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スイング・第三楽章」(2009/11/15 (日) 22:59:50) の最新版変更点

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<dl><dd> <div align="left"> <p>  </p> <p align="center">揺れる街</p> <p><br /> 涼宮せ…ハルヒと朝比奈さん…みくる、とはちょっと呼べない…は先に帰ってしまい、同じ街に住んでいる三人…長門、古泉、俺は合宿の余韻を残しつつ帰路につこうとしている。</p> <p>駅を降りると、ストリートミュージシャンが、ブルースを弾いていた。固定されたコードが、かえって自由に響く。<br /><br /> ギターが弾く、もの悲しく、まるでこの世を悲しむような旋律。<br /> ドラムが叩く、怒りと、この世に挑戦しようとする旋律。<br /><br /> 長門の足が止まる。続いて、俺たちの足も止まる。</p> <p> </p> </div> </dd> <dd><strong>ドラムソロ<br /></strong><br /> 旋律が変わり、ドラムソロ。<br /> 強いパンチ、怒鳴るようなシンバル。<br /><br /> 無茶苦茶に、乱雑に、自由に。手が激しく動く。<br /> まるで、おぼれかけてしまった子供のように。<br /><br /> 『俺たちはこんなに苦しいんだ』<br /> 『この苦しみをお前たちに伝えたい』<br /><br /> ドラムから、こんな声が聞こえる。</dd> </dl><p> </p> <dl><dd><strong>ベースソロ</strong></dd> <dd><br /> ドラムの旋律はやがて規則的になる。タイミングを合わせてベースが何かを弾き始める。<br /> 一転し、メロディックできれいで、それでいて激しいコードを叩く。<br /><br /> 演奏は熱を帯びていく。<br /> まるで、佳境に入った演説を説く政治家のように。<br /><br /> 『でも、ただの言葉じゃ表しきれないんだ』<br /><br /> ドラムの旋律がまた変わる。ベースは規則的に、誰かを待つように。<br /> その視線は、フルートのケースを持つ長門に向いていた。ドラムが手招き。<br /><br /> その合図に応え、長門はフルートを取り出す。</dd> <dd> </dd> <dd><strong>フルートソロ<br /></strong><br /> 長門が吹くそれは、今度の管弦楽コンクールの課題曲のソロであった。<br /> それに従って、ドラムは穏やかに、ベースは跳ねるように合わせていく。<br /><br /> 『だから、わたしたちは弾きまくるんだ』<br /><br /> 旋律は元に戻り、長門は早く激しく指を動かす。<br /> 得意の超絶技法を使いながら、しかし、やはりどこかで聞いたことのあるクラシックの旋律で。<br /><br /> 『だから、こんなにも激しく』<br /><br /> ベースのピックは対照的にゆっくりと、悲しげな音を出す。<br /> 『だから、こんなにも悲しく』<br /><br /> いつの間にか、古泉がバイオリンの弓を引こうとする。それを合図に旋律が変わり、長門は演奏をやめる。<br /></dd> <dd> <p>  </p> </dd> <dd><strong>バイオリンソロ</strong></dd> <dd> <p> </p> <p>古泉のバイオリンは華麗(かれい)に、きれいに、人の声のように響いていく。<br /> ええと、これは…よく知っているアニソンだ。ただ、いろんな曲が混じっている。</p> </dd> <dd> <p> </p> <p>『俺たちは弾きまくるんだ』</p> </dd> <dd> <p> </p> <p>弦が振動する。その振動は音となり、街に響いていく。響いて街に伝わっていく。</p> </dd> <dd> <p> </p> <p>『そうやって、俺たちは伝えるんだ』</p> </dd> <dt> </dt> <dd><strong>演奏のち</strong></dd> <dd> <p><br /> ベースが終わりの際の定番らしいコードを弾き、それを合図に古泉は演奏をやめる。<br /><br /> そして、いつの間にか集まっていた群衆に頭を下げる。<br /> 長門もフルートを両手で持ち、同じように頭を下げた。<br /><br /> たたえるように、大きな拍手が沸き起こる。<br /><br /> 泣いていた人もいた。笑っている人もいた。<br /> そんな人達もまた、泣きながら、笑いながら、拍手をしていた。<br /><br /> そんな群衆に交じって、俺は、足を鳴らしていた(管弦楽流の拍手)…否、足踏みを、していた。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <hr /></dd> <dd> <p align="center">揺れる道</p> <p align="center"><br /><br /> 続いて、ベース・ギター・ドラムが礼をする。<br /> 演奏者全員に惜しみない、大きな拍手が鳴り響く。<br /><br /> 長門は照れたように眼鏡の縁をつまみ、古泉は極上のスマイルを放出する。</p> <p align="center"><br /> 拍手は、道を揺らす。</p> <hr />  <br /></dd> <dd>こうして俺は帰路につく。<br /><br /> 暗い歩道、夜灯が照らす、路面。その路面を見て、考えて、考える。<br /> 何故、俺は飛び入らなかったのだろうか。やろうと思えば可能だったはずじゃないか。<br /><br /> 古泉の次にトランペットを構えていれば。<br /> その後に続いていたはずのコードを思い浮かべる。頭のなかで音が鳴り響く。<br /> そのコードは『茶色の小瓶』のときのように俺を拒絶するのではなく、俺に合わせ受け入れてくれていた。<br /><br /> もしくは、割り込んでやれば。<br /> 古泉とは毎朝アニソンをデュエットしてた。やろうと思えば簡単にできたはずだ。<br /> 超能力のように通じ合った、古泉とのデュエットを思い浮かべる。たとえ失敗しても、俺たちは笑い合えた。<br /><br /> 何でだ。何故できなかったんだ。<br /><br /> 後悔と悔しさの涙で、道が揺れる。<br /><br /> 朝倉のせいで嫌いになった。そして、ハルヒと古泉で好きになった。<br /> そしてあの長門を見てまた嫌いになり、さらにいまの俺は音楽を放棄したことを後悔している。<br /><br /> 俺は、揺れている。俺は、答えが欲しい。<br /><br /> 揺れる道を見つつ、ぼそっとつぶやく。<br /> 「俺は音楽が好きなのか、嫌いなのか?」 <br /><br /> すると、後ろから返事が聞こえた。<br /><br /> 「どちらでも、いい」<br /><br /> 眼鏡を押さえ、こちらを見すえる。その声は、長門だった。<br /> それは俺が見る初めての、長門の強く、強い視線だった。<br /><br /> 道はこちらではないはずなのに。<br /><br /> 第三章 〆 <br /><hr />   </dd> </dl>
<dl><dd> <div align="left"> <p><a href="http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5806.html"><font color="#810081">目次へ</font></a></p> <hr /><p align="center">  揺れる街</p> <p><br /> 涼宮せ…ハルヒと朝比奈さん…みくる、とはちょっと呼べない…は先に帰ってしまい、同じ街に住んでいる三人…長門、古泉、俺は合宿の余韻を残しつつ帰路につこうとしている。</p> <p>駅を降りると、ストリートミュージシャンが、ブルースを弾いていた。固定されたコードが、かえって自由に響く。<br /><br /> ギターが弾く、もの悲しく、まるでこの世を悲しむような旋律。<br /> ドラムが叩く、怒りと、この世に挑戦しようとする旋律。<br /><br /> 長門の足が止まる。続いて、俺たちの足も止まる。</p> <p> </p> </div> </dd> <dd><strong>ドラムソロ<br /></strong><br /> 旋律が変わり、ドラムソロ。<br /> 強いパンチ、怒鳴るようなシンバル。<br /><br /> 無茶苦茶に、乱雑に、自由に。手が激しく動く。<br /> まるで、おぼれかけてしまった子供のように。<br /><br /> 『俺たちはこんなに苦しいんだ』<br /> 『この苦しみをお前たちに伝えたい』<br /><br /> ドラムから、こんな声が聞こえる。</dd> </dl><p> </p> <dl><dd><strong>ベースソロ</strong></dd> <dd><br /> ドラムの旋律はやがて規則的になる。タイミングを合わせてベースが何かを弾き始める。<br /> 一転し、メロディックできれいで、それでいて激しいコードを叩く。<br /><br /> 演奏は熱を帯びていく。<br /> まるで、佳境に入った演説を説く政治家のように。<br /><br /> 『でも、ただの言葉じゃ表しきれないんだ』<br /><br /> ドラムの旋律がまた変わる。ベースは規則的に、誰かを待つように。<br /> その視線は、フルートのケースを持つ長門に向いていた。ドラムが手招き。<br /><br /> その合図に応え、長門はフルートを取り出す。</dd> <dd> </dd> <dd><strong>フルートソロ<br /></strong><br /> 長門が吹くそれは、今度の管弦楽コンクールの課題曲のソロであった。<br /> それに従って、ドラムは穏やかに、ベースは跳ねるように合わせていく。<br /><br /> 『だから、わたしたちは弾きまくるんだ』<br /><br /> 旋律は元に戻り、長門は早く激しく指を動かす。<br /> 得意の超絶技法を使いながら、しかし、やはりどこかで聞いたことのあるクラシックの旋律で。<br /><br /> 『だから、こんなにも激しく』<br /><br /> ベースのピックは対照的にゆっくりと、悲しげな音を出す。<br /> 『だから、こんなにも悲しく』<br /><br /> いつの間にか、古泉がバイオリンの弓を引こうとする。それを合図に旋律が変わり、長門は演奏をやめる。<br /></dd> <dd> <p>  </p> </dd> <dd><strong>バイオリンソロ</strong></dd> <dd> <p> </p> <p>古泉のバイオリンは華麗(かれい)に、きれいに、人の声のように響いていく。<br /> ええと、これは…よく知っているアニソンだ。ただ、いろんな曲が混じっている。</p> </dd> <dd> <p> </p> <p>『俺たちは弾きまくるんだ』</p> </dd> <dd> <p> </p> <p>弦が振動する。その振動は音となり、街に響いていく。響いて街に伝わっていく。</p> </dd> <dd> <p> </p> <p>『そうやって、俺たちは伝えるんだ』</p> </dd> <dt> </dt> <dd><strong>演奏のち</strong></dd> <dd> <p><br /> ベースが終わりの際の定番らしいコードを弾き、それを合図に古泉は演奏をやめる。<br /><br /> そして、いつの間にか集まっていた群衆に頭を下げる。<br /> 長門もフルートを両手で持ち、同じように頭を下げた。<br /><br /> たたえるように、大きな拍手が沸き起こる。<br /><br /> 泣いていた人もいた。笑っている人もいた。<br /> そんな人達もまた、泣きながら、笑いながら、拍手をしていた。<br /><br /> そんな群衆に交じって、俺は、足を鳴らしていた(管弦楽流の拍手)…否、足踏みを、していた。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <hr /></dd> <dd> <p align="center">揺れる道</p> <p align="center"><br /><br /> 続いて、ベース・ギター・ドラムが礼をする。<br /> 演奏者全員に惜しみない、大きな拍手が鳴り響く。<br /><br /> 長門は照れたように眼鏡の縁をつまみ、古泉は極上のスマイルを放出する。</p> <p align="center"><br /> 拍手は、道を揺らす。</p> <hr />  <br /></dd> <dd>こうして俺は帰路につく。<br /><br /> 暗い歩道、闇と、夜灯が照らす、路面。その路面を見て、考えて、考える。<br /> 何故、俺は飛び入らなかったのだろうか。やろうと思えば可能だったはずじゃないか。<br /><br /> 古泉の次にトランペットを構えていれば。<br /> その後に続いていたはずのコードを思い浮かべる。頭のなかで音が鳴り響く。<br /> そのコードは『茶色の小瓶』のときのように俺を拒絶するのではなく、俺に合わせ受け入れてくれていた。<br /><br /> もしくは、割り込んでやれば。<br /> 古泉とは毎朝アニソンをデュエットしてた。やろうと思えば簡単にできたはずだ。<br /> 超能力のように通じ合った、古泉とのデュエットを思い浮かべる。たとえ失敗しても、俺たちは笑い合えた。<br /><br /> 何でだ。何故できなかったんだ。<br /><br /> 後悔と悔しさの涙で、道が揺れる。<br /><br /> 朝倉のせいで嫌いになった。そして、ハルヒと古泉で好きになった。<br /> そしてあの長門を見てまた嫌いになり、さらにいまの俺は音楽を放棄したことを後悔している。<br /><br /> 俺は、揺れている。俺は、答えが欲しい。<br /><br /> 揺れる道を見つつ、ぼそっとつぶやく。<br /> 「俺は音楽が好きなのか、嫌いなのか?」 <br /><br /> すると、後ろから返事が聞こえた。<br /><br /> 「どちらでも、いい」<br /><br /> 眼鏡を押さえ、こちらを見すえる。その声は、長門だった。<br /> それは俺が見る初めての、長門の強く、強い視線だった。<br /><br /> 道はこちらではないはずなのに。<br /><br /> 第三章 〆 <br /><hr />   </dd> </dl>

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