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涼宮ハルヒの悲鳴」(2020/07/21 (火) 00:27:54) の最新版変更点

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<div style="line-height:1.8em;font-family:monospace;"> <p> 真夏のある日のこと。<br />  SOS団の活動もない休日の午後、エアコンの不調により、うだるような暑さに耐えかねた涼宮ハルヒは、涼を求めて酷暑日の街を彷徨っていた。<br /> 「涼み処の定番、図書館はやっぱり人でいっぱいだったか……」<br />  街中で配られていた、どこかのマンションの広告が入った団扇で扇ぎながら、街中を歩く。<br /> 「そもそもSOS団団長たるあたしが、人と同じ発想で涼を求めててどうすんのよ……」<br />  さすがのハルヒも、この暑さに思考が常人並みに変化していた。<br /> 「あぢぃ……」<br />  コンビニエンスストアでは、ごく短時間しか留まれない。北口駅前のショッピングセンターでは、時間は潰せるが座る場所がない。<br /> 「あ゛~……もうこうなったら、環状線にでも乗りに行くか!?」<br />  その路線は最寄りの駅からさほど遠くはないにしても、別に鉄ちゃんではないハルヒにとって、ただ列車に乗っているだけという行為は、到底耐えられる代物ではない。<br /> 「雪でも降って涼しくならないかな……雪……ゆき……ユキ……有希……?」</p> <p>「呼んだ?」<br /> 「うひゃあぁぁっ!?」<br />  唐突に背後から掛けられた、見知った人の声に、ハルヒは飛び上がった。<br /> 「有希!? いきなり声掛けるからびっくりしたじゃない!」<br />  振り返った先に居た文芸部部長、そしてSOS団員の長門有希は、珍しいことに私服だった。あまりの暑さに、制服ではもたないと判断したらしい。<br /> 「……いや、あの、有希……? 私服なのはいいことだし、今日は凄く暑いってことも分かるわよ? だけど……」<br />  確かに、有希の服装は、理に適っていた。実に夏らしい。<br /> 「その格好じゃ、どう見ても男の子よ――――――――――――!!」<br />  Tシャツ、短パン、サンダルに麦藁帽子。体格と相まって、可愛らしい小学生の男の子にしか見えなかった。知り合い以外に、この姿を見て「女子高生」と思う者は居ないだろう。<br /> 「この服装は、知り合いに『似合うし、機能的だから』と薦められた」<br /> 「確かに、これ以上ないくらいに似合ってるけど、似合う方向性が違うというか、何というか……」<br /> 「……?」<br /> 「……ま、いっか。それにしても、あんたと街中でばったり会うなんて、珍しいこともあるものね。てっきり図書館か本屋に入り浸ってるかと思ったのに」<br />  とはいえ、海で遊んできた、という格好でもないわね、とハルヒは有希の姿を観察しながら言った。<br /> 「朝から図書館に居たが、人が多くなってきたので帰るところ」<br /> 「ああ、そういうこと。あたしもさっき涼みに行ってきたんだけど、人だらけで、あれじゃ落ち着いて読書なんてできないわね」<br /> 「涼みに?」<br /> 「うちのエアコンがぶっ壊れちゃってさ~、涼しい場所を求めて、このクソ暑い中を彷徨ってんのよ」<br /> 「……そう」<br />  有希はハルヒに真っ直ぐな瞳を向け、<br /> 「それなら、うちに来るといい」<br /> 「え、マジ!?」<br />  こくりと、無言でうなずいた。<br />  …………<br />  ………<br />  ……<br />  …</p> <p><br /> 「お邪魔しま~す!」<br />  高級マンションだけあって、断熱がきちんとされている有希の部屋は、朝から無人で空調を効かせていなかったにもかかわらず、ひんやりとしていた。<br /> 「いや~~生き返るぅ~~~~」<br /> 「……飲んで」<br />  有希はエアコンのスイッチを入れた後、冷蔵庫からキンキンに冷えた杜仲茶を出してきた。<br /> 「……ぷっは~! くぅ~~~~~~っ!!」<br />  グラス一杯分を一気に飲み干したハルヒは、珍しく定時で上がったサラリーマンがビアガーデンで生中を飲み干したがごとき喜びの雄叫びを挙げると、そのままお替りを要求した。<br /> 「うまい! もう一杯!!」<br /> 「どうぞ」<br />  こうして何杯か同じやり取りを繰り返した頃には、エアコンも効いてきた。<br />  ハルヒは寝転んで全身からフローリングの冷たさを享受し、有希は借りてきた本の世界に旅立っていた。<br />  エアコンの音をBGMに、ページをめくる音と、時折グラスの中で溶けた氷が立てる音だけが響く。<br /> (暑い時には、何もない部屋っていうのも、いいものね……)</p> <p> やがてすっかり体力を回復したハルヒは、何となく、読書する有希を観察していた。<br /> 「……そっか。座椅子、買ったんだ」<br />  孤島で合宿したときは、彼女は船の中で正座して読書していた。しかし今は、コタツの向かい側で、回転できる座椅子に座って読書している。<br /> 「……通販生活」<br /> 「買い過ぎには注意しなさいよ?」<br /> 「…………………………………………………………………………………………善処する」<br /> 「今の間は何よ、今の間は!?」<br /> 「気にしないで」<br /> 「気になるわよ!」<br /> 「…………」<br /> 「微妙な表情で見詰めるんじゃありません!」<br /> 「…………」<br /> 「しょぼーんってしてもだめ!」<br /> 「…………」<br /> 「こらー! 本で顔を隠すなー!!」<br />  第三者がこのやり取りを目撃しても、有希の表情が変化しているとは思えないだろう。それだけ微細な表情の変化でも、ハルヒはきちんと見分けていた。</p> <p><br />  そんなやり取りもあった後、また落ち着きを取り戻した空間。ハルヒが一つ伸びをしたとき、それは起こった。<br /> 「ん? どうしたの、有希?」<br />  有希の体が、不意にピクリと動いた。<br /> 「……足」<br /> 「足? ……ああ、当たっちゃったか」<br />  ハルヒが伸びをしたとき、ちょうど前方に投げ出されていた有希の足の裏に、ハルヒのつま先が触れていた。<br /> 「を? ひょっとして有希は、足が弱いのかな?」<br />  ちょんちょん、とハルヒがつま先で有希の足の裏をつつくと、その度に有希の体がピクリピクリと反応した。<br /> 「うりうり~」<br />  ちょっと面白くなってきたハルヒは、次第に有希への攻めを強くした。<br /> 「……っ、うっ!」<br /> 「あ……」<br />  一際大きく有希の体が跳ねた拍子に、彼女は膝をコタツにしたたかに打ち付けた。<br /> 「……………………………………………………………………………………………………」<br /> 「ごめん、ごめんってば! そんな涙目で、訴えかける視線を向けないでよ……」<br />  ハルヒが必死に弁解するが、有希はハルヒにだけ分かる微妙な視線を送り続けていた。<br />  やがてハルヒがいっぱいいっぱいになったところで、不意に有希は視線を逸らし、明後日の方向に視線を向けた。<br /> 「え……!?」<br />  それで勝負はついていた。<br />  ハルヒが自分の置かれた状況を把握したときには、背後に回った有希に床に倒され、脚を極められていた。<br />  逸らした視線の先をハルヒが釣られて追いかけている間に、有希は超高速で移動していた。<br /> 「くっ、やるわね、有希! 今の技は、完全にやられたわ。でも、まだ負けないわよ!」<br />  極められた技を外そうともがくハルヒに、有希は冷静に宣言した。<br /> 「あなたはもう、昇天している」<br />  握り締め、中指の第二関節を突き出した有希の拳に、打撃が来るものとガードを固めたハルヒは、<br /> 「ひぎいっ!?」<br />  悶絶していた。<br /> 「ちょ、ちょっと、有希! やめ……」<br />  有希は構わず、固めた拳をハルヒの足の裏に突き立てて抉った。<br /> 「んのおぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!?」<br /> 「ここは胃」<br />  さらに有希は、拳を捻じりながら滑らせた。<br /> 「あおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!」<br /> 「ここは子宮」<br />  有希の責め苦は続く。<br /> 「これは足の裏にある各臓器の反射区を刺激するマッサージ」<br /> 「足裏マッサージでしょ! 知ってるわよ! すんごく痛いんだから!」<br /> 「特に痛い所が、何らかのダメージを受けている部位」<br /> 「分かったから、離してよ!」<br />  有希は無言でうなずき、掴んでいたハルヒの足を離すと、反対側の足を掴んだ。<br /> 「ちょっと、離してって言ってるでしょ!?」<br /> 「人体はバランス。片方だけの施術ではバランスを崩し、かえって悪影響を及ぼす」<br />  有希はハルヒの足の指を強くしごいた。<br /> 「んぎひぃっ!?」<br /> 「じっくり丹念に凝りをほぐす」<br /> 「い、いやあっ! 痛いのいやぁっ!!」<br />  ハルヒは涙目で、首を左右にフルフルと振りながら、イヤイヤをしている。<br /> 「にょああぁぁぁぁぁぁっっっ!!」<br />  有希の拳が、無慈悲にハルヒの足裏に突き立てられた。<br />  …………<br />  ………<br />  ……<br />  …</p> <p><br /> 「ひゅーっ、ひゅーっ……」<br />  じっくり丹念に足裏の凝りをほぐされたハルヒは、もはや虫の息だった。瞳孔が開いている。<br /> 「全体をほぐし終わった」<br /> 「も、もう勘弁して……お願いだからあっ……」<br />  普段のハルヒからは信じられないような、情けない声で有希に懇願する。<br />  有希は静かに、ハルヒの足を開放した。<br /> 「た、助かった…………」<br />  有希はそのまま台所に消えると、湯気の立つタオルを持って帰ってきた。<br /> 「仕上げ」<br /> 「あー……蒸しタオル、気持ちいい……」<br />  地獄から一転、今度は極楽を味わうハルヒ。恍惚とした表情で有希に身を任せる。<br />  ハルヒの足を蒸しタオルでくるんだまま、有希は静かに告げた。<br /> 「あなたが特に弱っているところは分かった」<br />  有希の言葉に、ハルヒは最も痛かった部分を思い出して、赤面した。<br /> 「恥ずかしがることはない。女性にはありがちなこと」<br /> 「やだ、そんなこと言わないで……」<br />  ハルヒは両手で顔を隠している。<br /> 「最後に、そこを……集中的に施術する」<br />  有希の言葉に、ハルヒは今度は顔を青くした。<br /> 「ちょ、有希、やめて! 後生だから!」<br /> 「あなたが特に弱っているところは……」<br />  有希は親指を立てた。<br /> 「いやぁぁぁぁ!! ソコだけは! ソコだけはー!」<br />  ハルヒは両手で顔を隠したままイヤイヤしている。<br /> 「肛門」<br />  有希の指が、ハルヒの足裏に深々と突き立てられた。<br /> 「アッ――――――――――――――――――――!!」<br />  ハルヒの悲鳴が部屋中に響き渡った。しかし、悲鳴はすぐにかき消された。<br /> 「このマンションの防音は完璧」<br /><br /> 「……どうしたの?」<br />  有希はハルヒに声を掛けた。</p> <p><br />  返事がない。ただのしかばねのようだ。</p> </div>
<div style="line-height:1.8em;font-family:monospace;"> <p> 真夏のある日のこと。<br />  SOS団の活動もない休日の午後、エアコンの不調により、うだるような暑さに耐えかねた涼宮ハルヒは、涼を求めて酷暑日の街を彷徨っていた。<br /> 「涼み処の定番、図書館はやっぱり人でいっぱいだったか……」<br />  街中で配られていた、どこかのマンションの広告が入った団扇で扇ぎながら、街中を歩く。<br /> 「そもそもSOS団団長たるあたしが、人と同じ発想で涼を求めててどうすんのよ……」<br />  さすがのハルヒも、この暑さに思考が常人並みに変化していた。<br /> 「あぢぃ……」<br />  コンビニエンスストアでは、ごく短時間しか留まれない。北口駅前のショッピングセンターでは、時間は潰せるが座る場所がない。<br /> 「あ゛~……もうこうなったら、環状線にでも乗りに行くか!?」<br />  その路線は最寄りの駅からさほど遠くはないにしても、別に鉄ちゃんではないハルヒにとって、ただ列車に乗っているだけという行為は、到底耐えられる代物ではない。<br /> 「雪でも降って涼しくならないかな……雪……ゆき……ユキ……有希……?」</p> <p>「呼んだ?」<br /> 「うひゃあぁぁっ!?」<br />  唐突に背後から掛けられた、見知った人の声に、ハルヒは飛び上がった。<br /> 「有希!? いきなり声掛けるからびっくりしたじゃない!」<br />  振り返った先に居た文芸部部長、そしてSOS団員の長門有希は、珍しいことに私服だった。あまりの暑さに、制服ではもたないと判断したらしい。<br /> 「……いや、あの、有希……? 私服なのはいいことだし、今日は凄く暑いってことも分かるわよ? だけど……」<br />  確かに、有希の服装は、理に適っていた。実に夏らしい。<br /> 「その格好じゃ、どう見ても男の子よ――――――――――――!!」<br />  Tシャツ、短パン、サンダルに麦藁帽子。体格と相まって、可愛らしい小学生の男の子にしか見えなかった。知り合い以外に、この姿を見て「女子高生」と思う者は居ないだろう。<br /> 「この服装は、知り合いに『似合うし、機能的だから』と薦められた」<br /> 「確かに、これ以上ないくらいに似合ってるけど、似合う方向性が違うというか、何というか……」<br /> 「……?」<br /> 「……ま、いっか。それにしても、あんたと街中でばったり会うなんて、珍しいこともあるものね。てっきり図書館か本屋に入り浸ってるかと思ったのに」<br />  とはいえ、海で遊んできた、という格好でもないわね、とハルヒは有希の姿を観察しながら言った。<br /> 「朝から図書館に居たが、人が多くなってきたので帰るところ」<br /> 「ああ、そういうこと。あたしもさっき涼みに行ってきたんだけど、人だらけで、あれじゃ落ち着いて読書なんてできないわね」<br /> 「涼みに?」<br /> 「うちのエアコンがぶっ壊れちゃってさ~、涼しい場所を求めて、このクソ暑い中を彷徨ってんのよ」<br /> 「……そう」<br />  有希はハルヒに真っ直ぐな瞳を向け、<br /> 「それなら、うちに来るといい」<br /> 「え、マジ!?」<br />  こくりと、無言でうなずいた。<br />  …………<br />  ………<br />  ……<br />  …</p> <p><br /> 「お邪魔しま~す!」<br />  高級マンションだけあって、断熱がきちんとされている有希の部屋は、朝から無人で空調を効かせていなかったにもかかわらず、ひんやりとしていた。<br /> 「いや~~生き返るぅ~~~~」<br /> 「……飲んで」<br />  有希はエアコンのスイッチを入れた後、冷蔵庫からキンキンに冷えた杜仲茶を出してきた。<br /> 「……ぷっは~! くぅ~~~~~~っ!!」<br />  グラス一杯分を一気に飲み干したハルヒは、珍しく定時で上がったサラリーマンがビアガーデンで生中を飲み干したがごとき喜びの雄叫びを挙げると、そのままお替りを要求した。<br /> 「うまい! もう一杯!!」<br /> 「どうぞ」<br />  こうして何杯か同じやり取りを繰り返した頃には、エアコンも効いてきた。<br />  ハルヒは寝転んで全身からフローリングの冷たさを享受し、有希は借りてきた本の世界に旅立っていた。<br />  エアコンの音をBGMに、ページをめくる音と、時折グラスの中で溶けた氷が立てる音だけが響く。<br /> (暑い時には、何もない部屋っていうのも、いいものね……)</p> <p> やがてすっかり体力を回復したハルヒは、何となく、読書する有希を観察していた。<br /> 「……そっか。座椅子、買ったんだ」<br />  孤島で合宿したときは、彼女は船の中で正座して読書していた。しかし今は、コタツの向かい側で、回転できる座椅子に座って読書している。<br /> 「……通販生活」<br /> 「買い過ぎには注意しなさいよ?」<br /> 「…………………………………………………………………………………………善処する」<br /> 「今の間は何よ、今の間は!?」<br /> 「気にしないで」<br /> 「気になるわよ!」<br /> 「…………」<br /> 「微妙な表情で見詰めるんじゃありません!」<br /> 「…………」<br /> 「しょぼーんってしてもだめ!」<br /> 「…………」<br /> 「こらー! 本で顔を隠すなー!!」<br />  第三者がこのやり取りを目撃しても、有希の表情が変化しているとは思えないだろう。それだけ微細な表情の変化でも、ハルヒはきちんと見分けていた。</p> <p><br />  そんなやり取りもあった後、また落ち着きを取り戻した空間。ハルヒが一つ伸びをしたとき、それは起こった。<br /> 「ん? どうしたの、有希?」<br />  有希の体が、不意にピクリと動いた。<br /> 「……足」<br /> 「足? ……ああ、当たっちゃったか」<br />  ハルヒが伸びをしたとき、ちょうど前方に投げ出されていた有希の足の裏に、ハルヒのつま先が触れていた。<br /> 「を? ひょっとして有希は、足が弱いのかな?」<br />  ちょんちょん、とハルヒがつま先で有希の足の裏をつつくと、その度に有希の体がピクリピクリと反応した。<br /> 「うりうり~」<br />  ちょっと面白くなってきたハルヒは、次第に有希への攻めを強くした。<br /> 「……っ、うっ!」<br /> 「あ……」<br />  一際大きく有希の体が跳ねた拍子に、彼女は膝をコタツにしたたかに打ち付けた。<br /> 「……………………………………………………………………………………………………」<br /> 「ごめん、ごめんってば! そんな涙目で、訴えかける視線を向けないでよ……」<br />  ハルヒが必死に弁解するが、有希はハルヒにだけ分かる微妙な視線を送り続けていた。<br />  やがてハルヒがいっぱいいっぱいになったところで、不意に有希は視線を逸らし、明後日の方向に視線を向けた。<br /> 「え……!?」<br />  それで勝負はついていた。<br />  ハルヒが自分の置かれた状況を把握したときには、背後に回った有希に床に倒され、脚を極められていた。<br />  逸らした視線の先をハルヒが釣られて追いかけている間に、有希は超高速で移動していた。<br /> 「くっ、やるわね、有希! 今の技は、完全にやられたわ。でも、まだ負けないわよ!」<br />  極められた技を外そうともがくハルヒに、有希は冷静に宣言した。<br /> 「あなたはもう、昇天している」<br />  握り締め、中指の第二関節を突き出した有希の拳に、打撃が来るものとガードを固めたハルヒは、<br /> 「ひぎいっ!?」<br />  悶絶していた。<br /> 「ちょ、ちょっと、有希! やめ……」<br />  有希は構わず、固めた拳をハルヒの足の裏に突き立てて抉った。<br /> 「んのおぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!?」<br /> 「ここは胃」<br />  さらに有希は、拳を捻じりながら滑らせた。<br /> 「あおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!」<br /> 「ここは子宮」<br />  有希の責め苦は続く。<br /> 「これは足の裏にある各臓器の反射区を刺激するマッサージ」<br /> 「足裏マッサージでしょ! 知ってるわよ! すんごく痛いんだから!」<br /> 「特に痛い所が、何らかのダメージを受けている部位」<br /> 「分かったから、離してよ!」<br />  有希は無言でうなずき、掴んでいたハルヒの足を離すと、反対側の足を掴んだ。<br /> 「ちょっと、離してって言ってるでしょ!?」<br /> 「人体はバランス。片方だけの施術ではバランスを崩し、かえって悪影響を及ぼす」<br />  有希はハルヒの足の指を強くしごいた。<br /> 「んぎひぃっ!?」<br /> 「じっくり丹念に凝りをほぐす」<br /> 「い、いやあっ! 痛いのいやぁっ!!」<br />  ハルヒは涙目で、首を左右にフルフルと振りながら、イヤイヤをしている。<br /> 「にょああぁぁぁぁぁぁっっっ!!」<br />  有希の拳が、無慈悲にハルヒの足裏に突き立てられた。<br />  …………<br />  ………<br />  ……<br />  …</p> <p><br /> 「ひゅーっ、ひゅーっ……」<br />  じっくり丹念に足裏の凝りをほぐされたハルヒは、もはや虫の息だった。瞳孔が開いている。<br /> 「全体をほぐし終わった」<br /> 「も、もう勘弁して……お願いだからあっ……」<br />  普段のハルヒからは信じられないような、情けない声で有希に懇願する。<br />  有希は静かに、ハルヒの足を開放した。<br /> 「た、助かった…………」<br />  有希はそのまま台所に消えると、湯気の立つタオルを持って帰ってきた。<br /> 「仕上げ」<br /> 「あー……蒸しタオル、気持ちいい……」<br />  地獄から一転、今度は極楽を味わうハルヒ。恍惚とした表情で有希に身を任せる。<br />  ハルヒの足を蒸しタオルでくるんだまま、有希は静かに告げた。<br /> 「あなたが特に弱っているところは分かった」<br />  有希の言葉に、ハルヒは最も痛かった部分を思い出して、赤面した。<br /> 「恥ずかしがることはない。女性にはありがちなこと」<br /> 「やだ、そんなこと言わないで……」<br />  ハルヒは両手で顔を隠している。<br /> 「最後に、そこを……集中的に施術する」<br />  有希の言葉に、ハルヒは今度は顔を青くした。<br /> 「ちょ、有希、やめて! 後生だから!」<br /> 「あなたが特に弱っているところは……」<br />  有希は親指を立てた。<br /> 「いやぁぁぁぁ!! ソコだけは! ソコだけはー!」<br />  ハルヒは両手で顔を隠したままイヤイヤしている。<br /> 「肛門」<br />  有希の指が、ハルヒの足裏に深々と突き立てられた。<br /> 「アッ――――――――――――――――――――!!」<br />  ハルヒの悲鳴が部屋中に響き渡った。しかし、悲鳴はすぐにかき消された。<br /> 「このマンションの防音は完璧」<br /> <br /> 「……どうしたの?」<br />  有希はハルヒに声を掛けた。</p> <p><br />  返事がない。ただのしかばねのようだ。</p> </div>

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