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「江美里の夏休み」(2022/01/06 (木) 11:49:31) の最新版変更点
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8月26日、午前11時21分。<br>
私はリモコンを握りテレビのチャンネルを回していました。<br>
テレビ欄はとっくの昔に頭の中にあります。<br>
昔……、昔って単語は間違っているかも知れないけれど、他に相応しい単語が見つからないんだから仕方有りません。<br>
うーん、上手く言語化出来ないというより、言語化したくないかもしれません。<br>
「……これもこれもこれも、何度も見ましたね」<br>
繰り返す夏休み。<br>
涼宮ハルヒさんの能力によって引き起こされた終わらない2週間はまだ終わっていません。<br>
これで、えーっと、13811回目でしたっけ?<br>
ここ数回数えるのを辞めていたんですけど、情報統合思念体に確かめたから、間違ってない筈です。<br>
え、インターフェースがそんなんで良いのかって?<br>
良いんですよ。所詮この繰り返す二週間の間に変わったことなんてほっとんどないんですから。<br>
「暇ですね……」<br>
私は長門さんと違って涼宮さん達に縛られてないので、この二週間、結構好きにやらせてもらっています。<br>
行きたい野外イベントにもライブにも全部行ってみたり、読みたい本は全部読んでみたり、見たい映画は全部見てみたり、DVDを何度も纏めて借りてみたり、彼方此方の海に行ってナンパされてみたり……、はっきり言って飽きました。<br>
地方局まで含めたテレビの全番組ツアーももう3回はやっています。<br>
たまーに違うところがあるんで間違い探しのつもりも含めてやっているんですけど、さすがに同じ番組を二回はともかく三回となると飽きてしまいます。<br>
あーあ、自分の記憶をリセットできたら良いんですけど。<br>
でも、それは出来ないんですよね……、お仕事ですから。<br>
<br>
ピンポーン。<br>
<br>
あ、チャイムが鳴りました。<br>
「はあい」<br>
インターホンも取らずに私は玄関に出ます。<br>
このマンションはセキュリティ完備ですから、こうやって前置き無しにやってくるのはこのマンションの住人に決まっています。<br>
「長門さん……、久しぶりですね」<br>
ドアを開けたら、長門さんが立っていました。<br>
えっと、どのくらいぶりでしょうか……、直線時間に直すと結構立っている気がします。一年とか二年とか。<br>
夏休み開始前の時点で3歳くらいだった私たちにとっては、物凄く長い時間のような気がしますし、この時間の中では、それほど長い時間でないような気もします。<br>
「以前に会ったのは13764回目の8月31日、日付からして以前という単語は適切ではないと思われるが、他に該当する単語が見当たらない」<br>
「くすっ、そうですね」<br>
二週間を一万回以上繰り返しても、長門さんはあまり変わっていません。<br>
「どうぞ」<br>
「……」<br>
私が促したら、長門さんが部屋の中に入ってきてくれました。<br>
長門さんの後姿、何だか取っても疲れている気がします。<br>
……当然ですよね。長門さんはこの繰り返す二週間の間、ずーっと涼宮さん達と一緒なんですから。<br>
そろそろ、一緒に過ごしている時間だけでも百年くらいに達しているんじゃないでしょうか。<br>
それだけの時間同じ人とずっといて、しかも自分以外の四人は二週間毎に全部を忘れているんですよ。<br>
それで疲れなかったら、嘘ですよね。<br>
<br>
「お茶入れますね」<br>
私はお茶を入れるためキッチンに向いました。<br>
長門さんがさっきまで私のいた場所に座って、テレビのチャンネルを回しています。<br>
長門さんがこの繰り返す二週間の間に私の家にきた回数は、相対的に見るとそんなに多く有りません。何せそのうちかなりの時間を涼宮さん達と一緒に過ごしていますからね、私のところにやってくるような時間は取れないのでしょう。<br>
「今日は一日暇なんですか?」<br>
私はお茶を持っていきました。<br>
リラックスできるハーブティーです。<br>
これで少しでも長門さんの疲れが取れると良いのですが。<br>
それより、お茶菓子の方が大事でしょうか?<br>
「……予定は入ってない」<br>
「じゃあ、ゆっくりしていってください。はい、どうぞ」<br>
私はハーブティーと、買い置きしておいたお菓子の袋を長門さんに渡しました。<br>
「……」<br>
長門さんは無言でお茶を飲み、お菓子を口にします。<br>
テレビから流れるのは、子供向けの教養番組。<br>
長門さんは、ぼんやりした様子で画像が流れていく様子を見続けています。<br>
何か興味を惹かれるものが有ったのでしょうか?<br>
「お昼ご飯も作りますね。リクエストは有りますか?」<br>
「……カレー」<br>
長門さんはゆっくりと私の方へ首を動かしてから、そう言いました。<br>
「カレーですか、了解しました。作ってくるので、待っていてくださいね」<br>
材料の買い置きはあるので、買出しに行く必要は有りません。<br>
私は立ち上がり、もう一度キッチンへ行きました。<br>
<br>
カレーを作りながら、私は長門さんの後姿を眺めていました。<br>
対面キッチンですからね、見えるんですよ。<br>
疲れたような寂しそうな様子で、長門さんはテレビ画面を見送っています。<br>
番組が変わるのとは違うタイミングでチャンネルを回しているということは、テレビを見ているというわけではなさそうです。<br>
でも、疲れているときはそんな感じで良いのかもしれません。<br>
フルパワーの涼宮さん達とずーっと付き合っているんですものね、たまには息抜きも必要だと思います。<br>
あ、いけないいけない、長門さんを見ていたらルーを入れるタイミングを見失っちゃいそうでした。<br>
カレーも結構奥が深いんですよ。私の市販のカレールーを使ってますけど、これでも何種類か組み合わせて見つけた自分なりの味なんです。<br>
長門さん、喜んでくれると良いんですけど。<br>
<br>
ああ、それにしても。<br>
この夏休みは、何時終わるんでしょうね。<br>
<br>
願わくば、今回か次回くらいに……、というのは駄目でしょうか?<br>
長門さんのあの様子だと、今回は誰も気付いてないみたいですし……、あーあ、早く秋になってほしいですね。<br>
<br>
長門さんのためにも。<br>
<p> 8月26日、午前11時21分。<br />
私はリモコンを握りテレビのチャンネルを回していました。<br />
テレビ欄はとっくの昔に頭の中にあります。<br />
昔……、昔って単語は間違っているかも知れないけれど、他に相応しい単語が見つからないんだから仕方有りません。<br />
うーん、上手く言語化出来ないというより、言語化したくないかもしれません。<br />
「……これもこれもこれも、何度も見ましたね」<br />
繰り返す夏休み。<br />
涼宮ハルヒさんの能力によって引き起こされた終わらない2週間はまだ終わっていません。<br />
これで、えーっと、13811回目でしたっけ?<br />
ここ数回数えるのを辞めていたんですけど、情報統合思念体に確かめたから、間違ってない筈です。<br />
え、インターフェースがそんなんで良いのかって?<br />
良いんですよ。所詮この繰り返す二週間の間に変わったことなんてほっとんどないんですから。<br />
「暇ですね……」<br />
私は長門さんと違って涼宮さん達に縛られてないので、この二週間、結構好きにやらせてもらっています。<br />
行きたい野外イベントにもライブにも全部行ってみたり、読みたい本は全部読んでみたり、見たい映画は全部見てみたり、DVDを何度も纏めて借りてみたり、彼方此方の海に行ってナンパされてみたり……、はっきり言って飽きました。<br />
地方局まで含めたテレビの全番組ツアーももう3回はやっています。<br />
たまーに違うところがあるんで間違い探しのつもりも含めてやっているんですけど、さすがに同じ番組を二回はともかく三回となると飽きてしまいます。<br />
あーあ、自分の記憶をリセットできたら良いんですけど。<br />
でも、それは出来ないんですよね……、お仕事ですから。<br />
<br />
ピンポーン。<br />
<br />
あ、チャイムが鳴りました。<br />
「はあい」<br />
インターホンも取らずに私は玄関に出ます。<br />
このマンションはセキュリティ完備ですから、こうやって前置き無しにやってくるのはこのマンションの住人に決まっています。<br />
「長門さん……、久しぶりですね」<br />
ドアを開けたら、長門さんが立っていました。<br />
えっと、どのくらいぶりでしょうか……、直線時間に直すと結構立っている気がします。一年とか二年とか。<br />
夏休み開始前の時点で3歳くらいだった私たちにとっては、物凄く長い時間のような気がしますし、この時間の中では、それほど長い時間でないような気もします。<br />
「以前に会ったのは13764回目の8月31日、日付からして以前という単語は適切ではないと思われるが、他に該当する単語が見当たらない」<br />
「くすっ、そうですね」<br />
二週間を一万回以上繰り返しても、長門さんはあまり変わっていません。<br />
「どうぞ」<br />
「……」<br />
私が促したら、長門さんが部屋の中に入ってきてくれました。<br />
長門さんの後姿、何だか取っても疲れている気がします。<br />
……当然ですよね。長門さんはこの繰り返す二週間の間、ずーっと涼宮さん達と一緒なんですから。<br />
そろそろ、一緒に過ごしている時間だけでも百年くらいに達しているんじゃないでしょうか。<br />
それだけの時間同じ人とずっといて、しかも自分以外の四人は二週間毎に全部を忘れているんですよ。<br />
それで疲れなかったら、嘘ですよね。<br />
<br />
「お茶入れますね」<br />
私はお茶を入れるためキッチンに向いました。<br />
長門さんがさっきまで私のいた場所に座って、テレビのチャンネルを回しています。<br />
長門さんがこの繰り返す二週間の間に私の家にきた回数は、相対的に見るとそんなに多く有りません。何せそのうちかなりの時間を涼宮さん達と一緒に過ごしていますからね、私のところにやってくるような時間は取れないのでしょう。<br />
「今日は一日暇なんですか?」<br />
私はお茶を持っていきました。<br />
リラックスできるハーブティーです。<br />
これで少しでも長門さんの疲れが取れると良いのですが。<br />
それより、お茶菓子の方が大事でしょうか?<br />
「……予定は入ってない」<br />
「じゃあ、ゆっくりしていってください。はい、どうぞ」<br />
私はハーブティーと、買い置きしておいたお菓子の袋を長門さんに渡しました。<br />
「……」<br />
長門さんは無言でお茶を飲み、お菓子を口にします。<br />
テレビから流れるのは、子供向けの教養番組。<br />
長門さんは、ぼんやりした様子で画像が流れていく様子を見続けています。<br />
何か興味を惹かれるものが有ったのでしょうか?<br />
「お昼ご飯も作りますね。リクエストは有りますか?」<br />
「……カレー」<br />
長門さんはゆっくりと私の方へ首を動かしてから、そう言いました。<br />
「カレーですか、了解しました。作ってくるので、待っていてくださいね」<br />
材料の買い置きはあるので、買出しに行く必要は有りません。<br />
私は立ち上がり、もう一度キッチンへ行きました。<br />
<br />
カレーを作りながら、私は長門さんの後姿を眺めていました。<br />
対面キッチンですからね、見えるんですよ。<br />
疲れたような寂しそうな様子で、長門さんはテレビ画面を見送っています。<br />
番組が変わるのとは違うタイミングでチャンネルを回しているということは、テレビを見ているというわけではなさそうです。<br />
でも、疲れているときはそんな感じで良いのかもしれません。<br />
フルパワーの涼宮さん達とずーっと付き合っているんですものね、たまには息抜きも必要だと思います。<br />
あ、いけないいけない、長門さんを見ていたらルーを入れるタイミングを見失っちゃいそうでした。<br />
カレーも結構奥が深いんですよ。私の市販のカレールーを使ってますけど、これでも何種類か組み合わせて見つけた自分なりの味なんです。<br />
長門さん、喜んでくれると良いんですけど。<br />
<br />
ああ、それにしても。<br />
この夏休みは、何時終わるんでしょうね。<br />
<br />
願わくば、今回か次回くらいに……、というのは駄目でしょうか?<br />
長門さんのあの様子だと、今回は誰も気付いてないみたいですし……、あーあ、早く秋になってほしいですね。<br />
<br />
長門さんのためにも。</p>