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言葉にできない」(2020/03/12 (木) 20:00:21) の最新版変更点

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<p> </p> <p> 「私には正しさが必要なのよ」</p> <p><br />  朝倉涼子は、たびたびその言葉を口にしていた。</p> <p> </p> <p> 「それはあやふやであり、感情的であり、我々には不要なもの」</p> <p> </p> <p> そのたびに長門有希はそう返答した。朝倉は長門の顔を恨めしそうに見つめたあとで</p> <p> </p> <p> 「長門さんには分からないことなのよ」</p> <p> </p> <p> そう、恨み言のように呟く。<br />  それは彼女たちの間で幾度となく繰り返された、儀式のようなやりとりだった。<br />  その短いやり取りを繰り返すことが、二人が二人であることを忘れずに有り続けるために<br />  絶対に欠かしてはならない、おまじないのようなものだったのだ。</p> <p> 朝倉涼子は、毎日決まった時間に買い物に行き、毎日決まった時間に台所に立ち<br />  毎日決まった時間に、長門有希を食卓に呼んだ。<br />  それは世界が二人を必要とした</p> <p> </p> <p> 「私にはこれが必要なことなのよ」</p> <p> </p> <p> 長門には朝倉の言う『必要』であるということが、どういったものなのか、長い間理解することが出来なかった。</p> <p> </p> <p> 「そうね、あなたには必要のないものかもしれないわね」<br />  「何故?」<br />  「あなたと私には、与えられたものが違うからよ」</p> <p> </p> <p> はるか情報統合思念体が長門に与えなかった何かを、朝倉涼子は所持している。</p> <p> </p> <p> 「そうよ。だから私は、こんな無駄なことをしてしまうの」<br />  「あなたはそれを必要なことだと言ったはず」<br />  「でも、それはあなたにとっては無駄なことなのでしょう?」<br />  「無駄であるとも、必要であるとも言っていない」<br />  「そうね」</p> <p> </p> <p> 長門は用事もなく部屋を出ることはなかった。閉ざされた部屋の中で、長門はただ時間が過ぎるのを眺めていた。<br />  朝倉は決まった時間に食事の用意をし、時間が来ると、自分の部屋へと戻って行った。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />  二人はただただ、その決まりきった日常を繰り返し続けた。<br />  あるいは、それが二人にとって、朝倉の示すところの『正しさ』だったのかもしれない。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />  「あの扉の向こうには、きっと、長門さんにとっての正しさがあるのね」</p> <p> </p> <p> </p> <p> 朝倉は時折、閉ざされたままの引き戸に視線を送り、そんな事を呟くことがあった。<br />  長門は、その扉の向こうに誰が居るのかを知っている。<br />  朝倉涼子がこの世に生まれるより前。長門の住むこの部屋をたずねてきた少年と少女が<br />  止まった時間の塊とともに、眠り続けているのだ。</p> <p> </p> <p> 「私が彼らを起こしたら」</p> <p> </p> <p> 朝倉は言った。</p> <p> </p> <p> 「長門さんは怒るかしら?」<br />  「望ましいことではない。それに、あなたでは不可能」<br />  「そうね」</p> <p> </p> <p> 朝倉は無感情の現れであるかのような、冷め切った声色で、呟いた。</p> <p> </p> <p> 「私は劣っているもの。長門さんよりもずっと」</p> <p> </p> <p> 劣る。それが単純な機能面においてのみの意味合いでないことが、長門にはなんとなくわかった。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> 朝倉涼子は、長門にはかけているものを持っている。<br />  それだというのに、朝倉涼子は長門よりも劣る存在である。<br />  それが長門にとっては不思議なことだった。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> 朝倉は『正しさ』を手にできるはずがなかったのだ。と、長門は思った。<br />  それを感じたのがいつであったかは分からない。長門にとって、時間とは、そこにあるようでないものなのだ。<br />  長門と朝倉は、この世界が犯してしまったのかもしれない『過ち』に干渉するために生まれた。<br />  二人が『正しさ』にたどり着く事があるとしたら、それは同時に<br />  二人の存在が、一切の価値を失うということなのだ。</p> <p> </p> <p> 「長門さん。私、たまに思うのよ。世界にとっての過ちとは、私たちのほうなのかもしれないわ」<br />  「理解できない」<br />  「だって、世界は私たちのものじゃあないもの」</p> <p> </p> <p> 時々、朝倉は涙を流した。<br />  朝倉や長門こそが、この世の過ち。<br />  それが正しいのか、間違いなのか。長門には分からなかった。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> 「長門さん、私をしっかりと見ていてね」</p> <p> </p> <p> 朝倉涼子が長門有希によって、情報連結を解除される前の晩。朝倉は長門にそう告げた。</p> <p> </p> <p> 「私はもう、私ではなくなってしまったの。いうなれば、私はあなたと同じになってしまったの。 私は正しさを求めることさえ出来なくなってしまったわ」</p> <p> </p> <p> 朝倉は涙を流すことはなかった。<br />  けれど、朝倉が言葉を放つたび、声を上げるたびに<br />  長門は朝倉の全身から滲み出てくる『過ち』を感じていた。<br />  それは長門には与えられず、かつて朝倉が持っていたもの。</p> <p> </p> <p> 「長門さん。あなたが私のことを、好きだと思ってくれた事が、一度でもあってくれたのなら、きっと私はとても喜んだと思うわ」<br />  「そう」</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> 翌日の夕暮れ、朝倉は長門の手によって、情報連結を解除された。</p> <p> </p> <p> 「キョン君のこと好きなんでしょ? 分かってるって」</p> <p> </p> <p> 今わの際に、朝倉は長門にそう告げた。<br />  そうかもしれない。<br />  長門は、それを否定するだけの材料も持っていなかった。<br />  長門はその夜、朝倉と出会ってから初めての、夕食を摂らずに過ごす夜を迎えた。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />  「何を歌ってるんだ?」<br />  「古い歌」<br />  「それは分かるさ」<br />  「貴方も歌って」<br />  「少ししか歌詞を知らん」<br />  「一言だけが分かればいい。あとは、私が歌うから」</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />  もしも朝倉涼子が、長門有希とまったく同じものしか所持していなかったとしたら。<br />  朝倉は、長門の前から消えずに済んだのだろうか</p> <p> </p> <p> </p> <p> 「それは意味がないわよ」</p> <p> </p> <p> 長門の中で、朝倉が笑う。</p> <p> </p> <p> 「そんな私じゃあ、長門さんと一緒にいたいと思わなかったもの」</p> <p> </p> <p> 長門は朝倉とともにありながら、朝倉が食事を用意してはくれない日常を思い浮かべてみた<br />  しかし、長門の胸に芽生えたその不思議な空白が、一体何であるのか。長門には分からなかった。<br />  長門には欠けているものが多すぎたのだ。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />  「夢がある」<br />  「どんな夢だ?」<br />  「涙を流してみたい」<br />  「そうすると、どうなるんだ?」<br />  「私にも、理解できるかもしれない」<br />  「何をだ?」<br />  「彼女が私とともに居てくれた理由を。」<br />  「そうか」</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />  長門には求めるものがあった。<br />  それが一体何なのか、長門には分からなかった。<br />  けれど、だからこそ長門は</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />  「あなたは私に、好きといわれたい?」<br />  「当たり前よ」</p> <p> </p> <p><br />  朝倉は言った。</p> <p> </p> <p> 「私は長門さんが好きなの。必要としてるの」<br />  「私が存在しない場合、あなたが存在する意味はない」<br />  「そうね」</p> <p> </p> <p> 朝倉はすこしさびしそうに眉を顰め</p> <p> </p> <p> 「たったそれだけのことなのかもね」</p> <p> </p> <p> そういって、笑ったあとで、長門に触れられながら、わずかに涙を流した。</p> <p> </p> <p> 「あなたに会えてよかったわ」<br />  「それは、あなたが存在する理由以上の理由で?」<br />  「わからないわ。でも、うれしいの」</p> <p> </p> <p> 朝倉は笑った。<br />  長門には、朝倉涼子が、過ちで生まれたものであるようには、どうしても思えなかった。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> 長門はこれから先、自分が引き起こすであろう過ちのことを思った。<br />  それは果たして、過ちなのだろうか。</p> <p> </p> <p> 「私には、正しさが必要なのよ」</p> <p> </p> <p> 長門は正しさを求めているのだろうか。</p> <p> </p> <p>  </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br /><br />  「長門さん、好きよ」<br />  「あなたに会えて、よかった」</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p>
<p> </p> <p> 「私には正しさが必要なのよ」</p> <p><br />  朝倉涼子は、たびたびその言葉を口にしていた。</p> <p> </p> <p> 「それはあやふやであり、感情的であり、我々には不要なもの」</p> <p> </p> <p> そのたびに長門有希はそう返答した。朝倉は長門の顔を恨めしそうに見つめたあとで</p> <p> </p> <p> 「長門さんには分からないことなのよ」</p> <p> </p> <p> そう、恨み言のように呟く。<br />  それは彼女たちの間で幾度となく繰り返された、儀式のようなやりとりだった。<br />  その短いやり取りを繰り返すことが、二人が二人であることを忘れずに有り続けるために<br />  絶対に欠かしてはならない、おまじないのようなものだったのだ。</p> <p> 朝倉涼子は、毎日決まった時間に買い物に行き、毎日決まった時間に台所に立ち<br />  毎日決まった時間に、長門有希を食卓に呼んだ。<br />  それは世界が二人を必要とした</p> <p> </p> <p> 「私にはこれが必要なことなのよ」</p> <p> </p> <p> 長門には朝倉の言う『必要』であるということが、どういったものなのか、長い間理解することが出来なかった。</p> <p> </p> <p> 「そうね、あなたには必要のないものかもしれないわね」<br />  「何故?」<br />  「あなたと私には、与えられたものが違うからよ」</p> <p> </p> <p> はるか情報統合思念体が長門に与えなかった何かを、朝倉涼子は所持している。</p> <p> </p> <p> 「そうよ。だから私は、こんな無駄なことをしてしまうの」<br />  「あなたはそれを必要なことだと言ったはず」<br />  「でも、それはあなたにとっては無駄なことなのでしょう?」<br />  「無駄であるとも、必要であるとも言っていない」<br />  「そうね」</p> <p> </p> <p> 長門は用事もなく部屋を出ることはなかった。閉ざされた部屋の中で、長門はただ時間が過ぎるのを眺めていた。<br />  朝倉は決まった時間に食事の用意をし、時間が来ると、自分の部屋へと戻って行った。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />  二人はただただ、その決まりきった日常を繰り返し続けた。<br />  あるいは、それが二人にとって、朝倉の示すところの『正しさ』だったのかもしれない。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />  「あの扉の向こうには、きっと、長門さんにとっての正しさがあるのね」</p> <p> </p> <p> </p> <p> 朝倉は時折、閉ざされたままの引き戸に視線を送り、そんな事を呟くことがあった。<br />  長門は、その扉の向こうに誰が居るのかを知っている。<br />  朝倉涼子がこの世に生まれるより前。長門の住むこの部屋をたずねてきた少年と少女が<br />  止まった時間の塊とともに、眠り続けているのだ。</p> <p> </p> <p> 「私が彼らを起こしたら」</p> <p> </p> <p> 朝倉は言った。</p> <p> </p> <p> 「長門さんは怒るかしら?」<br />  「望ましいことではない。それに、あなたでは不可能」<br />  「そうね」</p> <p> </p> <p> 朝倉は無感情の現れであるかのような、冷め切った声色で、呟いた。</p> <p> </p> <p> 「私は劣っているもの。長門さんよりもずっと」</p> <p> </p> <p> 劣る。それが単純な機能面においてのみの意味合いでないことが、長門にはなんとなくわかった。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> 朝倉涼子は、長門にはかけているものを持っている。<br />  それだというのに、朝倉涼子は長門よりも劣る存在である。<br />  それが長門にとっては不思議なことだった。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> 朝倉は『正しさ』を手にできるはずがなかったのだ。と、長門は思った。<br />  それを感じたのがいつであったかは分からない。長門にとって、時間とは、そこにあるようでないものなのだ。<br />  長門と朝倉は、この世界が犯してしまったのかもしれない『過ち』に干渉するために生まれた。<br />  二人が『正しさ』にたどり着く事があるとしたら、それは同時に<br />  二人の存在が、一切の価値を失うということなのだ。</p> <p> </p> <p> 「長門さん。私、たまに思うのよ。世界にとっての過ちとは、私たちのほうなのかもしれないわ」<br />  「理解できない」<br />  「だって、世界は私たちのものじゃあないもの」</p> <p> </p> <p> 時々、朝倉は涙を流した。<br />  朝倉や長門こそが、この世の過ち。<br />  それが正しいのか、間違いなのか。長門には分からなかった。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> 「長門さん、私をしっかりと見ていてね」</p> <p> </p> <p> 朝倉涼子が長門有希によって、情報連結を解除される前の晩。朝倉は長門にそう告げた。</p> <p> </p> <p> 「私はもう、私ではなくなってしまったの。いうなれば、私はあなたと同じになってしまったの。 私は正しさを求めることさえ出来なくなってしまったわ」</p> <p> </p> <p> 朝倉は涙を流すことはなかった。<br />  けれど、朝倉が言葉を放つたび、声を上げるたびに<br />  長門は朝倉の全身から滲み出てくる『過ち』を感じていた。<br />  それは長門には与えられず、かつて朝倉が持っていたもの。</p> <p> </p> <p> 「長門さん。あなたが私のことを、好きだと思ってくれた事が、一度でもあってくれたのなら、きっと私はとても喜んだと思うわ」<br />  「そう」</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> 翌日の夕暮れ、朝倉は長門の手によって、情報連結を解除された。</p> <p> </p> <p> 「キョン君のこと好きなんでしょ? 分かってるって」</p> <p> </p> <p> 今わの際に、朝倉は長門にそう告げた。<br />  そうかもしれない。<br />  長門は、それを否定するだけの材料も持っていなかった。<br />  長門はその夜、朝倉と出会ってから初めての、夕食を摂らずに過ごす夜を迎えた。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />  「何を歌ってるんだ?」<br />  「古い歌」<br />  「それは分かるさ」<br />  「貴方も歌って」<br />  「少ししか歌詞を知らん」<br />  「一言だけが分かればいい。あとは、私が歌うから」</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />  もしも朝倉涼子が、長門有希とまったく同じものしか所持していなかったとしたら。<br />  朝倉は、長門の前から消えずに済んだのだろうか</p> <p> </p> <p> </p> <p> 「それは意味がないわよ」</p> <p> </p> <p> 長門の中で、朝倉が笑う。</p> <p> </p> <p> 「そんな私じゃあ、長門さんと一緒にいたいと思わなかったもの」</p> <p> </p> <p> 長門は朝倉とともにありながら、朝倉が食事を用意してはくれない日常を思い浮かべてみた<br />  しかし、長門の胸に芽生えたその不思議な空白が、一体何であるのか。長門には分からなかった。<br />  長門には欠けているものが多すぎたのだ。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />  「夢がある」<br />  「どんな夢だ?」<br />  「涙を流してみたい」<br />  「そうすると、どうなるんだ?」<br />  「私にも、理解できるかもしれない」<br />  「何をだ?」<br />  「彼女が私とともに居てくれた理由を。」<br />  「そうか」</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />  長門には求めるものがあった。<br />  それが一体何なのか、長門には分からなかった。<br />  けれど、だからこそ長門は</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />  「あなたは私に、好きといわれたい?」<br />  「当たり前よ」</p> <p> </p> <p><br />  朝倉は言った。</p> <p> </p> <p> 「私は長門さんが好きなの。必要としてるの」<br />  「私が存在しない場合、あなたが存在する意味はない」<br />  「そうね」</p> <p> </p> <p> 朝倉はすこしさびしそうに眉を顰め</p> <p> </p> <p> 「たったそれだけのことなのかもね」</p> <p> </p> <p> そういって、笑ったあとで、長門に触れられながら、わずかに涙を流した。</p> <p> </p> <p> 「あなたに会えてよかったわ」<br />  「それは、あなたが存在する理由以上の理由で?」<br />  「わからないわ。でも、うれしいの」</p> <p> </p> <p> 朝倉は笑った。<br />  長門には、朝倉涼子が、過ちで生まれたものであるようには、どうしても思えなかった。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> 長門はこれから先、自分が引き起こすであろう過ちのことを思った。<br />  それは果たして、過ちなのだろうか。</p> <p> </p> <p> 「私には、正しさが必要なのよ」</p> <p> </p> <p> 長門は正しさを求めているのだろうか。</p> <p> </p> <p>  </p> <p> </p> <p> </p> <p><br />      ◆</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br /> <br />  「長門さん、好きよ」<br />  「あなたに会えて、よかった」</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p>

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