも、涙がまじりはじめました。そうして、わたしたちは、時間がくるまで、抱きあったまま泣いていたのでした。<br /><br /><p><a href="http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6461.html">次へ</a></p>
 豪快な音をたてて、文芸部室の戸が開けはなたれました。涼宮さんがもどってきたのです。<br />  団長席の椅子にどっかりと腰をおろし、涼宮さんはわたしをじっと見据えました。<br /> 「で、話ってなに? 」<br /> 「そ、そんなにあわてないでくださいよう」<br />  すぐに、わたしは部室の鍵をかけました。かちゃりと、音がなりました。<br /> 「あら、鍵かけたの? べつにそんなことしなくても、どうせ今日はだれもはいってこないわよ? 」<br /> 「え、そうですかぁ? 」<br />  あいまいな感じに見えるようにうなずいたあと、わたしはおもむろに自分の荷物を物色しはじめました。そうして、用意しておいた品物を取りだしました。<br />  赤ちゃんサイズのお人形というか、ぬいぐるみです。布製で、なかに綿をつめたものでした。<br />  ただし、用意しておいたといっても、これそのものは今回の任務とは関係ありません。単純に、お友だちにあげるための記念品です。<br /> 「まずは、どうぞ。卒業記念の贈り物です」<br />  涼宮さんは、ぬいぐるみを受けとると、目をまるくしました。そうして、うえにかざしたり、ひっくりかえしたりして興味ぶかげに観察をはじめました。<br /> 「へえ……。これ、ハンドメイドよね。もしかして、みくるちゃんがつくったの? 」<br />  指摘されたとおり、それは手づくりの品物でした。彼女にあげたのは、北高の制服を着ていて、頭に黄色いカチューシャをあしらったデザインのものでした。<br />  デフォルメしてあるので、モデルにしたというほど似てはいませんが、いちおう涼宮さんの姿をもとにしてつくりました。<br /> 「鶴屋さんとふたりでつくったんですよ。ほかの団員のぶんもあります」<br />  なお、鶴屋さんは焼きそば喫茶『どんぐり』の制服を着たデザインのものを、わたしはメイド服姿のものを、それぞれもっています。おたがいに、相手に似せたものをつくって交換したのです。<br /> 「そうなんだ……。ありがとう、みくるちゃん。一生だいじにするわ。ううん、子々孫々まで受け継いで、うちの家宝にするわ」<br />  ぬいぐるみをだきしめたまま、涼宮さんがいいました。感触が気にいったのか、ほおずりをしています。<br /> 「そんなふうにいっていただけると、つくったかいがあります」<br />  よろこんでもらえて、まずはほっとひといきでした。<br /> 「……でも、ほかの団員のぶんもってことは、みんなの姿に似せてあるってことよね」<br />  にやりと、涼宮さんが笑みをうかべました。それから、もっていたぬいぐるみを団長机のうえ、三角錐のとなりにおきました。<br />  とりあえず、予想どおりの展開でした。<br /> 「いまは、だせないですよ? あげるひとに、一番に見せたいんです」<br /> 「いいじゃない。ケチケチしないで、見せなさいよ」<br />  あとのためにも、ここでペースをとられるわけにはいきません。わたしは、がんとしてことわりました。<br />  最近の涼宮さんは、きちんと拒否したことについては、あまりむりをとおそうとはしなくなりました。案の定、彼女はあっさりとひきさがってくれました。<br /> 「しょうがないわねえ。じゃ、ぜんぶおわるまで我慢するわ。それで、話はこれだけなの? 」<br /> 「い、いえ。じつは、ずっとまえからいちど、涼宮さんにお願いしたいことがあって」<br />  さあ、いよいよ本題です。わたしの全身に、緊張がはしりました。<br /> 「お願いしたいこと? 」<br /> 「えっと、そのまえに……。しゅ、涼宮さん、いま身長はどのぐらいでしたっけ? 」<br />  しっていましたが、あえてたずねてみました。<br /> 「身長? たしか百五十九センチちょいだったかしら。あたし、みくるちゃんとちがって背がのびないのよねえ」<br />  いいながら、涼宮さんは、団長席のぬいぐるみの頭をぽんぽんとたたきました。<br />  もっけのさいわいでした。わたしは彼女がよそ見をしているうちに、一歩だけあゆみよりました。<br /> 「六センチ差ですね、わたしと」<br /> 「あら、じゃあ、みくるちゃんはいま百六十五センチ? へえ、ほんとに背がのびたもんだわ」<br />  はじめて涼宮さんにあった日のことを、わたしは思いだしていました。<br />  あの日、わたしは上司から、自分の教室に待機しているようにとの指示があり、いわれたとおりにしていたのです。<br />  すると、そこに涼宮さんがあらわれて、有無をいわせずわたしを部室に連行していったのでした。<br />  当時はまだ、涼宮さんに逆らうなというような命令はでていませんでした。でも、彼女のほうが背も高くて力も強く、ちょっと怖かったこともあって、いいなりにならざるをえませんでした。<br />  そのごのことは、みなさんもご存知のとおりです。楽しいこともたくさんありましたが、はじめのころは辛いことのほうがおおかった気もします。<br />  結果として、SOS団の仲間になることができたのは、よかったと思いますよ? だけど、自分のなかに、なにひとつわだかまりがのこっていないかというと、それはまた微妙なところでした。<br />  もう一歩、わたしは距離をつめました。<br />  すわっている涼宮さんのうえに、わたしの影がおちています。でも、彼女はとくに気にしたふうもなく、こちらを見あげていました。<br />  いまからなにが起こるか、きっと涼宮さんは想像もしていないのでしょうね。<br /> 「ちょうど、おととしの五月ごろとおなじ身長差ですね。あのころは、こっちのほうが背がひくかったですけど」<br /> 「たしかにそうね。でも、それがどうかしたの? 」<br />  だいじょうぶ。わたしはそう心の中でくりかえし、自分をふるいたたせました。<br />  さきほど、涼宮さんをまっているあいだに、掌に『入る』の字を三回書いて――なぜ『入る』なのかはよくしりませんが、緊張したときはこうするといいと鶴屋さんに聞きました――それを飲みこむというこの時代のおまじないを、三セットもやったのです。<br /> 「うーん? 」<br />  ようやくというべきか、涼宮さんが怪訝そうな表情をうかべました。そのあいだにも、わたしはさらに距離を半歩つめました。<br />  ほとんど、膝がふれあう距離でした。<br /> 「なんだかさっきから距離が近くない? みく……」<br />  最後まで、いわせませんでした。わたしは、やにわに涼宮さんにとりつきました。そうして、すばやく椅子のうしろに体をすべりこませると、左腕で彼女の両肩から肘のあたりを固め、同時に右腕をお腹にまわしました。<br />  お泊りのあいだに習った鶴屋流古武術のひとつ、秘技『鶴羽交い絞め』でした。もちろん、こんなことをするために教わったわけではないですけどね。<br /> 「る……え? えっ、ちょ、みくるちゃん、なんのつもり? 」<br /> 「いちどでいいから、やってみたかったんですぅ」<br />  どうやら、涼宮さんは、もがこうとしているようでした。でも、すでに技は完全に極まっていました。関節を封じているうえに、椅子も利用しているので、この状態ではろくに体を動かすこともできないはずです。<br /> 「はなしなさい! なにこれ、腕に力がはいんないじゃない! 」<br />  これなら、左腕いっぽんでも、充分に彼女の体を抑えこめそうです。わたしは悠々と、右腕をはなしました。<br />  右手の指を、涼宮さんの目のまえにだして、わきわきとうごかしてみました。<br /> 「み、みくるちゃん、なにを」<br /> 「ふふ、ふふふ」<br />  ひいとさけんでさらに逃れようとする涼宮さんの、まず耳を甘噛みしました。それから、右手で彼女の胸をまさぐりました。<br /> 「ひゃあ、や、やめなさい! みくるちゃん、だめ! いやぁ」<br /> 「ほ、ほれほれぇ。ここがええのんか、ええのんかぁ」<br />  はむはむと、耳たぶを唇ではさみながら、ときにはひっぱったりしました。ついでに、耳の穴にも息をふきこみました。涼宮さんの、体格にふさわしい均整のとれたおおきさの乳房を、そっと持ちあげ、かるく押しつぶし、回すようにしてこねました。<br />  みるまに、涼宮さんの顔が真っ赤に色づいてきました。せつなげに、体をくねらせはじめました。<br /> 「ふあ、それだめっ。ほ、ほんとにだめだったら。おぉん、そんな」<br />  ああ、涼宮さんって、耳が弱かったんですね。自分の弱点だから、わたしをいじめるときにも、そこを重点的にえらんで責めていたんですね。<br />  えもいわれぬ感慨で、わたしの胸はいっぱいでした。だって、あの涼宮さんが、この腕の中で、身もだえしながらかわいい鳴き声をあげているのです。こんなことが現実にありえるなんて。<br />  しばらくのあいだそうやっていましたが、いつしか左腕のロックがあまくなってしまっていたようです。ふとした瞬間に、涼宮さんは体をはずすことに成功し、こちらから距離をとりました。<br />  椅子にすわったまま飛びのいたので、がたりとはでな音がしました。即座に立ち上がると、彼女はこちらに向きなおってきました。<br /> 「いいかげんになさい! いくらみくるちゃんでも、これ以上はゆるさ……」<br />  なぜか、涼宮さんの声が、途中でとまりました。体も、かたまっているようです。目のまえがぼやけていてよく見えませんが、もしかしたら彼女はとまどっているのかもしれません。<br /> 「ちょ、ちょっと、みくるちゃん? なんで泣いてるの? そんなに、こんなことがしたかったの? 」<br /> 「ちがいますぅ。き、緊張しすぎて」<br />  なんだか、わけがわからなくなってしまいました。目が熱くて、鼻のおくがつんとしています。<br /> 「ふぇ……ふぇええええん」<br />  気がつくと、わたしは涼宮さんにすがりついて泣きじゃくっていました。<br /> 「わ、やだ、みくるちゃん」<br />  驚いたような、困惑したような涼宮さんの声が聞こえてきました。<br /> 「なによこれ。なんなのよこれ。ああ、もう」<br />  口調だけなら、怒っているみたいでした。だけど涼宮さんは、言葉とは裏腹に、わたしを抱きしめてくれました。<br /> 「ほんとにもう。なんでみくるちゃんが泣いてるのよ。あ、あたしのほうがひどいことされたってのに、どうなってるのよ」<br />  それから、彼女は、やさしくわたしの髪をなでてくれました。<br /> 「泣きやみなさいよ。な、なんだか、こっちまでへんな気分になってくるじゃない。もう。やめてよ。ほんとに、やめてったら」<br />  いつのまにか、涼宮さんの声にも、涙がまじりはじめました。そうして、わたしたちは、時間がくるまで、抱きあったまま泣いていたのでした。<br /> <br /> <p><a href="//www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6461.html">次へ</a></p>

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