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涼宮ハルヒの天啓 後編4」(2010/10/27 (水) 17:40:13) の最新版変更点

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<p><br /><br /> 俺はドアを開けた。<br /><br /> 「ハルヒ…やっぱりここにいたか。」<br /> 「    」<br /><br /> 思った通りだった。旧校舎の、俺たちの部室に、SOS団の部室に、こいつはいた。<br /><br /> 「    」<br /><br /> 窓のそばに立ち、外を眺める少女。<br /><br /> 「…ハルヒ。」<br /><br /> 呼びかけるが、こちらを振り向く気配はない。<br /><br /> 「おい、ハル」<br /> 「何しに来た?」<br /><br /> ……<br /><br /> 明らかな拒絶。<br /><br /> …覚悟はしてたさ。ハルヒが、覚醒を起こしてぶっ倒れちまった時点でなぁ。言わずもがな、こいつは…<br /> 俺の知ってる涼宮ハルヒではない。窓から立ち退き、振り向いたその顔は…無機質な表情そのもの。<br /> 記憶喪失にでも遭い、俺が誰だかわからない…そんな虚無感を覚えた。<br /><br /> 「お前は…ハルヒじゃないな。」<br /> 「    」<br /><br /> 『最初の宇宙は無限宇宙だった。この無限宇宙には初めは創造主である神しかいなかった。<br /> 始まりもなく終わりもなく、時も空間もなく、形も生命もなかった。このような全くの無の宇宙に<br /> 神は初めて有限を生み出した。神が自らを具現化した有限…我々はその存在を<br /> 各地の神話や伝説に照らし合わせ、【ソツクナング】と呼んでいる。』<br /><br /> 長門の言葉を思い出す。<br /><br /> 「これまで何度も世界を破壊し、そのたびに創造してきた張本人…そうだよな?神様…いや、」<br /><br /> ……<br /><br /> 「ソツクナングと、そう呼んだ方がいいのか?」<br /> 「    」<br /><br /> ……<br /><br /> 「 ソツクナング か 懐かしい名前 そうだとして、あなたはどうするつもり?」<br /> 「決まってんだろ…この世界の崩壊を…!第四世界の崩壊を今すぐ止めてくれ!!」<br /> 「できない相談だとわかっていて わざわざそれを口に?」<br /><br /> 淡々とした 冷酷な口調。<br /><br /> …時計を眺める。<br /><br /> 23時56分<br /><br /> 時間がない…!こいつを説得してる時間など…もはやない…っ!  <br /><br /> 「…力づくでもお前を止める。」<br /><br /> ……<br /><br /> 「まったく、呆れる  力でしか物事を解決できない それが人間 」<br /><br /> ッ!!<br /><br /> 「お前に言われたかねえよ!!これからまさに【力】でもって世界を滅ぼそうとする…<br /> お前みたいな【邪神】にはな!!もはや神ですらねえ!!」<br /> 「 今更お前がこの人間の体をどうしようと 世界の崩壊は止まらない<br /> なぜなら、私自身 ここにはいないのだから 」<br /> 「何をワケわかんねえことを…ッ!」<br /><br /> ……<br /><br /> 『あたしはあくまで神の化身でしかないの。確かに人間の身に投じてはいるけど、<br /> だからといって本来の神が消えてしまったわけじゃない。本当の神はあたしとは別に<br /> 宇宙のどこかで存在してるわよ。で、その存在が地球規模の天変地異を引き起こしてるわけ。』<br /><br /> ハルヒが昔言っていた。<br /><br /> …こいつの言うとおりだ。神はここには…いない。<br /><br /> 「ハルヒは…」<br /> 「    ?」<br /> 「ハルヒは…元のハルヒはどこに行った!!?」<br /><br /> そうだ…あいつは言っていたんだ…!<br /><br /> 『世界が滅びるったって神はそれを傍観するだけ。でも、地上にいるあたしは知っている…<br /> それによって多くの尊い命が奪われ…また、彼らの悲鳴も聞こえた。考えようによっては単なる殺戮ね。<br /> そして、その張本人が自身であることを自覚した直後、これまで何度あたしは発狂しそうになったことか。<br /> 人間である以上、最低限の理性はもつもの。…当然の帰結よ。』<br /> 『もうね…あたしはこれ以上人々の痛みは見たくない。』<br /><br /> 「あいつはな…見たくなんかねえんだよッ!!この世界の人間が死ぬ様なんてな…、<br /> お前の…その体の本来の持ち主である涼宮ハルヒはなぁ!!!」<br /> 「だから何?」<br /> 「あいつ自身そんなことは微塵も思っちゃいねえ…だから、言うぜ。今すぐ…今すぐ<br /> ハルヒの人格を呼び戻せ!!お前が今やろうとしてる暴挙に…あいつはきっと反対する!!」<br /> 「  ?呼び戻す必要性が感じられない 」<br /> 「そんなこともわかんねえのかよ!!?ハルヒは…元はと言えば涼宮ハルヒは<br /> お前の分身のような存在だったはずだ…俺が言いてえのは!!!仮にも分身だと言える<br /> そいつの声を… 一方的に封殺しちまってもいいのかって、俺は聞いてんだよッ!!!!」<br /> 「この人間のことなど知ったことではない」<br /><br /> 躊躇うことなくこいつは言い放った。冷たかった。<br /><br /> 『本来の神はとても考えが物質的で無機的で…そして冷酷。』<br /><br /> 「そうかよ…じゃあ、この質問にだけは答えろよ…!!ハルヒをどこにやった!!?」<br /> 「別にどこにも ただ言えるのは 彼女がこの体に意識を宿すことは二度とないってこと 」<br /><br /><br /><br /> ……<br /><br /><br /><br /> 今…何と言った?<br /><br /> 「てめぇ…!!今の…冗談じゃ済まさねえぞ!!?」<br /> 「第三世界崩壊直後、私に牙をむき 本来担うはずの神としての業務を悉く放棄してきたこの人間を、<br /> 私は許さない 存在意義を絶ったこの人間を、私は許さない この人間の本来の人格には    消えてもらう」<br /> 「……ッ!」<br /><br /> 俺はある種の恐怖を覚えた こいつは自分以外の存在を 単なる道具としか思っちゃいない<br /><br /> …時計を見る。<br /><br /> 23時58分を過ぎている…<br /><br /> 時間が…ない!!!<br /><br /> …ここまで真剣なのは俺の人生の中で…おそらく最初で最後だろう。思考回路が焼き切れるのではないか…<br /> そのくらい俺は真剣だった。真剣に考えていた。どうすれば世界が助かるかを。どうすれば…!?<br /> とりあえず落ち着く必要がある。さっきこいつが…ソツクナングが言っていたことを思い出せ…<br /><br /> 『今更お前がこの人間の体をどうしようと、世界の崩壊は止まらない なぜなら私自身 ここにはいないのだから』<br /><br /> つまり、俺が今この場で側にある椅子を持ち上げ…ハルヒ(の姿をしたソツクナング)の頭めがけ、<br /> 殴りつけたとする。その場合、ハルヒは気絶、ないしは死に陥る。だが、そうしたところで…<br /> この世界の崩壊は止まらない。<br /><br /> …まあ、万一にもそれはありえん話だがな…。いくら意識が神に乗っ取られてようと、<br /> この体が涼宮ハルヒ本人のものであることは…疑いようのない事実…!!気絶ならまだいい!<br /> 誤って殺したりでもしたら…ッ!一体どうすんだ!!?そんなことをしたらハルヒは永久に帰ってこない…<br /> そんなリスクを犯すはずがない…!!<br /><br /> どちらにせよ事態の好転は望めない。<br /><br /> じゃあどうすんだ!?<br /><br /> …てっとり早いのは、宇宙のどっかに存在する神に対し…直接干渉してやること。<br /><br /> ……<br /><br /> 一人間である俺が どうやって??<br /><br /> …時計を見る            --------------------------------------23時59分<br /><br /> ダメだ。俺は…このまま何もせずに終わるのか!?もう世界は…どうにもならねえのか!?<br /><br /> みんな…ゴメン…<br /><br /> ……<br /><br /> 『…キョン君、僕は信じてますよ。必ず世界を救ってくれる…とね。』<br /> 『キョン君…!!どうか…無事帰ってきてくださいね!涼宮さんと一緒に!!』<br /> 『何があっても決してあきらめないで。あなたならきっとできる。』<br /><br /> !!<br /><br /> 俺は…みんなと約束した。できるできないの問題じゃない!!やらなきゃいけない…!!<br /> 俺は…最後まで絶対あきらめない!!…落ち着け、落ち着いてもう一度冷静になって考えてみろ…ッ!<br /><br /> …そもそもである。<br /><br /> 『今更お前がこの人間の体をどうしようと、世界の崩壊は止まらない なぜなら私自身 ここにはいないのだから』<br /><br /> この言葉がどことなくひっかかるのは …俺の気のせいか?<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> ハルヒの覚醒、即ちハルヒがハルヒでなくなったとき。それこそが世界崩壊へのカウントダウンだった。<br /> 裏を返せば、昨日ハルヒが倒れるまでの間、そのカウントダウンとやらは起きなかったということになる。<br /> 世界崩壊は誰の意志?誰の仕業?言うまでもなく、今目の前でハルヒを操っている神そのものだ。<br /> つまり、神はハルヒの覚醒無しでは世界崩壊は成し得なかったはず。<br /><br /> …覚醒とは何だ?ハルヒはどうなった?<br /><br /> 【前時代の記憶を取り戻す。】<br /><br /> これは俺のみにならず、長門や古泉たちとの共通認識でもあった。<br /> だが…今のハルヒは違う。記憶が戻ったとか、そういう次元の問題ではない。<br /> 目の前のこのハルヒには【ハルヒ】としての意識がそもそも存在していない。自我が存在していない。<br /> それもそのはず…神がそうするよう仕組んだからである。言わば、神の操り人形といったところか。<br /> …俺たちの覚醒認識が間違っていたのか?だが、長門・古泉が主張していたあたり、安易にそうとも思えない。<br /><br /> 1つ仮説を立ててみる。仮に、俺たちの認識は正しかったとする。<br /> そうである場合、今のこの現状はどう説明すればいい?<br /><br /> …思いつく答えは1つ。それは、記憶が戻った直後、神の介入により意識を絶たれたというもの。<br /> 第四世界崩壊のためには涼宮ハルヒの意識を奪い、神の監視下、コントロール下に置く必要があった。<br /> …要約すればこういうことだろうか。<br /><br /> しかし、なぜそんなことをする必要が?正常状態のハルヒを放置しておくことで、神に何か不都合でも…?<br /><br /> 「後 数秒で地球は公転周期上、完全にフォトンベルトに突入する  これで第四世界も終わり 」<br /><br /> …数秒だと!?すぐさま腕時計を確認し…!?もう10秒もない…!!<br /><br /> ッ!!!<br /><br /> くそッ!!後もう少しで…後もう少しで何かわかりそうだったってのに!!!<br /><br /> 9<br /><br /> …ッ!!俺はあきらめない…!!あきらめたら…何より朝比奈さんの死はどうなる!?<br /> 俺に言葉を託して死んだ朝比奈さんはどうなる!?これじゃ単なる無駄死にじゃないか!!!<br /><br /> 8<br /><br /> 『たぶ…ん、この世界は…守られる…第五…世界ももう…すぐ消滅…みん…ないなくな…る』<br /><br /> 7<br /><br /> 朝比奈さんは…あのとき何を根拠にこんなことを言っていたんだ…!??<br /> あのとき…彼女は何を思ってこれを口にした??<br /><br /> 6<br /><br /> …俺は、あのとき覚悟を見せつけたじゃないか<br /><br /> 5<br /><br /> 【この朝比奈さんが…自分のいた世界を守るのに命懸けなのなら。俺だってそうだろう…!?<br /> 状況的には全く同じはずだろう!?俺は自分のいるこの世界を、人々を、家族を、友人を、 <br /> …ハルヒを!守りたい…!!!】<br /><br /> 4<br /><br /> 朝比奈さんが俺の覚悟を垣間見たのだとしたら…彼女は俺に一体何を期待した?<br /> 世界の人々?家族?友人?いや…違う<br /><br /> 3<br /><br /> 『キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね』<br /><br /> 2<br /><br /> 彼女の最期の言葉が それを物語っていた<br /><br /> 1<br /><br /> 「    」<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 「 」<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 「!?」<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 「…何を  し      計画       計画  が<br /> あ 、あああ  !?   ああああああああああああああああ!!!!!!」<br /><br /> 12月2日0時0分 第四世界滅亡 その筋書きが破綻してしまったせいか  -----------神は発狂し始めた<br /><br /><br /><br /> ……<br /><br /><br /><br /> 俺は今 一体何をしたのだろうか<br /><br /> …反射だ<br /><br /> 小学校、あるいは中学の理科の授業にて、こんな言葉を聞いた覚えはないだろうか?<br /> 特定の刺激に対して意識とは無関係に引き起こされる反応……生物学的反射の一般定義だ。<br /> 熱いヤカンに指が触れ、熱い!と感じた時には、すでに指は手元へと引っこんでいた。<br /> わかりやすい反射の一例としては、例えばこういうものがある。<br /><br /> …厳密に言えば、今のは反射ではないのかもしれない。まあ、この際それはどうでもいい。<br /><br /> ……<br /><br /> 机にもたれかかり、必死に倒れまいとするハルヒ。だが、それも時間の問題のように見えた。<br /> それもそのはず…麻酔を叩きこまれて平然としてられる人間など、いるはずがない。<br /><br /> 俺は涼宮ハルヒめがけ                     麻酔銃をぶっ放していた<br /><br /> 「意識  意識がぁ  っ!」<br /><br /> ついに立っていられなくなったのか。床に塞ぎ込み、頭を抱えるハルヒ。<br /> …麻酔銃?なぜ俺は、この局面でこれを使用したのか?  <br /><br /> ……<br /><br /> …なるほど、<br /><br /> 【正常状態のハルヒを放置しておくことで、神に何か不都合でも…?】<br /> この問いに対する答えを、俺は知らぬ間に見つけてしまっていたらしい。…逆を考えてみればいい。<br /> 記憶を取り戻したということは、即ちその瞬間において、ハルヒが神と意識を共有することを意味する。<br /><br /> 『だってあたしは神の分身だもの。つまり、神が考えてることが同時に今あたしが考えていること。』<br /> 本人の言葉通り、ハルヒはこれから神がしようとしていることを…瞬時に把握する。<br /> 神がこれからすることとは…言わずもがな、俺たちが生きるこの世界の破壊である。<br /> …それを知ったハルヒはどうするだろうか?<br /><br /> 『世界が滅びるったって神はそれを傍観するだけ。でも、地上にいるあたしは知っている…<br /> それによって多くの尊い命が奪われ…また、彼らの悲鳴も聞こえた。考えようによっては単なる殺戮ね。<br /> そして、その張本人が自身であることを自覚した直後、これまで何度あたしは発狂しそうになったことか。』<br /> 『もうね…あたしはこれ以上人々の痛みは見たくない。』<br /><br /> 極めつけは…第一、第二、第三、第四と史実に準え、次々に世界が滅んでいく様を…<br /> 見せつけられた一昨日の夢の中で…!消えゆく夢の中で、かすかに聞こえてきた、ハルヒの言葉…!<br /><br /> 『嫌…っ!嫌!!あたしは…こんなことしたくない…!!!!』<br /><br /> もはや自明であろう。ハルヒが…決してこの状況を望んではいない、ということは。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 話は次の段階へと進む。<br /><br /> 望む望まないは別とし、ハルヒの中に何かしらの強固な意志が生まれた場合…<br /> 結果として【何】が起きる?…これが最も重要である。神はそれを恐れてる。<br /> だからこそ、神は涼宮ハルヒの自由意思を阻害すべく、彼女を自らの監視下に置く必要があった。<br /><br /> 以前、俺はハルヒに『神をやめて一人の少女、普通の人間として生きたいと思ったことはないのか?』<br /> と提案したことがある。しかし、ハルヒはすぐには首を縦には振らなかった。その理由というのが<br /> 『化身である以上、これからもずっと神の意志に束縛されて生きていくのは自明で…。』<br /> という思い込みにあった。自身が好きなように生きることを放棄した、ある種の諦観とも言うべきか。<br /> その後の俺の説得により、ハルヒは立ち直った。これまでのステレオタイプから抜け出した。<br /> 結果、ハルヒは転生という手段に打って出る。代行者としての自分を捨て、来たる第四世界で <br /> 1人の人間として----------、自身の意志で生きていくために。<br /><br /> 『やっぱり物事ってのはやってみるに越したことはないと思ったわ…あたしの潜在能力って案外凄かったみたい。』<br /><br /> …試みは見事に成功した。画期的とも言える瞬間だった。<br /><br /><br /><br /> つまり<br /><br /><br /><br /> 涼 宮 ハ ル ヒ の 力 の み が 神 に 干 渉 で き る 唯 一 の 手 段 <br /><br /><br /><br /> 俺が言いたかったのはこの一点である。<br /><br /> ならば、ハルヒが記憶を取り戻した状態で、万が一にも神に対する強い反駁精神を発動させでもしたら<br /> 一体どうなるか?察しの通り、神は自らの計画に支障をきたすことを…覚悟せねばならぬ事態へと発展する。<br /> 仮にハルヒのそれが潜在的なものであったとしても、第四世界の崩壊にあたって全くのイレギュラー因子が<br /> 無いとは…言い切れない。神からすれば…これほど不気味な存在もいないだろう…?<br /> 言うことを聞いてくれない自身の分身など、脅威以外の何物でもないからだ。<br /><br /> 言うのは二度目だが、ただの凡人である俺のような一人間には<br /> 宇宙のどこかに在する神に対し、どうこうしてやることなど…できるはずもない。<br /> だが…ハルヒには…!涼宮ハルヒにはそれができる!!<br /><br /> ……<br /><br /> 『キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね』<br /><br /> 朝比奈さん…ありがとう。貴方が最期に言い残してくれた言葉のおかげで…、<br /> 俺は救われました。あの言葉の意味が…ようやくわかりましたよ。<br /><br /> …そうとわかれば話は早い。俺がやるべきこと…それは<br /> ハルヒが【ハルヒ】として自我を確立してられる環境を作ってやること…!!<br /> その一言に尽きる。残念ながら、現在目の前にて立ち塞がるハルヒは…ハルヒであって【ハルヒ】ではない。<br /> 神の息がかかった彼女を、一体どうすれば正常な状態に戻してやれるのか!?最大の難問だった。<br /><br /> 『今更お前がこの人間の体をどうしようと 世界の崩壊は止まらない 』<br /><br /> こいつの言っていることは一理ある。<br /><br /> 例えば、俺がハルヒに対し…素手や足で殴る蹴るなどし軽傷を負わせたとする。しかしそうしたところで…<br /> それはあくまで、言葉通り軽い傷でしかない。そんな程度の低いアクションを加えたところで<br /> ハルヒが神の監視下から逃れるとは…とても思えない。依然、意識は神に管轄されたままだろう…。<br /> かと言って、重傷を負わせれば良いという問題でもない。それこそ暴論である…。<br /> 頭を殴りつけたり等して、万一ハルヒに永久に意識が戻らなかったらどうするつもりだ…!?<br /> 仮に戻ったところで、そんな重体な体で…どこに神に対し、憤る余裕があるというのか!??<br /> 痛みが先行してそれどころではないのは…言うまでもないはずだ。<br /><br /> では、どうすればいいのか?神に憑依された表層意識を払拭するには…<br /> どうすればいいのか??単に、何か強い衝撃でも与え意識を失わせればいいのか??<br /> …もちろん、暴力手段をもって身体に重傷を負わせる手法は…論外である。<br /><br /> ……<br /><br /> 『麻酔銃…ですからね。人を殺すための道具ではないんですよ。そう言えば、わかりますよね?』<br /><br /> 俺は賭けに出ることにした。 麻 酔 を も っ て 意 識 を 絶 つ       <br /> 意識が揺らぐ一瞬の隙こそ、ハルヒが原状復帰できる最初にして最後の機会。俺はそう確信した。<br /><br /> …ああ、自分でもわかってるさ。これは賭けってレベルじゃねえ。<br /> めちゃくちゃだ…大博打だ…それ以外に言いようがない。<br /><br /> ……<br /><br /> あまりに不安要素が大きいのもわかってる。まず根本的な問題として麻酔ごときに、果たして神に隙が<br /> 生まれるのかどうか…?仮に生まれたとして、一瞬という僅かな時間でハルヒは意識を取り戻せるのか…??<br /> 麻酔自体の効力もいまいちわからない。軽傷と同じ部類の衝撃性ならほとんど意味を成さない。<br /> かと言って重傷すぎても困る。深い即効性の昏睡だと、いずれにしろハルヒは戻ってこれない。<br /><br /> だが、今はこれしか頼れる方法がなかった。何かもっと、他に確実性のある方法はないのか!?<br /> と、何度も何度も思案した。こんな危険な橋、誰が好き好んで渡るものか…ッ!!<br /> しかし…考えに考え抜いた挙句、どうしてもこれ以外には思い浮かばなかった。<br /> だから…敢えて俺は信じたい。これが現状における最良の手段だったと。<br /><br /> 俺は涼宮ハルヒめがけ、引き金をひいたんだ。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> …そして、先ほどの冒頭に戻る。<br /><br /> 「ぁあ くっ っ!」<br /><br /> 今にも意識を失いそうな少女がいた。<br /><br /> ……<br /><br /> 時刻は0時1分<br /><br /> 窓から外を眺める。…さっきと何ら変わったところはない。<br /> まだ油断はできない。だが、一つだけ言えることがある。それは<br /><br /> 12月2日0時0分世界崩壊<br /><br /> 回避した<br /><br /> 12月2日0時0分世界崩壊<br /><br /> 確かに…回避した…!!少なくとも、この時間帯における世界崩壊は免れた…!!<br /> これはつまり、神への干渉に成功したということ。もっと言えば、神に反駁すべく<br /> ハルヒの自我が表層意識に現れ始めたという証拠。<br /><br /> …俺の博打も捨てたもんじゃなかったらしい。<br /><br /> ……<br /><br /> 古泉がくれたこの麻酔銃。結果として、俺は朝比奈さんは救えなかった。<br /> だからこそ失敗は許されなかった…!!ハルヒだけは…なんとしても助けたかったから!!<br /><br /> 「…、キョン…ッ」<br /><br /> …!?<br /><br /> 急にハルヒの声色が変わった。…まさか<br /><br /> 「ハルヒ…ハルヒなのか!!?」<br /><br /> すぐさま俺はハルヒの元へと近寄る。<br /><br /> 「ふふっ…まさか、あんたが銃…それも麻酔銃なんてものを使うなんてね…、驚いちゃった。」<br /> 「ハルヒ!!お前…大丈夫か!?」<br /> 「…、大丈夫なわけないでしょ…!誰のせいで今体が…痺れてると思ってんの…!?」<br /><br /> そうだったな…すまん、ハルヒ。<br /><br /> 「別に…落ち込まなくていいわよ。それしか…良い方法がなかっ…たんだろうし…。」<br /><br /> 所々ハルヒの言葉が途切れているのがわかる。…これも麻酔のせいか。<br /><br /> 「よく…戻ってこれたな…。」<br /> 「…え?」<br /> 「麻酔によるショックで神が動揺したのはほんの一瞬だったはず…その短時間で<br /> よく意識を取り戻せたなと言ってるんだ…。俺が麻酔という手段に訴えたことに<br /> お前が驚いてるように、俺も…お前の素早い復帰には心底驚いてるとこなんだ。」<br /> 「…別にそんなにおかしなことでもないわ。ただ、一瞬の隙さえあればあたしはよかった。<br /> 隙さえあれば、すぐにでも神と…取って代わるつもりだった…!」<br /> 「…??どういうことだ?お前…意識がなかったんじゃ…?」<br /> 「…それは違うわ。意識はあった。ただ…意識があっても、感情や仕草を表層に出すことが…<br /> できなかった。これほど歯痒い思いもなかった…!言わば、神に抑えつけられた状態ね…<br /> こればかりはあたしではどうすることも…できなかった。…操り人形のまま12月2日を迎えようとした時には…<br /> 正直もうダメだと思った…だから、必死に心の中で叫んでた…!<br /> 【キョン!!何ボサっとしてんの!?さっさとあたしを助けなさい!!】…ってね。」<br /> 「…まさか、お前があのときそんなことを思ってたとはな。俺は、その期待に応えることはできたか?」<br /> 「結果的にはね…さすがに、麻酔を使ってくるとは……思わなかったけど。」<br /> 「…そりゃそうだよな。」<br /> 「でも、おかげであたしは助かった…あんたの予想外の行動に、神は酷く動揺した…その隙をついて<br /> あたしは…神に、一気に反転攻勢をかけた…!それもあって神は…世界崩壊を、中断せざるをえなくなった…。」<br /><br /> ……<br /><br /> 今更ながら驚く。<br /><br /> 俺があのとき…世界を救うことで、頭を試行錯誤したり躍起になっていた中で…こいつはこいつで、<br /> 世界を救うことで必死だったんだ…!!確かに、そうでもなければ…麻酔をかけた直後に世界崩壊を<br /> 止めさせることなど、普通に考えればできるはずもない…ハルヒのとっさの反応があってこその芸当か。<br /><br /> …ハルヒには感謝せねばならない。<br /><br /> 「…それで、全て思い出したのか?」<br /> 「…ええ、おかげ様でね…。あたしが神の代行者として日々奔走していたってことも…、<br /> そして、第三世界の終わりで…あんたと出会ってたってこともね…。」<br /> 「…そうか。」<br /> 「まさか、またこうしてあんたと出会うときが来るなんてね…<br /> もっとも、あんたは第三世界でのことなんて…覚えてないでしょうけど…。」<br /> 「いや、しっかりと覚えてるぜハルヒ。」<br /> 「…どうして?転生した人間が前世の記憶を取り戻すなんてこと、あるわけ…」<br /> 「夢を見たんだよ…昨日な。船上でお前と…いろいろと話してた夢をな。お前は気付いてないのかもしれんが、<br /> 無意識の内に力を使って俺に過去の記憶を覗かせた…古泉や長門はそう分析してたぜ。俺もそう思ってる。」<br /> 「…変な話ね…だって、あんたってあたしと同じく転生してきたんだから…厳密に言えば異世界人的扱い…<br /> になるのよね?なら…そんなキョンにあたしが干渉することなんて…本来ならできるはずが…。」<br /><br /> …!!<br /><br /> 確かに…ハルヒの言うとおりじゃないか??…じゃぁ、あの夢は一体??<br /><br /> 「…ふふっ、もしかしたら…あの世界のあんたが、それを知らせたのかもね…。」<br /> 「お…俺が!?そんなことが可能なのか??」<br /> 「…確かなとこはよくわかんないけどね…でもね、あたしはそう思うの。だって…そうでしょう?<br /> あんたの記憶は…キョンにしかわからないもの。キョンしか知らないんだもの…。」<br /><br /> ……<br /><br /> 【お前】が…見せてくれたのか?世界の危機を察して…わざわざ俺に知らせに来てくれたってのか…?<br /> …夢から覚めた後、俺の問いかけに対し、長門・古泉は『ハルヒに異変はない。』と言っていた。<br /> あれは…本当だったってわけか?俺の代わりにハルヒを守ってやれって、そういうことだったのか?<br /> 【お前】も姿が見えないってだけで…俺たちと一緒に、必死に戦ってくれてたのか…?実際のところはわからない。<br /><br /><br /><br /><br /> ……<br /><br /><br /><br /><br /> 「…あたしね、ずっとキョンに会いたかった…だから…っ!もっと話したいけど<br /> 残念だけど、そうもいかないみたい…この世界を…なんとかしなくちゃ…ね。」<br /> 「俺も…また会えて嬉しい。過去の俺も、再会できてさぞかし喜んでると思う。<br /> 俺だって話したいのは山々…だが、まずはこの危機を乗り切らなくちゃな。」<br /><br /> そう、まだ終わっていない。<br /><br /> 12月2日0時0分世界滅亡<br /><br /> 確かにこれは回避した。だからといって、第四世界崩壊という筋書き自体が消えてしまったわけではない。<br /> この回避はおそらく一時的なもの…12月2日0時0分という定刻が先延ばしされたにすぎない。<br /> …当然だろう。地球崩壊を企む張本人が宇宙のどこかで、いまだその遂行に励んでいるのだから。<br /> 極論を言えば、あと数分で再び世界が消滅の危機にさらされる可能性だってある。<br /><br /> 「…ハルヒ。次に地球がフォトンベルトに入る時間帯は…いつかわかるか??」<br /> 「…後、20分もしないうちに突入よ…。」<br /> 「20分だと!?」<br /><br /> どうやら、俺がさっき言ったことは極論ではなかったらしい。<br /><br /> 「畜生…!一体どうすれば」<br /> 「キョン…あたしちょっと…やばい…かも」<br /> 「…ハルヒ!?どうした!?」<br /> 「麻酔が…まわって…きたみたい」<br /> 「ッ!!」<br /><br /> 麻酔銃を使った代償が…ここにきて現れ始めた。そうなることは覚悟していたが…っ!<br /><br /> 「ハルヒ!!お前の…お前のその願望実現の能力で…!その麻酔を取り除けないか…!?」<br /> 「…残念だけど…、それはできない…。」<br /> 「どうしてだ!?」<br /> 「確かに…、麻酔を強く拒否すれば…能力は発動…するでしょうね…でも、今はそんな些細なことに力を<br /> 削ぎたくはないわ…キョンも…わかってるんでしょ…?神に対抗できる唯一の手段が…あたしだけって…ことに」<br /> 「…!」<br /> 「それでも…万全な状態でも、あたしは神の力には遠く及ばない…はず。ましてや…神を倒すともなれば…」<br /> 「!?神を…倒すのか!?」<br /> 「だって、そうでしょう!!?じゃなきゃぁ、さっきと同じ…。<br /> 一時的に防いだところで、世界が危機に見舞われていることには…変わりないわッ!!<br /> なら、その根源である神そのものが消滅しない限り…世界は神の魔の手からは、永遠に逃れられない…!!<br /> だから…少しでも、少しでも力を温存しとかなくちゃならない…!そうじゃなきゃ、世界は…!!」<br /><br /> ……<br /><br /> 俺から言うことは何もない…<br /><br /> ハルヒの覚悟は本物だ…!<br /><br /> 「…それで頑張ったとしてだな…!後どれくらいもちそうなんだ!?」<br /> 「わからない……、もって5分…ってとこかしら…、」<br /><br /> 5分<br /><br /> ……<br /><br /> 5分<br /><br /> 胸に突き刺さる<br /><br /> このわずかな時間の中で…ハルヒは神を倒さなくちゃならない。<br /> 止めるならまだしも…神を倒す!?神の存在そのものを…消す!?そんなこと…<br /> そんなことが本当にできるのか…!?そんなことが、本当に可能なのかっ!!?<br /><br /> 「あたしは…神の消滅を強く願う…っ。強く願って…それを実現させる…!<br /> それが…あたしの能力だったものね…。あたしが…あたしがやらなくちゃ…っ」<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 俺は…何をやってるんだ…?<br /><br /> 確かに、状況は絶望的だろう。だが…それでも尚あきらめず、神に立ち向かおうとしてる<br /> 当の本人を前に俺は… 一体何をやってる…?何を勝手に…沈んでる…?<br /><br /> …最低だ。俺は。<br /><br /> ……<br /><br /> 『だけどね、あくまであたしの体は人間。だから力的には<br /> 本体である神を超えることなんて絶対に不可能なの…当たり前だけど。』<br /> 『……』<br /> 『転生はできそうなの。でも完全には…いかないみたい、残念だけどね。<br /> 今あたしがもってる人間らしからぬ能力も…おそらく一部は受け継がれることになると思う。<br /> それどころか神の操作で、今以上により強大になっている恐れだってある。』<br /> 『……』<br /> 『だから』<br /> 『言わんとしていることはわかるさ、そこまで俺も鈍くない。それでもし<br /> 何か悪いことが起こったって…そんときはその世界の俺がきっとハルヒを助けに来るはずだ…<br /> だからさ、お前は安心して転生に専念してりゃいいんだよ。』<br /> 『キョン…ありがとう。』<br /><br /> 突然のフラッシュバック<br /><br /> ……<br /><br /> そうだ…俺はあのとき、昔ハルヒに言ったじゃねえか…!?助けてやるって!!!!<br /> あの世界の俺は…確かにそう言ったじゃねえか!!!?<br /><br /> 「ハルヒ…!」<br /> 「…!?キョン…!?」<br /><br /> 俺は…。座り込んでいるハルヒの手を…力強く握ってやった。<br /><br /> 「ハルヒ、お前は…決して一人で戦ってるわけじゃない…!」<br /> 「…?」<br /> 「ハルヒ…実はな、さっきの麻酔銃は…古泉がくれたもんだったんだよ。」<br /> 「…古泉君が。」<br /> 「それとな…俺が今こうやって生きてるのも…長門と朝比奈さんのおかげなんだ。」<br /> 「…有希…みくるちゃん…。」<br /> 「みんなの力があって…今ここに俺とハルヒがいる。どうか…、それを忘れないでくれ!!」<br /> 「…!!」<br /> 「みんなここにいる…古泉、長門、朝比奈さん…みんな頑張ってる!!当たり前だろう!?<br /> SOS団は…いつも一緒だったじゃねえか!!それは…それは、団長だったお前が何より…<br /> 誰よりもそれを知っているはずだ!!!」<br /> 「キョン…っ」<br /> 「残念ながら一人間にすぎない俺には…こうやってお前の手を握っておくことくらいしか…できない。<br /> …けどな、それで少しでもお前の気持ちが安らぐのなら…!<br /> 【SOS団みんながお前についてる。】、その証を少しでも感じ、不安が拭えてくれるのなら…!<br /> 俺も、お前の横で…必死に、必死に祈り続けてやる!!決してお前を一人にはさせねえ!!!!」<br /> 「キョン……ッ!!!」<br /><br /> ……<br /><br /> 「そうね…あたしには…みんながいる…!!古泉君、有希、みくるちゃん…そしてキョン…!」<br /><br /> ……<br /><br /> 「あたしね…正直言うと、半ばあきらめてたの…神なんかに勝てるわけない…ってね…<br /> でも…、あたしはキョンから勇気をもらった…!それだけで…それだけであたしは頑張れる…!!<br /> だから…あたしが意識を失わないよう…!強く、強く…!手を、握りしめていてね…。キョン…っ。」<br /> 「…ああ、もちろんだ。」<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 一体どれだけの時間が経過しただろう。<br /><br /> 「キョン…」<br /> 「…何だ?」<br /> 「神の声が…聞こえなくなっ…たよ…」<br /> 「…俺はな、お前にならできると思ってた。」<br /> 「一体…、どれくらい…、時間…経った…かな?」<br /> 「…ちょうど5分ってとこだな。」<br /><br /> いまだにその5分というのが信じられん 俺には無限もの時間が去ってくような、そういう感覚に囚われていたんだ<br /><br /> 「あたし…頑張っ…た…よね?」<br /> 「ああ、お前は十分に頑張ったさ…、よくここまで耐えたと思う。」<br /> 「…神の…声が…聞こえない…」<br /> 「…やったな…ハルヒ…ッ!!」<br /> 「声が…聞こえ…ない…」<br /><br /> 神の化身である涼宮ハルヒには神の声が聞こえる 神が何を考えているかがわかる<br /> その声が----------------------------聞こえなくなった<br /><br /> ……<br /><br /> つまり、神は消滅した<br /><br /> はっきり言おう。信じられない。わずか数分で…ハルヒは神を凌駕した。本当に凌駕してしまった。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 予防線を張っておく<br /><br /> あくまで可能性でしかない。神が本当に消えたかどうかなんて、一体誰がどうやって確認できる??<br /><br /> ……<br /><br /> それでも俺は…ハルヒに対し、素直におめでとうと言いたかった。<br /> 死力を尽くした本人に…俺は誠意をもって労いの言葉をかけてやりたい。<br /><br /> 「ハルヒ!おめで…」<br /><br /> …?<br /><br /> 「ハル…ヒ?」<br /><br /> …いつからだろうか?ハルヒの体が…光っていた。<br /><br /> 「ははっ…力を…使い果たしちゃった…みたい。」<br /><br /> ……<br /><br /> デジャヴだった。この光景を…俺はどこかで見た。…そう、第三世界終焉時の夜。<br /> 海岸でハルヒと出会ったとき。あのときも彼女は…確か光り輝いていたんだ。<br /><br /> 「転生のときと同じ…最後の灯火ってやつ?能力が無くなっちゃうときって、いつもこうなるのよ。<br /> あのときもあたしは神に抗い、力を使い果たしたんだっけ…今のこの状況と全く同じね。」<br /><br /> …ハルヒのしゃべり方に、俺はどことなく違和感を覚えた。<br /><br /> 「ハルヒ…お前、麻酔は…?」<br /> 「……」<br /><br /> ……<br /><br /> 「状況は転生したときと全く同じ。つまり、これからあたしの記憶は永遠に失われる…<br /> だから、せめて最期くらいはあんたと、万全の状態で接しておきたかった…。<br /> そう強く思ってたら…いつのまにか麻酔はとれてた。…そういうとこかしら。」<br /><br /> 今、何と言った?<br /><br /> 「ちょっと待て…記憶が失われるって…?どういうことだ!?」<br /> 「慌てないで。ただ、三日前のあたしに戻る…それだけの話よ。」<br /><br /> ……<br /><br /> 「神に纏わる記憶が総じて消されるってことか…?」<br /> 「そういうことね。おそらく、明日にでもなれば…神だの第四世界だのそういうことを一切知らない、<br /> ちょうど三日前の状態のあたしがいる…と思うわ。ただ、その明日が来ればの話だけど…。<br /> 本当に神が消えていれば…ね。」<br /> 「……」<br /><br /> ハルヒもハルヒで自覚していたらしい。神が消えたというのは…あくまで可能性でしかないということを。<br /><br /> ……<br /><br /> 「…いずれにしろ、もう【お前】とは会えないってことか…?」<br /> 「ええ…残念だけど。でも、あたしはそれでいいと思う…<br /> 普通の、一人の少女として生きるのであれば、こんな記憶…邪魔以外の何物でもないもの。」<br /><br /> このハルヒとは二度と会えない<br /><br /> …会えない<br /><br /> ……<br /><br /> なんだ?この喉につっかかる妙な感覚は…?<br /><br /> ……<br /><br /> 俺は…こいつに   何か言わなくちゃいけないことがあるんじゃなかったか…?<br /><br /> ------------------------------------------------------------------------------<br /><br /> あれ…どうして俺は泣いてるんだ?確証はないが…遠い未来再びハルヒと会えるかもしれないじゃないか。<br /> ああ、わかってはいるさ。会えるのは【未来の俺】であって今の俺じゃない。問題は会えるかどうかじゃない。<br /> 今の俺が…ハルヒに『この思い』を伝えられなかったこと…それが悔やんでも悔やみきれない。<br /><br /> そうか、だから俺は泣いているのか。ようやく理解した。<br /><br /> ……<br /><br /> 「ハルヒ……ハル…ヒ………」<br /><br /> いくら叫んだってもう伝わりはしない。聞こえもしない。見ることも、触れることもできない。<br /><br /><br /><br /> ……<br /><br /><br /><br /> 遠い未来の俺よ… 一つ頼みごとを聞いてはくれねえか。<br /><br /> もしお前がハルヒと出会うようなときが来れば…<br /> そんときは俺の代わりに『この思い』  ハルヒに伝えてはくれねえかな?<br /><br /> 俺は第四世界の出発点とも言えるこの時代で精一杯生き抜いて…そして寿命を終える。<br /> だから…遠い未来の俺よ、お前もお前でその時代を全うして生きろよな。<br /><br /> ハルヒと一緒に。<br /><br /> ------------------------------------------------------------------------------<br /><br /> そうだったよな?あのときの俺…<br /><br /> 「ハルヒ…。お前に、伝えなくちゃいけないことがある。」<br /> 「…キョン?」<br /> 「今から言うことはな、あの世界の俺がお前に…言いそびれたことだよ…。」<br /> 「…?」<br /> 「でもな、それと同時に…それは、今の俺が思ってることでもある。…じゃあ、言うぞ。」<br /><br /><br /><br /> 「俺は…お前のことが         ……、大好きだ。」<br /> 「!!」<br /><br /><br /> ……<br /><br /><br /> 「……」<br /> 「……、」<br /> 「……」<br /> 「……、、」<br /><br /> …ハルヒ?<br /><br /> ……<br /><br /> おい、どうしたハル<br /><br /> ……<br /><br /> 泣い…てる…?<br /><br /> ……<br /><br /> 「…まさか、最後の最後で、あんたの口からそんなこと言葉…聞くなんてね…。」<br /> 「……」<br /> 「最期にその言葉を聞けたあたしは…とても、幸せな【人間】だと思った…!」<br /> 「ハルヒ…。」<br /> 「キョン…覚えてる?第三世界での別れ際に…あたしが言ったことを。あのときも、あたしは幸せだと言った…、<br /> でも…違うの…っ!あのときの『幸せ』とは…違う…!!本当に…嬉しいの…っ!」<br /><br /> ……<br /><br /> 『【神の代行者】としての最期に、あなたのような人間に出会えてあたしは幸せだったわ…!』<br /><br /> ……<br /><br /> 「ははっ…あたし、何泣いてんだろう…?また、ハルヒはキョンに会えるっていうのにね…」<br /> 「……」<br /> 「キョン…今の言葉、ハルヒにも…ちゃんと言いなさいよ…?<br /> あたしと…約束しなさい…!これは…団長命令……よ……、」<br /><br /> …そう言い残し、ハルヒは泣き崩れた。<br /><br /> 「…団長命令に逆らう部員が 一体どこにいるってんだよ…?」<br /><br /> 俺はハルヒを…強く、強く、抱きしめてやった。この華奢な体を…壊してしまうくらいに強く。<br /> …不思議なことに、ハルヒは痛いとは言わなかった。…変な話だ。こんなにも強く抱きしめてるってのに…!<br /><br /> 「キョン…あたしはあんたのことが…好きだった!大好きだった…!!」<br /> 「…そう言ってもらえて、あのときの俺も…さぞかし嬉しいだろうよ。」<br /> 「何…カッコつけてんのよ…?あんただって…嬉しいくせに…っ」<br /> 「…当たり前だろ。」<br /> 「……」<br /><br /> ずっとこうしていたい。俺とハルヒの間に…距離はなかった。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 「…あたしね。」<br /><br /> ハルヒが口を開く。それは…独白ともいえる内容だった。<br /><br /> 「…地球が誕生してから、やがて人類が生まれた…その人類を統括するための仲介者として<br /> あたしは生まれた…。やがて、人々はあたしを神と見なし、敬うようになった…。神は平和を望んだ、<br /> だからあたしも平和を望んだ…けれど、それも長くは続かなかった…人間たちは互いを謗り合い、傷付け、<br /> 憎み…やがて戦争が起こった。神は怒った…結果、世界は滅ぼされた。けれど、そのときはまだあたしは<br /> 何も感じなかった…感情がなかったのね。けれど、しだいに人間や動物との交流が進んでいくうちに…<br /> そういう神の行いを、あたしは暴挙だと捉えるようになった。でも…それでもあたしは自分からは<br /> 動こうとはしなかった…神の仰せのままに従うのが、あたしの宿命だったから…、天命だったから…、<br /> 運命だったから…、そう強く あたしは信じていた…」<br /><br /> ……<br /><br /> 「あんたがいなかったら…あたしって、一体どうなってたのかしら?<br /> いまだに神の代行とやらに追われ…日々奔走してたりしてね。」<br /> 「…そりゃなんとも、難儀な話だな。」<br /> 「あたしね、あんたと会えて本当によかったと思ってる。<br /> だって、あんたがいなきゃ…今のあたしはいなかったんだもんね…。」<br /><br /><br /><br /> ……<br /><br /><br /><br /> 「…時間…ね、」<br /><br /> 「ついに…きたのか…。」<br /> 「ええ…あと1分もしないうちに、あたしの記憶は消されるわ。<br /> 神としての記憶も、滅んだ世界の記憶も、そして…昨日今日あった出来事も含めて全部…ね。」<br /> 「そうか…寂しくなるな。」<br /> 「何バカなこと言ってんのよ。ちゃんとハルヒは健在よ!」<br /> 「そんくらいわかってるぜ。」<br /> 「なら、紛らわしいこと言わないの。」<br /> 「……」<br /> 「な、何よ?」<br /> 「ハルヒ…」<br /><br /> ……<br /><br /> 「今まで…ホント大変な人生だったろう…?よく、ここまで頑張ったな…。」<br /> 「……」<br /> 「でも、それも今日で終わりだ。次の朝からはお前は…今度こそ、本当の意味で<br /> 普通の人間としての生活を送れるようになる。その人生を…これまで苦労した分、どうか楽しんで生きてくれよ。」<br /> 「…もちろん、それはあんたがするのよね?」<br /> 「…?俺が…お前を楽しませるってことか…?」<br /> 「そゆこと。」<br /> 「まったく…お前には敵わんな。」<br /> 「当然よ!あたしを誰だと思ってんの!?」<br /> 「…団長様だろ。で、俺は雑用係りの平団員というわけだ。」<br /> 「わかってるのなら、それでいいわ!」<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 「どうか、ハルヒをよろしくね…っ」<br /><br /> 直感で察した。たぶんこれが…このハルヒの最期の言葉なんだろうと。<br /><br /> …ハルヒは目を閉じたまま、顔をこちらに向けている。<br /> 彼女が何を言わんとしてるのか…俺にはすぐわかった。<br /><br /> 「ハルヒ…また会おうな。」<br /><br /> そう言って俺はハルヒと…静かに口づけを交わした。<br /><br /> ……<br /><br /> その瞬間だったろうか。辺りの光景が目まぐるしく変わりだした。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 以前、ハルヒと二人 閉鎖空間に閉じ込められた時も…こんな感じだっただろうか。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 閉鎖空間から出た後、俺たちはどうなってるだろう<br /><br /> 世界は?天災は?神は?<br /><br /><br /><br /> ……<br /><br /><br /><br /> いつもと変わらない日常風景が広がる世界<br /><br /> 凄惨かつ荒廃した光景が広がる世界<br /><br /> …俺たちが元の世界に戻った直後に目にする景色は、果たしてどちらか<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 前者であることを信じたい<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> …俺は 意識を失った</p>
<p><br /><br /> 俺はドアを開けた。<br /><br /> 「ハルヒ…やっぱりここにいたか。」<br /> 「    」<br /><br /> 思った通りだった。旧校舎の、俺たちの部室に、SOS団の部室に、こいつはいた。<br /><br /> 「    」<br /><br /> 窓のそばに立ち、外を眺める少女。<br /><br /> 「…ハルヒ。」<br /><br /> 呼びかけるが、こちらを振り向く気配はない。<br /><br /> 「おい、ハル」<br /> 「何しに来た?」<br /><br /> ……<br /><br /> 明らかな拒絶。<br /><br /> …覚悟はしてたさ。ハルヒが、覚醒を起こしてぶっ倒れちまった時点でなぁ。言わずもがな、こいつは…<br /> 俺の知ってる涼宮ハルヒではない。窓から立ち退き、振り向いたその顔は…無機質な表情そのもの。<br /> 記憶喪失にでも遭い、俺が誰だかわからない…そんな虚無感を覚えた。<br /><br /> 「お前は…ハルヒじゃないな。」<br /> 「    」<br /><br /> 『最初の宇宙は無限宇宙だった。この無限宇宙には初めは創造主である神しかいなかった。<br /> 始まりもなく終わりもなく、時も空間もなく、形も生命もなかった。このような全くの無の宇宙に<br /> 神は初めて有限を生み出した。神が自らを具現化した有限…我々はその存在を<br /> 各地の神話や伝説に照らし合わせ、【ソツクナング】と呼んでいる。』<br /><br /> 長門の言葉を思い出す。<br /><br /> 「これまで何度も世界を破壊し、そのたびに創造してきた張本人…そうだよな?神様…いや、」<br /><br /> ……<br /><br /> 「ソツクナングと、そう呼んだ方がいいのか?」<br /> 「    」<br /><br /> ……<br /><br /> 「 ソツクナング か 懐かしい名前 そうだとして、あなたはどうするつもり?」<br /> 「決まってんだろ…この世界の崩壊を…!第四世界の崩壊を今すぐ止めてくれ!!」<br /> 「できない相談だとわかっていて わざわざそれを口に?」<br /><br /> 淡々とした 冷酷な口調。<br /><br /> …時計を眺める。<br /><br /> 23時56分<br /><br /> 時間がない…!こいつを説得してる時間など…もはやない…っ!  <br /><br /> 「…力づくでもお前を止める。」<br /><br /> ……<br /><br /> 「まったく、呆れる  力でしか物事を解決できない それが人間 」<br /><br /> ッ!!<br /><br /> 「お前に言われたかねえよ!!これからまさに【力】でもって世界を滅ぼそうとする…<br /> お前みたいな【邪神】にはな!!もはや神ですらねえ!!」<br /> 「 今更お前がこの人間の体をどうしようと 世界の崩壊は止まらない<br /> なぜなら、私自身 ここにはいないのだから 」<br /> 「何をワケわかんねえことを…ッ!」<br /><br /> ……<br /><br /> 『あたしはあくまで神の化身でしかないの。確かに人間の身に投じてはいるけど、<br /> だからといって本来の神が消えてしまったわけじゃない。本当の神はあたしとは別に<br /> 宇宙のどこかで存在してるわよ。で、その存在が地球規模の天変地異を引き起こしてるわけ。』<br /><br /> ハルヒが昔言っていた。<br /><br /> …こいつの言うとおりだ。神はここには…いない。<br /><br /> 「ハルヒは…」<br /> 「    ?」<br /> 「ハルヒは…元のハルヒはどこに行った!!?」<br /><br /> そうだ…あいつは言っていたんだ…!<br /><br /> 『世界が滅びるったって神はそれを傍観するだけ。でも、地上にいるあたしは知っている…<br /> それによって多くの尊い命が奪われ…また、彼らの悲鳴も聞こえた。考えようによっては単なる殺戮ね。<br /> そして、その張本人が自身であることを自覚した直後、これまで何度あたしは発狂しそうになったことか。<br /> 人間である以上、最低限の理性はもつもの。…当然の帰結よ。』<br /> 『もうね…あたしはこれ以上人々の痛みは見たくない。』<br /><br /> 「あいつはな…見たくなんかねえんだよッ!!この世界の人間が死ぬ様なんてな…、<br /> お前の…その体の本来の持ち主である涼宮ハルヒはなぁ!!!」<br /> 「だから何?」<br /> 「あいつ自身そんなことは微塵も思っちゃいねえ…だから、言うぜ。今すぐ…今すぐ<br /> ハルヒの人格を呼び戻せ!!お前が今やろうとしてる暴挙に…あいつはきっと反対する!!」<br /> 「  ?呼び戻す必要性が感じられない 」<br /> 「そんなこともわかんねえのかよ!!?ハルヒは…元はと言えば涼宮ハルヒは<br /> お前の分身のような存在だったはずだ…俺が言いてえのは!!!仮にも分身だと言える<br /> そいつの声を… 一方的に封殺しちまってもいいのかって、俺は聞いてんだよッ!!!!」<br /> 「この人間のことなど知ったことではない」<br /><br /> 躊躇うことなくこいつは言い放った。冷たかった。<br /><br /> 『本来の神はとても考えが物質的で無機的で…そして冷酷。』<br /><br /> 「そうかよ…じゃあ、この質問にだけは答えろよ…!!ハルヒをどこにやった!!?」<br /> 「別にどこにも ただ言えるのは 彼女がこの体に意識を宿すことは二度とないってこと 」<br /><br /><br /><br /> ……<br /><br /><br /><br /> 今…何と言った?<br /><br /> 「てめぇ…!!今の…冗談じゃ済まさねえぞ!!?」<br /> 「第三世界崩壊直後、私に牙をむき 本来担うはずの神としての業務を悉く放棄してきたこの人間を、<br /> 私は許さない 存在意義を絶ったこの人間を、私は許さない この人間の本来の人格には    消えてもらう」<br /> 「……ッ!」<br /><br /> 俺はある種の恐怖を覚えた こいつは自分以外の存在を 単なる道具としか思っちゃいない<br /><br /> …時計を見る。<br /><br /> 23時58分を過ぎている…<br /><br /> 時間が…ない!!!<br /><br /> …ここまで真剣なのは俺の人生の中で…おそらく最初で最後だろう。思考回路が焼き切れるのではないか…<br /> そのくらい俺は真剣だった。真剣に考えていた。どうすれば世界が助かるかを。どうすれば…!?<br /> とりあえず落ち着く必要がある。さっきこいつが…ソツクナングが言っていたことを思い出せ…<br /><br /> 『今更お前がこの人間の体をどうしようと、世界の崩壊は止まらない なぜなら私自身 ここにはいないのだから』<br /><br /> つまり、俺が今この場で側にある椅子を持ち上げ…ハルヒ(の姿をしたソツクナング)の頭めがけ、<br /> 殴りつけたとする。その場合、ハルヒは気絶、ないしは死に陥る。だが、そうしたところで…<br /> この世界の崩壊は止まらない。<br /><br /> …まあ、万一にもそれはありえん話だがな…。いくら意識が神に乗っ取られてようと、<br /> この体が涼宮ハルヒ本人のものであることは…疑いようのない事実…!!気絶ならまだいい!<br /> 誤って殺したりでもしたら…ッ!一体どうすんだ!!?そんなことをしたらハルヒは永久に帰ってこない…<br /> そんなリスクを犯すはずがない…!!<br /><br /> どちらにせよ事態の好転は望めない。<br /><br /> じゃあどうすんだ!?<br /><br /> …てっとり早いのは、宇宙のどっかに存在する神に対し…直接干渉してやること。<br /><br /> ……<br /><br /> 一人間である俺が どうやって??<br /><br /> …時計を見る            --------------------------------------23時59分<br /><br /> ダメだ。俺は…このまま何もせずに終わるのか!?もう世界は…どうにもならねえのか!?<br /><br /> みんな…ゴメン…<br /><br /> ……<br /><br /> 『…キョン君、僕は信じてますよ。必ず世界を救ってくれる…とね。』<br /> 『キョン君…!!どうか…無事帰ってきてくださいね!涼宮さんと一緒に!!』<br /> 『何があっても決してあきらめないで。あなたならきっとできる。』<br /><br /> !!<br /><br /> 俺は…みんなと約束した。できるできないの問題じゃない!!やらなきゃいけない…!!<br /> 俺は…最後まで絶対あきらめない!!…落ち着け、落ち着いてもう一度冷静になって考えてみろ…ッ!<br /><br /> …そもそもである。<br /><br /> 『今更お前がこの人間の体をどうしようと、世界の崩壊は止まらない なぜなら私自身 ここにはいないのだから』<br /><br /> この言葉がどことなくひっかかるのは …俺の気のせいか?<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> ハルヒの覚醒、即ちハルヒがハルヒでなくなったとき。それこそが世界崩壊へのカウントダウンだった。<br /> 裏を返せば、昨日ハルヒが倒れるまでの間、そのカウントダウンとやらは起きなかったということになる。<br /> 世界崩壊は誰の意志?誰の仕業?言うまでもなく、今目の前でハルヒを操っている神そのものだ。<br /> つまり、神はハルヒの覚醒無しでは世界崩壊は成し得なかったはず。<br /><br /> …覚醒とは何だ?ハルヒはどうなった?<br /><br /> 【前時代の記憶を取り戻す。】<br /><br /> これは俺のみにならず、長門や古泉たちとの共通認識でもあった。<br /> だが…今のハルヒは違う。記憶が戻ったとか、そういう次元の問題ではない。<br /> 目の前のこのハルヒには【ハルヒ】としての意識がそもそも存在していない。自我が存在していない。<br /> それもそのはず…神がそうするよう仕組んだからである。言わば、神の操り人形といったところか。<br /> …俺たちの覚醒認識が間違っていたのか?だが、長門・古泉が主張していたあたり、安易にそうとも思えない。<br /><br /> 1つ仮説を立ててみる。仮に、俺たちの認識は正しかったとする。<br /> そうである場合、今のこの現状はどう説明すればいい?<br /><br /> …思いつく答えは1つ。それは、記憶が戻った直後、神の介入により意識を絶たれたというもの。<br /> 第四世界崩壊のためには涼宮ハルヒの意識を奪い、神の監視下、コントロール下に置く必要があった。<br /> …要約すればこういうことだろうか。<br /><br /> しかし、なぜそんなことをする必要が?正常状態のハルヒを放置しておくことで、神に何か不都合でも…?<br /><br /> 「後 数秒で地球は公転周期上、完全にフォトンベルトに突入する  これで第四世界も終わり 」<br /><br /> …数秒だと!?すぐさま腕時計を確認し…!?もう10秒もない…!!<br /><br /> ッ!!!<br /><br /> くそッ!!後もう少しで…後もう少しで何かわかりそうだったってのに!!!<br /><br /> 9<br /><br /> …ッ!!俺はあきらめない…!!あきらめたら…何より朝比奈さんの死はどうなる!?<br /> 俺に言葉を託して死んだ朝比奈さんはどうなる!?これじゃ単なる無駄死にじゃないか!!!<br /><br /> 8<br /><br /> 『たぶ…ん、この世界は…守られる…第五…世界ももう…すぐ消滅…みん…ないなくな…る』<br /><br /> 7<br /><br /> 朝比奈さんは…あのとき何を根拠にこんなことを言っていたんだ…!??<br /> あのとき…彼女は何を思ってこれを口にした??<br /><br /> 6<br /><br /> …俺は、あのとき覚悟を見せつけたじゃないか<br /><br /> 5<br /><br /> 【この朝比奈さんが…自分のいた世界を守るのに命懸けなのなら。俺だってそうだろう…!?<br /> 状況的には全く同じはずだろう!?俺は自分のいるこの世界を、人々を、家族を、友人を、 <br /> …ハルヒを!守りたい…!!!】<br /><br /> 4<br /><br /> 朝比奈さんが俺の覚悟を垣間見たのだとしたら…彼女は俺に一体何を期待した?<br /> 世界の人々?家族?友人?いや…違う<br /><br /> 3<br /><br /> 『キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね』<br /><br /> 2<br /><br /> 彼女の最期の言葉が それを物語っていた<br /><br /> 1<br /><br /> 「    」<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 「 」<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 「!?」<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 「…何を  し      計画       計画  が<br /> あ 、あああ  !?   ああああああああああああああああ!!!!!!」<br /><br /> 12月2日0時0分 第四世界滅亡 その筋書きが破綻してしまったせいか  -----------神は発狂し始めた<br /><br /><br /><br /> ……<br /><br /><br /><br /> 俺は今 一体何をしたのだろうか<br /><br /> …反射だ<br /><br /> 小学校、あるいは中学の理科の授業にて、こんな言葉を聞いた覚えはないだろうか?<br /> 特定の刺激に対して意識とは無関係に引き起こされる反応……生物学的反射の一般定義だ。<br /> 熱いヤカンに指が触れ、熱い!と感じた時には、すでに指は手元へと引っこんでいた。<br /> わかりやすい反射の一例としては、例えばこういうものがある。<br /><br /> …厳密に言えば、今のは反射ではないのかもしれない。まあ、この際それはどうでもいい。<br /><br /> ……<br /><br /> 机にもたれかかり、必死に倒れまいとするハルヒ。だが、それも時間の問題のように見えた。<br /> それもそのはず…麻酔を叩きこまれて平然としてられる人間など、いるはずがない。<br /><br /> 俺は涼宮ハルヒめがけ                     麻酔銃をぶっ放していた<br /><br /> 「意識  意識がぁ  っ!」<br /><br /> ついに立っていられなくなったのか。床に塞ぎ込み、頭を抱えるハルヒ。<br /> …麻酔銃?なぜ俺は、この局面でこれを使用したのか?  <br /><br /> ……<br /><br /> …なるほど、<br /><br /> 【正常状態のハルヒを放置しておくことで、神に何か不都合でも…?】<br /> この問いに対する答えを、俺は知らぬ間に見つけてしまっていたらしい。…逆を考えてみればいい。<br /> 記憶を取り戻したということは、即ちその瞬間において、ハルヒが神と意識を共有することを意味する。<br /><br /> 『だってあたしは神の分身だもの。つまり、神が考えてることが同時に今あたしが考えていること。』<br /> 本人の言葉通り、ハルヒはこれから神がしようとしていることを…瞬時に把握する。<br /> 神がこれからすることとは…言わずもがな、俺たちが生きるこの世界の破壊である。<br /> …それを知ったハルヒはどうするだろうか?<br /><br /> 『世界が滅びるったって神はそれを傍観するだけ。でも、地上にいるあたしは知っている…<br /> それによって多くの尊い命が奪われ…また、彼らの悲鳴も聞こえた。考えようによっては単なる殺戮ね。<br /> そして、その張本人が自身であることを自覚した直後、これまで何度あたしは発狂しそうになったことか。』<br /> 『もうね…あたしはこれ以上人々の痛みは見たくない。』<br /><br /> 極めつけは…第一、第二、第三、第四と史実に準え、次々に世界が滅んでいく様を…<br /> 見せつけられた一昨日の夢の中で…!消えゆく夢の中で、かすかに聞こえてきた、ハルヒの言葉…!<br /><br /> 『嫌…っ!嫌!!あたしは…こんなことしたくない…!!!!』<br /><br /> もはや自明であろう。ハルヒが…決してこの状況を望んではいない、ということは。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 話は次の段階へと進む。<br /><br /> 望む望まないは別とし、ハルヒの中に何かしらの強固な意志が生まれた場合…<br /> 結果として【何】が起きる?…これが最も重要である。神はそれを恐れてる。<br /> だからこそ、神は涼宮ハルヒの自由意思を阻害すべく、彼女を自らの監視下に置く必要があった。<br /><br /> 以前、俺はハルヒに『神をやめて一人の少女、普通の人間として生きたいと思ったことはないのか?』<br /> と提案したことがある。しかし、ハルヒはすぐには首を縦には振らなかった。その理由というのが<br /> 『化身である以上、これからもずっと神の意志に束縛されて生きていくのは自明で…。』<br /> という思い込みにあった。自身が好きなように生きることを放棄した、ある種の諦観とも言うべきか。<br /> その後の俺の説得により、ハルヒは立ち直った。これまでのステレオタイプから抜け出した。<br /> 結果、ハルヒは転生という手段に打って出る。代行者としての自分を捨て、来たる第四世界で <br /> 1人の人間として----------、自身の意志で生きていくために。<br /><br /> 『やっぱり物事ってのはやってみるに越したことはないと思ったわ…あたしの潜在能力って案外凄かったみたい。』<br /><br /> …試みは見事に成功した。画期的とも言える瞬間だった。<br /><br /><br /><br /> つまり<br /><br /><br /><br /> 涼 宮 ハ ル ヒ の 力 の み が 神 に 干 渉 で き る 唯 一 の 手 段 <br /><br /><br /><br /> 俺が言いたかったのはこの一点である。<br /><br /> ならば、ハルヒが記憶を取り戻した状態で、万が一にも神に対する強い反駁精神を発動させでもしたら<br /> 一体どうなるか?察しの通り、神は自らの計画に支障をきたすことを…覚悟せねばならぬ事態へと発展する。<br /> 仮にハルヒのそれが潜在的なものであったとしても、第四世界の崩壊にあたって全くのイレギュラー因子が<br /> 無いとは…言い切れない。神からすれば…これほど不気味な存在もいないだろう…?<br /> 言うことを聞いてくれない自身の分身など、脅威以外の何物でもないからだ。<br /><br /> 言うのは二度目だが、ただの凡人である俺のような一人間には<br /> 宇宙のどこかに在する神に対し、どうこうしてやることなど…できるはずもない。<br /> だが…ハルヒには…!涼宮ハルヒにはそれができる!!<br /><br /> ……<br /><br /> 『キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね』<br /><br /> 朝比奈さん…ありがとう。貴方が最期に言い残してくれた言葉のおかげで…、<br /> 俺は救われました。あの言葉の意味が…ようやくわかりましたよ。<br /><br /> …そうとわかれば話は早い。俺がやるべきこと…それは<br /> ハルヒが【ハルヒ】として自我を確立してられる環境を作ってやること…!!<br /> その一言に尽きる。残念ながら、現在目の前にて立ち塞がるハルヒは…ハルヒであって【ハルヒ】ではない。<br /> 神の息がかかった彼女を、一体どうすれば正常な状態に戻してやれるのか!?最大の難問だった。<br /><br /> 『今更お前がこの人間の体をどうしようと 世界の崩壊は止まらない 』<br /><br /> こいつの言っていることは一理ある。<br /><br /> 例えば、俺がハルヒに対し…素手や足で殴る蹴るなどし軽傷を負わせたとする。しかしそうしたところで…<br /> それはあくまで、言葉通り軽い傷でしかない。そんな程度の低いアクションを加えたところで<br /> ハルヒが神の監視下から逃れるとは…とても思えない。依然、意識は神に管轄されたままだろう…。<br /> かと言って、重傷を負わせれば良いという問題でもない。それこそ暴論である…。<br /> 頭を殴りつけたり等して、万一ハルヒに永久に意識が戻らなかったらどうするつもりだ…!?<br /> 仮に戻ったところで、そんな重体な体で…どこに神に対し、憤る余裕があるというのか!??<br /> 痛みが先行してそれどころではないのは…言うまでもないはずだ。<br /><br /> では、どうすればいいのか?神に憑依された表層意識を払拭するには…<br /> どうすればいいのか??単に、何か強い衝撃でも与え意識を失わせればいいのか??<br /> …もちろん、暴力手段をもって身体に重傷を負わせる手法は…論外である。<br /><br /> ……<br /><br /> 『麻酔銃…ですからね。人を殺すための道具ではないんですよ。そう言えば、わかりますよね?』<br /><br /> 俺は賭けに出ることにした。 麻 酔 を も っ て 意 識 を 絶 つ       <br /> 意識が揺らぐ一瞬の隙こそ、ハルヒが現状復帰できる最初にして最後の機会。俺はそう確信した。<br /><br /> …ああ、自分でもわかってるさ。これは賭けってレベルじゃねえ。<br /> めちゃくちゃだ…大博打だ…それ以外に言いようがない。<br /><br /> ……<br /><br /> あまりに不安要素が大きいのもわかってる。まず根本的な問題として麻酔ごときに、果たして神に隙が<br /> 生まれるのかどうか…?仮に生まれたとして、一瞬という僅かな時間でハルヒは意識を取り戻せるのか…??<br /> 麻酔自体の効力もいまいちわからない。軽傷と同じ部類の衝撃性ならほとんど意味を成さない。<br /> かと言って重傷すぎても困る。深い即効性の昏睡だと、いずれにしろハルヒは戻ってこれない。<br /><br /> だが、今はこれしか頼れる方法がなかった。何かもっと、他に確実性のある方法はないのか!?<br /> と、何度も何度も思案した。こんな危険な橋、誰が好き好んで渡るものか…ッ!!<br /> しかし…考えに考え抜いた挙句、どうしてもこれ以外には思い浮かばなかった。<br /> だから…敢えて俺は信じたい。これが現状における最良の手段だったと。<br /><br /> 俺は涼宮ハルヒめがけ、引き金をひいたんだ。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> …そして、先ほどの冒頭に戻る。<br /><br /> 「ぁあ くっ っ!」<br /><br /> 今にも意識を失いそうな少女がいた。<br /><br /> ……<br /><br /> 時刻は0時1分<br /><br /> 窓から外を眺める。…さっきと何ら変わったところはない。<br /> まだ油断はできない。だが、一つだけ言えることがある。それは<br /><br /> 12月2日0時0分世界崩壊<br /><br /> 回避した<br /><br /> 12月2日0時0分世界崩壊<br /><br /> 確かに…回避した…!!少なくとも、この時間帯における世界崩壊は免れた…!!<br /> これはつまり、神への干渉に成功したということ。もっと言えば、神に反駁すべく<br /> ハルヒの自我が表層意識に現れ始めたという証拠。<br /><br /> …俺の博打も捨てたもんじゃなかったらしい。<br /><br /> ……<br /><br /> 古泉がくれたこの麻酔銃。結果として、俺は朝比奈さんは救えなかった。<br /> だからこそ失敗は許されなかった…!!ハルヒだけは…なんとしても助けたかったから!!<br /><br /> 「…、キョン…ッ」<br /><br /> …!?<br /><br /> 急にハルヒの声色が変わった。…まさか<br /><br /> 「ハルヒ…ハルヒなのか!!?」<br /><br /> すぐさま俺はハルヒの元へと近寄る。<br /><br /> 「ふふっ…まさか、あんたが銃…それも麻酔銃なんてものを使うなんてね…、驚いちゃった。」<br /> 「ハルヒ!!お前…大丈夫か!?」<br /> 「…、大丈夫なわけないでしょ…!誰のせいで今体が…痺れてると思ってんの…!?」<br /><br /> そうだったな…すまん、ハルヒ。<br /><br /> 「別に…落ち込まなくていいわよ。それしか…良い方法がなかっ…たんだろうし…。」<br /><br /> 所々ハルヒの言葉が途切れているのがわかる。…これも麻酔のせいか。<br /><br /> 「よく…戻ってこれたな…。」<br /> 「…え?」<br /> 「麻酔によるショックで神が動揺したのはほんの一瞬だったはず…その短時間で<br /> よく意識を取り戻せたなと言ってるんだ…。俺が麻酔という手段に訴えたことに<br /> お前が驚いてるように、俺も…お前の素早い復帰には心底驚いてるとこなんだ。」<br /> 「…別にそんなにおかしなことでもないわ。ただ、一瞬の隙さえあればあたしはよかった。<br /> 隙さえあれば、すぐにでも神と…取って代わるつもりだった…!」<br /> 「…??どういうことだ?お前…意識がなかったんじゃ…?」<br /> 「…それは違うわ。意識はあった。ただ…意識があっても、感情や仕草を表層に出すことが…<br /> できなかった。これほど歯痒い思いもなかった…!言わば、神に抑えつけられた状態ね…<br /> こればかりはあたしではどうすることも…できなかった。…操り人形のまま12月2日を迎えようとした時には…<br /> 正直もうダメだと思った…だから、必死に心の中で叫んでた…!<br /> 【キョン!!何ボサっとしてんの!?さっさとあたしを助けなさい!!】…ってね。」<br /> 「…まさか、お前があのときそんなことを思ってたとはな。俺は、その期待に応えることはできたか?」<br /> 「結果的にはね…さすがに、麻酔を使ってくるとは……思わなかったけど。」<br /> 「…そりゃそうだよな。」<br /> 「でも、おかげであたしは助かった…あんたの予想外の行動に、神は酷く動揺した…その隙をついて<br /> あたしは…神に、一気に反転攻勢をかけた…!それもあって神は…世界崩壊を、中断せざるをえなくなった…。」<br /><br /> ……<br /><br /> 今更ながら驚く。<br /><br /> 俺があのとき…世界を救うことで、頭を試行錯誤したり躍起になっていた中で…こいつはこいつで、<br /> 世界を救うことで必死だったんだ…!!確かに、そうでもなければ…麻酔をかけた直後に世界崩壊を<br /> 止めさせることなど、普通に考えればできるはずもない…ハルヒのとっさの反応があってこその芸当か。<br /><br /> …ハルヒには感謝せねばならない。<br /><br /> 「…それで、全て思い出したのか?」<br /> 「…ええ、おかげ様でね…。あたしが神の代行者として日々奔走していたってことも…、<br /> そして、第三世界の終わりで…あんたと出会ってたってこともね…。」<br /> 「…そうか。」<br /> 「まさか、またこうしてあんたと出会うときが来るなんてね…<br /> もっとも、あんたは第三世界でのことなんて…覚えてないでしょうけど…。」<br /> 「いや、しっかりと覚えてるぜハルヒ。」<br /> 「…どうして?転生した人間が前世の記憶を取り戻すなんてこと、あるわけ…」<br /> 「夢を見たんだよ…昨日な。船上でお前と…いろいろと話してた夢をな。お前は気付いてないのかもしれんが、<br /> 無意識の内に力を使って俺に過去の記憶を覗かせた…古泉や長門はそう分析してたぜ。俺もそう思ってる。」<br /> 「…変な話ね…だって、あんたってあたしと同じく転生してきたんだから…厳密に言えば異世界人的扱い…<br /> になるのよね?なら…そんなキョンにあたしが干渉することなんて…本来ならできるはずが…。」<br /><br /> …!!<br /><br /> 確かに…ハルヒの言うとおりじゃないか??…じゃぁ、あの夢は一体??<br /><br /> 「…ふふっ、もしかしたら…あの世界のあんたが、それを知らせたのかもね…。」<br /> 「お…俺が!?そんなことが可能なのか??」<br /> 「…確かなとこはよくわかんないけどね…でもね、あたしはそう思うの。だって…そうでしょう?<br /> あんたの記憶は…キョンにしかわからないもの。キョンしか知らないんだもの…。」<br /><br /> ……<br /><br /> 【お前】が…見せてくれたのか?世界の危機を察して…わざわざ俺に知らせに来てくれたってのか…?<br /> …夢から覚めた後、俺の問いかけに対し、長門・古泉は『ハルヒに異変はない。』と言っていた。<br /> あれは…本当だったってわけか?俺の代わりにハルヒを守ってやれって、そういうことだったのか?<br /> 【お前】も姿が見えないってだけで…俺たちと一緒に、必死に戦ってくれてたのか…?実際のところはわからない。<br /><br /><br /><br /><br /> ……<br /><br /><br /><br /><br /> 「…あたしね、ずっとキョンに会いたかった…だから…っ!もっと話したいけど<br /> 残念だけど、そうもいかないみたい…この世界を…なんとかしなくちゃ…ね。」<br /> 「俺も…また会えて嬉しい。過去の俺も、再会できてさぞかし喜んでると思う。<br /> 俺だって話したいのは山々…だが、まずはこの危機を乗り切らなくちゃな。」<br /><br /> そう、まだ終わっていない。<br /><br /> 12月2日0時0分世界滅亡<br /><br /> 確かにこれは回避した。だからといって、第四世界崩壊という筋書き自体が消えてしまったわけではない。<br /> この回避はおそらく一時的なもの…12月2日0時0分という定刻が先延ばしされたにすぎない。<br /> …当然だろう。地球崩壊を企む張本人が宇宙のどこかで、いまだその遂行に励んでいるのだから。<br /> 極論を言えば、あと数分で再び世界が消滅の危機にさらされる可能性だってある。<br /><br /> 「…ハルヒ。次に地球がフォトンベルトに入る時間帯は…いつかわかるか??」<br /> 「…後、20分もしないうちに突入よ…。」<br /> 「20分だと!?」<br /><br /> どうやら、俺がさっき言ったことは極論ではなかったらしい。<br /><br /> 「畜生…!一体どうすれば」<br /> 「キョン…あたしちょっと…やばい…かも」<br /> 「…ハルヒ!?どうした!?」<br /> 「麻酔が…まわって…きたみたい」<br /> 「ッ!!」<br /><br /> 麻酔銃を使った代償が…ここにきて現れ始めた。そうなることは覚悟していたが…っ!<br /><br /> 「ハルヒ!!お前の…お前のその願望実現の能力で…!その麻酔を取り除けないか…!?」<br /> 「…残念だけど…、それはできない…。」<br /> 「どうしてだ!?」<br /> 「確かに…、麻酔を強く拒否すれば…能力は発動…するでしょうね…でも、今はそんな些細なことに力を<br /> 削ぎたくはないわ…キョンも…わかってるんでしょ…?神に対抗できる唯一の手段が…あたしだけって…ことに」<br /> 「…!」<br /> 「それでも…万全な状態でも、あたしは神の力には遠く及ばない…はず。ましてや…神を倒すともなれば…」<br /> 「!?神を…倒すのか!?」<br /> 「だって、そうでしょう!!?じゃなきゃぁ、さっきと同じ…。<br /> 一時的に防いだところで、世界が危機に見舞われていることには…変わりないわッ!!<br /> なら、その根源である神そのものが消滅しない限り…世界は神の魔の手からは、永遠に逃れられない…!!<br /> だから…少しでも、少しでも力を温存しとかなくちゃならない…!そうじゃなきゃ、世界は…!!」<br /><br /> ……<br /><br /> 俺から言うことは何もない…<br /><br /> ハルヒの覚悟は本物だ…!<br /><br /> 「…それで頑張ったとしてだな…!後どれくらいもちそうなんだ!?」<br /> 「わからない……、もって5分…ってとこかしら…、」<br /><br /> 5分<br /><br /> ……<br /><br /> 5分<br /><br /> 胸に突き刺さる<br /><br /> このわずかな時間の中で…ハルヒは神を倒さなくちゃならない。<br /> 止めるならまだしも…神を倒す!?神の存在そのものを…消す!?そんなこと…<br /> そんなことが本当にできるのか…!?そんなことが、本当に可能なのかっ!!?<br /><br /> 「あたしは…神の消滅を強く願う…っ。強く願って…それを実現させる…!<br /> それが…あたしの能力だったものね…。あたしが…あたしがやらなくちゃ…っ」<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 俺は…何をやってるんだ…?<br /><br /> 確かに、状況は絶望的だろう。だが…それでも尚あきらめず、神に立ち向かおうとしてる<br /> 当の本人を前に俺は… 一体何をやってる…?何を勝手に…沈んでる…?<br /><br /> …最低だ。俺は。<br /><br /> ……<br /><br /> 『だけどね、あくまであたしの体は人間。だから力的には<br /> 本体である神を超えることなんて絶対に不可能なの…当たり前だけど。』<br /> 『……』<br /> 『転生はできそうなの。でも完全には…いかないみたい、残念だけどね。<br /> 今あたしがもってる人間らしからぬ能力も…おそらく一部は受け継がれることになると思う。<br /> それどころか神の操作で、今以上により強大になっている恐れだってある。』<br /> 『……』<br /> 『だから』<br /> 『言わんとしていることはわかるさ、そこまで俺も鈍くない。それでもし<br /> 何か悪いことが起こったって…そんときはその世界の俺がきっとハルヒを助けに来るはずだ…<br /> だからさ、お前は安心して転生に専念してりゃいいんだよ。』<br /> 『キョン…ありがとう。』<br /><br /> 突然のフラッシュバック<br /><br /> ……<br /><br /> そうだ…俺はあのとき、昔ハルヒに言ったじゃねえか…!?助けてやるって!!!!<br /> あの世界の俺は…確かにそう言ったじゃねえか!!!?<br /><br /> 「ハルヒ…!」<br /> 「…!?キョン…!?」<br /><br /> 俺は…。座り込んでいるハルヒの手を…力強く握ってやった。<br /><br /> 「ハルヒ、お前は…決して一人で戦ってるわけじゃない…!」<br /> 「…?」<br /> 「ハルヒ…実はな、さっきの麻酔銃は…古泉がくれたもんだったんだよ。」<br /> 「…古泉君が。」<br /> 「それとな…俺が今こうやって生きてるのも…長門と朝比奈さんのおかげなんだ。」<br /> 「…有希…みくるちゃん…。」<br /> 「みんなの力があって…今ここに俺とハルヒがいる。どうか…、それを忘れないでくれ!!」<br /> 「…!!」<br /> 「みんなここにいる…古泉、長門、朝比奈さん…みんな頑張ってる!!当たり前だろう!?<br /> SOS団は…いつも一緒だったじゃねえか!!それは…それは、団長だったお前が何より…<br /> 誰よりもそれを知っているはずだ!!!」<br /> 「キョン…っ」<br /> 「残念ながら一人間にすぎない俺には…こうやってお前の手を握っておくことくらいしか…できない。<br /> …けどな、それで少しでもお前の気持ちが安らぐのなら…!<br /> 【SOS団みんながお前についてる。】、その証を少しでも感じ、不安が拭えてくれるのなら…!<br /> 俺も、お前の横で…必死に、必死に祈り続けてやる!!決してお前を一人にはさせねえ!!!!」<br /> 「キョン……ッ!!!」<br /><br /> ……<br /><br /> 「そうね…あたしには…みんながいる…!!古泉君、有希、みくるちゃん…そしてキョン…!」<br /><br /> ……<br /><br /> 「あたしね…正直言うと、半ばあきらめてたの…神なんかに勝てるわけない…ってね…<br /> でも…、あたしはキョンから勇気をもらった…!それだけで…それだけであたしは頑張れる…!!<br /> だから…あたしが意識を失わないよう…!強く、強く…!手を、握りしめていてね…。キョン…っ。」<br /> 「…ああ、もちろんだ。」<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 一体どれだけの時間が経過しただろう。<br /><br /> 「キョン…」<br /> 「…何だ?」<br /> 「神の声が…聞こえなくなっ…たよ…」<br /> 「…俺はな、お前にならできると思ってた。」<br /> 「一体…、どれくらい…、時間…経った…かな?」<br /> 「…ちょうど5分ってとこだな。」<br /><br /> いまだにその5分というのが信じられん 俺には無限もの時間が去ってくような、そういう感覚に囚われていたんだ<br /><br /> 「あたし…頑張っ…た…よね?」<br /> 「ああ、お前は十分に頑張ったさ…、よくここまで耐えたと思う。」<br /> 「…神の…声が…聞こえない…」<br /> 「…やったな…ハルヒ…ッ!!」<br /> 「声が…聞こえ…ない…」<br /><br /> 神の化身である涼宮ハルヒには神の声が聞こえる 神が何を考えているかがわかる<br /> その声が----------------------------聞こえなくなった<br /><br /> ……<br /><br /> つまり、神は消滅した<br /><br /> はっきり言おう。信じられない。わずか数分で…ハルヒは神を凌駕した。本当に凌駕してしまった。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 予防線を張っておく<br /><br /> あくまで可能性でしかない。神が本当に消えたかどうかなんて、一体誰がどうやって確認できる??<br /><br /> ……<br /><br /> それでも俺は…ハルヒに対し、素直におめでとうと言いたかった。<br /> 死力を尽くした本人に…俺は誠意をもって労いの言葉をかけてやりたい。<br /><br /> 「ハルヒ!おめで…」<br /><br /> …?<br /><br /> 「ハル…ヒ?」<br /><br /> …いつからだろうか?ハルヒの体が…光っていた。<br /><br /> 「ははっ…力を…使い果たしちゃった…みたい。」<br /><br /> ……<br /><br /> デジャヴだった。この光景を…俺はどこかで見た。…そう、第三世界終焉時の夜。<br /> 海岸でハルヒと出会ったとき。あのときも彼女は…確か光り輝いていたんだ。<br /><br /> 「転生のときと同じ…最後の灯火ってやつ?能力が無くなっちゃうときって、いつもこうなるのよ。<br /> あのときもあたしは神に抗い、力を使い果たしたんだっけ…今のこの状況と全く同じね。」<br /><br /> …ハルヒのしゃべり方に、俺はどことなく違和感を覚えた。<br /><br /> 「ハルヒ…お前、麻酔は…?」<br /> 「……」<br /><br /> ……<br /><br /> 「状況は転生したときと全く同じ。つまり、これからあたしの記憶は永遠に失われる…<br /> だから、せめて最期くらいはあんたと、万全の状態で接しておきたかった…。<br /> そう強く思ってたら…いつのまにか麻酔はとれてた。…そういうとこかしら。」<br /><br /> 今、何と言った?<br /><br /> 「ちょっと待て…記憶が失われるって…?どういうことだ!?」<br /> 「慌てないで。ただ、三日前のあたしに戻る…それだけの話よ。」<br /><br /> ……<br /><br /> 「神に纏わる記憶が総じて消されるってことか…?」<br /> 「そういうことね。おそらく、明日にでもなれば…神だの第四世界だのそういうことを一切知らない、<br /> ちょうど三日前の状態のあたしがいる…と思うわ。ただ、その明日が来ればの話だけど…。<br /> 本当に神が消えていれば…ね。」<br /> 「……」<br /><br /> ハルヒもハルヒで自覚していたらしい。神が消えたというのは…あくまで可能性でしかないということを。<br /><br /> ……<br /><br /> 「…いずれにしろ、もう【お前】とは会えないってことか…?」<br /> 「ええ…残念だけど。でも、あたしはそれでいいと思う…<br /> 普通の、一人の少女として生きるのであれば、こんな記憶…邪魔以外の何物でもないもの。」<br /><br /> このハルヒとは二度と会えない<br /><br /> …会えない<br /><br /> ……<br /><br /> なんだ?この喉につっかかる妙な感覚は…?<br /><br /> ……<br /><br /> 俺は…こいつに   何か言わなくちゃいけないことがあるんじゃなかったか…?<br /><br /> ------------------------------------------------------------------------------<br /><br /> あれ…どうして俺は泣いてるんだ?確証はないが…遠い未来再びハルヒと会えるかもしれないじゃないか。<br /> ああ、わかってはいるさ。会えるのは【未来の俺】であって今の俺じゃない。問題は会えるかどうかじゃない。<br /> 今の俺が…ハルヒに『この思い』を伝えられなかったこと…それが悔やんでも悔やみきれない。<br /><br /> そうか、だから俺は泣いているのか。ようやく理解した。<br /><br /> ……<br /><br /> 「ハルヒ……ハル…ヒ………」<br /><br /> いくら叫んだってもう伝わりはしない。聞こえもしない。見ることも、触れることもできない。<br /><br /><br /><br /> ……<br /><br /><br /><br /> 遠い未来の俺よ… 一つ頼みごとを聞いてはくれねえか。<br /><br /> もしお前がハルヒと出会うようなときが来れば…<br /> そんときは俺の代わりに『この思い』  ハルヒに伝えてはくれねえかな?<br /><br /> 俺は第四世界の出発点とも言えるこの時代で精一杯生き抜いて…そして寿命を終える。<br /> だから…遠い未来の俺よ、お前もお前でその時代を全うして生きろよな。<br /><br /> ハルヒと一緒に。<br /><br /> ------------------------------------------------------------------------------<br /><br /> そうだったよな?あのときの俺…<br /><br /> 「ハルヒ…。お前に、伝えなくちゃいけないことがある。」<br /> 「…キョン?」<br /> 「今から言うことはな、あの世界の俺がお前に…言いそびれたことだよ…。」<br /> 「…?」<br /> 「でもな、それと同時に…それは、今の俺が思ってることでもある。…じゃあ、言うぞ。」<br /><br /><br /><br /> 「俺は…お前のことが         ……、大好きだ。」<br /> 「!!」<br /><br /><br /> ……<br /><br /><br /> 「……」<br /> 「……、」<br /> 「……」<br /> 「……、、」<br /><br /> …ハルヒ?<br /><br /> ……<br /><br /> おい、どうしたハル<br /><br /> ……<br /><br /> 泣い…てる…?<br /><br /> ……<br /><br /> 「…まさか、最後の最後で、あんたの口からそんなこと言葉…聞くなんてね…。」<br /> 「……」<br /> 「最期にその言葉を聞けたあたしは…とても、幸せな【人間】だと思った…!」<br /> 「ハルヒ…。」<br /> 「キョン…覚えてる?第三世界での別れ際に…あたしが言ったことを。あのときも、あたしは幸せだと言った…、<br /> でも…違うの…っ!あのときの『幸せ』とは…違う…!!本当に…嬉しいの…っ!」<br /><br /> ……<br /><br /> 『【神の代行者】としての最期に、あなたのような人間に出会えてあたしは幸せだったわ…!』<br /><br /> ……<br /><br /> 「ははっ…あたし、何泣いてんだろう…?また、ハルヒはキョンに会えるっていうのにね…」<br /> 「……」<br /> 「キョン…今の言葉、ハルヒにも…ちゃんと言いなさいよ…?<br /> あたしと…約束しなさい…!これは…団長命令……よ……、」<br /><br /> …そう言い残し、ハルヒは泣き崩れた。<br /><br /> 「…団長命令に逆らう部員が 一体どこにいるってんだよ…?」<br /><br /> 俺はハルヒを…強く、強く、抱きしめてやった。この華奢な体を…壊してしまうくらいに強く。<br /> …不思議なことに、ハルヒは痛いとは言わなかった。…変な話だ。こんなにも強く抱きしめてるってのに…!<br /><br /> 「キョン…あたしはあんたのことが…好きだった!大好きだった…!!」<br /> 「…そう言ってもらえて、あのときの俺も…さぞかし嬉しいだろうよ。」<br /> 「何…カッコつけてんのよ…?あんただって…嬉しいくせに…っ」<br /> 「…当たり前だろ。」<br /> 「……」<br /><br /> ずっとこうしていたい。俺とハルヒの間に…距離はなかった。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 「…あたしね。」<br /><br /> ハルヒが口を開く。それは…独白ともいえる内容だった。<br /><br /> 「…地球が誕生してから、やがて人類が生まれた…その人類を統括するための仲介者として<br /> あたしは生まれた…。やがて、人々はあたしを神と見なし、敬うようになった…。神は平和を望んだ、<br /> だからあたしも平和を望んだ…けれど、それも長くは続かなかった…人間たちは互いを謗り合い、傷付け、<br /> 憎み…やがて戦争が起こった。神は怒った…結果、世界は滅ぼされた。けれど、そのときはまだあたしは<br /> 何も感じなかった…感情がなかったのね。けれど、しだいに人間や動物との交流が進んでいくうちに…<br /> そういう神の行いを、あたしは暴挙だと捉えるようになった。でも…それでもあたしは自分からは<br /> 動こうとはしなかった…神の仰せのままに従うのが、あたしの宿命だったから…、天命だったから…、<br /> 運命だったから…、そう強く あたしは信じていた…」<br /><br /> ……<br /><br /> 「あんたがいなかったら…あたしって、一体どうなってたのかしら?<br /> いまだに神の代行とやらに追われ…日々奔走してたりしてね。」<br /> 「…そりゃなんとも、難儀な話だな。」<br /> 「あたしね、あんたと会えて本当によかったと思ってる。<br /> だって、あんたがいなきゃ…今のあたしはいなかったんだもんね…。」<br /><br /><br /><br /> ……<br /><br /><br /><br /> 「…時間…ね、」<br /><br /> 「ついに…きたのか…。」<br /> 「ええ…あと1分もしないうちに、あたしの記憶は消されるわ。<br /> 神としての記憶も、滅んだ世界の記憶も、そして…昨日今日あった出来事も含めて全部…ね。」<br /> 「そうか…寂しくなるな。」<br /> 「何バカなこと言ってんのよ。ちゃんとハルヒは健在よ!」<br /> 「そんくらいわかってるぜ。」<br /> 「なら、紛らわしいこと言わないの。」<br /> 「……」<br /> 「な、何よ?」<br /> 「ハルヒ…」<br /><br /> ……<br /><br /> 「今まで…ホント大変な人生だったろう…?よく、ここまで頑張ったな…。」<br /> 「……」<br /> 「でも、それも今日で終わりだ。次の朝からはお前は…今度こそ、本当の意味で<br /> 普通の人間としての生活を送れるようになる。その人生を…これまで苦労した分、どうか楽しんで生きてくれよ。」<br /> 「…もちろん、それはあんたがするのよね?」<br /> 「…?俺が…お前を楽しませるってことか…?」<br /> 「そゆこと。」<br /> 「まったく…お前には敵わんな。」<br /> 「当然よ!あたしを誰だと思ってんの!?」<br /> 「…団長様だろ。で、俺は雑用係りの平団員というわけだ。」<br /> 「わかってるのなら、それでいいわ!」<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 「どうか、ハルヒをよろしくね…っ」<br /><br /> 直感で察した。たぶんこれが…このハルヒの最期の言葉なんだろうと。<br /><br /> …ハルヒは目を閉じたまま、顔をこちらに向けている。<br /> 彼女が何を言わんとしてるのか…俺にはすぐわかった。<br /><br /> 「ハルヒ…また会おうな。」<br /><br /> そう言って俺はハルヒと…静かに口づけを交わした。<br /><br /> ……<br /><br /> その瞬間だったろうか。辺りの光景が目まぐるしく変わりだした。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 以前、ハルヒと二人 閉鎖空間に閉じ込められた時も…こんな感じだっただろうか。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 閉鎖空間から出た後、俺たちはどうなってるだろう<br /><br /> 世界は?天災は?神は?<br /><br /><br /><br /> ……<br /><br /><br /><br /> いつもと変わらない日常風景が広がる世界<br /><br /> 凄惨かつ荒廃した光景が広がる世界<br /><br /> …俺たちが元の世界に戻った直後に目にする景色は、果たしてどちらか<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 前者であることを信じたい<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> …俺は 意識を失った</p>

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