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「スイング・第十一章」(2009/11/09 (月) 10:05:19) の最新版変更点
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<div style="text-align:center;margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">
<strong>無題・２</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> やがて私は意味を見つけた。存在の証明。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
物質と物質は引きつけ合う。それは正しいこと。私が引き寄せられたのも、それがカタチを持っていたからだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
光と闇と矛盾と常識。私は出会い、それぞれ交わった。私の楽器にその機能はないが、そうしてもよいかもしれないことだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 仮に許されるなら、私はそうするだろう。信じて、再び楽器を手にする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 待ち続ける私に、奇蹟は降りかかるだろうか。ほんのちっぽけな奇蹟。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<hr /></div>
<div style="text-align:center;margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">
<strong>12</strong><strong>月1</strong><strong>日。フランス、パリ</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ピアノ、フルート。喫茶店の内、凍てつくような街。私の前で二人の紳士が笑いあっている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ジョン・スミス氏から受け取った交換日記は彼に返せていない。クリスマスには日本に戻る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">クラリネットに手が着かない。放っておくと乾燥して割れてしまうだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">理屈っぽい私も、そろそろ割れてしまう頃だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">月・火・水・木・金・土・日。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
喫茶店に置いてあるピアノの上に置いてある七曜のカレンダー。羅ごう星と計都星が足りない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
九曜のうち、この二つの曜は暗黒のものとして取り払われたけど、暗闇が無ければ輝きは存在しない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"><strong>曲目：「管弦楽組曲</strong>
<strong>第2</strong><strong>番 BWV1067</strong><strong>」 作曲者：バッハ</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">目の前から聞こえる、フルートと、ピアノのデュエット。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ピアノを弾く、いけ好かない男と、フルートの黒い影と言うべき誰か。今日の演奏は日本人らしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
『眼鏡をつけた』長門さんをちょっと思い出す。私が眼鏡を壊してしまってから、彼女は変わってしまったと思う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
伴奏は世界、旋律はその世界の登場人物によく例えられる。音楽は、だから演劇に近いのだと。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は彼女が作曲した譜面をピアノで弾いた。例えどおりなら、私が作った世界は灰色の寂しい世界。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
彼女はフルートでその世界を漂っていたが、私には意味不明な行動をする青い巨人のように見えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ブラックな世界と、ブルーな旋律。足りない楽器のせいではないはず。少なくとも、私には理解ができなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まるで彼女の音楽が、呪文になってしまったようだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「まあ、なすようになりなさい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そして、私はコーヒー代を払い、歩き出す。コーヒーの香りが良い余韻を与える。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今日が良い日になりますように。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<hr /></div>
<div style="text-align:center;margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">
<strong>12</strong><strong>月3</strong><strong>日。フランス、パリ近郊</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ピアノを叩く。もう何を弾いているかも分からないけど。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">はき出すために叩いてるだけ。わたしは何をしてるのだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">曲名を付けるとしたら、こんなのがお似合い。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<strong> 曲目：ホンキー・トンク（騒々しくてけばけばしい安キャバクラ）</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">クリエーティブじゃない。私の音楽は何を創造しているのだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">否定的に壊れている、この音楽。自分でも理解はできないけど…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">音楽を壊そう。空虚な音楽をサボタージュ（破壊）しよう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
明日、日記を長門さんに送る。彼に知られて恥ずかしい部分は全部フランス語で書いた。彼には分かるまい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は椅子から立ち、赤いボールを空に投げる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
確率学が私に味方をして、このボールが波動として地球をくぐり抜け、彼に届くことを祈りながら。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今日が良い日になりますように。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<hr /></div>
<div style="text-align:center;margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">
<strong>12</strong><strong>月4</strong><strong>日。フランス、パリ。Montaigne</strong><strong>（モンテーニュ通り）</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ピアノを叩く。そして気づく。調律をしていなかったピアノ線がとうとうブチ切れたらしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">奇妙な音が周りを回す。自分の絶対音感と、自分の叩いている音が喧嘩をする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は席を立つ。ピアノを貸してもらえるか、喫茶店へ急ぐ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
椅子の調整をすませると、ピアノを叩く。気分的にワン・ステップ（ダンスジャズ。ユーロビートをパラパラと呼ぶようなもの）を弾きたかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">激しい即興のフレーズが始まる。喫茶店がざわめく。曲目は、そうね、出来も悪いし…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<strong> 曲目：クラムベーク（とりあえず賑やかなパーティ）</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
黒い影が私に棒を向けた。銀色の鈍い光を放つピッコロ（ソプラノが出るフルート）が目の前に現れる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたの――――」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">吸い込まれるような、黒い瞳。蒼白な肌。日本人というよりは、日本人形。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「―――瞳は…とても――…きれいね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ピッコロが入る。主旋律明け渡し。すぐに曲調が変わる。これは…聖歌？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"><strong> 曲目：ボランティリィ（礼拝序曲）</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ピッコロの音のベクトルは、観客でなく、私に向いていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
最初は私の音を確認しているものだと思う。しかし、音節を一つ弾き終わって違うと感じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私を確認しているのではなく、常に後ろで影になるように計算して吹いている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">…まさか、私を礼拝するための曲？まさか、まさかね…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まったく、どちらが伴奏か分かったものではない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">表情のない顔。淡々と吹き続ける暗い平たい音。理解できない演奏の理論。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">二十伴奏の体を見せるデュエットは、バィオリン、チェロの参加でカルテットとなる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">バイオリンの構えに自信を感じる可愛らしいツインテール。金髪、北欧人だろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
チェロをしっかりと構える、昨日ピアノを引いていたあのいけ好かない男。なかなか様になっている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">二人の弦弾きは目を閉じると、まわりに風を起こすように、強く弓を引いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私も目をつぶる。二つの弦が、私たちの世界に入ってくる。暗い暗い世界の中に。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">力強い音。今度こそ主旋律が定まる。私たちは歌い出す。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<strong> 曲目：サルバティオ(</strong><strong>救い)</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今、世界は私たちのもの。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">壊してしまえ、この非道に満ちた世界を。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">弦楽器から聞こえる、光の精霊。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ピアノから聞こえる、暗い世界。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">明るい光は、暗い闇を切り裂く。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">輝光、暗闇が対立する。揺れる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">二つはやがて和解し、調和する。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">光り輝く世界。淡いクリーム色。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さあ、復活のときが来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">歌え、喜びのコラールを。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">全てを受け入る、優しい伴奏。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">暖かい舞を踊る、強い主旋律。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">しかし、この世界は終わらなければならない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だから、その前に伝わってほしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たたきつけるコルレーニョ。※</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">強く、強く。響孔から響く、街に伝えるおと。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この揺れよ、伝われ。伝われ…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">（※弓の木の部分で弦をたたくこと）</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">即興の曲を終わらせるあの定番のコードは無かったが、演奏は自然に終わった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「bravo（最高だ）!」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
大きなクリスマスツリー。凍てつくような寒さ。パリの街。美しく光り輝くシャンゼリゼー。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
見慣れたパリの街。いつもよりも輝いている。星のように、限りなく美しく瞬き、輝いてる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
『瞳がきれい』なのは、黒と白が調和しているから。街の光と、空の暗黒。この二つが調和し、輝いているのだと気づく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">観客の小さいながら、精一杯大きな拍手が周りを揺らし、私はその拍手に礼をする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">顔を上げると、皆の青く輝く瞳が見える。とても、きれい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今が、幸せ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">最後、小包に入れる前に、これだけは書いておこうと思う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今日は良い日になりました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">（即興演奏時の譜面を添付。あなたの曲にぜひ使ってほしい）</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<hr /></div>
<div style="text-align:center;margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">
<strong>12</strong><strong>月10</strong><strong>日。日本、西宮市。</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">楽しそうだな佐々木。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
俺もピアノが弾けたら楽しそうだが、残念ながら、俺はピアノはできない。がんばって初めてみることにする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
さて、長門にも朝比奈さんにも、お前と同じように怒られたが、いや、まさか…まさかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
眼鏡については、ハルヒに出くわした時に聞かれた。ハルヒの目にも、眼鏡の有る無しで、かなり変わったように見えたらしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お前と喧嘩して割れたとは言いたくなかったわけで、黙っていたら上目遣いで思いっきしにらまれた挙げ句、精神が不安定になってきたところで『まあいいわ』とそっぽを向かれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ま、いくらあいつだからとはいい、これ以上はつっこまないだろう。ちなみに俺としては、長門は眼鏡無しのほうが可愛いと思う。俺には眼鏡属性はないからな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まあ、そういうわけで今日から鍵盤の練習を始める。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">………</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
皆にはメールで欠席を連絡、音楽室のオルガンで、バニエル（ピアノ初心者用練習曲）をゆっくりと進める。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お約束の如く、泣きたくなるほどできない。音を読む以前に、どこが『ド』か、どこが『レ』かがどうにも…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒがあきれ顔でやってきて、悪態を付く。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「下手ね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けっ。ピアノなんか、全く弾いたことはない。下手で当然、あたりまえだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「言い訳無用。あんたほんとに楽器やったことあるの？楽譜、読めるんでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
夕日に照らされて、ハルヒの顔が赤く見える。言葉の鋭さとは裏腹に、ハルヒの顔は優しかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なら、大丈夫。クリスマスまでに結婚行進曲ぐらい弾けるようにしたげる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんな張り切らんでいい。だいたい、まだ『ドレミファ』の位置だって分からないんだ。鍵盤をじっと見つめても弾けない。もはやこれはバニエルとか以前の問題かもしれん。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だいじょうぶよ。もっかい、ゆっくり、やってみて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒの指が自分の指と重なる。指と指が、音と音が絡み合う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ここが、ド」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">ド…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ここが、レ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">レー…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ミ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">ミー…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ハルヒ、赤いな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">日が傾く。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">ド・レ・ミ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「え、あ、ええと、『あなた』が…次はファ…」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">全てが赤く染まっていく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">ド・レ・ミ・ファ…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<hr /></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<p>第十一章 〆 </p>
</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;text-align:center;" align="center">
<strong>無題・２</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> やがて私は意味を見つけた。存在の証明。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
物質と物質は引きつけ合う。それは正しいこと。私が引き寄せられたのも、それがカタチを持っていたからだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
光と闇と矛盾と常識。私は出会い、それぞれ交わった。私の楽器にその機能はないが、そうしてもよいかもしれないことだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 仮に許されるなら、私はそうするだろう。信じて、再び楽器を手にする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 待ち続ける私に、奇蹟は降りかかるだろうか。ほんのちっぽけな奇蹟。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<hr /></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;text-align:center;" align="center">
<strong>12</strong><strong>月1</strong><strong>日。フランス、パリ</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ピアノ、フルート。喫茶店の内、凍てつくような街。私の前で二人の紳士が笑いあっている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ジョン・スミス氏から受け取った交換日記は彼に返せていない。クリスマスには日本に戻る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">クラリネットに手が着かない。放っておくと乾燥して割れてしまうだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">理屈っぽい私も、そろそろ割れてしまう頃だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">月・火・水・木・金・土・日</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
喫茶店に置いてあるピアノの上に置いてある七曜のカレンダー。羅ごう星と計都星が足りない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
九曜のうち、この二つの曜は暗黒のものとして取り払われたけど、暗闇が無ければ輝きは存在しない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
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<strong>曲目：「管弦楽組曲</strong><strong>第2</strong><strong>番
BWV1067</strong><strong>」 作曲者：バッハ</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">目の前から聞こえる、フルートと、ピアノのデュエット。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ピアノを弾く、いけ好かない男と、フルートの黒い影と言うべき誰か。今日の演奏は日本人らしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
『眼鏡をつけた』長門さんをちょっと思い出す。私が眼鏡を壊してしまってから、彼女は変わってしまったと思う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
伴奏は世界、旋律はその世界の登場人物によく例えられる。音楽は、だから演劇に近いのだと。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は彼女が作曲した譜面をピアノで弾いた。例えどおりなら、私が作った世界は灰色の寂しい世界。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
彼女はフルートでその世界を漂っていたが、私には意味不明な行動をする青い巨人のように見えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ブラックな世界と、ブルーな旋律。足りない楽器のせいではないはず。少なくとも、私には理解ができなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まるで彼女の音楽が、呪文になってしまったようだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「まあ、なすようになりなさい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そして、私はコーヒー代を払い、歩き出す。コーヒーの香りが良い余韻を与える。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今日が良い日になりますように。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<hr /></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;text-align:center;" align="center">
<strong>12</strong><strong>月3</strong><strong>日。フランス、パリ近郊</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ピアノを叩く。もう何を弾いているかも分からないけど。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">はき出すために叩いてるだけ。わたしは何をしてるのだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">曲名を付けるとしたら、こんなのがお似合い。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<strong> 曲目：ホンキー・トンク（騒々しくてけばけばしい安キャバクラ）</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">クリエーティブじゃない。私の音楽は何を創造しているのだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">否定的に壊れている、この音楽。自分でも理解はできないけど…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">音楽を壊そう。空虚な音楽をサボタージュ（破壊）しよう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
明日、日記を長門さんに送る。彼に知られて恥ずかしい部分は全部フランス語で書いた。彼には分かるまい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は椅子から立ち、赤いボールを空に投げる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
確率学が私に味方をして、このボールが波動として地球をくぐり抜け、彼に届くことを祈りながら。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今日が良い日になりますように。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<hr /></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;text-align:center;" align="center">
<strong>12</strong><strong>月4</strong><strong>日。フランス、パリ。Montaigne</strong><strong>（モンテーニュ通り）</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ピアノを叩く。そして気づく。調律をしていなかったピアノ線がとうとうブチ切れたらしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">奇妙な音が周りを回す。自分の絶対音感と、自分の叩いている音が喧嘩をする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は席を立つ。ピアノを貸してもらえるか、喫茶店へ急ぐ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
椅子の調整をすませると、ピアノを叩く。気分的にワン・ステップ（ダンスジャズ。ユーロビートをパラパラと呼ぶようなもの）を弾きたかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">激しい即興のフレーズが始まる。喫茶店がざわめく。曲目は、そうね、出来も悪いし…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<strong> 曲目：クラムベーク（とりあえず賑やかなパーティ）</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
黒い影が私に棒を向けた。銀色の鈍い光を放つピッコロ（ソプラノが出るフルート）が目の前に現れる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたの――――」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">吸い込まれるような、黒い瞳。蒼白な肌。日本人というよりは、日本人形。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「―――瞳は…とても――…きれいね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ピッコロが入る。主旋律明け渡し。すぐに曲調が変わる。これは…聖歌？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"><strong> 曲目：ボランティリィ（礼拝序曲）</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ピッコロの音のベクトルは、観客でなく、私に向いていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
最初は私の音を確認しているものだと思う。しかし、音節を一つ弾き終わって違うと感じた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私を確認しているのではなく、常に後ろで影になるように計算して吹いている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">…まさか、私を礼拝するための曲？まさか、まさかね…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まったく、どちらが伴奏か分かったものではない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">表情のない顔。淡々と吹き続ける暗い平たい音。理解できない演奏の理論。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">二十伴奏の体を見せるデュエットは、バィオリン、チェロの参加でカルテットとなる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">バイオリンの構えに自信を感じる可愛らしいツインテール。金髪、北欧人だろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
チェロをしっかりと構える、昨日ピアノを引いていたあのいけ好かない男。なかなか様になっている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">二人の弦弾きは目を閉じると、まわりに風を起こすように、強く弓を引いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私も目をつぶる。二つの弦が、私たちの世界に入ってくる。暗い暗い世界の中に。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">力強い音。今度こそ主旋律が定まる。私たちは歌い出す。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<strong> 曲目：サルバティオ(</strong><strong>救い)</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今、世界は私たちのもの。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">壊してしまえ、この非道に満ちた世界を。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">弦楽器から聞こえる、光の精霊。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ピアノから聞こえる、暗い世界。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">明るい光は、暗い闇を切り裂く。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">輝光、暗闇が対立する。揺れる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">二つはやがて和解し、調和する。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">光り輝く世界。淡いクリーム色。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さあ、復活のときが来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">歌え、喜びのコラールを。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">全てを受け入る、優しい伴奏。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">暖かい舞を踊る、強い主旋律。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">しかし、この世界は終わらなければならない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だから、その前に伝わってほしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たたきつけるコルレーニョ。※</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">強く、強く。響孔から響く、街に伝えるおと。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この揺れよ、伝われ。伝われ…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">（※弓の木の部分で弦をたたくこと）</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">即興の曲を終わらせるあの定番のコードは無かったが、演奏は自然に終わった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「bravo（最高だ）!」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
大きなクリスマスツリー。凍てつくような寒さ。パリの街。美しく光り輝くシャンゼリゼー。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
見慣れたパリの街。いつもよりも輝いている。星のように、限りなく美しく瞬き、輝いてる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
『瞳がきれい』なのは、黒と白が調和しているから。街の光と、空の暗黒。この二つが調和し、輝いているのだと気づく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">観客の小さいながら、精一杯大きな拍手が周りを揺らし、私はその拍手に礼をする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">顔を上げると、皆の青く輝く瞳が見える。とても、きれい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今が、幸せ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">最後、小包に入れる前に、これだけは書いておこうと思う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今日は良い日になりました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">（即興演奏時の譜面を添付。あなたの曲にぜひ使ってほしい）</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<hr /></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;text-align:center;" align="center">
<strong>12</strong><strong>月10</strong><strong>日。日本、西宮市。</strong></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">楽しそうだな佐々木。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
俺もピアノが弾けたら楽しそうだが、残念ながら、俺はピアノはできない。がんばって初めてみることにする。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
さて、長門にも朝比奈さんにも、お前と同じように怒られたが、いや、まさか…まさかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
眼鏡については、ハルヒに出くわした時に聞かれた。ハルヒの目にも、眼鏡の有る無しで、かなり変わったように見えたらしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お前と喧嘩して割れたとは言いたくなかったわけで、黙っていたら上目遣いで思いっきしにらまれた挙げ句、精神が不安定になってきたところで『まあいいわ』とそっぽを向かれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ま、いくらあいつだからとはいい、これ以上はつっこまないだろう。ちなみに俺としては、長門は眼鏡無しのほうが可愛いと思う。俺には眼鏡属性はないからな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まあ、そういうわけで今日から鍵盤の練習を始める。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">………</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
皆にはメールで欠席を連絡、音楽室のオルガンで、バイエル（ピアノ初心者用練習曲）をゆっくりと進める。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お約束の如く、泣きたくなるほどできない。音を読む以前に、どこが『ド』か、どこが『レ』かがどうにも…。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒがあきれ顔でやってきて、悪態を付く。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「下手ね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けっ。ピアノなんか、全く弾いたことはない。下手で当然、あたりまえだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「言い訳無用。あんたほんとに楽器やったことあるの？楽譜、読めるんでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
夕日に照らされて、ハルヒの顔が赤く見える。言葉の鋭さとは裏腹に、ハルヒの顔は優しかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なら、大丈夫。クリスマスまでに結婚行進曲ぐらい弾けるようにしたげる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんな張り切らんでいい。だいたい、まだ『ドレミファ』の位置だって分からないんだ。鍵盤をじっと見つめても弾けない。もはやこれはバニエルとか以前の問題かもしれん。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だいじょうぶよ。もっかい、ゆっくり、やってみて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ハルヒの指が自分の指と重なる。指と指が、音と音が絡み合う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ここが、ド」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">ド…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ここが、レ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">レー…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ミ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">ミー…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ハルヒ、赤いな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">日が傾く。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">ド・レ・ミ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「え、あ、ええと、『あなた』が…次はファ…」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">全てが赤く染まっていく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">ド・レ・ミ・ファ…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<hr /></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<p>第十一章 〆 </p>
</div>
