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おいしいご飯8」(2010/04/26 (月) 21:54:20) の最新版変更点

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<p>「おい!廊下を走るな!」</p> <p>「すんません!」</p> <p>そう言って走り抜ける。</p> <p>今は何よりも『アホ』クッキーだ。</p> <p>あのクッキーが全ての希望である。いや、冗談じゃなく。</p> <p>「まだ残っているでしょうか?」</p> <p>小泉が息を切らせながら聞いてくる。</p> <p>「知るか!とにかく谷口を捕らえる」</p> <p>滑りそうになりながら角を曲がり、階段を駆け上がる。</p> <p>「ひぃ…ひぃ…待って…くださぁ~い」</p> <p>振り返ると、朝比奈さんがヨタヨタと階段にさしかかるところだった。</p> <p>すぐに駆け寄り負ぶってさし上げたいが、今は先を急ぐ。</p> <p>二段飛ばしで登っていると、前方に見知った後ろ姿。ハルヒだ。</p> <p>「ん…?うえ!?」</p> <p>振り向くと、猛然と駆け上がるSOS団員+αに驚愕した。</p> <p>「ちょ、ちょっと!なにして」</p> <p>「悪い!後でな!」</p> <p>スルーする。</p> <p>今は構ってられない。</p> <p>「あ!コラァー!」</p> <p>追いかけてきた。</p> <p>運動神経をフルに発揮し、すぐに俺と併走する。</p> <p>「ちょっと、説明しなさいよ!キョン!」</p> <p>「クッキーだ!クッキー!」</p> <p>「はあ!?」</p> <p>「クッキーを食べたいんだよ!」</p> <p>「だって、あげたじゃない!あんなにたくさん!」</p> <p>「足りねえんだよ!」</p> <p>がむしゃらに答える。</p> <p>「た、足りないって…」</p> <p>階段を駆け上がると、教室の前に目当ての野郎がいた。</p> <p>廊下でボーッと窓の外を眺めている。</p> <p>どうせ部活をしている女子生徒にうつつをぬかしているのだろう。</p> <p>「たにぐちぃぃ!!」</p> <p>俺の声に気付きこっちを向くと、驚いた顔を見せる。</p> <p>「んあ?なんだァ?」</p> <p>俺とハルヒ、小泉、朝比奈さん、長門、朝倉に囲まれ、訳がわからんという様子だ。</p> <p>「谷口!」</p> <p>「なんだよ」</p> <p>「クッキーあるか!?」</p> <p>「はあ?」</p> <p>「クッキーだ!昨日の調理実習でつくったクッキーだよ!」</p> <p>「ああ、それなら…」</p> <p>「あるのか!」「あるんですね?」「あるんですか!?」「あるの?」</p> <p>「…」</p> <p>ハルヒ以外の全員が谷口に詰め寄った。</p> <p>「ちょ、ちょっと、みんなどうしたの?そんなにクッキーおいしかったの?」</p> <p>ハルヒは唖然として、蚊帳の外だ。</p> <p>「あ、ああ。まだ大量に残ってるぜ。アレがまた絶品でなァ」</p> <p>谷口が壁にへばりつきながら言う。</p> <p>「アレを食った後だと不思議と飯がうまいんだよな。書かれてる文字は癪だが、まあこれから毎日大切に食い進めようと…」</p> <p>「谷口ぃ!」</p> <p>襟首を掴み、締め上げる。</p> <p>「おわっ!な、なんだよ!」</p> <p>「そのクッキーを俺たちにくれ!」</p> <p>「はあ?さっきから意味わかんねえことを…」</p> <p>谷口が俺の手を払いのけようとすると、</p> <p>「お、お、おねがいですぅ!」</p> <p>朝比奈さんが谷口の足にすがりついた。</p> <p>「あのクッキーを…クッキーを…!くださァ~い」</p> <p>「え?ちょ、ちょっと…」</p> <p>谷口はどうしたらいいか解らないという表情で困惑する。</p> <p>「是非、お願いできませんか?」</p> <p>小泉も谷口の肩を掴み、顔を大接近させた。</p> <p>「おい、ちょっと、待て」</p> <p>「こんなに頼んでるんだから、いいじゃない」</p> <p>朝倉が睨む。</p> <p>「なんかわけ分かんないけど、谷口!クッキーよこしなさい!」</p> <p>ハルヒも詰め寄る。</p> <p>「…」</p> <p>長門は無言で谷口の足を踏む。</p> <p>「オイ、てめえオラァ。朝比奈さん泣かしてんじゃねえぞ?クッキーよこせ?ああ?」</p> <p>俺も谷口をさらに締め上げた。</p> <p>端から見れば、あからさまなリンチだ。</p> <p>もし俺が第三者だったら、見て見ぬふりをするか、「必死だなw」と傍観を決め込むかなのだが。残念ながら当事者である。</p> <p>とにかくクッキーで頭がいっぱいだった。</p> <p>許せ谷口。</p> <p>「わかった!わかったよ!」</p> <p>谷口が俺の腕をタップした。</p> <p>「教室の俺のカバンの中だ!好きなだけ持ってけ!」</p> <p>その言葉を聞くや否や、締め上げた手を緩め、教室に飛び込む。</p> <p>「わあ。どうしたの」</p> <p>国木田がさほど驚いたように見えない顔で驚いた。</p> <p>「谷口のカバンは?」</p> <p>「あれだよ」</p> <p>国木田が示したカバンを引っ掴んで、チャックを乱暴にこじ開ける。</p> <p>ジャージを放り投げ、ノート、プリントを退かし、ついに目当てのものを見つけた。</p> <p>「あった!こいつだ」</p> <p>クッキーの袋を引っ張り出す。</p> <p>「やったァ」</p> <p>朝比奈さんが歓喜の声をあげた。</p> <p>「これで間違いありませんか?」</p> <p>小泉が聞くと、長門はしゃがみ込んでクッキーを凝視し、それから一囓りした。</p> <p>そして、</p> <p>「間違いない」</p> <p>と静かに伝える。</p> <p>「はァ…」</p> <p>「よかったですぅ~」</p> <p>「間に合ってよかったですね」</p> <p>「ほんと」</p> <p>それぞれ、安堵の表情を浮かべた。</p> <p>「なにが?」</p> <p>ただ1人、事情を知らないハルヒが興味深そうにクッキーを覗き込む。</p> <p>とりあえず後回しにし、クッキーを袋から取り出した。</p> <p>それにならって、朝比奈さんも小泉も、今度は朝倉もクッキーを手にする。</p> <p>「…よし」</p> <p>これで、あの味覚障害から抜け出すんだ…。</p> <p>『アホ』と書かれた文字と、周りを飛び交う渦巻きを凝視し…。</p> <p>…</p> <p>パクリ。</p> <p>一斉にクッキーを口に入れた。</p> <p>「…」</p> <p>「…」</p> <p>「…」</p> <p>「…」</p> <p>!</p> <p>「うめえ!」</p> <p>「おいひぃ~」</p> <p>「ええ。とてもおいしいです」</p> <p>「おいしいわァ」</p> <p>4人が同時に声をあげる。</p> <p>そのクッキーはうまかった。</p> <p>否、あり得ないほどのうまさだった。</p> <p>身体中に鳥肌がたつ。</p> <p>クッキーってこんなにうまいものなのか?</p> <p>小泉は何度も頷き。朝比奈さんは涙を浮かべながら食べている。</p> <p>朝倉は長門と一緒にクッキーを食べながら笑っている。</p> <p>そんな謎の光景をハルヒは訝しげに見つめていた。</p> <p>「うまい…うまいよ!ハルヒ!」</p> <p>薬を打ったのではないかというほどのハイテンション。</p> <p>俺はおもわずハルヒの肩を掴んだ。</p> <p>「ちょ、ちょっと」</p> <p>「ありがとな。ハルヒ」</p> <p>「え?」</p> <p>何故だか礼を言いたくなった。そもそもの発端はすべてコイツなのに。今はそんな考えが微塵も浮かばない。</p> <p>「このクッキー、最高にうまかったよ」</p> <p>「…」</p> <p>しばらく不審な目を俺に向けていたが、すぐに表情を明るくさせると、俺の手を払いのけ、「ニッ」と笑い胸を張った。</p> <p>「あったりまえよ!」</p> <p>ふははは、と高笑いをする。</p> <p>「うまいなあ」</p> <p>「おしいですねえ」</p> <p>「ほんとに、何個でも食べれそう」</p> <p>クラスメイトの不審な目も、他生徒の視線も気にしないで、俺たちはクッキーに酔いしれ続けた。</p> <p> </p> <p>続く。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p>

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