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「スイング・第八楽章」(2009/11/18 (水) 16:40:49) の最新版変更点
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<div style="text-align:center;margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">
スイング・ボース・ウェイズ・後（どちらでもいい）</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">有希はまっすぐ前だけを向く。黙々と歩く。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしと有希の間に会話はなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
延々歩き続け、ようやく有希が立ち止まったのは、信じられないほどの高級マンションだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
有希は玄関のキーロックに暗証番号を打ち込んで施錠を解除し、そのまま後ろを振り返ることなく脚を進める。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">7階の8号室のドアに鍵を差し込み、そのまま手招き。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それを合図にあたしも上がり込む。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">殺風景な部屋だった。リビングにはこたつが一つあるだけ。カーテンもない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただ、気になる部屋があった。そのドアだけ全面に黒いクッションが付いている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「この部屋、見せてもらっていい？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">急須と湯飲みを持ってキッチンから出てきた有希に訊く。有希はゆっくり瞬きをすると</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「どうぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「失礼します」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">重い扉が開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">数多くの穴と、クッションで囲まれた部屋。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">大量の楽譜。一台のピアノ、音叉。ホコリにまみれたベース。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">後ろを見て、リビングを見やる。殺風景な部屋と比べて、構成要素が多すぎる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">楽譜を除（の）けて床をみる。いくつかの血の点が顔を覗かせる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮ハルヒ、お茶…」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">有希はあたしを「涼宮ハルヒ」と呼ぶ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただの知り合いとして『涼宮』と呼ぶか、それとも親友として『ハルヒ』と呼ぶか、迷っているのだ。
有希はどちらを選んでくれるのだろうか。あたしとしては、親友として名前を呼んで欲しい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">有希はお茶を入れ終わったらしく、眼鏡に手をかけてこちらを見ている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしは早速口を開く。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「有希、あなたには才能があるわ、そう、ちょうどレオナルド・ダ・ビンチみたいな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">有希はうつむく。きっと悪い記憶があるのね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
でも、あたしはかなりの独りよがり主義者よ。たとえあなたが尻込みしようと、願いは必ず聞いてもらう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だから、プロの音楽家としての道をあきらめないで欲しいんだけど」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あたしには分かる。有希の音楽はきっと世界を盛り上げる。このつまらない世界をぶっ壊してくれるはず。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">でも、有希があきらめたらこの世界はつまらないまま。そんなの、あたしは認めない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">有希は返事のかわりに</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「飲んで」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お茶を勧めてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まあ、飲むわ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ほうじ茶をすするあたしを動物園でキリンを見るような目で観察する有希。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自分は湯飲みには手を付けようとしない。…毒、じゃないわよね</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「おいしい？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もちろんおいしいわよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「よかった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
飲み干した湯飲みを置くと同時に、有希は再び茶褐色の液体で湯飲みを満たす。しょうがなしにそれを飲むと、すかさず駆けつけ三杯目。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ついに急須が空になり、長門がおかわりを用意しようと腰（こし）を上げかけるのを、やっとのことであたしは止めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「お茶はいいから、返事が欲しいの！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
腰を浮かせた姿勢で静止した有希はゆっくりと元の位置に座り直す。もう、いらいらするわね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ようやく有希は薄い唇（くちびる）を開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮ハルヒ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">背筋を伸ばしたきれいな正座で</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わたしには自信がない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">口をつぐんで一拍おき</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたには教えないでおく」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">と言ってまた黙った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
なにを？それ、どうしても教えられないの？まるで、誰かにはもう教えたような口ぶりだけど…</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ここで有希は出会って以来、初めて見る表情を浮かべた。困ったような躊躇（ちゅうちょ）しているような。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">有希はこちらを見すえると、眼鏡のふちを押さえる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">有希はゆっくりと言葉を紡ぐ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…佐々木さん…過去が…けじめ…できたら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ええと、佐々木さん、なの…？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まさか、有希が表舞台を降りた理由って、あの『神童』佐々木さんと関係あるの？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">音楽が楽しめなくなってしまった今の有希を作ったのは、まさか…佐々木さん？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それって、『神の能力』と関係ある？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それきり、有希は黙る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長い沈黙。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしはそろそろおいとまさせていただくことにした。有希は止めなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「もし、オーケーだったら、復活リサイタル、お願いね」</div>
<p><span style="font-size:10.5pt;"><font size="3">ちょっと寂しく見えたのは、たぶんあたしの錯覚。</font></span></p>
<p> </p>
<hr /><p><span style="font-size:10.5pt;"><font size="3"> 第八章 〆</font></span></p>
<p> </p>
<div style="text-align:center;margin:0mm 0mm 0pt;" align="center">
<p align="left"><a href="http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5806.html"><font color="#810081">目次へ</font></a></p>
<p> </p>
<hr />
スイング・ボース・ウェイズ・後（どちらでもいい）</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">有希はまっすぐ前だけを向く。黙々と歩く。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしと有希の間に会話はなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
延々歩き続け、ようやく有希が立ち止まったのは、信じられないほどの高級マンションだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
有希は玄関のキーロックに暗証番号を打ち込んで施錠を解除し、そのまま後ろを振り返ることなく脚を進める。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">7階の8号室のドアに鍵を差し込み、そのまま手招き。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それを合図にあたしも上がり込む。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">殺風景な部屋だった。リビングにはこたつが一つあるだけ。カーテンもない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただ、気になる部屋があった。そのドアだけ全面に黒いクッションが付いている。</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「この部屋、見せてもらっていい？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">急須と湯飲みを持ってキッチンから出てきた有希に訊く。有希はゆっくり瞬きをすると</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「どうぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「失礼します」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">重い扉が開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">数多くの穴と、クッションで囲まれた部屋。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">大量の楽譜。一台のピアノ、音叉。ホコリにまみれたベース。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">後ろを見て、リビングを見やる。殺風景な部屋と比べて、構成要素が多すぎる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">楽譜を除（の）けて床をみる。いくつかの血の点が顔を覗かせる。</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮ハルヒ、お茶…」</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">有希はあたしを「涼宮ハルヒ」と呼ぶ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただの知り合いとして『涼宮』と呼ぶか、それとも親友として『ハルヒ』と呼ぶか、迷っているのだ。
有希はどちらを選んでくれるのだろうか。あたしとしては、親友として名前を呼んで欲しい。</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">有希はお茶を入れ終わったらしく、眼鏡に手をかけてこちらを見ている。</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしは早速口を開く。</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「有希、あなたには才能があるわ、そう、ちょうどレオナルド・ダ・ビンチみたいな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">有希はうつむく。きっと悪い記憶があるのね。</div>
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でも、あたしはかなりの独りよがり主義者よ。たとえあなたが尻込みしようと、願いは必ず聞いてもらう。</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「だから、プロの音楽家としての道をあきらめないで欲しいんだけど」</div>
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あたしには分かる。有希の音楽はきっと世界を盛り上げる。このつまらない世界をぶっ壊してくれるはず。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">でも、有希があきらめたらこの世界はつまらないまま。そんなの、あたしは認めない。</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">有希は返事のかわりに</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「飲んで」</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まあ、飲むわ。</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ほうじ茶をすするあたしを動物園でキリンを見るような目で観察する有希。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">自分は湯飲みには手を付けようとしない。…毒、じゃないわよね</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「おいしい？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もちろんおいしいわよ。</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「よかった」</div>
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飲み干した湯飲みを置くと同時に、有希は再び茶褐色の液体で湯飲みを満たす。しょうがなしにそれを飲むと、すかさず駆けつけ三杯目。</div>
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ついに急須が空になり、長門がおかわりを用意しようと腰（こし）を上げかけるのを、やっとのことであたしは止めた。</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「お茶はいいから、返事が欲しいの！」</div>
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腰を浮かせた姿勢で静止した有希はゆっくりと元の位置に座り直す。もう、いらいらするわね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ようやく有希は薄い唇（くちびる）を開いた。</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「涼宮ハルヒ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">背筋を伸ばしたきれいな正座で</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「わたしには自信がない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">口をつぐんで一拍おき</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あなたには教えないでおく」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">と言ってまた黙った。</div>
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なにを？それ、どうしても教えられないの？まるで、誰かにはもう教えたような口ぶりだけど…</div>
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ここで有希は出会って以来、初めて見る表情を浮かべた。困ったような躊躇（ちゅうちょ）しているような。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">有希はこちらを見すえると、眼鏡のふちを押さえる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">有希はゆっくりと言葉を紡ぐ。</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…佐々木さん…過去が…けじめ…できたら」</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ええと、佐々木さん、なの…？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まさか、有希が表舞台を降りた理由って、あの『神童』佐々木さんと関係あるの？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">音楽が楽しめなくなってしまった今の有希を作ったのは、まさか…佐々木さん？</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それって、『神の能力』と関係ある？」</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それきり、有希は黙る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">長い沈黙。</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あたしはそろそろおいとまさせていただくことにした。有希は止めなかった。</div>
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「もし、オーケーだったら、復活リサイタル、お願いね」</div>
<p><span style="font-size:10.5pt;"><font size="3">ちょっと寂しく見えたのは、たぶんあたしの錯覚。</font></span></p>
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<hr /><p><span style="font-size:10.5pt;"><font size="3"> 第八章 〆</font></span></p>
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