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「子猫」(2008/11/30 (日) 20:58:27) の最新版変更点
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<p><strong>※注意事項</strong></p>
<ul><li>知らないだろうけどリメイク</li>
<li>モノローグ排除、何故か絵本みたいな語り</li>
<li>長門と朝倉が人間に近い状態</li>
<li>完成してるのどうかもわからなくなった</li>
</ul><p> </p>
<hr />
朝、ごみ集積所には沢山のごみ袋が積まれています。<br />
長門有希はその脇を歩いて学校へ向かっていました。<br />
そこへ集積車がやって来て、作業員達がテンポ良くごみ袋を放り込んでいきます。<br />
有希はその袋の一つに違和感を覚えました。<br />
「待って」<br />
有希はそう言って作業員からその袋をひったくりました。<br />
中を開けると、なんと小さな猫がいたのです。<br />
作業員もたいへん驚いた様子でした。<br />
「可哀想になぁ、捨てられたのか…」<br />
「いい?」<br />
「ん?」<br />
有希は子猫を抱きながら作業員を見ました。<br />
「ねこ」<br />
作業員は、有希の言おうとしていることが分かったようです。<br />
「大事にしてやれよ」<br />
作業員はそれだけ言って仕事を再開しました。<br />
「分かった」<br />
<br />
<br />
これは、小さな命のお話。<br />
<br />
<br />
学校に到着したのですが、この子猫を教室に連れて行く訳にはいきません。授業中に鳴かれると騒ぎになってしまいます。<br />
そこで、有希は部室に子猫を預けることにしました。<br />
「大人しくしてて…」<br />
子猫はタオルにくるまって眠っていました。<br />
<br />
放課後、有希は誰よりも早く部室に行きました。<br />
陽光に照らされたタオルの上で丸まっていた子猫は、有希に気付き顔を持ち上げましたた。その姿を見ただけで有希はほっとしました。<br />
有希は子猫を抱き上げ、小さな小さな瞳を見つめました。<br />
「にゃー」<br />
子猫は真っ直ぐ有希を見つめるだけでした。<br />
「にゃー」<br />
「……」<br />
返事はありません。でも、諦めずにもう一回。<br />
「にゃあ」<br />
「…ナー」<br />
「なー」<br />
子猫が答えてくれたことに笑みがこぼれました。<br />
その時、何かの気配を感じました。<br />
「うわっ!」<br />
「!」<br />
有希は余りに驚いたせいで、椅子がガタンと大きな音を立ててしまいました。涼宮ハルヒがドアの隙間から覗いていたのです。<br />
「えーっと…、有希も可愛らしいところあるのね…」<br />
笑顔を見られ、その上に驚いて椅子から転げ落ちそうになるという失態までしてしまいました。有希にとっては一生の不覚だったのかもしれません。<br />
<br />
「かわいいー! どうしたの?」<br />
「拾った。ゴミ袋の中に入れて捨てられていた」<br />
「可哀想…、誰よ! こんな酷いことをする大馬鹿最低野郎は! 天罰を下してやりたいわ!」<br />
有希も同感でした。彼女が捨てた犯人を恨めば本当に天罰が下るのではないかと思ったのです。<br />
ドアがノックされました。すなわち、キョンがやって来たのです。<br />
「うっす、ん? 猫か、どうしたんだ?」<br />
ハルヒは彼が入って来るなり、掴み掛らん勢いで迫りました。<br />
ハルヒはキョンに、この子猫の為にキャットフードを買って来るように命令しました。<br />
状況を全く知らないのですから、キョンは反論します。<br />
ところが、キョンは不満を漏らすのを止めました。有希が五千円札をまっすぐ彼に差し出していたからです。<br />
「長門…?」<br />
「お願い」<br />
滅多と要求をしない有希からのお願いです、断る訳にはいきません。彼は五千円札を受け取りました。<br />
「…分かった。時間かかるかもしれんがそこら辺は許してくれよ」<br />
<br />
「おや、何処へ行かれるのですか?」<br />
そこへ古泉一樹がやって来ました。キョンはぶっきらぼうに答えました。<br />
「あの子猫のキャットフードを買いにいくのさ」<br />
「ご一緒しましょうか」<br />
「断る」<br />
何故か寒気を感じたキョンは即答しました。でも、<br />
「いいじゃない、キョンはヘマしそうだから古泉君に見張ってもらわないと」<br />
ハルヒがそう言えば彼の意見は無いも同然なのです。<br />
彼は一樹に「行くぞ」とだけ言うと、さっさと歩いて行きました。<br />
<br />
「お願い…」<br />
彼を利用してしまって申し訳ないと思いました、でも動物の世話をするのは初めてのことなので、どうすれば良いのか自分では分からないのです。<br />
<br />
珍しく一番来るのが遅かった朝比奈みくるも加わって、女子三人は子猫を見つめていました。<br />
男子二人が出て行ってから一時間が経過していました。<br />
「何か、元気ないわね」<br />
「そうですね…」<br />
「ああもう! あのバカキョン遅いのよ!」<br />
「馬鹿で悪かったな」<br />
<br />
キョンが戻って来ました。<br />
見ると、猫を飼う為に必要なものを一式揃えているようです。一樹は手ぶらでした。あれだけの物を一人で持って歩いて来るのは、かなり疲れたはずです。実際、彼は流れる汗で髪の毛が額にくっついていました。<br />
「私が頼んだのはキャットフードだけ」<br />
有希は申し訳なさそうに言いました。でも、キョンはどのみち必要だろと言って気にしていない様子でした。<br />
「キョン! 有希のお金なのよ! 人のお金なのにこんなに」<br />
「待て、支払ったのは俺の金だぞ。長門のは使ってない」<br />
有希はますます申し訳なくなってしまいました。<br />
ハルヒとキョンはまだ言い合いを続けています。<br />
有希がハルヒに近付いて、はっきりと言いました。<br />
「止めて」<br />
ハルヒは驚きました。<br />
「止めて」<br />
有希がもう一度言うと、部室は静まり返りました。有希はキョンを見て言いました。<br />
「ごめんなさい」<br />
「謝る必要ないだろ?」<br />
キョンは、有希が渡したお札を返しました。<br />
「気にするな」<br />
今回は、彼に頼りっ放しになってしまいました。有希は、手の平でくしゃくしゃになっている五千円札を見つめていました。<br />
<br />
有希は子猫を抱き、キョンに買って貰った用品一式の入った袋を持って帰りました。<br />
「あら? 子猫じゃない。可愛い」<br />
この部屋を共有している朝倉涼子が玄関に迎えに来ました。<br />
有希はこの子猫を保護した経緯を話しました。涼子は子猫を撫でながら聞いていました。<br />
暫く子猫を抱いていた涼子が、外を見ながらこう言いました。<br />
「人間が動物を愛でるという理由が何となく分かった。でも、こんなことをする人がいるのはどうしてかしら。分からないことがまた増えちゃった」<br />
「貴方の任務は社会問題の分析ではない」<br />
有希はそう言ったことを後悔しました。<br />
冷たく言い過ぎたと分かった時には、涼子の目は潤んでいたのです。<br />
「分かってる。私が言えることではないわ。でも…」<br />
キョンを殺そうとして一旦その存在を消されてしまった涼子は、今回復帰するまでの間を、統合思念体の下で寂しく過ごしてきたのです。<br />
涼子はその間、感情とよばれる「エラー」を何度も何度もに発生させたそうです。それに統合思念体が興味を持ったことから、涼子は再び戻ってこれたのです。<br />
<br />
そんな経緯があるので、涼子は有希とのルームシェアを希望したのです。<br />
一人ぼっちが嫌いな涼子にとって、この子猫は良い相手になりそうだ、と有希は思いました。<br />
<br />
「猫を飼う為に買った物を確認する」<br />
「どれ? 見せて見せて」<br />
がさがさという音を立ててビニール袋からキャットフード、給餌器、トイレなどを取り出しました。<br />
「これ、彼が買ったんでしょ」<br />
その一言に、有希は手を止めました。<br />
「分かるわよ、だって彼、猫を飼ってる筈だから」<br />
鋭い指摘に、有希はうつ向いてしまいました。<br />
「…今回は彼に頼りっ放しだった」<br />
「じゃあ、お礼をすれば? 彼に熱烈アプローチ!」<br />
「止めて…」<br />
<br />
有希は、拾った子猫になーと名付けました。その理由は、最初に「なー」と鳴いたからなのだそうです。<br />
ハルヒは面白い名前ねと言い、キョンはお前らしいなと言いました。一体何が「お前らしい」のか、有希には分かりませんでした。<br />
有希と涼子は、なーと共に暮らしていました。<br />
<br />
ある日、有希と涼子が学校から帰ると、小さな女の子が、毛布にくるまって眠っていました。<br />
その毛布は、なーのお気に入りでした。そのなーはどこにもいません。<br />
「貴方は、誰?」<br />
女の子は目を覚ますと、眠たい表情をしたままこちらを見上げました。<br />
「なー」<br />
確かに、そう言いました。<br />
「ゆき」<br />
「りょーこ」<br />
女の子は、二人の顔を見ながら、はっきりと名前を呼んだのです。<br />
「本当に貴方が、なー?」<br />
「なー」<br />
なーは、人間になっていたのです。<br />
<br />
その日から、三人での生活になりました。<br />
<br />
なーは人間になってもお昼寝が好きでした。平日は二人共に学校へ行っているので、お昼寝をして二人の帰りを待ちます。<br />
夕方、二人が帰ってくると、玄関まで迎えに行きます。<br />
「ただいま」<br />
「なー、いい子にしてた?」<br />
「ん」<br />
なーは笑顔で頷きます。<br />
<br />
夕食の準備が始まります。なーはテーブルでじっと待ちます。<br />
有希は涼子に包丁を絶対に持たせません。「また暴走するから」だそうです。<br />
三人で食べる夕食は、とてもおいしくて、みんな笑顔になります。<br />
食べた後は、お風呂に入って寝ます。なーは有希と一緒にお風呂に入ったり寝ていたのですが、毎晩涼子が淋しそうな表情なので一日おきの交代制になりました。<br />
<br />
なーがすっかり人間の暮らしに馴染んできました。<br />
今日は涼子が待ちに待ったおでんの日です。涼子は嬉しくてたまりませんでした。<br />
なーは、ぐつぐつと煮えた鍋を恐る恐る覗き込み、熱い湯気が目に入ってしまったのか必死に目をこすっていました。<br />
有希は、なーにフォークを渡しました。そして、手本を見せてやりました。なーはフォークを握りながら、興味深そうにそれを見つめていました。<br />
なーはこんにゃくを刺すと、そのまま口の中に…<br />
涼子がそれを止めました。「だめ、熱いから火傷しちゃうわ。ちょっと待ってからね」<br />
少し冷ましてから、こんにゃくを頬張りました。<br />
なーはおでんが気に入ったようでした。大根、がんもどき、はんぺん、ちくわなど、どんどん食べていきました。<br />
鍋はあっという間に空っぽになりました。<br />
<br />
そんな楽しい生活が続いていたある日のことでした。<br />
朝起きてみると、なーの体に、耳と尻尾がはえていました。<br />
その毛の色は、なーが猫だった頃の色に間違いありませんでした。<br />
なーの体が猫に戻っているのです。<br />
「戻っちゃうのか…残念ね」<br />
でも、様子が少しおかしいのです。<br />
なーは元気が無くなり、布団にもぐったまま動きません。<br />
有希と涼子は、どちらかが学校を休み、交代しながらつきっきりで看病しました。<br />
でも、なーはどんどん元気をなくしていきました。<br />
大好きなおでんも、食べられなくなりました。<br />
それでも、にっこりとした笑顔を無くすことは、ありませんでした。<br />
その笑顔が、有希にエラーを起こさせるのです。<br />
どうして、どうして笑顔でいられるの?<br />
有希には、答えは分かりませんでした。<br />
<br />
なーが布団から出なくなってから数日が経ちました。夜、つきっきりの看病で疲れている筈なのに、有希は夜遅くまで、なーを見守っていました。<br />
有希がなーの頭を撫でます。なーはまた笑顔を見せていました。<br />
「おやすみ」<br />
有希は、もう喋れなくなったなーに言いました。<br />
「また明日…」<br />
それは、寝る時の挨拶ではなく、心の底からの願いでした。<br />
<br />
次の日の朝のことでした。<br />
弁当を作るために有希が目を覚ますと、布団の中に脱ぎ捨てたようにくしゃくしゃのパジャマがありました。<br />
そのパジャマの中で、一匹の子猫が眠っていました。<br />
「なー…」<br />
いくら名前を呼んでも、撫でてやっても、目を覚ますことはありませんでした。<br />
「なー……?」<br />
有希は子猫を抱きしめました。その小さな体には、まだあたたかさの残っていました。<br />
<br />
<br />
とてもたくさんのエラーが起きていました。目からは涙が止まらず、震えて喋ることも出来ませんでした。<br />
なーのふさふさな毛が、少しずつ濡れていきました。<br />
有希にも分かっていました。猫よりも、自分の方が長生きですから、いずれ、こうなるとは思っていました。でも、分かっていても、これは悲しいことです、苦しいことです。<br />
<br />
「おはよう長門さ…」<br />
涼子が起きて来ました。<br />
目を真っ赤にした有希を見て、全てを理解しました。<br />
涼子は、なにも言えませんでした。<br />
有希は言いました。<br />
「貴方も、抱いてあげて」<br />
子猫をそっと抱くと、涼子も肩を震わせて涙を流しました。<br />
<br />
なーは、自らの死をもってして、「命」というものを教えてくれたのです。<br />
なーはずっと苦しんでいたのに、自分がもうお別れしないといけないのに、いつも笑顔を見せてくれました。<br />
それは、そばにずっと、有希と涼子がいてくれたから、ずっと見守っていてくれたからなのです。<br />
だからなーは安心して、天国に行くことが出来たのです。<br />
<br />
朝日が部屋を照らします。部屋の隅に置かれたキョンが買ってくれたペット用品をしばし見つめていました。<br />
なーは、有希の膝の上で、気持良さそうに眠っています。<br />
<br />
有希は、涙を拭き、微笑みました。<br />
「ありがとう」
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