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朝比奈みくるの秘密」(2009/02/23 (月) 22:53:21) の最新版変更点

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<p>This page was created at 2008.09.28</p> <p>【朝比奈みくるの秘密】 (避難所投下時のタイトルは「星に願いを」でしたが、同名のページが存在したため改題しました)</p> <p> </p> <p>「張り切って観測するわよ! 流星群のピークは明け方近くだから、それまでは新星発見に重点を置きなさい」<br /> 「新星発見ともなればSOS団の名は世界中に知れ渡るわ。 世界にSOS団の名を轟かせるのよ!」<br /> 「さあ、みくるちゃん! がんばって新星を発見するのよ!」<br /><br /> 「はぃぃぃぃ、がんばりますぅ」<br /><br /> 新星発見の任を言い渡された朝比奈さんは、望遠鏡のハンドルをくりくりと回して星を探している。<br /> SOS団の名をこれ以上広めたいとは思わないが、新発見の栄誉なら悪名で無いだけましだろうか。<br /><br /> 「涼宮さんがあのようにおっしゃっていると、本当に発見するかもしれませんね」<br /><br /> 「まさかだろう。 世界中のアマチュア天文家が夜な夜な筒を覗いてるんだ。 未発見の天体なんてそうそうありゃしないさ」<br /><br /> 「本当にそう思いますか?確率論が当てはまる方ではないと思いますが」<br /><br /> 「あのぅ…… このぼんやり見えるのって星でしょうか?」<br /><br /> マジかよ。 ちょっとご都合主義が過ぎやしないか?<br /><br /> 「ホントに見つけたの!? でかしたわみくるちゃん! 名誉一日団長にしてあげる!」<br /><br /> 一日団長ねぇ。 おおかた、『目立たなきゃダメよ!』とか言ってバニーコスプレさせたあげく、校門前でビラ配りだな。<br /> なんだ、いつもと同じじゃないか。 朝比奈さんにも予想が付くのか、ひえぇぇぇぇとかわいい悲鳴を上げていらっしゃる。<br /><br /> 「まぁまぁ、そう慌てずに。 ちょっと見せて」<br /><br /> 天文部 部長氏がやってきて筒を覗きこむと、つづいて部員Aが筒の脇に座り、なにやら数字を読み上げた。<br /> すると部員Bがこれまたなにやら興奮した声で、該当無しです。 と報告した。<br /><br /> 「観測を続けてみないと新星か小惑星か彗星なのかわからないけど、新発見の天体には違いないと思うよ」<br /><br /> 古泉のやつにひそひそと耳打ちされた。<br /> 「さて、これは果たして偶然なんでしょうか?」<br /> 俺が知るか。<br /><br /> 「発見者には命名権があるけど、どうする? 結構自由に付けられるよ。 『タコヤキ』なんて名前の小惑星もあるくらいだから」<br /><br /> 「なら、『朝比奈みくる』でもいいのね。 おめでとう、みくるちゃん! 名前が歴史に刻まれたわよ!」<br /><br /> 「ふえぇぇ? れ 歴史にですかぁ? そんなの困りますぅ……」<br /><br /> 未来人が過去の時代において名を残す。 というのはどうなんだろう。<br /> 甚だしく禁則事項に該当するような気もするが、本気で困ることになるなら朝比奈さん(大)あたりが事前に何か言って来ただろうし、ここは素直に喜んでもいいんだよな。<br /><br /> 「いいじゃないですか。 鶴屋さんあたりが知ったら、『みくるはお星様になってしまったにょろ?』くらいのジョークを飛ばしてくれますよ。 きっと」<br /><br /> 「あのぅ、本当に、私が決めちゃってもいいんでしょうか?」<br /><br /> 部長氏がフォローを入れた。<br /> 「まだ第一発見者の確認は取れてないけど、ここにいる人の中では朝比奈さんに命名権があるね」<br /><br /> 「そうだ、みくるちゃんの好きな人の名前を付けちゃいましょう! さぁ、みくるちゃん? 正直に吐きなさい! 一人や二人いるでしょう?」<br /><br /> そういってハルヒは、朝比奈さんを後ろから抱きかかえた。<br /> 「えっ? やっ! やだっ! 涼宮さん、そこだめえぇっ!」<br /> 「ほらほら正直に言わないと、もぉっと凄いことしちゃうわよ?」<br /> 「アッーーーー!」<br /><br /> いいかげんにせいっ! ハルヒの脳天にチョップを入れる。<br /> 「いったいじゃない! なにすんのよ、キョン!」<br /><br /> 「何度も言ってるだろ、朝比奈さんをおもちゃにするんじゃありません!」<br /><br /> 「ふーんだ、アンタだって興味あるくせに」<br /> いつものアヒル口でぶーたれるハルヒ。<br /><br /> ふむ。 朝比奈さんの思い人か。 確かに、興味があると言えば無い訳じゃないが……<br /> 考え込んでしまった俺を、ハルヒが興味深そうに見ているのに気づいた。<br /><br /> なんだ?<br /><br /> 「べっつにっ」<br /><br /> なんだ? 妙に嬉しそうだが。<br /><br /> 「天文台の確認が取れたよ。 やっぱり朝比奈さんが第一発見者だって」<br /><br /> 今の騒ぎの中で冷静に電話していたのか。 天文部 部長氏、ひょっとしたら大物かもしれん。<br /><br /> 「みくるちゃん、おめでと」<br /><br /> 天文部員からも賛辞と拍手が贈られた。<br /><br /> 「ありがとうございます、涼宮さん。 みんさんもありがとうございます」<br /><br /> 「それじゃあ、その、お言葉に甘えちゃいます」<br /><br /> 「名前、決まった?」<br /><br /> 「はいっ!」<br /><br /> 大きくうなずいて、元気よく応える朝比奈さんは本当に嬉しそうだ。<br /><br /> 「名前は……」<br /><br /> みんな、言葉の続きを待っている。<br /><br /> 「    ですっ!」<br /><br /> 聞こえなかった。 得意そうに叫んだはずの名前は、聞こえなかった。 ただ、口だけが動いていた。 あれは――<br /><br /> 声にならなかった。 そのことに気づいた朝比奈さんはしおれたようにうつむいて<br /> 「……あれぇ…… どうしてだろ…… あっそうかぁ…… そうですよね…… ちょっと考えれば…… 馬鹿だぁ……」<br /><br /> 不思議そうな、みんなの顔が自分に向いているのに気づいて、慌てて場を取り繕い始めた。<br /> 「あはっ! 冗談ですよ、みなさん。 ごめんなさい、見事にすべっちゃいましたね」<br /> いかにも失敗しちゃいましたぁ、と言うように、舌を出してみせる朝比奈さんは、あまりに痛々しかった。<br /><br /> 冗談なんかでないことは全員がわかっていた。 けれど、誰も追求しようとはしなかった。<br /> ハルヒは今までに見たこともないほど厳しい顔で、朝比奈さんを見つめていた。<br /><br /> ※※※※※※※※※※※※※※※※<br /><br /> 「まったく、一体どういうことなのよ」<br /><br /> あのあと朝比奈さんは逃げるように帰ってしまい、新発見の興奮も冷め切った観測会を終えて、俺とハルヒは帰り道を歩いている。<br /> ハルヒは追いかけようとしたが、俺が止めた。 おかげでその後はピリピリし通しだったし、古泉には急なバイトが入った。<br /><br /> 「あれは洗脳とか、強力な暗示とか、とにかくそういう類の何かだったわ。 声に出せないよう、強制的にストップがかかったのよ」<br /> 「みくるちゃんを洗脳するなんて、誰の仕業よ、絶対に許せない。 見つけ出してギッタンギッタンにしてやるわ」<br /><br /> おまえ、よくあの場で噛みつかなかったな。<br /><br /> 「天文部の連中がいたからね」<br /><br /> 「なぁハルヒ、この件、見なかったことにできないか?」<br /><br /> ハルヒが目を剥いて怒鳴った。<br /> 「そんなことできるわけ無いでしょう!? 洗脳だの暗示だの、人格に対する冒涜よ!」<br /><br /> 俺は足を止め、ハルヒの肩を掴んで向き合った。<br /> 「朝比奈さん自身が受け入れていたら? その上で話せないんだとしたら? 逆に朝比奈さんを苦しめるぞ」<br /> 「俺はSOS団の外にいる朝比奈さんのことを何も知らない。 家族のことも、何もだ。 お前はどうだ?」<br /><br /> バツが悪そうに横を向き、不本意そうにつぶやく。<br /> 「……あたしも…… 知らないわ……」<br /><br /> 「きっと話せない事情があるんだ。 とはいえ、お前もこのまま何もしないってんじゃいられないだろう?」<br /><br /> 「そうね。 だって許せないもの。 腹が立つのよ」<br /> はっきりと俺の目をにらんで言い切った、意思にあふれたハルヒの顔。 だが俺はハルヒの意思を挫かないといけない。<br /><br /> 「だからな、一度だけ確かめろ。 それで、話せませんごめんなさいされたら、今は諦めろ。 話してくれるまで待つんだ」<br /><br /> ハルヒは無言で横を向いた。 口が見事にアヒルになっている。<br /> やがて向きを変えて歩き出す。 俺もハルヒの肩から手を放し、後をついて歩き始めた。<br /><br /> 別れ際、ハルヒは<br /> 「いいわ。 なんだか丸め込まれたような気もするけど、キョンの言うとおりにしてあげる」<br /> 怒りのオーラを漂わせながら、立ち止まらずに言い残して去っていった。<br /> あのぶんじゃ、古泉に苦労かけそうだな。<br /><br /> ※※※※※※※※※※※※※※※※<br /><br /> 「さぁ、みくるちゃん。 たのしいお着替えの時間ですよ?」<br /><br /> 「ひえええぇぇ」<br /><br /> 「とっとと脱いだ 脱いだ!!」<br /><br /> 「すっ涼宮さっ! 待っ! 自分でっ 自分で脱ぎますからっ! アッーーーーー!」<br /><br /> 靴下に至るまで全部剥いて、隅々まで丹念になであげる。<br /> それにしてもきれいな肌してるわね。 それにいつみてもおっきなおっぱい。<br /> ん~~~~~~~~ えいっ! あ~~ やっぱきもちいいわ。<br /><br /> 「だめぇっ! もまないでぇっ!」<br /> 「ふえぇぇぇぇん」<br /><br /> ひとしきり柔らかい感触を楽しんでから手を止めて、みくるちゃんの耳元でささやく。<br /> 「ねぇ、みくるちゃん」<br /><br /> 「ふぇ?」<br /><br /> 「あたしたちに隠してること、ない?」<br /><br /> 「ないですぅ 全部見られちゃってますぅ」<br /><br /> そうじゃなくて<br /><br /> 「キョン君に見られるのはいやですぅ」<br /><br /> なんでキョンだけ名指しでだめなのよ。 ってそうじゃなくて!<br /><br /> 「洗脳とか、暗示とか、そういうことをされた心当たりはない?」<br /><br /> 「えっ?」<br /><br /> みくるちゃんの体がぎくりぎくりと硬く震えた。<br /> あぁ、みくるちゃんは自覚してるんだ。<br /><br /> 「どうしてですか? 変です。 いきなりそんな話。 あるはずないじゃないですか、そんなこと」<br /><br /> 「とぼけなくていいわ。 あたしが知りたいのは、それがみくるちゃんを不幸にしてないか、どうなのかってことだけ」<br /><br /> 驚いて、少しおびえているみくるちゃんの目があたしを見つめている。<br /><br /> 「裸じゃ落ち着かないわね。 いいわよ、服着て。 注射針の痕とかもないようだし」<br /><br /> 「はい……」<br /><br /> ※※※※※※※※※※※※※※※※<br /><br /> 「星の名前を言おうとして言えなかったでしょ。 あのときのみくるちゃんはすごく悲しそうだった」<br /> 「すぐ近くにあたしたちがいるのに、世界にたった一人取り残されたみたいに淋しそうだった」<br /> 「あたしはあんなの二度と見たくない。 けど……」<br /><br /> キョンと約束したから<br /><br /> 「教えて。 みくるちゃんはそれを解きたいのか、そうじゃないのか」<br /> 「みくるちゃんが自由になりたいと思っているなら、あたしは解く方法を絶体に見つけてみせる」<br /> 「そうじゃないなら、あたしは今回のことを全部見なかったことにして忘れる。 いつか、みくるちゃんが自分から話してくれる、その時まで」<br /><br /> メイド服を着直したみくるちゃんは、あたしと正面から向き合った。<br /> いつものみくるちゃんとは違う、あどけなさの消えた真剣なまなざしにあたしも緊張する。<br /><br /> 「これは、今の私にとって必要なんです。 だから、ごめんなさい」<br /><br /> 「そう……」<br /><br /> 淋しい。 隠し事をされるのが淋しい。 誰にだって秘密の一つや二つある。 それが当たり前。<br /> わかっているのに、わかっていてもやっぱり淋しい。 はぁ、今の顔は誰にも見せられないわね。<br /> 背中を向けると、みくるちゃんにそっと抱きしめられた。<br /><br /> 「心配してくれたんですね。 ありがとうございます。 話せなくてごめんなさい」<br /><br /> 「さあ? 何のことだかわからないわね。 全部見なかったことにして忘れたばっかりだから」<br /><br /> 背中に柔らかい笑みが伝わってくる。<br /><br /> 「ひとつ、甘えてもいいですか」<br /><br /> あたしは床に毛布を敷いて、みくるちゃんに膝枕をしている。<br /> みくるちゃんは抱きつくようにあたしの腰に手を回して、あたまを押しつけてくる。 ちょっとくすぐったい。<br /><br /> 「とってもあったかいです。 とっても優しくて、愛情が深くて、それを押しつけない強さもあります」<br /> 「涼宮さんはきっと、いいお母さんになります。 だから今だけ、ちょっとだけ甘えさせてください」<br /><br /> お母さんだって。 あたしはそんな物になるつもりはないんだけど、それでも照れるわね。<br /><br /> 「キョン君は幸せ者ですね」<br /><br /> 「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!??」<br /> 「どうしてそこでキョンの名前が出てくるのよ!」<br /><br /> 「だって。 ううん、秘密です。 ふふっ」<br /><br /> みくるちゃんはあたしを強く抱きしめてから、勢いよく起き上がった。<br /><br /> 「さ、みなさんのお茶を淹れなくちゃ。 二人とも廊下に追い出されて、きっと寒がってます」<br /><br /> みくるちゃんが扉を開けると、キョンと古泉くんが入ってきた。<br /><br /> 「ずいぶん長い着替えでしたね。 ってメイド服のままなんですか?」<br /><br /> 「私がどんな格好してると期待してましたか?」<br /><br /> 「いや、どんなって言われましても」<br /><br /> 「よぅハルヒ」<br /><br /> いきなり話しかけられて、あたしは逃げるように団長席のパソコンモニターに顔を隠した。<br /> 今はキョンと顔を合わせたく、ない。<br /><br /> みくるちゃんはそんなあたしを見て、くすくすと笑っている。<br /><br /> キョンはそんなあたしたちを見て、安心したようなため息をついていつもの席に落ち着いた。<br /><br /> 古泉くんはボードゲームを取り出し、有希は最初からずっと本を読んでいる。<br /><br /> いつもの風景。 いつまでも続いて欲しい、でも必ず終わる、だからこそ大切にしたい。<br /> みくるちゃんとはいつか、大きな別れが来るのかもしれない。<br /> ううん、みくるちゃんだけじゃなく、古泉くんとも、有希とも。<br /> あたしは沈みそうになる心に鞭を入れ、大きく息を吸って立ち上がった。<br /> 未来は未来! 今は今! 未来なんて成るようになるわ!<br /><br /> 「さあ! みくるちゃんはさっさと星の名前を決める! 決まったら天文部へ遠征よ!」<br /><br /> 今をせいいっぱい楽しまなきゃ!<br /><br /> fin.</p>
<pre> This page was created at 2008.09.28 </pre> <pre> This page was modified at 2009.02.23 TAGにTIP埋め </pre> <p>【朝比奈みくるの秘密】 (避難所投下時のタイトルは「星に願いを」でしたが、同名のページが存在したため改題しました)<br /></p> <hr size="2" width="100%" /><p><br /></p> <p>「張り切って観測するわよ! 流星群のピークは明け方近くだから、それまでは新星発見に重点を置きなさい」<br /> 「新星発見ともなればSOS団の名は世界中に知れ渡るわ。 世界にSOS団の名を轟かせるのよ!」<br /> 「さあ、みくるちゃん! がんばって新星を発見するのよ!」<br /><br /> 「はぃぃぃぃ、がんばりますぅ」<br /><br /> 新星発見の任を言い渡された朝比奈さんは、望遠鏡のハンドルをくりくりと回して星を探している。<br /> SOS団の名をこれ以上広めたいとは思わないが、新発見の栄誉なら悪名で無いだけましだろうか。<br /><br /> 「涼宮さんがあのようにおっしゃっていると、本当に発見するかもしれませんね」<br /><br /> 「まさかだろう。 世界中のアマチュア天文家が夜な夜な筒を覗いてるんだ。 未発見の天体なんてそうそうありゃしないさ」<br /><br /> 「本当にそう思いますか?確率論が当てはまる方ではないと思いますが」<br /><br /> 「あのぅ…… このぼんやり見えるのって星でしょうか?」<br /><br /> マジかよ。 ちょっとご都合主義が過ぎやしないか?<br /><br /> 「ホントに見つけたの!? でかしたわみくるちゃん! 名誉一日団長にしてあげる!」<br /><br /> 一日団長ねぇ。 おおかた、『目立たなきゃダメよ!』とか言ってバニーコスプレさせたあげく、校門前でビラ配りだな。<br /> なんだ、いつもと同じじゃないか。 朝比奈さんにも予想が付くのか、ひえぇぇぇぇとかわいい悲鳴を上げていらっしゃる。<br /><br /> 「まぁまぁ、そう慌てずに。 ちょっと見せて」<br /><br /> 天文部 部長氏がやってきて筒を覗きこむと、つづいて部員Aが筒の脇に座り、なにやら数字を読み上げた。<br /> すると部員Bがこれまたなにやら興奮した声で、該当無しです。 と報告した。<br /><br /> 「観測を続けてみないと新星か小惑星か彗星なのかわからないけど、新発見の天体には違いないと思うよ」<br /><br /> 古泉のやつにひそひそと耳打ちされた。<br /> 「さて、これは果たして偶然なんでしょうか?」<br /> 俺が知るか。<br /><br /> 「発見者には命名権があるけど、どうする? 結構自由に付けられるよ。 『タコヤキ』なんて名前の小惑星もあるくらいだから」<br /><br /> 「なら、『朝比奈みくる』でもいいのね。 おめでとう、みくるちゃん! 名前が歴史に刻まれたわよ!」<br /><br /> 「ふえぇぇ? れ 歴史にですかぁ? そんなの困りますぅ……」<br /><br /> 未来人が過去の時代において名を残す。 というのはどうなんだろう。<br /> 甚だしく禁則事項に該当するような気もするが、本気で困ることになるなら朝比奈さん(大)あたりが事前に何か言って来ただろうし、ここは素直に喜んでもいいんだよな。<br /><br /> 「いいじゃないですか。 鶴屋さんあたりが知ったら、『みくるはお星様になってしまったにょろ?』くらいのジョークを飛ばしてくれますよ。 きっと」<br /><br /> 「あのぅ、本当に、私が決めちゃってもいいんでしょうか?」<br /><br /> 部長氏がフォローを入れた。<br /> 「まだ第一発見者の確認は取れてないけど、ここにいる人の中では朝比奈さんに命名権があるね」<br /><br /> 「そうだ、みくるちゃんの好きな人の名前を付けちゃいましょう! さぁ、みくるちゃん? 正直に吐きなさい! 一人や二人いるでしょう?」<br /><br /> そういってハルヒは、朝比奈さんを後ろから抱きかかえた。<br /> 「えっ? やっ! やだっ! 涼宮さん、そこだめえぇっ!」<br /> 「ほらほら正直に言わないと、もぉっと凄いことしちゃうわよ?」<br /> 「アッーーーー!」<br /><br /> いいかげんにせいっ! ハルヒの脳天にチョップを入れる。<br /> 「いったいじゃない! なにすんのよ、キョン!」<br /><br /> 「何度も言ってるだろ、朝比奈さんをおもちゃにするんじゃありません!」<br /><br /> 「ふーんだ、アンタだって興味あるくせに」<br /> いつものアヒル口でぶーたれるハルヒ。<br /><br /> ふむ。 朝比奈さんの思い人か。 確かに、興味があると言えば無い訳じゃないが……<br /> 考え込んでしまった俺を、ハルヒが興味深そうに見ているのに気づいた。<br /><br /> なんだ?<br /><br /> 「べっつにっ」<br /><br /> なんだ? 妙に嬉しそうだが。<br /><br /> 「天文台の確認が取れたよ。 やっぱり朝比奈さんが第一発見者だって」<br /><br /> 今の騒ぎの中で冷静に電話していたのか。 天文部 部長氏、ひょっとしたら大物かもしれん。<br /><br /> 「みくるちゃん、おめでと」<br /><br /> 天文部員からも賛辞と拍手が贈られた。<br /><br /> 「ありがとうございます、涼宮さん。 みんさんもありがとうございます」<br /><br /> 「それじゃあ、その、お言葉に甘えちゃいます」<br /><br /> 「名前、決まった?」<br /><br /> 「はいっ!」<br /><br /> 大きくうなずいて、元気よく応える朝比奈さんは本当に嬉しそうだ。<br /><br /> 「名前は……」<br /><br /> みんな、言葉の続きを待っている。<br /><br /> 「    ですっ!」<br /><br /> 聞こえなかった。 得意そうに叫んだはずの名前は、聞こえなかった。 ただ、口だけが動いていた。 あれは――<br /><br /> 声にならなかった。 そのことに気づいた朝比奈さんはしおれたようにうつむいて<br /> 「……あれぇ…… どうしてだろ…… あっそうかぁ…… そうですよね…… ちょっと考えれば…… 馬鹿だぁ……」<br /><br /> 不思議そうな、みんなの顔が自分に向いているのに気づいて、慌てて場を取り繕い始めた。<br /> 「あはっ! 冗談ですよ、みなさん。 ごめんなさい、見事にすべっちゃいましたね」<br /> いかにも失敗しちゃいましたぁ、と言うように、舌を出してみせる朝比奈さんは、あまりに痛々しかった。<br /><br /> 冗談なんかでないことは全員がわかっていた。 けれど、誰も追求しようとはしなかった。<br /> ハルヒは今までに見たこともないほど厳しい顔で、朝比奈さんを見つめていた。<br /><br /> ※※※※※※※※※※※※※※※※<br /><br /> 「まったく、一体どういうことなのよ」<br /><br /> あのあと朝比奈さんは逃げるように帰ってしまい、新発見の興奮も冷め切った観測会を終えて、俺とハルヒは帰り道を歩いている。<br /> ハルヒは追いかけようとしたが、俺が止めた。 おかげでその後はピリピリし通しだったし、古泉には急なバイトが入った。<br /><br /> 「あれは洗脳とか、強力な暗示とか、とにかくそういう類の何かだったわ。 声に出せないよう、強制的にストップがかかったのよ」<br /> 「みくるちゃんを洗脳するなんて、誰の仕業よ、絶対に許せない。 見つけ出してギッタンギッタンにしてやるわ」<br /><br /> おまえ、よくあの場で噛みつかなかったな。<br /><br /> 「天文部の連中がいたからね」<br /><br /> 「なぁハルヒ、この件、見なかったことにできないか?」<br /><br /> ハルヒが目を剥いて怒鳴った。<br /> 「そんなことできるわけ無いでしょう!? 洗脳だの暗示だの、人格に対する冒涜よ!」<br /><br /> 俺は足を止め、ハルヒの肩を掴んで向き合った。<br /> 「朝比奈さん自身が受け入れていたら? その上で話せないんだとしたら? 逆に朝比奈さんを苦しめるぞ」<br /> 「俺はSOS団の外にいる朝比奈さんのことを何も知らない。 家族のことも、何もだ。 お前はどうだ?」<br /><br /> バツが悪そうに横を向き、不本意そうにつぶやく。<br /> 「……あたしも…… 知らないわ……」<br /><br /> 「きっと話せない事情があるんだ。 とはいえ、お前もこのまま何もしないってんじゃいられないだろう?」<br /><br /> 「そうね。 だって許せないもの。 腹が立つのよ」<br /> はっきりと俺の目をにらんで言い切った、意思にあふれたハルヒの顔。 だが俺はハルヒの意思を挫かないといけない。<br /><br /> 「だからな、一度だけ確かめろ。 それで、話せませんごめんなさいされたら、今は諦めろ。 話してくれるまで待つんだ」<br /><br /> ハルヒは無言で横を向いた。 口が見事にアヒルになっている。<br /> やがて向きを変えて歩き出す。 俺もハルヒの肩から手を放し、後をついて歩き始めた。<br /><br /> 別れ際、ハルヒは<br /> 「いいわ。 なんだか丸め込まれたような気もするけど、キョンの言うとおりにしてあげる」<br /> 怒りのオーラを漂わせながら、立ち止まらずに言い残して去っていった。<br /> あのぶんじゃ、古泉に苦労かけそうだな。<br /><br /> ※※※※※※※※※※※※※※※※<br /><br /> 「さぁ、みくるちゃん。 たのしいお着替えの時間ですよ?」<br /><br /> 「ひえええぇぇ」<br /><br /> 「とっとと脱いだ 脱いだ!!」<br /><br /> 「すっ涼宮さっ! 待っ! 自分でっ 自分で脱ぎますからっ! アッーーーーー!」<br /><br /> 靴下に至るまで全部剥いて、隅々まで丹念になであげる。<br /> それにしてもきれいな肌してるわね。 それにいつみてもおっきなおっぱい。<br /> ん~~~~~~~~ えいっ! あ~~ やっぱきもちいいわ。<br /><br /> 「だめぇっ! もまないでぇっ!」<br /> 「ふえぇぇぇぇん」<br /><br /> ひとしきり柔らかい感触を楽しんでから手を止めて、みくるちゃんの耳元でささやく。<br /> 「ねぇ、みくるちゃん」<br /><br /> 「ふぇ?」<br /><br /> 「あたしたちに隠してること、ない?」<br /><br /> 「ないですぅ 全部見られちゃってますぅ」<br /><br /> そうじゃなくて<br /><br /> 「キョン君に見られるのはいやですぅ」<br /><br /> なんでキョンだけ名指しでだめなのよ。 ってそうじゃなくて!<br /><br /> 「洗脳とか、暗示とか、そういうことをされた心当たりはない?」<br /><br /> 「えっ?」<br /><br /> みくるちゃんの体がぎくりぎくりと硬く震えた。<br /> あぁ、みくるちゃんは自覚してるんだ。<br /><br /> 「どうしてですか? 変です。 いきなりそんな話。 あるはずないじゃないですか、そんなこと」<br /><br /> 「とぼけなくていいわ。 あたしが知りたいのは、それがみくるちゃんを不幸にしてないか、どうなのかってことだけ」<br /><br /> 驚いて、少しおびえているみくるちゃんの目があたしを見つめている。<br /><br /> 「裸じゃ落ち着かないわね。 いいわよ、服着て。 注射針の痕とかもないようだし」<br /><br /> 「はい……」<br /><br /> ※※※※※※※※※※※※※※※※<br /><br /> 「星の名前を言おうとして言えなかったでしょ。 あのときのみくるちゃんはすごく悲しそうだった」<br /> 「すぐ近くにあたしたちがいるのに、世界にたった一人取り残されたみたいに淋しそうだった」<br /> 「あたしはあんなの二度と見たくない。 けど……」<br /><br /> キョンと約束したから<br /><br /> 「教えて。 みくるちゃんはそれを解きたいのか、そうじゃないのか」<br /> 「みくるちゃんが自由になりたいと思っているなら、あたしは解く方法を絶体に見つけてみせる」<br /> 「そうじゃないなら、あたしは今回のことを全部見なかったことにして忘れる。 いつか、みくるちゃんが自分から話してくれる、その時まで」<br /><br /> メイド服を着直したみくるちゃんは、あたしと正面から向き合った。<br /> いつものみくるちゃんとは違う、あどけなさの消えた真剣なまなざしにあたしも緊張する。<br /><br /> 「これは、今の私にとって必要なんです。 だから、ごめんなさい」<br /><br /> 「そう……」<br /><br /> 淋しい。 隠し事をされるのが淋しい。 誰にだって秘密の一つや二つある。 それが当たり前。<br /> わかっているのに、わかっていてもやっぱり淋しい。 はぁ、今の顔は誰にも見せられないわね。<br /> 背中を向けると、みくるちゃんにそっと抱きしめられた。<br /><br /> 「心配してくれたんですね。 ありがとうございます。 話せなくてごめんなさい」<br /><br /> 「さあ? 何のことだかわからないわね。 全部見なかったことにして忘れたばっかりだから」<br /><br /> 背中に柔らかい笑みが伝わってくる。<br /><br /> 「ひとつ、甘えてもいいですか」<br /><br /> あたしは床に毛布を敷いて、みくるちゃんに膝枕をしている。<br /> みくるちゃんは抱きつくようにあたしの腰に手を回して、あたまを押しつけてくる。 ちょっとくすぐったい。<br /><br /> 「とってもあったかいです。 とっても優しくて、愛情が深くて、それを押しつけない強さもあります」<br /> 「涼宮さんはきっと、いいお母さんになります。 だから今だけ、ちょっとだけ甘えさせてください」<br /><br /> お母さんだって。 あたしはそんな物になるつもりはないんだけど、それでも照れるわね。<br /><br /> 「キョン君は幸せ者ですね」<br /><br /> 「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!??」<br /> 「どうしてそこでキョンの名前が出てくるのよ!」<br /><br /> 「だって。 ううん、秘密です。 ふふっ」<br /><br /> みくるちゃんはあたしを強く抱きしめてから、勢いよく起き上がった。<br /><br /> 「さ、みなさんのお茶を淹れなくちゃ。 二人とも廊下に追い出されて、きっと寒がってます」<br /><br /> みくるちゃんが扉を開けると、キョンと古泉くんが入ってきた。<br /><br /> 「ずいぶん長い着替えでしたね。 ってメイド服のままなんですか?」<br /><br /> 「私がどんな格好してると期待してましたか?」<br /><br /> 「いや、どんなって言われましても」<br /><br /> 「よぅハルヒ」<br /><br /> いきなり話しかけられて、あたしは逃げるように団長席のパソコンモニターに顔を隠した。<br /> 今はキョンと顔を合わせたく、ない。<br /><br /> みくるちゃんはそんなあたしを見て、くすくすと笑っている。<br /><br /> キョンはそんなあたしたちを見て、安心したようなため息をついていつもの席に落ち着いた。<br /><br /> 古泉くんはボードゲームを取り出し、有希は最初からずっと本を読んでいる。<br /><br /> いつもの風景。 いつまでも続いて欲しい、でも必ず終わる、だからこそ大切にしたい。<br /> みくるちゃんとはいつか、大きな別れが来るのかもしれない。<br /> ううん、みくるちゃんだけじゃなく、古泉くんとも、有希とも。<br /> あたしは沈みそうになる心に鞭を入れ、大きく息を吸って立ち上がった。<br /> 未来は未来! 今は今! 未来なんて成るようになるわ!<br /><br /> 「さあ! みくるちゃんはさっさと星の名前を決める! 決まったら天文部へ遠征よ!」<br /><br /> 今をせいいっぱい楽しまなきゃ!<br /><br /> fin.</p>

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