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彼が消えた。   なぜかと言われれば原因は明確で、彼に酌量すべき点もあるのですが、彼女の能力を知る者としては少々軽率な行動の果てに彼は文字通り痕跡すら残さずに完全に消失してしまった次第でして、なぜ僕がこうして彼の代わりを務めているのかと言われましても、いないのだから仕方がないとしか。  さて、事の発端は我らがSOS団による初の映像作品の撮影現場でのことです。 涼宮超監督の指揮の下、撮影に勤しんでいた我々ですが、涼宮さんの演技指導が徐々にヒートアップし、主演女優である朝比奈さんもメキシコ産の火が付く水によって熱を帯び、とうとう濡れ場の撮影を行うと言ったところで彼がストップをかけました。 「小泉くん、いいからキスしなさい。もちろんマウストゥマウスで!」 「やめろ、小泉」 はい、もちろんですとも。僕には荷が重すぎますので。 「なによ、邪魔しないでよ!これから盛り上がるところなのよ!」 さすがにご遠慮願いたいところです。先ほどの撮影から約一名の痛い視線を感じますしね。 「お前が何を撮ろうと知ったことじゃないが、朝比奈さんの純情を汚すのは許さん」 「あのっ、わ、私なら大丈夫ですからっ!その……っ」 程よく酔ってふらつきながら朝比奈さん。 「あらら。ちょいっとテキーラ入れすぎたかなっ。だいじょぶみくる?」 心配しているのか、面白がっているのか判りかねる表情ですが。 「みくるちゃんもいいって言ってるじゃない。団員は団長の言うことを素直に聞いてればいいのよ!逆らうなんてもってのほかだわ!」 逆らうことができるのは彼ぐらいのものでしょうね。それが良いか、悪いかは別として、本当にたいしたものです。仮にも神と謳われる御人に向かって。 「お前な…少しは朝比奈さんの身になって考えてみろ。お前のとんでもストーリーに付き合っていては朝比奈さんの心身がもたん」 「女優が体を張るのは当たり前でしょう!そんなんじゃオスカーには届かないわよっ!」  このような場合、たいてい彼は早い段階で何を言っても無駄だとあきらめるのですが、今日はどうやら違ったようで、彼は言葉を止めることはありませんでした。これまでの経験からか、なにやらいやな予感がしますね。またバイトが忙しくなりそうだ。彼にはもう少し僕の苦労を理解してもらいたいものです。これでも結構大変なんですよ? 「体なら自分の体を張れ。朝比奈さんはおまえのオモチャじゃないぞ。それにもうふらふらじゃないか!」 「いいの、みくるちゃんはあたしのオモチャなの!好きにして何が悪いのよ!」 瞬間、彼の表情が見たことのないものへと変化する。彼は拳を振りかざし、僕は咄嗟に彼の手首を掴み、彼を制する。 「何よっ!」 怯えと怒りと困惑がまざった瞳で彼を見上げる涼宮さん。 「それを本気で言っているのか!?」 彼は憤怒の形相を露にする。 「だったらどうするのよ!」 どうかお二人とも落ち着いて下さい。このような争いは… 言葉を遮り彼がこう言い放った。 「SOS団をやめる」 「はぁ!?何言ってんの!?」 「キョン君…?」 「…………」 長門さんですら普段より一ミリほど目を見開いている。 「お前のやることにはついていけない。この半年ほどで少しはマシになったと思ったんだが、どうやら俺の勘違いらしい。さっきのがお前の本心なら俺は団を抜ける」 何を言うかと思えばあなたという人は……。 これで世界が終焉を迎えたらどうするおつもりですか?土下座ではすみませんよ? 「本気で言ってんの!?…だとしてもあたしの許可なく退団することは許さないわ。団長に逆らった罪によりあんたを死ぬまでSOS団の使いパシリにしてやるんだから!」 「勝手にしろ。じゃあな、ハルヒ。」 彼はそう言って鶴屋さんの部屋を後にする。 「待ちなさい!!勝手は許さないわよ!」 彼は構わず歩を進める。 「い、今なら特別に全員のお茶代奢るだけで許してあげるわよ!」 さらに進む。 「ちょっと、聞いてんの?バカキョン!」 迷わず玄関を出ていく。 「許してあげるって言ってんでしょ!!」 後を追う涼宮さん。しかし、彼は振り返りもせずに更に歩を進める。 後生ですから止まってくださいと念を送ってみても無駄。僕にテレパス的な能力があればと今日ほど願った日はないでしょう。 「戻りなさいよ…キョンっ!!」 やがて彼の姿は見えなくなった。 「……バカ…バカっ……………」 この半年ほど、ずっと傍らで彼女を監視してきた僕ですが彼女のこんな顔を見るのは初めてのことでした。二度と見たいとは思いませんが。  その日はそれで解散となり、なんとも言いがたい心持ちをそれぞれが抱え帰路に着くことになり、僕がどうしたものかとあれこれ策を練りながら歩いていると不意に違和感が込み上げてくるのを感じ、ある事態に気が付いたのです。  あれほどの事がありながら閉鎖空間が発生していない!?ありえない。確かに今までにない感情の起伏を涼宮さんの精神に感じた。なぜ? ……いや、今はそれよりも彼をどうやって説得するのかを考えるのが先決でしょう。といっても、彼女に止められなかったのなら僕が何をしても無駄かもしれませんが。明日、世界が終わっていなければ閉鎖空間のことを含め、長門さんに意見を仰ぐとしましょう。彼女も彼が戻ってくることを望んでいるはず、もしかしたら誰よりも……。僕としてもこれから部室で毎日一人ボードゲームに勤しむのは少々寂しいものがありますしね。 彼が突然の脱団表明を行い、あわや黙示録を覚悟したとある秋の日。 彼が消えたのはその日の翌日のことです。
彼が消えた。   なぜかと言われれば原因は明確で、彼に酌量すべき点もあるのですが、彼女の能力を知る者としては少々軽率な行動の果てに彼は文字通り痕跡すら残さずに完全に消失してしまった次第でして、なぜ僕がこうして彼の代わりを務めているのかと言われましても、いないのだから仕方がないとしか。  さて、事の発端は我らがSOS団による初の映像作品の撮影現場でのことです。 涼宮超監督の指揮の下、撮影に勤しんでいた我々ですが、涼宮さんの演技指導が徐々にヒートアップし、主演女優である朝比奈さんもメキシコ産の火が付く水によって熱を帯び、とうとう濡れ場の撮影を行うと言ったところで彼がストップをかけました。 「古泉くん、いいからキスしなさい。もちろんマウストゥマウスで!」 「やめろ、古泉」 はい、もちろんですとも。僕には荷が重すぎますので。 「なによ、邪魔しないでよ!これから盛り上がるところなのよ!」 さすがにご遠慮願いたいところです。先ほどの撮影から約一名の痛い視線を感じますしね。 「お前が何を撮ろうと知ったことじゃないが、朝比奈さんの純情を汚すのは許さん」 「あのっ、わ、私なら大丈夫ですからっ!その……っ」 程よく酔ってふらつきながら朝比奈さん。 「あらら。ちょいっとテキーラ入れすぎたかなっ。だいじょぶみくる?」 心配しているのか、面白がっているのか判りかねる表情ですが。 「みくるちゃんもいいって言ってるじゃない。団員は団長の言うことを素直に聞いてればいいのよ!逆らうなんてもってのほかだわ!」 逆らうことができるのは彼ぐらいのものでしょうね。それが良いか、悪いかは別として、本当にたいしたものです。仮にも神と謳われる御人に向かって。 「お前な…少しは朝比奈さんの身になって考えてみろ。お前のとんでもストーリーに付き合っていては朝比奈さんの心身がもたん」 「女優が体を張るのは当たり前でしょう!そんなんじゃオスカーには届かないわよっ!」  このような場合、たいてい彼は早い段階で何を言っても無駄だとあきらめるのですが、今日はどうやら違ったようで、彼は言葉を止めることはありませんでした。これまでの経験からか、なにやらいやな予感がしますね。またバイトが忙しくなりそうだ。彼にはもう少し僕の苦労を理解してもらいたいものです。これでも結構大変なんですよ? 「体なら自分の体を張れ。朝比奈さんはおまえのオモチャじゃないぞ。それにもうふらふらじゃないか!」 「いいの、みくるちゃんはあたしのオモチャなの!好きにして何が悪いのよ!」 瞬間、彼の表情が見たことのないものへと変化する。彼は拳を振りかざし、僕は咄嗟に彼の手首を掴み、彼を制する。 「何よっ!」 怯えと怒りと困惑がまざった瞳で彼を見上げる涼宮さん。 「それを本気で言っているのか!?」 彼は憤怒の形相を露にする。 「だったらどうするのよ!」 どうかお二人とも落ち着いて下さい。このような争いは… 言葉を遮り彼がこう言い放った。 「SOS団をやめる」 「はぁ!?何言ってんの!?」 「キョン君…?」 「…………」 長門さんですら普段より一ミリほど目を見開いている。 「お前のやることにはついていけない。この半年ほどで少しはマシになったと思ったんだが、どうやら俺の勘違いらしい。さっきのがお前の本心なら俺は団を抜ける」 何を言うかと思えばあなたという人は……。 これで世界が終焉を迎えたらどうするおつもりですか?土下座ではすみませんよ? 「本気で言ってんの!?…だとしてもあたしの許可なく退団することは許さないわ。団長に逆らった罪によりあんたを死ぬまでSOS団の使いパシリにしてやるんだから!」 「勝手にしろ。じゃあな、ハルヒ。」 彼はそう言って鶴屋さんの部屋を後にする。 「待ちなさい!!勝手は許さないわよ!」 彼は構わず歩を進める。 「い、今なら特別に全員のお茶代奢るだけで許してあげるわよ!」 さらに進む。 「ちょっと、聞いてんの?バカキョン!」 迷わず玄関を出ていく。 「許してあげるって言ってんでしょ!!」 後を追う涼宮さん。しかし、彼は振り返りもせずに更に歩を進める。 後生ですから止まってくださいと念を送ってみても無駄。僕にテレパス的な能力があればと今日ほど願った日はないでしょう。 「戻りなさいよ…キョンっ!!」 やがて彼の姿は見えなくなった。 「……バカ…バカっ……………」 この半年ほど、ずっと傍らで彼女を監視してきた僕ですが彼女のこんな顔を見るのは初めてのことでした。二度と見たいとは思いませんが。  その日はそれで解散となり、なんとも言いがたい心持ちをそれぞれが抱え帰路に着くことになり、僕がどうしたものかとあれこれ策を練りながら歩いていると不意に違和感が込み上げてくるのを感じ、ある事態に気が付いたのです。  あれほどの事がありながら閉鎖空間が発生していない!?ありえない。確かに今までにない感情の起伏を涼宮さんの精神に感じた。なぜ? ……いや、今はそれよりも彼をどうやって説得するのかを考えるのが先決でしょう。といっても、彼女に止められなかったのなら僕が何をしても無駄かもしれませんが。明日、世界が終わっていなければ閉鎖空間のことを含め、長門さんに意見を仰ぐとしましょう。彼女も彼が戻ってくることを望んでいるはず、もしかしたら誰よりも……。僕としてもこれから部室で毎日一人ボードゲームに勤しむのは少々寂しいものがありますしね。 彼が突然の脱団表明を行い、あわや黙示録を覚悟したとある秋の日。 彼が消えたのはその日の翌日のことです。

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