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日常・文芸部・七夕・太陽」(2008/04/01 (火) 23:52:56) の最新版変更点

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<p>無機質なアラーム音とともに、俺はベッドの中で目を覚ました。布団の中から手を伸ばし、目覚まし時計のアラームを止める。<br /> 今日は週のはじめ、憂鬱な月曜日。今日からまた平凡な一週間が始まる。<br /> いつものようにベッドに横たわったまま時間を確認し、妹が起こしに来るまでもう一眠りしようかと思った瞬間、奇妙な違和感を感じて、俺は身体を起こした。<br /> ベッドの上で上半身を起こしたまま、部屋の中を、まるで寝ている間に知らない何者かが侵入したのではないかと疑っているように、隅から隅まで見回す。<br /> しかし、部屋の中は、あるべきものがあるべき場所に存在し、変わったことは何一つなかった。<br /> 奇妙な違和感に包まれたまま、しばらくそうしていると、静かに部屋の扉が開き、こそこそと妹が部屋の中へと入ってきた。<br /> 俺が既に目を覚ましていることを確認して、妹は少し驚いたような表情で俺を見る。<br /> 「あれぇ、キョンくんもう起きてたんだ」<br /> 「ん、ああ、もうそんな時間か」<br /> 意外に長い間、ベッドの上で物思いに耽っていたようだ。<br /> ベッドから這い出て、着替えるためにパジャマのボタンに手をやる俺の姿を見て、妹が奇妙な一言を放つ。<br /> 「キョンくん、どうして泣いてるの?」<br /> 「え?」<br /> 妹に指摘され、目に指をあて、初めて俺は涙を流していたことに気がついた。<br /> 「怖い夢を見たんだね。だから、起きてたんだ」<br /> そう言ってひとり納得した妹は、そのまま部屋から出て行った。<br /> 夢の記憶など一欠けらもないが、俺は確かに涙を流していたようだ。<br /> 言い知れぬ奇妙な感覚に包まれたまま、俺は高校へ行くための身支度を始めた。<br />  <br />  <br />  <br /> 予鈴がなるのと同時に教室に入り、最後尾の席に座る。<br /> 「おはよう、キョン」<br /> 「よう、キョン、月曜日はだるいよな。サボりたくなっちまうぜ」<br /> 「谷口、キミはいつもそんなこと言ってるね」<br /> いつものように、隣のふたりが何気ない挨拶を交わしてくる。<br /> なぜだろう、何か足りないような気がする。<br /> 「どうしたんだい、何か今日はいつもと様子が違うようだけど。何か悩み事でも」<br /> 俺の様子を不振に思ったのか、国木田が怪訝そうな表情で尋ねてくる。<br /> 「はっはーん、昨日の夜エロビデオでも見てたのか、キョン」<br /> 谷口……こいつは相変わらずだ。<br /> 「いや、なんでもないんだ」<br /> 「そう、ならいいけど」<br /> そんな会話を交わしているうちに、担任の岡部が教室に入ってきて、会話は打ち切られた。<br />  <br />  <br />  <br /> 放課後、何のサプライズもなく平凡な学生生活の一日が終わりを告げる。<br /> 授業は相変わらず退屈だったし、習得度も相変わらずだ。何ひとつ変わることのない一日。<br /> 「おい、キョン、帰りにゲーセンにでもよっていこうぜ」<br /> 谷口の顔を一瞥し、俺は無言のまま教室を出て行く。<br /> 「おいおい、つれないなあ。返事ぐらいしろよ」<br /> 「キョン、本当に大丈夫かい。今日は朝から様子が変だよ」<br /> 国木田の言葉に少し首をかしげ、考えるそぶりをした後、おもむろに尋ねる。<br /> 「俺達って、いつもこんな風だったっけ」<br /> 俺の言葉を聞いて、ふたりはキョトンとした表情で俺の顔を見つめる。<br /> 「おい、キョン、大丈夫かお前。まさかエロ本の見すぎで、頭が壊れちまったなんてことはないだろうな」<br /> 「…………」<br /> 谷口はあきれた風にそう言い放ち、国木田は返す言葉を持っていないようだった。<br /> まあ、そうだろう。俺が親しい友人にいきなりこんなことを言われたら、おそらくふたりと同じ反応をするだろう。<br /> 「いや、すまん、忘れてくれ」<br /> 「もしかして、進学のことで悩んでいたりするのかい」<br /> 「おいおい国木田、こいつがそんなたまか」<br /> 少し真剣な表情で尋ねる国木田の隣で、谷口が茶々を入れる。<br /> 「あれ?」<br /> ふと気がつくと、俺はいつのまにか旧校舎の中にいた。<br /> 「おい、キョン、何でこんなところに来たんだ。まさか今から部活に入るなんて言い出すんじゃないだろうな」<br /> 「ちょっと、ちょっと、僕達来年受験だよ。いくらなんでもいまから部活って……」<br /> 谷口や国木田の意見は最もだ。なぜ、俺はこんなところに来てしまったのだろうか。理由はわからない。まるで身体がおぼえていたかのように無意識にここにやって来てしまったみたいだ。<br /> ふと、目の前の扉に視線をやると、そこには『文芸部』と書かれたのプレートが掲げられている。<br /> そのプレートを見た瞬間、何か不思議な力に導かれるように、俺は、自分の意思とは関係なく、目の前の扉を開いた。<br />  <br />  <br />  <br /> 部屋の中は無人で、パイプ椅子と長机が無造作に置かれているだけだった。黄昏の夕日に照らされた部屋の中は、どことなく哀愁を漂わせている。<br /> ただひとつ奇妙なことは、一番奥のおそらく部長が座っていたであろうと思われる席に、笹の葉が立てかけられていることだった。<br /> 哀愁のような奇妙な感覚にとらわれたまま、俺がその場に立ち尽くしていると、<br /> 「確か文芸部は廃部になってたはずだよ」<br /> そう言いながら、国木田が部屋の中へと入っていく。俺と谷口も部屋の中へと進む。<br /> 「もしかしたらエッチな本があるかもしれないぜ」<br /> 谷口がそう言って本棚をあさり始めた。国木田は興味深そうに部屋の隅々を見回している。<br /> ふと、笹の葉につけられている一枚の短冊が目に留まった。それを手に取り、何気なく眺める。<br /> 『―――――を助けて欲しい。そのために俺のすべてを投げ出してもかまわない』<br /> 名前の部分は滲んでいてはっきりとは読み取れなかった。だが、その字は確かに俺の字のように思えた。なぜだろう。こんなことを書いた記憶はないのに……<br /> 「どうしたんだい! キョン!」<br /> 国木田の驚愕する声を聞き、俺はハッと我に返る。<br /> 短冊にポトリと涙の雫が落ちるのを見て、俺は自分が泣いていたことに気づく。<br /> 「いや、なんでもないんだ。行こう」<br /> 溢れる涙を拭うことなく、俺はふたりに部屋から出るように促した。ふたりは少し心配そうな表情で俺を見ながら部屋から出て行く。<br /> 「キョン!」<br /> 部屋を出ようとしたとき、誰かに呼ばれたような気がして後ろを振り返る。<br /> もちろんそこには誰もいない。<br /> なのに俺の頭の中には、太陽のようなまぶしい女の子の笑顔が思い浮かんだ。だが、その顔はぼやけていてはっきりと見ることはできない。懐かしさが胸にこみ上げる。<br /> この部屋を出て行くことが、妙に名残惜しい。だが、この胸に去来する感情の理由は、俺の記憶の中には見つからない。<br /> 過ぎ去ってしまった過去を懐かしむような奇妙な感傷の中、俺は静かに部屋の扉を閉めた。<br />  </p>
<p>無機質なアラーム音とともに、俺はベッドの中で目を覚ました。布団の中から手を伸ばし、目覚まし時計のアラームを止める。<br /> 今日は週のはじめ、憂鬱な月曜日。今日からまた平凡な一週間が始まる。<br /> いつものようにベッドに横たわったまま時間を確認し、妹が起こしに来るまでもう一眠りしようかと思った瞬間、奇妙な違和感を感じて、俺は身体を起こした。<br /> ベッドの上で上半身を起こしたまま、部屋の中を、まるで寝ている間に知らない何者かが侵入したのではないかと疑っているように、隅から隅まで見回す。<br /> しかし、部屋の中は、あるべきものがあるべき場所に存在し、変わったことは何一つなかった。<br /> 奇妙な違和感に包まれたまま、しばらくそうしていると、静かに部屋の扉が開き、こそこそと妹が部屋の中へと入ってきた。<br /> 俺が既に目を覚ましていることを確認して、妹は少し驚いたような表情で俺を見る。<br /> 「あれぇ、キョンくんもう起きてたんだ」<br /> 「ん、ああ、もうそんな時間か」<br /> 意外に長い間、ベッドの上で物思いに耽っていたようだ。<br /> ベッドから這い出て、着替えるためにパジャマのボタンに手をやる俺の姿を見て、妹が奇妙な一言を放つ。<br /> 「キョンくん、どうして泣いてるの?」<br /> 「え?」<br /> 妹に指摘され、目に指をあて、初めて俺は涙を流していたことに気がついた。<br /> 「怖い夢を見たんだね。だから、起きてたんだ」<br /> そう言ってひとり納得した妹は、そのまま部屋から出て行った。<br /> 夢の記憶など一欠けらもないが、俺は確かに涙を流していたようだ。<br /> 言い知れぬ奇妙な感覚に包まれたまま、俺は高校へ行くための身支度を始めた。<br />  <br />  <br />  <br /> 予鈴がなるのと同時に教室に入り、最後尾の席に座る。<br /> 「おはよう、キョン」<br /> 「よう、キョン、月曜日はだるいよな。サボりたくなっちまうぜ」<br /> 「谷口、キミはいつもそんなこと言ってるね」<br /> いつものように、隣のふたりが何気ない挨拶を交わしてくる。<br /> なぜだろう、何か足りないような気がする。<br /> 「どうしたんだい、何か今日はいつもと様子が違うようだけど。何か悩み事でも」<br /> 俺の様子を不振に思ったのか、国木田が怪訝そうな表情で尋ねてくる。<br /> 「はっはーん、昨日の夜エロビデオでも見てたのか、キョン」<br /> 谷口……こいつは相変わらずだ。<br /> 「いや、なんでもないんだ」<br /> 「そう、ならいいけど」<br /> そんな会話を交わしているうちに、担任の岡部が教室に入ってきて、会話は打ち切られた。<br />  <br />  <br />  <br /> 放課後、何のサプライズもなく平凡な学生生活の一日が終わりを告げる。<br /> 授業は相変わらず退屈だったし、習得度も相変わらずだ。何ひとつ変わることのない一日。<br /> 「おい、キョン、帰りにゲーセンにでもよっていこうぜ」<br /> 谷口の顔を一瞥し、俺は無言のまま教室を出て行く。<br /> 「おいおい、つれないなあ。返事ぐらいしろよ」<br /> 「キョン、本当に大丈夫かい。今日は朝から様子が変だよ」<br /> 国木田の言葉に少し首をかしげ、考えるそぶりをした後、おもむろに尋ねる。<br /> 「俺達って、いつもこんな風だったっけ」<br /> 俺の言葉を聞いて、ふたりはキョトンとした表情で俺の顔を見つめる。<br /> 「おい、キョン、大丈夫かお前。まさかエロ本の見すぎで、頭が壊れちまったなんてことはないだろうな」<br /> 「…………」<br /> 谷口はあきれた風にそう言い放ち、国木田は返す言葉を持っていないようだった。<br /> まあ、そうだろう。俺が親しい友人にいきなりこんなことを言われたら、おそらくふたりと同じ反応をするだろう。<br /> 「いや、すまん、忘れてくれ」<br /> 「もしかして、進学のことで悩んでいたりするのかい」<br /> 「おいおい国木田、こいつがそんなたまか」<br /> 少し真剣な表情で尋ねる国木田の隣で、谷口が茶々を入れる。<br /> 「あれ?」<br /> ふと気がつくと、俺はいつのまにか旧校舎の中にいた。<br /> 「おい、キョン、何でこんなところに来たんだ。まさか今から部活に入るなんて言い出すんじゃないだろうな」<br /> 「ちょっと、ちょっと、僕達来年受験だよ。いくらなんでもいまから部活って……」<br /> 谷口や国木田の意見は最もだ。なぜ、俺はこんなところに来てしまったのだろうか。理由はわからない。まるで身体がおぼえていたかのように無意識にここにやって来てしまったみたいだ。<br /> ふと、目の前の扉に視線をやると、そこには『文芸部』と書かれたのプレートが掲げられている。<br /> そのプレートを見た瞬間、何か不思議な力に導かれるように、俺は、自分の意思とは関係なく、目の前の扉を開いた。<br />  <br />  <br />  <br /> 部屋の中は無人で、パイプ椅子と長机が無造作に置かれているだけだった。黄昏の夕日に照らされた部屋の中は、どことなく哀愁を漂わせている。<br /> ただひとつ奇妙なことは、一番奥のおそらく部長が座っていたであろうと思われる席に、笹の葉が立てかけられていることだった。<br /> 哀愁のような奇妙な感覚にとらわれたまま、俺がその場に立ち尽くしていると、<br /> 「確か文芸部は廃部になってたはずだよ」<br /> そう言いながら、国木田が部屋の中へと入っていく。俺と谷口も部屋の中へと進む。<br /> 「もしかしたらエッチな本があるかもしれないぜ」<br /> 谷口がそう言って本棚をあさり始めた。国木田は興味深そうに部屋の隅々を見回している。<br /> ふと、笹の葉につけられている一枚の短冊が目に留まった。それを手に取り、何気なく眺める。<br /> 『―――――を助けて欲しい。そのために俺のすべてを投げ出してもかまわない』<br /> 名前の部分は滲んでいてはっきりとは読み取れなかった。だが、その字は確かに俺の字のように思えた。なぜだろう。こんなことを書いた記憶はないのに……<br /> 「どうしたんだい! キョン!」<br /> 国木田の驚愕する声を聞き、俺はハッと我に返る。<br /> 短冊にポトリと涙の雫が落ちるのを見て、俺は自分が泣いていたことに気づく。<br /> 「いや、なんでもないんだ。行こう」<br /> 溢れる涙を拭うことなく、俺はふたりに部屋から出るように促した。ふたりは少し心配そうな表情で俺を見ながら部屋から出て行く。<br /> 「キョン!」<br /> 部屋を出ようとしたとき、誰かに呼ばれたような気がして後ろを振り返る。<br /> もちろんそこには誰もいない。<br /> なのに俺の頭の中には、太陽のようなまぶしい女の子の笑顔が思い浮かんだ。だが、その顔はぼやけていてはっきりと見ることはできない。懐かしさが胸にこみ上げる。<br /> この部屋を出て行くことが、妙に名残惜しい。だが、この胸に去来する感情の理由は、俺の記憶の中には見つからない。<br /> 過ぎ去ってしまった過去を懐かしむような奇妙な感傷の中、俺は静かに部屋の扉を閉めた。<br />  </p> <hr /><ul><li><a title="周防九曜に捧ぐ唄 (56s)" href="http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4535.html">周防九曜に捧ぐ唄</a>へ続く</li> </ul>

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