「セイブザ・クイーン ～第九章 土曜日・２～」の編集履歴（バックアップ）一覧はこちら
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<p>機関の仕事が終わり、ようやく床に就いたのは夜中１時過ぎでした。<br />
軽く興奮していたので眠理に入るのに時間がかかるかな、<br />
と思いながら目覚まし時計をセットしていたとき、『それ』が起きたのです。<br /><br /><br />
『閉鎖空間』<br /><br /><br />
寝間着で目覚ましを持っていたはずの僕は、学校の制服で北高校門前に立っていました。<br />
すぐに自分の力を確認します。紅球化は可能、飛行もできます。<br />
神人の存在は感じられません。まだ出てきていないのでしょうか？<br />
前に涼宮さんと彼が閉鎖空間に消えたとき、部室のパソコンで長門さんが彼と連絡を取っていました。<br />
もしかして今回も用意してくれているかもしれません。急いで部室に向かいます。<br /><br />
空を飛べるってのは便利ですね。部室の窓を破り中に入ります。<br />
明かりをつけ、団長席のパソコンのスイッチを入れます。<br />
さすが長門さん、待ってくれていました。<br /><br /><br />
YUKI.N>みえてる？<br />
『ええ。見えています。』<br />
YUKI.N>あなたと涼宮ハルヒ、そして人物Ａの存在がこちら側の世界から消えている。<br />
『人物Ａもこちらに来ているのですか？』<br />
YUKI.N>あなたに謝罪しなければならない。人物Ａの正体が判明した。敵性人物。<br />
『それはどういうことですか？』<br />
YUKI.N>敵性人物Ａは涼宮ハルヒの情報爆発の影響を受けた人物だった。力をわずかながら持っている。<br />
『望みを実現させる能力ですか。』<br />
YUKI.N>そう。その力は涼宮ハルヒの0.0001％にも満たず非常に小さい。しかしその力を不完全ながら理解している。<br />
YUKI.N>先週土曜日に感じた波動はこれ。もっと早く気付くべきだった。わたしのミス。<br />
『いえ、我々能力者こそ気付くべきことでした。』<br />
YUKI.N>敵性人物Ａは女性を誘う為にその力を使っていた。女性を誘って、飽きては捨てる下衆。唾棄すべき人物。<br />
YUKI.N>能力を悪用した犯罪行為も多数引き起こしているが、それも能力によって逃れている。<br />
YUKI.N>涼宮ハルヒが危ない。早く見つけて保護しなければならない。<br />
『となると、この空間は人物Ａが作った閉鎖空間ですか？』<br />
YUKI.N>違う。これは涼宮ハルヒが作り上げた空間。涼宮ハルヒはあなたと敵性人物Ａのどちらを選ぶかを悩み、<br />
YUKI.N>答えを出すことができず混乱の結果、現実世界から逃避した。<br />
『それはまた。僕にも責任がありますね。』<br />
YUKI.N>違う。おそらく涼宮ハルヒはあなたを選びたいはず。しかし敵性人物Ａの能力が彼女を縛った。<br />
『それが本当なら嬉しい反面腹立たしいですね。最後に２つほど確認を。鍵である彼はここにはいないのですか？』<br />
YUKI.N>いない。彼は今、私の横にいる。朝比奈みくるもこちら側にいることが確認できた。<br />
『そうですか。それとうちの機関の連中はどうなっていますか？』<br />
YUKI.N>そっちには入れない。前回と違ってあなたがそこにいる分、入るための力が足りなくなった。<br />
『わかりました。では涼宮さんを早く探します。』<br />
YUKI.N>あなたに賭ける。もうわたしという個体自身、こちらの世界に未練がある。<br />
『任されました。』<br />
YUKI.N>ダブルデート、楽しみにしている。<br /><br /><br />
長門さん、さらっと何を言っているんですか。変わりすぎですよ。<br />
確かに今、彼女は初めて自分自身の楽しい時を過ごしているのかもしれません。<br />
わかりました、ダブルデートのためにも早く涼宮さんを見つけ出しましょう。<br /><br />
再び紅球化し、外に飛び出します。<br />
涼宮さんを探し出す必要がありますが、敵性人物Ａを先に始末する手もあります。<br />
二人が会っていた駅前もしくはそこの喫茶店にどちらかがいる可能性が高いでしょう。<br /><br />
僕の予想は当たっていました。駅前広場に二人ともいます。しかし悦に入る暇は全くありません。<br />
涼宮さんの叫び声！<br />
敵性人物Ａが涼宮さんに襲いかかっています！<br /><br />
必死に走る涼宮さんの制服は破れて一部下着が覗いています。<br />
痛々しいすりむいた手足。何度か追いつかれたもののなんとか逃げ出したのでしょう。<br />
いえ、敵性人物Ａがいたぶっているようです。奴はニヤニヤしながら涼宮さんを追い回しています。<br />
僕が長門さんと連絡を取っている間にかなり危ないことになっています。<br />
必要なことだったとはいえ、早く涼宮さんの元へ急がなかった自分に腹が立ちます。<br /><br />
二人とも紅球化した僕に気付きました。<br />
漫画や映画ならここでまず舌戦なんですが、敵性人物Ａとは面識ありませんし、<br />
しゃべっても腹が立つだけでしょうし、何より今現在、僕は激怒しています！<br />
紅球のまま体当たりしてやるつもりでしたが<br />
威力がありすぎて万が一、涼宮さんの世界で殺してしまうのも腹立たしいので半分だけ実体化、<br />
敵性人物Ａの正面に飛び込み、勢いそのまま鳩尾にパンチをお見舞いして吹っ飛ばします。<br />
続いてキックで……おや？<br /><br />
吹っ飛ばされて悶絶していた敵性人物Ａがグズグズと崩れ始め、倒した神人のように消滅してしまいました。<br />
この赤い力は白血球と同じように涼宮さんの精神世界の異物を分解するんですかね。<br />
そんなことより涼宮さんです。紅球から普段の姿に戻り、<br />
「涼宮さん、大丈夫ですか！？ 遅れてすいませんでした。」<br />
「古泉くん！」<br /><br />
涼宮さんはかなり驚いているようです。当たり前ですね。謎の赤い玉が変身して僕になったのですから。<br />
「ちょっとどういうこと！？ なんで古泉くんが正義のヒーローみたいになってんの！？ ねぇ！」<br />
さっきまで襲われていたとは思えない、面白いものを見つけ出したかのように涼宮さんは興奮しています。<br />
「それはですね、僕があなたのナイトだからですよ。」<br />
「ちょっと本気ぃ？ でもいいわね。古泉くんがナイトかぁ。」<br /><br />
まんざらでもない様子で僕を舐めまわすようにじろじろ見る涼宮さん。<br />
と、急に申し訳なさそうな顔になって、<br />
「……ごめんなさい。あたし、どうかしてた。」<br />
「……。」<br />
「あたしの作った団なのに。古泉くんやキョン、みくるちゃん、有希をほったらかしにしてあたしだけ浮かれてた。」<br />
「いえ。」悪いのはあなたの能力を悪用した敵性人物Ａです。<br /><br /><br />
お二人には申し訳ないですが悪役になってもらいましょう。<br />
「知ってますか？ 彼と長門さんも少々浮かれ気味になっていることを。」<br />
「知ってる。」<br />
おや。<br />
「わかるわよ。有希がキョンだけに見せる表情があるくらい。<br />
キョンだって有希にはあたしやみくるちゃんとは違う態度だし。最近は特にそうだった。<br />
それがちょっと気に食わなかったのね。<br />
もちろん有希は大好きだし、キョンも結構気に入ってるんだけど、あたしは面白くないって思ってた。<br />
嫉妬だと認めるのもシャクだし、二人を応援しなきゃ、とも思うんだけど。<br /><br />
ああん、もう！ あたしはキョンが好きだったのよ！ でもキョンは有希が好きなの！<br />
つまりあたしは失恋したの！ キョンに何も伝えてないのに！<br />
『恋愛感情は一時の気の迷い』とか臆病なくせに、何にも知らないのにかっこつけちゃって<br />
自分の気持ちを隠してたから有希に取られちゃった。有希は素直でいい娘だからね。<br />
一途になったら負けるわ。キョンも優しいし、面倒見がいいから有希が好きになるのもわかる。<br />
あたしが好きだったんだもん。間違いないわ！」<br /><br />
いつの間にか涼宮さんは大粒の涙をぽろぽろとこぼしています。<br />
「でもね、でもね、あたし有希も大好きだから。だからあたしが我慢すればいいと思ったの。<br />
そんなタイミングであいつが現れたのよ。」<br /><br />
涼宮さんは僕の胸に顔を埋めてきました。僕は無意識に涼宮さん抱きしめてました。<br />
ここ数週間、閉鎖空間が生まれそうになっては消えるという現象はこういう事情だったんですね。<br />
「キョンと有希を見返してやれって思ったの。<br />
あいつ、見た目はよかったし、しゃべりも面白かったし、頭もよさそうだし。<br />
最後で化けの皮がはがれたけど、こいつならちょっと付き合ってもいいかなぁなんて思った。<br />
そこへ古泉くんが来たの。ごめんなさい、古泉くんがあたしのことが好きだなんて本当に気付かなかった。<br />
もちろん古泉くんも好きよ。かっこいいし、頭いいし、やさしいし。<br />
でもあたしはキョンを見てたからわからなかった。<br />
だけど古泉くんはあたしをずっと見ていてくれてたのね。嬉しい。ありがとう。」<br /><br />
しばらく涼宮さんは僕の胸で泣いていました。初めて自分の心情を吐露したんでしょう。<br />
今まで素直になれる相手は彼だけだったはずです。<br />
その彼に自分の恋愛感情だけは伝えることができなかった、その後悔。<br />
上から目線で分析していますが、僕もきわどいところで同じ立場になるところでした。<br /><br />
「さて古泉くん。」<br />
泣きはらした目ですがすっきりとした表情で涼宮さんは僕を見つめます。<br />
「危機を救ってくれたあたしのナイト様にお礼をしなきゃね。<br />
前に似たような夢を見たことがあるの。その時はキョンとでかくて青い巨人がいたの。」<br />
涼宮さんの両腕が僕の首の後ろにまわり、<br />
「夢の中でファーストキスはキョンに奪われちゃった。ごめんね、２番目で。」<br />
背伸びをしてきた涼宮さんを迎えに僕は少しかがみ、目を閉じて吐息だけを感じながら、<br />
唇にゆっくりと柔らかい感触、<br /><br />
……目覚まし時計相手に僕はいったい何をやっているんでしょうか？<br /><br /><br />
ぐわぁっ！！ こ、これは恥ずかしい！！<br />
彼がこの時の話をしたがらないはずです！！！<br />
恥ずかしすぎる！<br />
早く眠るのに限ります！！<br /><br />
と、寝る前に連絡をしなければなりませんね。<br />
どちらにしたほうが効果的ですかね？<br />
ちょっと考えて携帯のメモリーを呼び出します。<br />
「もしもし、古泉です。迷惑おかけしました。<br />
迷惑ついでなんですが明日朝８時にいつもの駅前集合場所に来てくれますか？<br />
隣の方にもそう言っておいてください。あ、朝比奈さんにも連絡お願いします。」<br />
有無を言わさず通話を切ります。<br />
電話の最中に機関からメールが届いていました。……そうですか。動き出せば早いですね。<br />
それと明日の休みをそのままにしていただけるそうで。ありがとうございます。<br />
ではおやすみなさい。<br /><br />
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